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第二十八夜 変貌する誤神木VS暴走する私の植物魔術
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誤神木の巨大な左足が私達を踏み潰そうと迫ってくる。
だが、それよりも早く私は思いっきり大地を左足で踏みしめた。
「〈大地の牙〉!」
踏み込んだ足元から尖った石が迫り上がる。
今までなら、大きめの尖った石程度の大きさだったが、ステータスアップした今では、尖った石の先端が大岩となって大地から迫り上がり、ついには石柱のごとく長大に、私の身長の倍は伸びて誤神木の足裏に突き刺さり、本当に柱となって支えてくれた。
一瞬、ほんの一瞬だけ巨大な足の動きが止まる。
だが、その一瞬で全てを終わらせてやる!
「〈グリンウイップ〉!〈足崩し〉!」
私の右手から伸びた蔓のムチがぐんぐん高く伸びて、誤神木の左手に当たる太い枝に絡まった。
それと同時に、私は再度左足を踏みしめて魔力を地面に流し〈足崩し〉を発動させる。
それは、誤神木の大重量を片足で支えていた右足直下の大地を深く崩落させて大木のバランスを大きく崩した。
その瞬間に、私はグリンウイップを思いっきり真下に引っ張って左腕を下方向に落とし込んでやる。
その際に、誤神木の左足に突き刺さったまま、一気にかかった負荷に耐えきれずひび割れていく石柱に貫手を突き入れてそのまま引っ掴み、石柱を完全に折って左上に持ち上げる。
すると当然、真下に向かっていた誤神木の左足の重心が斜めにずれ、私の頭上にある巨大な左足も内側に払われた。
そう、柔道でいう出足払いを巨大な誤神木相手にやってのけたのだ。
大きく左側に倒れようとする誤神木。
だが、これで終わりではない。もう一押し。
「リッカちゃん!」
「分かってるニャ!〈大・仙・風・の術~!〉」
パァラッパパッラパラ・パッパパララーン
タメを入れながら術名を高らかに唱え頭上に上げた両手を下に振り下ろすと、物凄い強風が吹き荒れる。それはルカがタイミング良く奏でたファンファーレのようなBGMを背に、誤神木を右側から強烈に押し上げる。
「あんたの敗因はね、誤神木……」
完全にバランスを崩して左側に倒れていく誤神木を見上げながら、私はフッと笑いながら言ってやる。
「そんな大木のくせに体軸がブレッブレなのよ。左右のバランスも悪いから剪定してあげるわ」
そう、遠くから全体像を眺めれば一目瞭然だった。左側の枝が右側よりも数が多いので重心も左側に寄っている上に、歩き方もたどたどしい。まあ、生まれて初めて歩いたのだろうから無理からぬこと。
合気道経験者の私から見れば、まさにスキだらけのうどの大木である。
熟練の拳法家であるレンバさんが気付けなかったのは、あまりに距離が近かったためだろう。まあ、もし気付いても、私のようなチートで得た強烈な力でもない限り、対応するのは難しかっただろうが。
プワ~ン・プワラプワラ・プワワワ~ン
そんなことを考えていると、なんとも間が抜けて、しかしながら官能的なBGMをルカが奏でた。何事かと思う間もなく、いきなり私のスカートがブワッと勢い良く捲れ上がる。
「ヒッ!?」と叫んで反射的に押さえたくても、悲しいかな私の両手は完全に塞がっており、スカートを押さえられなかった。そうしてパンツもろ見えでちょっとカッコいいポーズを決めたまま、誤神木が地響きを立てて大地に倒れ伏すのを見るはめとなってしまった。
せっかくの決めのシーンが台無しだよ!
真っ赤になってプルプルと震えながら、石柱を握り砕いて左手を抜き、ジト目でリッカちゃんを睨み付けようとするが、すでに影も形もない。
「透明になって遁走したぞ」
あきれたように告げるトラ。私の恥ずかしいシーンを間近で思いっきり目にしたくせに何も感じてないようだ。それはそれでどう反応したものだろうか?こいつが獣で良かった。
官能的なBGMを熱演したルカも「なに?どうしたの?上手に演奏したよ、ほめてほめて」といった純粋な瞳でこっちを見てるし。とりあえず頭を撫でてやる。
その時、私の耳は風に乗って届いてくる中年エルフが腹を抱えて笑い転げる音をしっかりと捉えていた。
バカな?あれほど離れた場所にいるネルフのオッサンのバカ笑いが聞こえるだと?
