忘却の塔ー吸血鬼と契約をして記憶を取り戻す

マグリット

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隠し空間と鎖の少女

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第2章: 古びた城と鎖に縛られた少女

碧は塔の前に立っていた。あの時の記憶が頭をよぎる。塔の階層で両親を失った日――その悲劇の瞬間は、今も彼の心に深く刻まれている。

彼の手には、かつて両親と共に見つけた古びたカギが握られていた。無意識のうちに拾ったこのカギが、何のために存在するのか、碧にはまだ分からなかったが、どうしてもこのカギが彼を再び塔に引き寄せているような気がしてならなかった。


パーティーを追放されてから数日が経った。碧は学校を休み、ずっと塔に挑む準備をしていた。碧の幼馴染である沙羅から心配の連絡が来るものの、彼は「インフルエンザにかかった」と嘘をつき、接触を避けていた。

沙羅は昔から碧のことを心配してくれていたが、今は彼女にこれ以上迷惑をかけたくなかった。碧は、自分自身の力で塔の謎を解き、両親が命を落とした理由を知る必要があった。

碧は一人で準備を整え、塔に向かうことを決めた。そして、彼は再び塔の入り口に立っていた。

塔には、多くの冒険者たちが名声や財宝を求め、塔の高層部に眠る謎や秘宝を解き明かそうとしている。多くはその過程で命を落とした。塔の階層を一つ一つ踏破していくことが冒険者たちの夢であり、挑戦の証だった。

踏破された階層にもまれに魔物や秘宝が出現することもあるが気楽に進むことができる。

かつて両親を失った階層も踏破済みだったが不意を突かれた悲惨な事故となってしまった。しかし塔の中に隠された真実を解き明かすこと。それが彼の今の唯一の目標で両親の無念を晴らすことになるとも考えていた。


数年前――まだ中学生だった碧は、両親と共に初めて塔に挑んだ。碧の好奇心を尊重し、両親は彼を伴って塔に入ったのだ。通常踏破された階層にもまれに魔物や秘宝が出現することもあるが気楽に進むことができる。

その日は新階層を目指し向かって踏破済みの階層を進んでいたが、冷たい風が吹き抜ける不気味な場所に感じた。石造りの廊下が延々と続き、どこか異様な雰囲気が漂っていた。

前の階層では古びたカギを手に入れた。使い道はなさそうだが碧の初めての獲得アイテムだったためとても浮かれていた。両親も少し浮かれていたのかもしれない。

「碧、気を付けろ」

と父親が言った。だが、その直後、巨大な魔物が現れ、家族は瞬く間に危険に晒された。

母親が魔法で碧を守り、魔物の猛攻に両親は立ち向かうも、命を落とした。碧はただ無力にその光景を見ていることしかできなかった。


碧は再び両親が命を落とした階層に足を踏み入れた。冷たい空気が肌に触れ、石造りの廊下は相変わらず不気味な静けさに包まれている。かつての戦いの跡が今でも残っている場所を歩きながら、彼の心は重く沈んでいた。

すこし周りを探索していると急に足を滑らせ壁に手を突いた。壁はもろく少し穴が開いてしまった。すると壁の奥に空洞があることに気づいた。恐る恐る近づくとかがんでで入れるくらいのトンネルのような空間が続いていた。

「行ってみようかな」

何かに導かれるようにトンネルに入ると滑り台のようになっており転がり落ちてしまった。

「わーーーー」

ドンっ

「いてて」

どうやら滑り台は終わったようだ。首筋にかすり傷がついてしまった。少し血が出てしまったが重症ではなくてほっとした。周りの状況を確認しようと光の魔法を出した。すると

「なんだろこの扉」

謎の扉が目の前にありよく見ると扉には鍵穴があった。

「もしかして」

あの日拾った古びたカギを隠し扉のカギ穴に差し込んでみた。しかし反応せず扉は依然として固く閉ざされている。

「くそっ、どうすれば…」

碧は今まで発見されなかった場所を見つけ興奮していた。そこで力任せに扉を押してみると意外にも扉は重たい音を立てて少しずつ開き始めた。どうやらカギは役に立たなかったが、扉は物理的に開けることができた。

