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栄光の2着
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冷たい風が吹く運動場、横一列に並ぶ俺達。
白線ギリギリの場所に立って横を見ると、俺を見ている親友と目が合った。
分かってるから、そんな心配そうな顔をするんじゃない。
「ヨーイ」
先生がそう言って手を上げると、緊張した空気でキィンと身が引き締まった。
「ドン!」
今日の体育の授業内容は持久走。
前の授業でも、前の前の授業でも俺は2着だった。いつも親友に後1歩の所で負けてしまうのだ。
1着になりたい、勝ちたい。
だけど、今日だけは2着で良い。
そう約束したから。
いつも忙しくて家にいないお父さんが持久走を見に来るから、1着になって良い所を見せたい。って言うんだ。1位を取らせてくれって。親友からそんな風に頼まれたら、聞いてやらきゃ親友じゃない。
だから今日は2着でなければ駄目なんだ。
運動場を半周した時、裏門の所に1人の男の人が立っているのが見えた。きっとあの人が親友のお父さんに違いない。
接戦の末の2着。それを演出しようと親友の背中を追いかけて行くと、いつもとは全く違う走り方が目に付いた。
コイツは、こんなにも遅くない。
なにが可笑しい?どうした?
はっ!
手と足が同時に出ている!?それで良くその速さで走れるな、逆に凄いわ!
「おい、走り方可笑しいぞ!」
裏門を通り過ぎた所で近付いて声をかける。
「分かってるけど、戻し方が分かんないんだよ!」
戻し方が分からない!?それで良くその速さで走れるな!
「忍者みたいに腕の動き止めて走ってみたら?」
コクンと頷き、真剣な表情で正面を向いた親友はポーンと1回跳ねてから忍者のように走り出し、一気に加速した。
少ししてから振り出した腕は、ちゃんと交互に戻っている。
よしよし。
周回遅れのクラスメートを華麗に追い抜き、時々親友も追い抜いたりしながら接戦を演出、裏門の所にいる男の人は親友が俺を追い抜く度に嬉しそうにしていた。
残す所は後2周。
いや、1周半。ラストスパートだ!
あの白いラインを超えたら後1周。一気にスピードを上げるか、それとも残り半周になった時点でスピードを上げるか……少し様子を見よう。
いつもより気を張っている分体力の消耗が激しいから、親友にだってそれほど体力は残っていない筈。一気に加速して追い抜いてしまったら今までの苦労が無駄になる。
後数歩で白いライン。
少しスピードを落としてみようか……
テクテク。
スグ前を走っていた親友は、白いラインを超えた所で格好付けるように歩き始めた。そしてそのままコースの外に出ようとしている。
「馬鹿!後1周あるから!」
「えぇ!?」
慌ててコースに戻って走り出した親友だが、時は既に遅く、先頭は俺。
後1周しかないと言うのにどう追い上げてくる?どう追い上げられる?下手に立ち止まったりしたら誰の目から見たって可笑しい。
少しバテた振りをしながらスピードを落とすしか……。
困り果てていた俺の前を、完全にバテてしまったクラスメートが横腹を押さえながら歩いている。
これだ!
いや、でも待てよ……。急に歩くのは不自然だから、少しスピードを落とす程度にしよう。
横腹を押さえつつ、誰に対してのアピールなのか片目を瞑りながら、如何にも痛そうな小芝居を少々。後はこのままゴールまで走れば、きっと親友が追いついてきて俺はめでたく2着でゴールできる。
勢い良く俺を追い抜いて行く親友の後姿。走り方も可笑しくないし、後半周だからあの白線を超えたら本当にゴール。
もう、なにも心配は要らない。
だったらさっさとゴールして、気を使い過ぎていつもより疲れてしまった持久走を終わらせよう。
横腹を押さえていた腕を下ろし、接戦を繰り広げる為に少しだけ加速する。すると親友はチラリと振り返ってくると更に加速し、そして一気に減速した。
何が起きた?と振り返って見えたのは片方だけ転がっている運動靴。
そんな……こんなタイミングで靴が脱げただとぅ!?
もう駄目だ、減速しようがなにをしようが残りは僅か半周。いくら素早く靴を履きなおしても、走り出す頃には俺はゴールしているだろう。
靴を履き終わるまで立ち止まる?
それのどこが接戦だよ。
仕方ない……ここは“靴が脱げなきゃ1着だったのに”と言う事で納得してもらうしかない。
悪い。ここまで頑張ったけど、今日のお前を1着にしてやる事は出来な……。
タッタッタッタッタ。
「え?」
妙に軽やかな足音が真後ろから聞こえたかと思った瞬間、ズバァン!と俺の前に現れた背中。
そう、これだ。これがいつもの後姿だ!
まさか、靴を履き直すんじゃなくて、裸足になるとは。
加速してラストスパートをかけてみるが、親友との差が縮まる事はなく白線を越えてゴールとなった。
2着で良い、これで良い。接戦の末の2着なんだから完璧。それなのに、1着をとった親友の顔は冴えない。
「嬉しくないや……」
なんだよそれ。
折角協力してやったのにさ。
折角、完璧な2着をとったのにさ。
トボトボと靴を拾いに行く後姿は小さく座り込んで靴を履き、またトボトボとこっちに戻ってきた。
黙り込んでいる親友は、裏門にいる男の人の方を見ないように俯いてしまっている。
これじゃあ折角の勝負が台無しだ。
じゃあ、やり直そう。
「今から運動場もう1周しよ。本気で走るから1着になりたかったら本気で走れよ」
「え?」
運動場ではまだ5周走りきれていないクラスメートが走っているから、走り終えた俺達が後1周走ろうが何をしようが誰の時間もとらせない。
「いくぞ?」
「いつでも」
本気の勝負は、これからだ!