驚いて振り返ると、そこには信じられないものが浮かんでいた。
後方上空、こことネルフたちがいる丘の上の本陣を直線で結んだ中間に巨大化したネルフの姿が浮かんでいたのだ。いや、正確にはネルフを中心とした本陣の映像が空気で造られたスクリーンに投影されて、宙空に浮かんでいた。必死で笑いをこらえているミャウルとマーレさんの姿も見切れている。
ああ、なるほど……と私は全てを悟った。
おそらく一部の空気をレンズのようにして、遠くにあるものを拡大して見えるようにしているのだ。同様に風の流れや空気の振動を利用して互いの音声を届けることも可能だろう。
そして、そのレンズは一つだけではなかったりする。
よく見ればいろんな方向に浮かんでおり、そこにはあっけにとられたナナンダさんや赤面して目を逸らしているニックさん、馬となったゴランの背に乗って、信じられんと呆然とするレンバさんに傷口を押さえながら笑いをこらえようとするコランダさん。誤神木が倒れたことに喝采するモンスターたちの姿が空中に映し出されていた。
つまりだ。…………私が決めポーズと決め台詞をカッコよく決めて誤神木を倒した瞬間、パンツ丸出しになった恥ずかしくて笑えるシーンをバッチリとズーム機能付きでほとんど全員に鑑賞されていたということ。
どうしよう?恥ずかしすぎて早く夢から覚めたい。
普通なら、一気に覚醒して跳ね起きてもおかしくないが、誠に残念ながらきちんとログアウト処理しなければ、簡単には夢のゲームからは逃げられないのだ。
だが、夢から覚める前にやっておくことがある。それは、こんな赤っ恥をかかせた犯人を見つけ出すこと。
ギランと、周囲を見渡して犯人=リッカちゃんを探す。
あの猫娘はどこ行ったぁぁぁっ!風の仙術をここまで使いこなすとは予想してなかったぞ。
ここで説明しておくと、術には三段階のランクがある。
初級は〈属性操作〉、中級に〈属性魔術〉、そして上級になると〈属性魔法〉となる。
〈属性操作〉は、自分の得意な属性を魔力のイメージで操るもので、私の〈大地の牙〉や〈足落とし〉は足から流した魔力で大地を操ったものだし、これを何度も使用することによって熟練度が上がり、術の威力、発動速度、効果範囲などが上がっていくのだ。
そうして〈地形操作〉の熟練度を上げていくと、〈大地の牙〉の効果範囲を広げて壁の形にして出すことも可能になる。これが〈アースウォール〉、私流だと〈ぬりかべ召喚〉に派生したりする。
このゲーム世界ではシステムが自動的にアシストして、それをプレイヤーに教えてくれたりしてくれるのだ。俗に言う[美夜は〈大地の牙〉の威力が上がった]や[美夜は〈ぬりかべ召喚〉を覚えた]の表示である。
要は〈属性操作〉とは自然の力をイメージ通りに操る力ということであり゙、一般的な攻撃や防御に使われている。
これが一定のレベル以上になるとその属性に則したイメージによる効果を付与出来るようになる。それが〈属性魔術〉である。
私の〈植物魔術〉で例えると、鋭く固い葉で切るというイメージから〈草薙ブレード〉や〈木の葉カッター〉。薬草というイメージから〈絆草膏〉といった効果を付与した葉を操っている。
他にも、熱による消毒、殺菌というイメージから、毒などのステータス異常を回復する炎魔術の〈浄化の炎〉、水は冷たいというイメージから水を凍らせて槍としてそれを水圧で飛ばす〈アイスランス〉等がある。
また、自分自身や他人が持つ属性にその属性のイメージを上乗せしていく属性強化魔術があり、風は速いというイメージを自身にかけて速度を上げる〈ウインドブースト〉や、地面や鉱物は硬いというイメージから、防御力を上げる〈アースプロテクト〉等があげられる。
だが、当然ながら自分に適していない属性の強化魔術をかけられてもほとんど効果がない。地と闇属性の私に風属性の〈ウインドブースト〉をかけてもほとんど効果は無いし、逆に地属性でイメージしやすい〈体力増強〉、〈防御力上昇〉、〈常時回復〉などの地属性強化は効果が高いのだ。
……これってほとんど半吸血鬼の特徴とかぶってるけどね。
これらは武具や道具にも応用可能で、モンスターから獲得した素材や核となる魔石、そして稀に出土する魔鉱石にはそれぞれ属性が付いており、それを原料としたマジックアイテムも存在する。
