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SIN

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相手のない喧嘩はできぬ

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 シロとモモさんが付き合い始めたのが、丁度1年前の今日。
 カウントダウンイベントに参加して、スノードームをプレゼントにしたんだ。
 確か縁結びのおまじないがかかっていた筈。
 今年も盛大なカウントダウンイベントが行われる事になっていて、今頃は裏山で出店の準備とかが進んでいる事だろう。
 付き合って1年記念に、盛大なイベントに参加。
 そこへ俺とセイも呼んでくれたシロは、モモさんとの待ち合わせ時間になるまでは何処かで時間を潰そうって、そんな軽い気持ちで入ってきた図書館。
 目の前にはムスッとした表情のシロがいて、俺の隣にはシロの様子等お構いなくセイがシロの機嫌が悪くなった原因とも言える人物達を眺めている。
 少し不思議そうな表情の先にはシロのお兄さんとモモさんの元彼氏の姿があって、お兄さん達はなにやら必死に本を読んでいるんだけど……モモさんの元彼氏の腕の中に女の人が1人スッポリと入っていて、丁度女の人を後ろから抱き締めているような?そんな不自然極まりない格好で本を、これまた不自然過ぎるほど真剣な表情で見ていた。
 「あの人、彼女なんかな?」
 一応シロに気を使ったらしいセイが物凄く小声で聞いてくるが、知ってる訳ないだろ?
 だけどあんな人の目も気にせずイチャイチャしてる事を考えると、妹や姉とは思えないし、彼女なのだろう。
 だとしたらお兄さんも一緒にいるのは可笑しいような……可笑しくないような?
 いや、あの3人の雰囲気は明らかに不自然だ。それなのに何処が可笑しいのかを明確に答える事が出来ない。
 「どうなんやろ?」
 セイの質問にフワッと答えてシロを見てみれば、完全にお兄さん達に背を向けてしまっていた。
 こうして考えてみれば、シロのこの態度だって不自然だよな?
 シロもお兄さんも……いや、お兄さんは謎の多い人だけど、それでも2人共悪い人間じゃない。寧ろ優しいんだ。それなのにどうして2人の仲が悪いのかが本当に不思議。
 本当ならこんな個人的な事は聞いちゃ駄目なんだろうけど、なんだか今日は見るもの全てが不思議で、不自然で。だから1つ位は正解が欲しい。
 「なぁ……お兄さんと仲が悪いのって、なんでなん?」
 シロの背中に向かって小声で、でもちゃんと聞こえるように耳元で尋ねてみたのだが、振り返ってもくれずに無言。
 これ、もしかして……とんでもなく凄まじい地雷だったとか?
 完璧なまでの勢いで地雷踏み抜いた感じ!?
 いやいや、だからって今更誤魔化したってどうしようもないし……えっと、聞こえなかったのかな?って事でこの話は終わっとこう。
 「別に……あいつは俺の事、どうも思ってへんねん。俺が勝手に……」
 そこまで言って口を閉ざしたシロは軽く溜息を吐いてからこちらを振り返って、俺やセイではなくてお兄さん達の方を少し眺めてから小さく舌打ちした。
 この一連の動きから、シロが止めた言葉の続きが“俺が勝手に嫌ってるだけ”なのかな?って……それでも疑問への答えではないんだけど。
 「そろそろ出店の準備出来たんちゃう?行ってみようや」
 お兄さん達から視線を外したセイが、思いがけず物凄く良い提案をしてきた。
 そうだよ、シロがお兄さんに対して苦手意識を持っている事なら随分と前から分かってるじゃないか。何故?とか思っても、まぁ兄弟なんだし俺には分からない何かがあるんだろう。うん、そう考えたら不思議な事も不自然な事もないじゃないか。
 シロがお兄さんを避けている理由は多分あれだ、遊んで騒いでいる現場に突然親父がやってきた。みたいな気まずい感じからだ。
 だったら早く行こう。シロもそれを望んで……
 「まだやろ。外寒いし行かんでえぇやん」
 ないのかっ!
 お兄さんへの気持ちよりも、外の寒さを優先出来る訳ね。それだけじゃなくて“モモさんの元彼氏を連れたお兄さん”なんだから攻撃力はノーマルお兄さんよりも軽く倍はあるだろう。いや……モモさんの元彼氏に抱き付かれている状態の現彼女付きだから……もはやあれはレアモンスターと言っても良い筈。それを、外が寒い。とスルー出来るとは。
 でも、せめてお兄さん達が見えない場所に移動する方がシロの精神健康上良いような?
 「なーシロぉ~。なんで機嫌悪いん?図書館来てから急にやん」
 セイは机の上に伏し、上目遣いでシロを見ながらお兄さん達の方を指差している。
 完全にシロの機嫌が悪くなった原因を理解しておきながらのこの質問は多分、機嫌が悪くなった原因のお兄さん達のいる図書館に留まる理由は何だ。かな?
 「ごめん……アイツの顔見たらどうしても、なんか……」
 なんか、なんだろう?
