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大魔王の兵糧庫を食い尽くすのにゃ! の巻
俺の名は。にゃにゃま!
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――現在時刻に戻る
――大魔王城
――城門バルコニー
謁見の間を後にした大魔王は、バルコニーに出た。
ここからなら大魔王城の城下を一望に見下ろすことができる。
すでに、大魔王である彼の目の前には、幾つもの魔召喚画面が出されており、魔都カナベラにおける数ヶ所の要所を映し出していた。
しかし。
……そこには……大魔王にとって余りにも悲惨な光景が……幾重にも広がっていた。
「あ、ア、あ、ア、あ、……あ。」
巨猫の軍勢に蹂躙される魔都カナベラ。
高さ15Mは下らない魔都の中央、東方、西方、北方の防壁門を、猫奴らはネコジャンプで軽々と飛び越えて来る。
巨大な猫たちが、次々と滝の流れのように四方の防壁門から落ちて来ては、魔都内に侵入していた。
その数、一万を越える勢いであった。
「こ……こレが、あのカナベラなのカ!? 我がデモンカント魔国が誇ル……都の姿だトいウのか!??」
巨猫たちは我がもの顔で、魔都カナベラを蹂躙する。
――食べ物を取り合ってシャー! と鳴いている巨猫。
「これは、おれのエモノにゃー!」
「ボクのにゃ! ボクのえものなのにゃ!」
「ちがうにゃ! おいらのにゃ! ですにゃ!」
――50匹ほどで魔都内を追いかけっこしている巨猫達の姿。
「みんにゃ! おにごっこするにゃー!」
「りょうかいにゃ!」
「わかったにゃ!」
「やるにゃ!!」
「……ヨシ!」
「「「「「にゃわわわわーん!」」」」」
建物の屋根に。
道路に。
廃屋に。
至る所に無数の巨大な猫たちが……ごろんと横に寝転がっている。
「ぬくぬくにゃー! ひなたぼっこにゃー!」
「きもちいいにゃ!」
「ねむねむなのにゃー!!」
魔都カナベラの至る所で、ねこねこねこねこねこねこねこねこねこ。
猫奴らの手によって阿鼻叫喚が、カナベラで引き起こされている。
「クっ……くくくクク」
目の前に広がる光景を見て、大魔王は愕然とする。
「大魔王さまぁあ! お……お労しいやぁあぁあ!!」
さらに魔都の被害は、巨猫の軍勢によって拡大していく。
魔都を守る防衛隊の兵たちは……ヤラレてしまって身動きが取れなくなってしまった者が増え続けている。
そこには、想像を絶する光景が辺りに拡がっていた。
巨猫たちのふわっふわな「もふもふ」の前には最早、魔都を守る防衛隊の兵たちでは、猫吸いの魔力に抗えず、太ましい巨猫の腹に、嬉しそうに自ら顔を埋ずめ……そのまま猫奴らの腹の上で窒息死する魔軍兵たちの姿が後を絶たない……。
と、いっても。
防衛隊の兵たちは、肉体的に、物理的に、死傷したのではない。
ほぼ全員が精神的に癒されて、幸せそうな顔で悶絶している。
「おのれッ! 何故だ、何故……こんなことに!?」
大魔王が目の当たりにした現状は、彼が謁見の間にて考え、想定していた状況よりも重く酷いものであった。
さらに大魔王に追い討ちをかけるかのように……彼に、報告に来る伝令兵c、d、eがやって来る。
「申し上げます! 魔都陸上防衛大隊長タイガーウルフ様、敵に寝返りました!」
「申し上げます! 魔都海中防衛大隊長カツゥオマグロ様、敵に食われました!」
「申し上げます! 魔都空下防衛大隊長ガルダハーピー様、敵に狙われました!」
……何かが徐々に崩れていく。
「ナにが、ナにが起きているというのダ!」
大魔王の何かが……音を立てずに崩れていく。