光の属性を持つ〈星白金〉に、死者や幽霊は光に弱いというイメージ付与して作られた悪霊退治の聖剣や、闇属性を持つ〈隕影鉄〉に、闇は恐ろしいというイメージを付与して作られた、傷付けた相手を恐慌状態にする魔剣などが代表例だろう。
だいぶ話が逸れてしまったが、つまりリッカちゃんは「風は透明である」というイメージを付与した空気の膜を自分の周囲に纏って身を隠しているのだ。
同時に、空気のレンズや風の伝声管をイメージ力で作成してライブ中継までやってのけているのだから恐ろしい。
リッカちゃんが今使っている仙術や妖術は属性魔術と同格であり、まだ私達のレベルでは属性魔術は扱えない筈なのだ。いくら〈仙霊薬射〉の効果でパワーアップしているとはいえ、術に込めるイメージ力までパワーアップする訳では無い。それなのに初めて使ったであろう術を同時に複数使いこなすとは、余程日頃妄そ……んっんーっ、空想好きな少女なのだろう。入院しているみたいだし仕方ないかな。
でも、もしかすると、ライブ配信も誤神木を倒す決定的瞬間を皆に見せたかっただけなのかもしれないし、スカートめくりもその時不幸にも起きてしまった事故なのではなかろうか?
だがまてしかし、と少し同情的になっていた考えを正す。
そこまでイメージ力に長けているのならば、〈大仙風の術〉も余波で私のスカートをめくる筈がないのではなかろうか?
それに、ライブ中継するなんて打ち合わせでは言ってないし、一連の行動はあまりに計画的であり、姿を消すところまで手際が良すぎる。
やはり、わざと私の恥ずかしいシーンを公表したという可能性が高い。
フッ、何を怒っているのだ?落ち着け私。と、気持ちを落ち着ける。
子供がしたお茶目ないたずらじゃないの。私は立派な大人の女、ここはちょっとした報復……じゃなくてお仕置きで済ませてやらなきゃ。
バキバキバキバキバキ……
そんなことをツラツラと考えてると、誤神木が左枝を支えにしてしぶとく起き上がろうとしているのが見えた。
だが、自身の幹の下敷きになっている左枝はその超重量を支えられずにどんどん折れていくばかりで、一向に身体を起こせない。
無理もない。その両足は前後に動かせるだけのものだし、左右に束ねられた両枝には、自身の超重量を支えられる力も強度もないのだから。
それは、ゼンマイ仕掛けの古い歩くだけのオモチャのロボットがひっくり返った姿を思い起こさせた。
同様に、地面から根っこを引き抜かれて倒れた倒木が、自力で起き上がれる筈がないのだ。
ズズウゥゥン
ほら、左枝が完全にへし折れて再び長大な幹が地面に打ち付けられた。ダメージも追加されて、残るは左枝よりも細い右枝のみ。
「どうあがいてもあんたの負けよ、もう諦めなさい。私はちょっと忙しいの。これからリッカちゃんにお仕置きしなきゃならないんだから」
言いながら私はゆっくり歩き出す。
「まずは猫耳ハムハムでしょ、喉をゴロゴロ、背中をサワサワ、シッポをサスサス、あ、そうそう尻尾の付け根をトントンも忘れちゃいけないわね。フフ、猫娘を思いっきり愛でるなんてチャンスそうそうないわ。どんな可愛い声をあげるのかしら?」
そんなことを余裕ぶって指折り数えながら言ってはいるが、実は内心は焦りまくってます。
だって、もうすでに〈デイ・ウオッカ〉の効力が切れてしまっているんですけど。
今の私はレベル8の低レベル半吸血鬼に過ぎないのだ。いや、吸血効果によるパワーアップも当然終わっており、日の光の下であらゆるステータスが低下しているからもっと弱いか。誤神木本体の攻撃が掠りでもしたら即座にゲームオーバーである。
それはリッカちゃんも同様で、〈仙霊薬射〉の効果が切れて透明化の術が切れており、その姿があらわになっている。
……本人気付いていないけど、もう丸見えだからね。
なぜ私を驚愕の表情で見つめながら自分の身体を両手で抱いてガタガタ震えてるのかをじっくりと優しく問い詰めてあげたいけど、こっちが時間稼ぎしているうちに早く逃げなさいよ。
と、いうか誰か早く誤神木にトドメを刺してくれないかな。何で全員呆然としてるのよ?