 「アイツって?兄ちゃん?モモの元彼?それともあの女?」
 あの女って言い方は酷くないか? 
 「どの女?」
 「あの女」
 「え?女?」
 「うん。女」
 なんだこの会話。
 それにしたって、シロの目はどうなってるんだ?
 お兄さん達の方をしっかりと見ているのなら、あの不自然なカップルは嫌でも目に飛び込んでくるだろ。
 それも気にならないほどお兄さんしか見えていない、とか?
 「あぁ、あの人形か」
 「え?人形?」
 「うん。人形」
 「ん?何処?」
 いや、だからなんだよこの会話。
 しかも人形って!
 人形のように可愛いとか、そんな感じの意味?
 どうしたシロ、キャラ変わり過ぎだろ!
 「え?あれ人形やで?な、コウ」
 あれ?なんだかシロの様子が可笑しい?
 人形のように可愛い女の人。とかじゃなくて、本当に人形だって言ってる感じ?しかも同意を求めてくる目は真剣だ。
 「え?人形ちゃうやん。なぁ、コウ」
 セイはセイで同意を求めてくるから、俺はもう1度しっかりとお兄さん達の方を見る事にした訳なんだけど……。
 「あれ?」
 さっきまで見ていたイチャイチャカップルは姿を消し、変わりにいたのは30cmはあろうかという大きな人形を抱き抱えているモモさんの元彼氏の姿だった。
 物凄くリアルに作られているものの、何をどう見たって人形だ……。
 「え!?あれぇ!?」
 俺と一緒に確認したセイは、図書館だということを完全に忘れてしまったのだろう、大声で驚いた。
 その声にこちらに気がついたお兄さんは、難しい顔で本を読んでいた表情を改め、笑顔で軽く手を振ってきて、それを見たモモさんの元彼氏もこっちを見てからギコチナク手を振ってくる。そしてその腕の中にある人形……。
 「な、なぁ……あれ、ちょっと手ぇ動いてへん?」
 シロの言葉に人形の手を見てみれば、確かにゆっくりと動いている。
 なんだあれ……。
 え?
 なんだあれ!?
 「めっちゃ自然に動かすやん。凄いな……モモの元彼」
 あれ、動かしてるのか?そうには見えない位にリアルなんだけどな……けど、俺達の中で1番目の良いセイがそう言ってるんだから、そうなのだろう。
 「なんか見てたら不安になってくるわ。出よか」
 さっきは寒さを優先して図書館に留まると選択したシロが、今度は不気味さを優先させて図書館を出ようというのだから、そうとう不安になっているのだと思う。
 もちろん、1年最後の日にそう長くは見たくない光景だと感じた俺も同感。
 そして足取り軽く図書館を1番に出たセイも同感、なのかな?
 「今日、図書館に来て良かったな!」
 ん?
 いや、同意を求められても……人形が不気味だった。とかならまだしも、図書館に来て良かったって、なんで?
 「なんで?」
 少しの間寒さをしのぐ事は出来たけど、シロの機嫌が悪くなったし不気味だったしで、むしろ来なかった方が良かった感じじゃないか?
 「だってさ、あの人の事モモの元彼って呼んでたけど、1年経ってんのに可笑しいやん」
 あ。
 「確かに」
 そうそう会う機会もないんだけど、だからこそ今日みたいにたまたま会った時や話題になる時に思うんだ。
 なんて呼べば良いんだ?って。名前を知ってる訳でもないから結局はモモさんの元彼氏って情報しかなくて、そう呼ぶ事しか出来なかった。
 若干シロに悪いなって思いながら。
 「俺も、その呼び方はどうにかして欲しかったわ」
 やっぱり、そう思うよね。
 1年も付き合ってる彼女の元彼氏の事を、いつまで経っても元彼氏と呼ぶ友人達なんて俺だって嫌だ。
 でもさ、それと今日図書館に来て良かった事がどう関係するんだ?
 「やろ!でも今日図書館に来たおかげで分かった!あの人、人形師やん」
 「人形師て!」
 「人形師て!」
 いや確かに物凄く人形の扱いは上手かったけど!
 「そそ、人形師の人」
 「人形師の人!?」
 「人形師の人!?」
 「そうやで!腹話術の本読んでたし」
 あんな真剣な表情でなにを読んでたのかと思ったら、腹話術の本!?
 「もう、完全に目指してるやん」
 「むしろ既にプロ並やん」
 「やろ!で、なんて呼ぶ?」
 ここまで散々人形師だの人形師の人だのと言っておきながら、肝心の呼び名は決めないのか!
 ここはストレートに人形師?けど腹話術の本を読んでいたって言うんだから腹話術師?人形を使って何かしらのパフォーマンスをする人には違いなさそうだけど……。
 「まぁ、兄貴の友達。でえぇんちゃうの?」
 ここまで散々人形師だの人形師の人だのと聞いておきながら、最も普通の呼び名にするのか!
 じゃあお兄さんの友達が持っていた人形は、友達の人形だから……友達人形って所かな。
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