「あ! だいまおうさまぁ! えへへ! ごめんねぇ~♪ ぼくぅ! 今日で魔都陸上防衛大隊長をやめます! これからわぁ、いままで生き別れてた……ハチワレにぃちゃんのとこで働くんだぁ!」
これまでの700年が……まるで走馬灯のように……ゆらゆらと波のように揺らぎ、儚くも過ぎ去っていく現実。
「た……たすけてぇん! 大魔王様ぁあん!!」
若蛙人は考えていた。
「このねこちゃんたちをどうにかしてぇえぇ! あたしの美・身・をほぐほぐ! もぐもぐ! されちゃうのうぅうぅうぅん! このままじゃあ、あたし死んぢゃう! あ! あ! あ! あ! 快★感ンんんんん!」
自分にこの惨状を好転にすることが出来るのかと。
「ガルっほぅ!? 我輩! 危機的状況! 敵猫! 我輩、狙撃中! 危機! 危機! 危機!」
大魔王に最早打つ手なし。
魔軍に残る戦力はすべて壊滅。
陸海空の魔都防衛軍の主力大隊も……猫奴らによって打ち砕かれ、既に後の祭りであった。
「だ、大魔王様……!!ッ」
悲しみに暮れる大魔王に悲壮感が漂う。
「タイガーウルフ……カツゥオマグロ……ガルダハーピー……。 三名とも、我と共に魔都の発展に力ヲ尽くし、我が国の陸海空を守ってくれルと誓っタではなイか……」
大魔王の目から涙が一筋……流れ出る。
その姿を見て、若蛙人はオロオロしていた。
――そこに現れる……謎の影。
シュタッ!
「にゃーっはっはっはっはっはっはっはー!」
「な、何やつじゃ!?」
若蛙人が、声がする方へ振り返ると、全身に鎧をつけた伝令兵? が一人、二階建ての一軒家の屋根の上にいた。
「お……お前は!」
謎の伝令兵は「とう!」と声を放つと、その場でくるりと宙返りをした。遠心力によって、全身に着込んでいた鎧を無造作にすぽーん! と脱ぎ捨てると……、中から……現れたのは巨大な茶白猫だった。
「にゃはっ? おれの名前はにゃにゃま! 巨猫の軍勢を率いる大化け猫たぁ~このおれのことにゃ! よろしくですにゃん!!」
「うぬぬぬぬぬぬぅーっ!」
悲しみに暮れる大魔王は、謎の伝令兵と、若蛙人のやり取りを横目に見ながら、二人の話に聞き入っていた。
「おっちゃんらの兵糧はすべて、おれたちがおいしく頂きましたにゃん! とてもおいしかったですにゃん! ありがとうですにゃん! 」
「な、なんじゃと???!」
高らかに 名乗りを挙げた茶白猫は、この魔都カナベラが置かれている状況を続けて喋る。
「いやー? もうこの城も都もぜーんぶ。おれたちになんもかんも蹂躙されたあとですからねー! 終わりですよ、終わり! にゃーはははははぁー!」
茶白猫の発する言葉に唖然とする若蛙人。
にゃにゃまの言うとおり。魔都カナベラには続々と荷馬車が押し寄せて来ていた。
荷馬車は猫奴らによって開け放たれた魔都の防壁門を抜けて、魔軍兵糧庫から奪った食糧の数々を、その荷台に詰め込み、荷が満帆となった荷馬車から惨憺たる魔都カナベラから抜け出して行った。
「まっ! 奪うものは奪ったしにゃ! 取るものも取ったから、もうここ用はないにゃん! ここいらでお暇しますにゃん! ドロンですにゃん!」
「待つのダっ! 巨猫のリーダー!!」
大魔王は、腹の底から声を振り絞り叫んだ。
「いやにゃん! おれはもう用ないにゃん!!」
「ま、待テ! ……と、特上のカツウオのブンナグリは欲しクないカ? 欲しクば……見事、我を討ち果たシ……この特上希少戦利品特上トサコウチカツウオのブンナグリを奪い取っテみヨっ!」
「にゃにゃにゃ!? カツウオ!! 食べたいにゃん!! おっちゃんを倒せばたべれるにゃん!?」
「そうダ……我とソナタで一騎討ちヲだナぁ……」
彼の目論みは宛が外れ。
茶白猫は、彼がそう言い終わる前に、行動に出た。
「いくにゃ! 異世界小袋!! 巨大灯!!」
茶白猫は、取り出した道具の光を自らの身体に浴び。