そうだ、ジャガマルクさんやブラックゴブリン達が誤神木の頭頂部に張り付いてた筈、彼らが攻撃すれば……って、ああっ!地面に落っこちて伸びているじゃないの?気絶状態のアイコンが頭上でクルクル回っているから皆死んではいないみたいだけど、メンバーの中で上位の強さの筈なのに役に立たねえ。
と、彼らからすれば「いきなり、ひっくり返して無茶言うんじゃねえ」と文句を言われそうなことを考えていると、そんな彼等が倒れている向こう側、誤神木の頭部に当たる、まるで枝が何かを守るようにドーム状になっているその奥に赤く光るものが二つ見えた。
ギュンッ!
その瞬間、私は何かに思いっきり引っ張られる。
驚いて見ると、私と誤神木の左枝を繋いでいたグリンウイップが勝手に動いて、私を宙へ引き上げたのだ。
そのまま、左枝に巻き付いた部分を支点にして、さらに頭部に向けて投げるように飛ばしやがった!
それに反応して、誤神木の頭部から太い枝が蔓のようにしなやかに伸びて私を迎撃してくる……って、ちょっと待てこら!
あまりに急すぎる展開と飛ばされる勢いに私は口を開けることも出来ない。唸りをあげて襲い来るあまりに太い蔓の鞭が恐ろしくて、必死で歯をくいしばることしか出来ないのだ。
だが、こちらの蔓の鞭は主人である筈の私よりも冷静なようで、すんでのところでひょいひょいと攻撃を躱しながら、私を頭部の奥に向けて乱暴に運んでいく。
ずべしゃあああ!
蔓の鞭の壁を抜け、誤神木の幹の天辺部分に頭から滑り込む私。
これが野球なら、キャッチャーのタッチをギリギリで躱してホームベースにヘッドスライディングしたようなものだろうか。もちろんアウト=死というデスゲーム条件下ではあるが。
地面にこすりつけてはげしく痛む顔を上げた私の眼に飛び込んできたのは、残念ながらアウトを示す真っ赤なランプ……ではなく枝に実った真っ赤に輝く二つのリンゴだった。
それは、横倒しになった誤神木の頭頂から生えた一本の林檎の樹の左右の枝に一つづつ実っており、それが誤神木の光る眼のように見えていたのだった。
「これが、誤神木が守っていたもの?」
思わず声に出すが、これまでの誤神木の過剰な対応からしても間違いないだろう。このリンゴが弱点なのか、はたまた重要なキーアイテムなのかは今の時点では分からないが、どちらにしてもやることは一つ。
このリンゴをもぎ取るのみ。
そう決意した途端、四方八方の枝から蔓が槍衾となって襲いかかってくる。
だが例のリンゴの木だけは静かにたたずんでいる。
「あそこは安全地帯のようね」
即座に駆け出す。
だが、やはり低レベルな今の実力では蔓の攻撃を躱すことはおろか、防ぐことも耐えることも出来ないだろう。
あと、数メートル進めばゴールだというのに、蔓の槍に身体を貫かれ、悔しくもゲームオーバーにな……
ズババババッ!
らなかった。
突如、私の左手からイバラの鞭が伸びて、目にも止まらぬ速さで 蔓の槍を全て切り落とした。
そう、切り落としたのだ。私が知っているイバラの鞭のトゲはまだ小ちゃかったのに、今のイバラのトゲはまるで15才の不良のようにナイフみたいに尖っては触るもの皆傷つけるどころか、熟練の侠客のごとく見事に蔓の槍を伐採してのけたんですけど?
