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しおりを挟む「ギオン。君の事は忘れない」
「今すぐにでも忘れてほしいんだけどね…神様の記憶を消す事はルール違反なんだ」
困り果てうなだれた少年は、横目でセイの顔を盗み見る。
「それなのに、教えてくれたんだ?」
「…………」
その質問に一瞬ムスッとし、プイと顔を背け黙ってしまった。
けれどしばらくした後、横目で少年がチラッと男へ目線をやると、彼はニコニコと微笑んでいて、ギオンは思わず問いかけた。
「……あのねぇ、Iは死神って名乗らなかった?」
自分がもうすぐ死ぬって考えないの?と呆れながら聞けば、その質問に驚いたように目をぱちくりさせてセイは答える。
「そうかな。そうだとしても、なんだか人情味の溢れた死神だなと思ってね」
「………」
「死神というのはもっと……心が無で、大きな鎌を持ってるのかと思ってたんだ」
「…想像と違うって?」
「そうだね。それに死神だって言ってるのに、こうして治癒してくれてるだろう?それが不思議でね」
セイは自分の腕を眺めて、確かに傷の痛みがひいていくのを感じていた。
「……気まぐれだよ」
フンと鼻を鳴らし、少年は遠くを見つめだした。
「ありがとう」
「……もう治ったでしょ?Iはもう帰る」
照れくさそうに頬を染めながら、少年はパッと手を離し立ち上がった。
途端、周りに漂っていた柔らかな光は消え、代わりに雪が二人にふりかかった。
「寒いんだけど」
少年は両手で腕をさすりながら、鼻をすする。
「それはこの時期にギオンが半袖半ズボンで下駄なんか履いているからじゃないかな?」
おもしろいね、なんてクスクス笑えば、ギオンはセイの頭に片手を振り落とす。
「いたた……まだ怪我してるんだけどな」
「あんたはさっさと魂解放するんだろ--!?」
少年はバッと振りかえった。
その様子に笑っていたセイも驚いて肩をはねさせる。
暫くの沈黙。
少年は静かに口を開いた。
「誰か居る…」
そう呟くと同時に、向けられていた視線を感じなくなった。
…決して嫌な気配ではない。
けれどそれが逆に恐怖を与えた。
背中にピシリと突き刺さる視線を感じたのだ。
注意深く辺りを確認しても、今は吹雪。遠くなど何も見えない。
ホッと安堵のため息をついた
その時だった。
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