その場から、彼と若蛙人がいる城門バルコニー目掛けて、飛び降りた。
「とう! ですにゃ!!」
すると。
……どんどん、……どんどん、茶白猫の体が巨大化していく。
そして、巨大化した巨猫の身体が……大魔王と若蛙人のいる城門バルコニーに落下してくる。
その場に出ていた、幾つもの魔召喚画面が茶白猫のもふもふな巨体に破壊されて、飲み込まれていく。
余りにも予測出来ない事態に、とっさの判断も取れなかった大魔王は、何にも抗う術を行使することがなく……その身を茶白猫のもふもふに預け、若蛙人と共に……飲み込まれていった。
「う、オ、オ、オ、オ、オ、……」
「ダ……、大魔王さ、ふがっ、く……ま!」
大魔王である彼は、上から落下して押し寄せてくる巨大化した巨猫の巨体に間一髪の所で気転を効かし、身に纏っていた、漆灰黒色外套を可能な限り大きく広げて、若蛙人と我が身を包み込み、防御する事に辛うじて成功していた。
……が、押し潰される事は避けられず……。
彼と若蛙人、地面に埋もれたまま身動きが取れずにいた。
――3分は過ぎただろうか……。
茶白猫の体が、するすると元の大きさに戻っていく。
そして、モフモフにやられた彼の傍には、彼が所持していた特上希少戦利品の特上トサコウチカツウオのブンナグリ[極]が落ちていた。
「グ、ぬ、ぬ」
「大魔王さま! ワタクシを庇って!」
土に埋もれた若蛙人は「うおぉんおんおん!!」と身動きが取れぬまま……咽び泣き喚く。
彼は、一連の光景を地面に押し潰されたまま茫然と空を眺めていた。
(先代サマ……は、この失態を許サヌでアろうナぁ……)
「やったにゃん!! カツウオ!! 手に入れたですにゃん!!」
茶白猫は「じゃあにゃ! カツウオ! ありがとうでしたにゃん!! またくるかもにゃん!?」と言い残し、城門バルコニーから魔都中央防壁門に向けて、一目散に駆け出して行った。
その声を聞いた彼は、心の中で……(もう来るな!!)と、疲れ果てた眼光で空をずっと……見つめていた。
「まずハ、こノ穴かラ抜け出さネば……。移動」
彼は、無詠唱で唱えた魔法の効力で、若蛙人と自らの体を動かし、その身を地面の上に移した。
「あれは一体……な、なんでございましょーか?!? 大魔王様……」
若蛙人は、茶白猫が使っていた……見たこともない魔法の道具? に対して、狐にでもつままれたような心持ちで、大魔王に言葉を傾けた。
「解らヌ……だが、あの猫のいウ通りであルならバ……我が魔都は蹂躙された上に……目の前に地獄が拡がっている……だト?」
(どこガ地獄ダ!……これデはモウ……修羅そのモのではナイか……残された戦力を……急ぎ結集し、確かメねバ……)
「ケロッグよ! 我が国の損耗を確認するのだ!」
(あリ得ヌこトが立て続けに起きていルのダ。……次ハ何が起きルか……解らヌ!)
「し、しかと!」
大魔王と若蛙人の奮闘はこれからも終わりなく、続く。
「ク、巨猫の軍勢メぇ! この始末。ただデは置かヌからナぁ!」
こうして、巨猫の軍勢によって、デモンカント魔国の魔都カナベラは壊滅した。
大魔王となったばかりの彼の苦難は。
新しくまた、ここから始まりを告げる。
それを奏でる音は――猫の声。
聖堂の鐘でも、若蛙人の咽び泣く声でもない。
高らかに喜びに喘ぐ、巨猫たちの鳴き声によって、新たな物語は、紡がれ……聞こえてくるであろう。
――巨猫の軍勢率いる荷馬車内。
「にゃーっ! はっはっはっはっはっはっはっはー!!」
「カツウオ! カツウオはやっぱりおいしいにゃーん!」
「すーぱーうまうまですにゃ! にゃわわーん!!!!」
巨猫の軍勢はひとときの幸せに浸っていた。
「いやー! それにしても。あのばか勇者は、いい仕事をしてくれましたにゃん!