明らかにおかしい。まるで私より植物魔術に長けた誰かが勝手に私の能力を操っているような。
その思惑を裏付けるように、右手から伸びていたグリンウイップがまたまた勝手に動いて、遥か後方から私を追い越し、前方手前側に実ったリンゴに向けて伸びていく。
そうはさせじと誤神木もリンゴの木の根本、自身の頭頂部から新たな枝を大量に生やして壁のように行く手を阻む。
グリンウイップはまるで蛇のように枝の間の細い隙間をスルスルとすり抜けていくが、どんどん生長する生け垣についに圧迫され、あと少しでリンゴに触れられる寸前で惜しくも止められてしまった。
頑張れ私のグリンウイップ。負けるな、もうちょっと……ああ、プルプル震えているけど、もう限界らしい。
そこで、驚くべきことが起こった。
グリンウイップの先端が大きく膨らんだかと思うと、あの有名ゲームの「超配管工兄弟」に登場する土管から生える花のように肉厚で極彩色の花弁となって……
バックン!
と擬音を付けたくなるほど豪快にリンゴを丸呑みしたのだ。
静寂が訪れた。……私も含めて抵抗していたはずの誤神木ですらあまりのことに時を止めてしまった。
まるで蛇が大きな獲物を丸呑みしたかのように、ウイップのなかをリンゴがこちらに向かって移動してくる。
その膨らみはまるで消化されていくみたいに次第に小さくなり、力の抜けた生け垣を超え、私の手元に届く頃にはすっかり消えてしまった。
ドクン……
私の身体の奥で何かが大きく鼓動する。
ドクン……ドクン……ドクン……
その何かは心臓のように鼓動を鳴らし続け、魔力を膨れ上がらせていく。
(ワレ、今ここに永い眠りから復活せり)
何かが私の頭の中で語りだした。シブい老人の声で威厳があるというか、妙に偉そうである。
(〈知恵の実〉とやらを吸収して必要最低限の知識は得た。もう一つの〈生命の実〉も吸収して、この苗床を破り捨て外界に根付いてくれるわ)
ちょっと待って?「この苗床」って、もしかしなくても私の事ですよね?
でも、これで確定したわ。さっきから植物魔術を使いまくってるのは、以前盗賊と戦った時に私の体内に入り込んだあの種子であるということが。
だって、根付くとかほざいてるし。
植物魔術使えてラッキーと最初は喜んでいたのに、経験値を搾取するは、許可なく暴走するは、挙げ句の果てに私の身体を突き破ろうとするとは、とんだ寄生植物である。
「ちょっとあんた!いい加減にしなさいよ!」
たまりかねて、体内に寄生しているであろう種子に怒鳴る私。
周囲から見れば、いきなり怒鳴り散らす危ない女に見えるだろうが、こっちは命の危機なのだ。知ったことじゃない。
(む?ワレに向かって怒鳴る身の程知らずは苗床の娘か?)
身の程知らずと来たもんだ。この種子、さっき意識を持ったばかりというのに、なんてこんなに偉そうなの?