「なんだよ、力づくで開くのかよ」

扉の向こうに広がっていたのは、広大な空間だった。塔の内部にこれほど大きな空間があるとは思ってもみなかった。草が生い茂り、古びた城がその中央に佇んでいる。その姿は、かつての栄光を失ったものの、まだ威厳を感じさせた。

「こんな場所が…塔の中に?」

碧は驚きながらも、城に引き寄せられるように進んでいった。城は長い年月を経て、外壁が崩れかけていたが、なおもその堂々とした姿を保っていた。

彼は城の奥へと足を踏み入れ白の内部を探索することにした。震える体を何とか制御しながら探索を続ける。やがて一つの部屋にたどり着く。そこには鎖に縛られた一人の少女がいた。


その少女は、何色にも染まらない美しい白い長い髪の毛が特徴で、透き通るような肌が月光に照らされていた。彼女の体には無数の鎖が巻きつけられていた。開かれたその瞼の下の紅い瞳は、何かを訴えるように碧をじっと見つめていた。

彼女は、まるで古代の彫刻のように美しく、同時にどこか儚げであった。だが、その瞳には何か強い意志が宿っているようにも見えた。

碧はその場で立ち尽くし、しばらく言葉を失っていた。

「…君は誰だ?」

碧がようやく口を開いた。

少女は微笑みながら、ゆっくりと口を開いた。

「私の名前は…カリナ、君の名前は?」

その声は、落ち着いていながらもどこか柔らかさを感じさせる。彼女は自然体で、そしてどこかのんびりとした雰囲気を持っていた。

「碧だ。カリナ…はどうしてこんなところに?」

碧が尋ねると、カリナは少し首をかしげながら言葉を続けた。

「さぁ…どうしてだろうね?でもね、きっとあなたがここに来たのには意味があると思うの。私をここから解放するためにね。」

「解放…?でも、どうやって…」

碧は鎖を見ながら考え込んだ。彼女を解放するための手段がすぐには思い浮かばない。だが、カリナは楽しそうに微笑んでいた。

「あなたが運命の人だからよ」

「えっ?」

碧は突然の言葉に驚き、カリナを見つめ返した。彼女は無邪気な笑顔を浮かべていた。

「私をここから出して、一緒に塔を踏破しようよ。わたしたちなら、きっとできるわ!」

「いや、俺が運命の人だって…どうしてそんなことを…」

碧が困惑していると、カリナは再び微笑みながら少し体を動かした。鎖が音を立てて響く。

「だって、あなたがここに来たのは偶然じゃないもの。きっと運命が私たちを引き合わせたんだわ」

碧は少し考え込みながら、彼女の鎖に手をかけた。得体のしれない彼女を開放するのは危ないかもしれないが彼女の声とその運命という響きが碧の中にすごく残った。

彼女とならできるかもしれない。

彼女を解放するために何か方法はないかと模索し、思い切って鎖を引っ張った。鎖は重たい音を立てて緩み始め、少しずつ彼女の体を解放していった。


鎖が解かれると同時に、城全体が微かに揺れ、封印が解けたかのような感覚が碧を包んだ。カリナはゆっくりと立ち上がり、その白い髪がふわりと揺れる。

「ありがとう、碧。これでようやく…自由になれる」

カリナは伸びをしながら満足げに微笑み、碧に向き直った。

「ちょっといいかな」

そういいながら彼女は碧の首筋、先ほどけがを負った場所をぺろっとなめた。

「んっ」

「はぅっ!」

碧は彼女の行動にに少し驚きながらも、彼女の舌の感触に思わず声を出してしまった。

驚いた碧は一瞬硬直したが、痛みは全くなく、むしろ心地よさすら感じた。そして、傷口がすぐに癒えていることに気づく。

「ご馳走様。あなた、本当に運命の人かもね」

カリナは満足そうに微笑んだ。
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