茶白猫は荷馬車の中に敷かれた紫色のカーペットの上にごろん、と横になり、毛づくろいをし始めた。
「結界も! 紋章も! 弾道兵器も! すべて機能を停止してくれたんだからにゃあ!」
一人黙々と独白を続ける茶白猫であった。
……一方その頃。
――中央大陸、ハルバル聖王国。
巨猫の軍勢が、魔都カナベラを壊滅させ。その場から離れた時と同じくして。
ハルバル聖王国の謁見の間にて、聖王リファ・レンズ・フォン・ゼノアレフ・ハルバルが豪勢な玉座から、勇者ブレイブを見下ろして、深いため息を漏らしていた。
聖王の目の前で、勇者は片膝をつき、頭を垂れた姿勢のままであった。
よく見ると、聖王の傍らには、小柄な兵士が槍を手に持ち。ニコニコと満面の笑みを浮かべていた。
聖王は、冷ややかな目を勇者に向け、重い口を開けた。
「おぉ! 勇者ブレイブよ!? 死んでしまうとは情けないやつじゃと、そなたに初めて会った時からわしはずっと思っておったぞよ!」
「こんなこともあろうかと、ワシは、そなたたちの旅立ちからずーっと! 兵士そるぢゃーに、そなたたちの跡を追わせ、陰から監視させておったのじゃ!わーはっはっはっはっはー! 危ない所であったのぉおっ?」
「は、ははぁーっ!!?」
「なお、そなたの復活にかかった費用に加え、そなたたちを、ここまで運び込んできた手間賃や、兵士そるぢゃーへの報奨金とワシへの礼金に感謝料に、姫聖女の毎日のおやつ代などの一切合切は、そなたの棺の中から所持金の半分を、勝手に抜いておいたぞ!! さぁ! わしに盛大に感謝するがよい!!」
「ひっ!」
「さて、そなたの仲間たち3人を蘇らせてほしくば、残りの所持金を全部、わしに渡すのじゃ!』
「く、く、くぅ~っ……。」
「おぉ! この者たちにこの世界の加護があらんことおぉ!」
とかなんとかァ……。
聖王国のじじいからァ……。
勇者に告げられたようであるが。
……それはまた別のお話。
「にしししし! つぎは! どこの国の、どの都にいこうかにゃぁあ~!?」
巨猫の軍勢。
……その進路は茶白猫の気の向くままに。
赴くままに……。
――大魔王城
――城門バルコニー
謁見の間を後にした大魔王は、バルコニーに出た。
ここからなら大魔王城の城下を一望に見下ろすことができる。
すでに、大魔王である彼の目の前には、幾つもの魔召喚画面が出されており、魔都カナベラにおける数ヶ所の要所を映し出していた。
しかし。
……そこには……大魔王にとって余りにも悲惨な光景が……幾重にも広がっていた。
「あ、ア、あ、ア、あ、……あ。」
巨猫の軍勢に蹂躙される魔都カナベラ。
高さ15Mは下らない魔都の中央、東方、西方、北方の防壁門を、猫奴らはネコジャンプで軽々と飛び越えて来る。
巨大な猫たちが、次々と滝の流れのように四方の防壁門から落ちて来ては、魔都内に侵入していた。
その数、一万を越える勢いであった。
「こ……こレが、あのカナベラなのカ!? 我がデモンカント魔国が誇ル……都の姿だトいウのか!??」
巨猫たちは我がもの顔で、魔都カナベラを蹂躙する。
――食べ物を取り合ってシャー! と鳴いている巨猫。
「これは、おれのエモノにゃー!」
「ボクのにゃ! ボクのえものなのにゃ!」
「ちがうにゃ! おいらのにゃ! ですにゃ!」
――50匹ほどで魔都内を追いかけっこしている巨猫達の姿。
「みんにゃ! おにごっこするにゃー!」
「りょうかいにゃ!」