「苗床なんて呼ぶのやめてくれます?私は美夜、美夜といいます。で、私の体内にいる貴方は何者なの?」
「矮小なる小娘が、偉大なるワレの正体を聞いて恐れおののくがいい。さすれば、運良く苗床に選ばれたことに感謝することだろう」
誰がするか、と心の中でツッコミを入れながら、次の言葉を待つ。
されど、しばらく待っても何も言わない。
「どうしたのよ?早く正体を言いなさいよ。さっさと恐れおののきたいんですけど」
「わ、わからん……」
あれだけ自信満々に言っておきながらのこの解答に、私は恐れおののいた。
「バカな!あの〈知恵の実〉は食した者に叡知を与えるものではないのか?何故ワレに関する知識がない?」
「叡知に記憶するまでもないちっぽけな存在だからじゃないですか~?プププー」
「ええい、まだ生長しておらんから分からぬのだ!そうに決まっておる。あの〈生命の実〉を吸収して一気に生長を……」
しまった、薮蛇だったか!パックンフラワーと化したグリンウイップが枝に実っている〈生命の実〉に向かって、まさに蛇のように口を開け襲いかかる。
だが、丸呑みする直前でピタリと動きを止めたのであった。
「ム、時間をかけすぎたか。あれではもう吸収できんではないか」
忌々しそうな呟きを耳にして、〈生命の実〉をよく視れば、その紅玉のような輝きは赤黒くまるで血のように変色していた。
それだけではない。誤神木全体の幹、枝、葉までもがみるみるうちに変色し枯れていっているではないか。
遂に長かった戦いも終了か?と期待した矢先に、私の中の種子の声が残念なお知らせを告げる。
「〈生命の実〉に己の意志、魔力、そして呪いを全て集約させおった。今のワレではあれを吸収しても呪いで弱らされ逆に乗っ取られてしまうな」
「それって、まさか……」
私が呟いた途端、〈生命の実〉がまるで心臓のように鼓動する。
鼓動を一つ打つたびにその実は膨らんでいく。それは縦長に伸びていき、ついには人並みの大きさにまでなるが、その重みに耐えかねたかのように、枝から実が落ちる。
そこで、私は思わず目を見張った。
〈生命の実〉の下半分がスカートのように広がり、その中から赤いハイヒールを履いた林檎の実のように真っ白な足が地面を軽やかに踏んだからだ。
そう、〈生命の実〉は女性へと姿を変えたのだ。
赤黒く変色した表皮は豪奢なドレスへと変わり、そこからはしなやかで真っ白な女性の腕が伸びている。
髪は鮮やかな緑色で腰まで伸び、顔立ちも整っている。
整ってはいるのだが、その白い顔には目も鼻も口もなかった。マネキン人形のように輪郭だけがあるのだ。それでもある種の美しさがそこには存在していた。
ここまで来てまさかの、ボスの進化形態登場である。
いや、ホントに序盤のエリアに登場していいボスキャラじゃないよ?
「よくもやってくれた……」
表情が動かない人形みたいなボスの口から女性の声が発せられた。
「あの御方に捧げるはずの〈知恵の実〉を食したばかりか〈生命の実〉まで奪おうとするとは、もはやこうして〈生命の実〉に宿るしか守る手段はなかった」
憎々しげに言いながら、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
なんかマズイ!というかすっごく怖い。顔に表情は全く浮かべてないのに、怒りと殺意のオーラが全身から溢れてますよ。
「かくなる上は、〈知恵の実〉を吸収したお主を妾がさらに吸収し、この身ごとあの方に捧げるまでよ」
指先から真紅の爪が鋭く伸びる。その爪先はぬらりと濡れていた。
いや、吸収って私これから何されるんですか?植物形態の女性型モンスターに吸収されるって、卑猥な触手プレイしか思い浮かばないのは、私の心が汚れているからなのでしょうか?
「迂闊に触るなよ。苗……美夜よ」
私の中の種子も緊張した声を出す。
「奴は全身、毒と呪いの塊よ。捕まれば三秒でありとあらゆる毒と呪いをかけられて死ぬぞ」
「どうしろっていうのよ!」
無理ゲーにも程があるわ!
「戦闘経験はお主の方が上だ。ワレの力を特別に貸してやるから何とかしろ。相談しながら戦える相手ではない」
そう言うと同時に、現在使えるスキルや植物魔術の知識が頭の中に流れ込んでくる。かなり強力なスキルもあるが、私に扱いきれるだろうか?
「術の発動や魔力調整はやってやるから、お主は戦いに集中しておれ。術名を唱えれば即座に行使してやる」
なかなか嬉しいことを言ってくれる。レベルの高い使ったこともない術のイメージ構成に気を取られずに自動で繰り出せるのは、かなりのアドバンテージだ。
「それじゃよろしくね。パートナーさん。……って貴方、名前は」
結局、私の身体の中で偉そうにしている種子の正体は分からないままだった。
「ずいぶん長いこと種子の状態だったようでな。何も分からぬ。呼び名などどうでも良い、好きに呼ぶがいい」
フム、本性が植物なので呼び名にこだわりはないようだ。
「なら、シド爺。偉そうなしゃべり方をする種子(シード)だから縮めてシド爺ね」
「勝手にしろ。あやつを倒さねばワレもお主も終わりよ。一蓮托生の間柄となってしまったからのう」
そんな大袈裟な。もし負けても私達プレイヤーは〈呪いの復活人形〉で復活できるんだから、もう少し気楽に……
[緊急システムメッセージです]
突如、視界が赤く点滅し、文章が空中に映り込んだ。
[個体名〈シド爺〉の覚醒によりシステムエラーが発生しました]
ん?システムエラー?
