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 死んだと思ってた父さんが生きていた。それだけでも驚きなのに、父さんは見る限りは無傷で、いつものように執務室にいた。
 まだ部屋で休んでいるとか、執務室にいたとしても怪我をしているとかなら、あぁ生きていたんだなと思えるんだろう。
 けど、まるで何事もなかったかのように座られていると……影武者とか幽霊とか?もしくは崖から父さんを落としたって夢を見ていたのではないか?と思えてしまう。
 実際には、馬車を落とす時に付いた溝を埋めた跡があったから、現実なんだけど。
 だとしたら、目の前にいる父さんは、一体……。
 「あ、あの……崖からどうやってここまで?怪我はしなかったのですか?」
 何故生きているのか?と聞きたいところではあるんだけど、直接的過ぎるからやめておいた方が良い、よな?
 「ふむ……。自分の魔力についてはどこまで理解できている?まさかまだ魔力を持っていないというつもりではないだろう?」
 ふむ、じゃなくてさ……。
 とりあえず先に質問に答えろってことか?
 どうやら父さんは、俺が防御特化であることは知っているらしい。
 「パッシブ系の防御魔法ということは知っています」
 知ったのはほんの数日前なんだけど。
 「攻撃に特化したカインは防御魔法は使えるものの、一般的な兵士と同等の防御力しか持っていない。防御に特化したアイン……お前は魔法陣を描くスピードは一流だが、攻撃魔法の威力は一般人と同等だ」
 兄さんの防御力が、一般的な兵士レベル?
 「そんな……兄さんは崖から落ちても怪我ひとつしなかった」
 待て、崖から落ちて助かる方法は防御力だけじゃない。
 現に俺は崖の足場になりそうな場所を見つけては飛び移るという方法で、無傷のまま何度も崖から飛び降りている。
 そのために重要となるものは防御力ではなく、スピード。
 いや、だからって馬車の中にいるのにどうやって助かったんだ?
 「私がカインよりも優れている点は、防御力だ」
 つまりは、崖から落ちても致命傷にはならなかったと?
 「でも、確かに血まみれになってたのに……」
 兄さんよりも優れているのなら、怪我もしない筈じゃなければ可笑しい……いや、でも俺は兄さんが崖から落ちる場面を直接見たわけではないし、崖に落ちた痕跡を見つけてから実際に兄さんと再会したのも随分と経ってからだった。
 それなのに無傷で崖から落ちたと決めつけるのは良くないか。
 馬車を崖から落としただけで、兄さん自体は崖の下にも行っていない可能性だってある。
 「傷薬は常備しなさい。そう教えているはずだが?」
 あぁ、傷薬を飲んで回復したのか。
 だったら、父さんが死んだと思ってから俺がしたことの報告をしないと。
 「……あれから俺、城に行ってきました」
 そこで王様に会って、えっと、その前に戦争をしようとしていることはバレていると伝えた方が良かったかな?
 「は!?」
 え……え?
 父さんが、なんか変な声出した。
 「えっと……」
 「なにもされなかったか!?カインは?まさか2人で行ったわけではないだろう!?あ、いや、お前がここにいる時点で無事なのか……それで、カインはどこだ?」
 どうやら城に行くことは危険行為だったらしい。
 「俺と兄さんは別行動で、兄さんは身を隠してます」
 念のため、詳しい場所は言わないことにした。
 父さんが生きてくれていたことは飛び上がるくらいに嬉しいんだけど、それでも無条件で信用できるわけでもないから。
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