「わかったにゃ!」
「やるにゃ!!」
「……ヨシ!」
「「「「「にゃわわわわーん!」」」」」
建物の屋根に。
道路に。
廃屋に。
至る所に無数の巨大な猫たちが……ごろんと横に寝転がっている。
「ぬくぬくにゃー! ひなたぼっこにゃー!」
「きもちいいにゃ!」
「ねむねむなのにゃー!!」
魔都カナベラの至る所で、ねこねこねこねこねこねこねこねこねこ。
猫奴らの手によって阿鼻叫喚が、カナベラで引き起こされている。
「クっ……くくくクク」
目の前に広がる光景を見て、大魔王は愕然とする。
「大魔王さまぁあ! お……お労しいやぁあぁあ!!」
さらに魔都の被害は、巨猫の軍勢によって拡大していく。
魔都を守る防衛隊の兵たちは……ヤラレてしまって身動きが取れなくなってしまった者が増え続けている。
そこには、想像を絶する光景が辺りに拡がっていた。
巨猫たちのふわっふわな「もふもふ」の前には最早、魔都を守る防衛隊の兵たちでは、猫吸いの魔力に抗えず、太ましい巨猫の腹に、嬉しそうに自ら顔を埋ずめ……そのまま猫奴らの腹の上で窒息死する魔軍兵たちの姿が後を絶たない……。
と、いっても。
防衛隊の兵たちは、肉体的に、物理的に、死傷したのではない。
ほぼ全員が精神的に癒されて、幸せそうな顔で悶絶している。
「おのれッ! 何故だ、何故……こんなことに!?」
大魔王が目の当たりにした現状は、彼が謁見の間にて考え、想定していた状況よりも重く酷いものであった。
さらに大魔王に追い討ちをかけるかのように……彼に、報告に来る伝令兵c、d、eがやって来る。
「申し上げます! 魔都陸上防衛大隊長タイガーウルフ様、敵に寝返りました!」
「申し上げます! 魔都海中防衛大隊長カツゥオマグロ様、敵に食われました!」
「申し上げます! 魔都空下防衛大隊長ガルダハーピー様、敵に狙われました!」
……何かが徐々に崩れていく。
「ナにが、ナにが起きているというのダ!」
大魔王の何かが……音を立てずに崩れていく。
「あ! だいまおうさまぁ! えへへ! ごめんねぇ~♪ ぼくぅ! 今日で魔都陸上防衛大隊長をやめます! これからわぁ、いままで生き別れてた……ハチワレにぃちゃんのとこで働くんだぁ!」
これまでの700年が……まるで走馬灯のように……ゆらゆらと波のように揺らぎ、儚くも過ぎ去っていく現実。
「た……たすけてぇん! 大魔王様ぁあん!!」
若蛙人は考えていた。
「このねこちゃんたちをどうにかしてぇえぇ! あたしの美・身・をほぐほぐ! もぐもぐ! されちゃうのうぅうぅうぅん! このままじゃあ、あたし死んぢゃう! あ! あ! あ! あ! 快★感ンんんんん!」
自分にこの惨状を好転にすることが出来るのかと。
「ガルっほぅ!? 我輩! 危機的状況! 敵猫! 我輩、狙撃中! 危機! 危機! 危機!」
大魔王に最早打つ手なし。
魔軍に残る戦力はすべて壊滅。
陸海空の魔都防衛軍の主力大隊も……猫奴らによって打ち砕かれ、既に後の祭りであった。
「だ、大魔王様……!!ッ」
悲しみに暮れる大魔王に悲壮感が漂う。
「タイガーウルフ……カツゥオマグロ……ガルダハーピー……。 三名とも、我と共に魔都の発展に力ヲ尽くし、我が国の陸海空を守ってくれルと誓っタではなイか……」
大魔王の目から涙が一筋……流れ出る。
その姿を見て、若蛙人はオロオロしていた。
――そこに現れる……謎の影。
シュタッ!