[これにより、シークレットネームドボス〈生命林誤の毒神樹王〉が出現しました]
んん?シド爺に捕食されそうになったから、隠しボスが出てきたって事かな?
あと、林檎の檎が誤神木の誤になってますよ?
[〈生命林誤の毒神樹王〉にプレイヤー名〈美夜〉が戦闘敗れた場合、システム上〈美夜〉のアバターが消滅してしまい、復活はできません]
んんんんんん?ア、アバター消滅ぅぅぅ?ちょっと、何よそれ?
突然の事態の急変にパニクる私に向かって、〈生命林誤の毒神樹王〉が怒りを露わに近づいてくるのだった。
だが、それよりも早く私は思いっきり大地を左足で踏みしめた。
「〈大地の牙〉!」
踏み込んだ足元から尖った石が迫り上がる。
今までなら、大きめの尖った石程度の大きさだったが、ステータスアップした今では、尖った石の先端が大岩となって大地から迫り上がり、ついには石柱のごとく長大に、私の身長の倍は伸びて誤神木の足裏に突き刺さり、本当に柱となって支えてくれた。
一瞬、ほんの一瞬だけ巨大な足の動きが止まる。
だが、その一瞬で全てを終わらせてやる!
「〈グリンウイップ〉!〈足崩し〉!」
私の右手から伸びた蔓のムチがぐんぐん高く伸びて、誤神木の左手に当たる太い枝に絡まった。
それと同時に、私は再度左足を踏みしめて魔力を地面に流し〈足崩し〉を発動させる。
それは、誤神木の大重量を片足で支えていた右足直下の大地を深く崩落させて大木のバランスを大きく崩した。
その瞬間に、私はグリンウイップを思いっきり真下に引っ張って左腕を下方向に落とし込んでやる。
その際に、誤神木の左足に突き刺さったまま、一気にかかった負荷に耐えきれずひび割れていく石柱に貫手を突き入れてそのまま引っ掴み、石柱を完全に折って左上に持ち上げる。
すると当然、真下に向かっていた誤神木の左足の重心が斜めにずれ、私の頭上にある巨大な左足も内側に払われた。
そう、柔道でいう出足払いを巨大な誤神木相手にやってのけたのだ。
大きく左側に倒れようとする誤神木。
だが、これで終わりではない。もう一押し。
「リッカちゃん!」
「分かってるニャ!〈大・仙・風・の術~!〉」
パァラッパパッラパラ・パッパパララーン
タメを入れながら術名を高らかに唱え頭上に上げた両手を下に振り下ろすと、物凄い強風が吹き荒れる。それはルカがタイミング良く奏でたファンファーレのようなBGMを背に、誤神木を右側から強烈に押し上げる。
「あんたの敗因はね、誤神木……」
完全にバランスを崩して左側に倒れていく誤神木を見上げながら、私はフッと笑いながら言ってやる。
「そんな大木のくせに体軸がブレッブレなのよ。左右のバランスも悪いから剪定してあげるわ」
そう、遠くから全体像を眺めれば一目瞭然だった。左側の枝が右側よりも数が多いので重心も左側に寄っている上に、歩き方もたどたどしい。まあ、生まれて初めて歩いたのだろうから無理からぬこと。
合気道経験者の私から見れば、まさにスキだらけのうどの大木である。
熟練の拳法家であるレンバさんが気付けなかったのは、あまりに距離が近かったためだろう。まあ、もし気付いても、私のようなチートで得た強烈な力でもない限り、対応するのは難しかっただろうが。
プワ~ン・プワラプワラ・プワワワ~ン
そんなことを考えていると、なんとも間が抜けて、しかしながら官能的なBGMをルカが奏でた。何事かと思う間もなく、いきなり私のスカートがブワッと勢い良く捲れ上がる。
「ヒッ!?」と叫んで反射的に押さえたくても、悲しいかな私の両手は完全に塞がっており、スカートを押さえられなかった。そうしてパンツもろ見えでちょっとカッコいいポーズを決めたまま、誤神木が地響きを立てて大地に倒れ伏すのを見るはめとなってしまった。
せっかくの決めのシーンが台無しだよ!