「ヨーイ、ドン!」
白線ギリギリの場所に立って横を見ると、俺を見ている親友と目が合った。
分かってるから、そんな心配そうな顔をするんじゃない。
「ヨーイ」
先生がそう言って手を上げると、緊張した空気でキィンと身が引き締まった。
「ドン!」
今日の体育の授業内容は持久走。
前の授業でも、前の前の授業でも俺は2着だった。いつも親友に後1歩の所で負けてしまうのだ。
1着になりたい、勝ちたい。
だけど、今日だけは2着で良い。
そう約束したから。
いつも忙しくて家にいないお父さんが持久走を見に来るから、1着になって良い所を見せたい。って言うんだ。1位を取らせてくれって。親友からそんな風に頼まれたら、聞いてやらきゃ親友じゃない。
だから今日は2着でなければ駄目なんだ。
運動場を半周した時、裏門の所に1人の男の人が立っているのが見えた。きっとあの人が親友のお父さんに違いない。
接戦の末の2着。それを演出しようと親友の背中を追いかけて行くと、いつもとは全く違う走り方が目に付いた。
コイツは、こんなにも遅くない。
なにが可笑しい?どうした?
はっ!
手と足が同時に出ている!?それで良くその速さで走れるな、逆に凄いわ!
「おい、走り方可笑しいぞ!」
裏門を通り過ぎた所で近付いて声をかける。
「分かってるけど、戻し方が分かんないんだよ!」
戻し方が分からない!?それで良くその速さで走れるな!
「忍者みたいに腕の動き止めて走ってみたら?」
コクンと頷き、真剣な表情で正面を向いた親友はポーンと1回跳ねてから忍者のように走り出し、一気に加速した。
少ししてから振り出した腕は、ちゃんと交互に戻っている。
よしよし。
周回遅れのクラスメートを華麗に追い抜き、時々親友も追い抜いたりしながら接戦を演出、裏門の所にいる男の人は親友が俺を追い抜く度に嬉しそうにしていた。
残す所は後2周。
いや、1周半。ラストスパートだ!
あの白いラインを超えたら後1周。一気にスピードを上げるか、それとも残り半周になった時点でスピードを上げるか……少し様子を見よう。
いつもより気を張っている分体力の消耗が激しいから、親友にだってそれほど体力は残っていない筈。一気に加速して追い抜いてしまったら今までの苦労が無駄になる。
後数歩で白いライン。
少しスピードを落としてみようか……
テクテク。
スグ前を走っていた親友は、白いラインを超えた所で格好付けるように歩き始めた。そしてそのままコースの外に出ようとしている。
「馬鹿!後1周あるから!」
「えぇ!?」
慌ててコースに戻って走り出した親友だが、時は既に遅く、先頭は俺。
後1周しかないと言うのにどう追い上げてくる?どう追い上げられる?下手に立ち止まったりしたら誰の目から見たって可笑しい。
少しバテた振りをしながらスピードを落とすしか……。
困り果てていた俺の前を、完全にバテてしまったクラスメートが横腹を押さえながら歩いている。
これだ!
いや、でも待てよ……。急に歩くのは不自然だから、少しスピードを落とす程度にしよう。
横腹を押さえつつ、誰に対してのアピールなのか片目を瞑りながら、如何にも痛そうな小芝居を少々。後はこのままゴールまで走れば、きっと親友が追いついてきて俺はめでたく2着でゴールできる。
勢い良く俺を追い抜いて行く親友の後姿。走り方も可笑しくないし、後半周だからあの白線を超えたら本当にゴール。
もう、なにも心配は要らない。
だったらさっさとゴールして、気を使い過ぎていつもより疲れてしまった持久走を終わらせよう。
横腹を押さえていた腕を下ろし、接戦を繰り広げる為に少しだけ加速する。すると親友はチラリと振り返ってくると更に加速し、そして一気に減速した。
何が起きた?と振り返って見えたのは片方だけ転がっている運動靴。
そんな……こんなタイミングで靴が脱げただとぅ!?
もう駄目だ、減速しようがなにをしようが残りは僅か半周。いくら素早く靴を履きなおしても、走り出す頃には俺はゴールしているだろう。
靴を履き終わるまで立ち止まる?
それのどこが接戦だよ。
仕方ない……ここは“靴が脱げなきゃ1着だったのに”と言う事で納得してもらうしかない。
悪い。ここまで頑張ったけど、今日のお前を1着にしてやる事は出来な……。
タッタッタッタッタ。
「え?」
妙に軽やかな足音が真後ろから聞こえたかと思った瞬間、ズバァン!と俺の前に現れた背中。
そう、これだ。これがいつもの後姿だ!
まさか、靴を履き直すんじゃなくて、裸足になるとは。
加速してラストスパートをかけてみるが、親友との差が縮まる事はなく白線を越えてゴールとなった。
2着で良い、これで良い。接戦の末の2着なんだから完璧。それなのに、1着をとった親友の顔は冴えない。
「嬉しくないや……」
なんだよそれ。
折角協力してやったのにさ。
折角、完璧な2着をとったのにさ。
トボトボと靴を拾いに行く後姿は小さく座り込んで靴を履き、またトボトボとこっちに戻ってきた。
黙り込んでいる親友は、裏門にいる男の人の方を見ないように俯いてしまっている。
これじゃあ折角の勝負が台無しだ。
じゃあ、やり直そう。
「今から運動場もう1周しよ。本気で走るから1着になりたかったら本気で走れよ」
「え?」
運動場ではまだ5周走りきれていないクラスメートが走っているから、走り終えた俺達が後1周走ろうが何をしようが誰の時間もとらせない。
「いくぞ?」
「いつでも」
本気の勝負は、これからだ!
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