「にゃーっはっはっはっはっはっはっはー!」
「な、何やつじゃ!?」
若蛙人が、声がする方へ振り返ると、全身に鎧をつけた伝令兵? が一人、二階建ての一軒家の屋根の上にいた。
「お……お前は!」
謎の伝令兵は「とう!」と声を放つと、その場でくるりと宙返りをした。遠心力によって、全身に着込んでいた鎧を無造作にすぽーん! と脱ぎ捨てると……、中から……現れたのは巨大な茶白猫だった。
「にゃはっ? おれの名前はにゃにゃま! 巨猫の軍勢を率いる大化け猫たぁ~このおれのことにゃ! よろしくですにゃん!!」
「うぬぬぬぬぬぬぅーっ!」
悲しみに暮れる大魔王は、謎の伝令兵と、若蛙人のやり取りを横目に見ながら、二人の話に聞き入っていた。
「おっちゃんらの兵糧はすべて、おれたちがおいしく頂きましたにゃん! とてもおいしかったですにゃん! ありがとうですにゃん! 」
「な、なんじゃと???!」
高らかに 名乗りを挙げた茶白猫は、この魔都カナベラが置かれている状況を続けて喋る。
「いやー? もうこの城も都もぜーんぶ。おれたちになんもかんも蹂躙されたあとですからねー! 終わりですよ、終わり! にゃーはははははぁー!」
茶白猫の発する言葉に唖然とする若蛙人。
にゃにゃまの言うとおり。魔都カナベラには続々と荷馬車が押し寄せて来ていた。
荷馬車は猫奴らによって開け放たれた魔都の防壁門を抜けて、魔軍兵糧庫から奪った食糧の数々を、その荷台に詰め込み、荷が満帆となった荷馬車から惨憺たる魔都カナベラから抜け出して行った。
「まっ! 奪うものは奪ったしにゃ! 取るものも取ったから、もうここ用はないにゃん! ここいらでお暇しますにゃん! ドロンですにゃん!」
「待つのダっ! 巨猫のリーダー!!」
大魔王は、腹の底から声を振り絞り叫んだ。
「いやにゃん! おれはもう用ないにゃん!!」
「ま、待テ! ……と、特上のカツウオのブンナグリは欲しクないカ? 欲しクば……見事、我を討ち果たシ……この特上希少戦利品特上トサコウチカツウオのブンナグリを奪い取っテみヨっ!」
「にゃにゃにゃ!? カツウオ!! 食べたいにゃん!! おっちゃんを倒せばたべれるにゃん!?」
「そうダ……我とソナタで一騎討ちヲだナぁ……」
彼の目論みは宛が外れ。
茶白猫は、彼がそう言い終わる前に、行動に出た。
「いくにゃ! 異世界小袋!! 巨大灯!!」
茶白猫は、取り出した道具の光を自らの身体に浴び。
その場から、彼と若蛙人がいる城門バルコニー目掛けて、飛び降りた。
「とう! ですにゃ!!」
すると。
……どんどん、……どんどん、茶白猫の体が巨大化していく。
そして、巨大化した巨猫の身体が……大魔王と若蛙人のいる城門バルコニーに落下してくる。
その場に出ていた、幾つもの魔召喚画面が茶白猫のもふもふな巨体に破壊されて、飲み込まれていく。
余りにも予測出来ない事態に、とっさの判断も取れなかった大魔王は、何にも抗う術を行使することがなく……その身を茶白猫のもふもふに預け、若蛙人と共に……飲み込まれていった。
「う、オ、オ、オ、オ、オ、……」
「ダ……、大魔王さ、ふがっ、く……ま!」
大魔王である彼は、上から落下して押し寄せてくる巨大化した巨猫の巨体に間一髪の所で気転を効かし、身に纏っていた、漆灰黒色外套を可能な限り大きく広げて、若蛙人と我が身を包み込み、防御する事に辛うじて成功していた。
……が、押し潰される事は避けられず……。
彼と若蛙人、地面に埋もれたまま身動きが取れずにいた。
――3分は過ぎただろうか……。
茶白猫の体が、するすると元の大きさに戻っていく。
そして、モフモフにやられた彼の傍には、彼が所持していた特上希少戦利品の特上トサコウチカツウオのブンナグリ[極]が落ちていた。
「グ、ぬ、ぬ」
「大魔王さま! ワタクシを庇って!」
土に埋もれた若蛙人は「うおぉんおんおん!!」と身動きが取れぬまま……咽び泣き喚く。
彼は、一連の光景を地面に押し潰されたまま茫然と空を眺めていた。
(先代サマ……は、この失態を許サヌでアろうナぁ……)
「やったにゃん!! カツウオ!! 手に入れたですにゃん!!」
茶白猫は「じゃあにゃ! カツウオ! ありがとうでしたにゃん!! またくるかもにゃん!?」と言い残し、城門バルコニーから魔都中央防壁門に向けて、一目散に駆け出して行った。
その声を聞いた彼は、心の中で……(もう来るな!!)と、疲れ果てた眼光で空をずっと……見つめていた。
「まずハ、こノ穴かラ抜け出さネば……。移動」
彼は、無詠唱で唱えた魔法の効力で、若蛙人と自らの体を動かし、その身を地面の上に移した。
「あれは一体……な、なんでございましょーか?!? 大魔王様……」
若蛙人は、茶白猫が使っていた……見たこともない魔法の道具? に対して、狐にでもつままれたような心持ちで、大魔王に言葉を傾けた。
「解らヌ……だが、あの猫のいウ通りであルならバ……我が魔都は蹂躙された上に……目の前に地獄が拡がっている……だト?」
(どこガ地獄ダ!……これデはモウ……修羅そのモのではナイか……残された戦力を……急ぎ結集し、確かメねバ……)
「ケロッグよ! 我が国の損耗を確認するのだ!」
(あリ得ヌこトが立て続けに起きていルのダ。……次ハ何が起きルか……解らヌ!)
「し、しかと!」
大魔王と若蛙人の奮闘はこれからも終わりなく、続く。
「ク、巨猫の軍勢メぇ! この始末。ただデは置かヌからナぁ!」
こうして、巨猫の軍勢によって、デモンカント魔国の魔都カナベラは壊滅した。
大魔王となったばかりの彼の苦難は。
新しくまた、ここから始まりを告げる。
それを奏でる音は――猫の声。
聖堂の鐘でも、若蛙人の咽び泣く声でもない。
高らかに喜びに喘ぐ、巨猫たちの鳴き声によって、新たな物語は、紡がれ……聞こえてくるであろう。
――巨猫の軍勢率いる荷馬車内。
「にゃーっ! はっはっはっはっはっはっはっはー!!」
「カツウオ! カツウオはやっぱりおいしいにゃーん!」
「すーぱーうまうまですにゃ! にゃわわーん!!!!」
巨猫の軍勢はひとときの幸せに浸っていた。
「いやー! それにしても。あのばか勇者は、いい仕事をしてくれましたにゃん!
茶白猫は荷馬車の中に敷かれた紫色のカーペットの上にごろん、と横になり、毛づくろいをし始めた。
「結界も! 紋章も! 弾道兵器も! すべて機能を停止してくれたんだからにゃあ!」
一人黙々と独白を続ける茶白猫であった。
……一方その頃。
――中央大陸、ハルバル聖王国。
巨猫の軍勢が、魔都カナベラを壊滅させ。その場から離れた時と同じくして。
ハルバル聖王国の謁見の間にて、聖王リファ・レンズ・フォン・ゼノアレフ・ハルバルが豪勢な玉座から、勇者ブレイブを見下ろして、深いため息を漏らしていた。
聖王の目の前で、勇者は片膝をつき、頭を垂れた姿勢のままであった。
よく見ると、聖王の傍らには、小柄な兵士が槍を手に持ち。ニコニコと満面の笑みを浮かべていた。
聖王は、冷ややかな目を勇者に向け、重い口を開けた。
「おぉ! 勇者ブレイブよ!? 死んでしまうとは情けないやつじゃと、そなたに初めて会った時からわしはずっと思っておったぞよ!」
「こんなこともあろうかと、ワシは、そなたたちの旅立ちからずーっと! 兵士そるぢゃーに、そなたたちの跡を追わせ、陰から監視させておったのじゃ!わーはっはっはっはっはー! 危ない所であったのぉおっ?」
「は、ははぁーっ!!?」
「なお、そなたの復活にかかった費用に加え、そなたたちを、ここまで運び込んできた手間賃や、兵士そるぢゃーへの報奨金とワシへの礼金に感謝料に、姫聖女の毎日のおやつ代などの一切合切は、そなたの棺の中から所持金の半分を、勝手に抜いておいたぞ!! さぁ! わしに盛大に感謝するがよい!!」
「ひっ!」
「さて、そなたの仲間たち3人を蘇らせてほしくば、残りの所持金を全部、わしに渡すのじゃ!』
「く、く、くぅ~っ……。」
「おぉ! この者たちにこの世界の加護があらんことおぉ!」
とかなんとかァ……。
聖王国のじじいからァ……。
勇者に告げられたようであるが。
……それはまた別のお話。
「にしししし! つぎは! どこの国の、どの都にいこうかにゃぁあ~!?」
巨猫の軍勢。
……その進路は茶白猫の気の向くままに。
赴くままに……。
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