真っ赤になってプルプルと震えながら、石柱を握り砕いて左手を抜き、ジト目でリッカちゃんを睨み付けようとするが、すでに影も形もない。
「透明になって遁走したぞ」
あきれたように告げるトラ。私の恥ずかしいシーンを間近で思いっきり目にしたくせに何も感じてないようだ。それはそれでどう反応したものだろうか?こいつが獣で良かった。
官能的なBGMを熱演したルカも「なに?どうしたの?上手に演奏したよ、ほめてほめて」といった純粋な瞳でこっちを見てるし。とりあえず頭を撫でてやる。
その時、私の耳は風に乗って届いてくる中年エルフが腹を抱えて笑い転げる音をしっかりと捉えていた。
バカな?あれほど離れた場所にいるネルフのオッサンのバカ笑いが聞こえるだと?
驚いて振り返ると、そこには信じられないものが浮かんでいた。
後方上空、こことネルフたちがいる丘の上の本陣を直線で結んだ中間に巨大化したネルフの姿が浮かんでいたのだ。いや、正確にはネルフを中心とした本陣の映像が空気で造られたスクリーンに投影されて、宙空に浮かんでいた。必死で笑いをこらえているミャウルとマーレさんの姿も見切れている。
ああ、なるほど……と私は全てを悟った。
おそらく一部の空気をレンズのようにして、遠くにあるものを拡大して見えるようにしているのだ。同様に風の流れや空気の振動を利用して互いの音声を届けることも可能だろう。
そして、そのレンズは一つだけではなかったりする。
よく見ればいろんな方向に浮かんでおり、そこにはあっけにとられたナナンダさんや赤面して目を逸らしているニックさん、馬となったゴランの背に乗って、信じられんと呆然とするレンバさんに傷口を押さえながら笑いをこらえようとするコランダさん。誤神木が倒れたことに喝采するモンスターたちの姿が空中に映し出されていた。
つまりだ。…………私が決めポーズと決め台詞をカッコよく決めて誤神木を倒した瞬間、パンツ丸出しになった恥ずかしくて笑えるシーンをバッチリとズーム機能付きでほとんど全員に鑑賞されていたということ。
どうしよう?恥ずかしすぎて早く夢から覚めたい。
普通なら、一気に覚醒して跳ね起きてもおかしくないが、誠に残念ながらきちんとログアウト処理しなければ、簡単には夢のゲームからは逃げられないのだ。
だが、夢から覚める前にやっておくことがある。それは、こんな赤っ恥をかかせた犯人を見つけ出すこと。
ギランと、周囲を見渡して犯人=リッカちゃんを探す。
あの猫娘はどこ行ったぁぁぁっ!風の仙術をここまで使いこなすとは予想してなかったぞ。
ここで説明しておくと、術には三段階のランクがある。
初級は〈属性操作〉、中級に〈属性魔術〉、そして上級になると〈属性魔法〉となる。
〈属性操作〉は、自分の得意な属性を魔力のイメージで操るもので、私の〈大地の牙〉や〈足落とし〉は足から流した魔力で大地を操ったものだし、これを何度も使用することによって熟練度が上がり、術の威力、発動速度、効果範囲などが上がっていくのだ。
そうして〈地形操作〉の熟練度を上げていくと、〈大地の牙〉の効果範囲を広げて壁の形にして出すことも可能になる。これが〈アースウォール〉、私流だと〈ぬりかべ召喚〉に派生したりする。
このゲーム世界ではシステムが自動的にアシストして、それをプレイヤーに教えてくれたりしてくれるのだ。俗に言う[美夜は〈大地の牙〉の威力が上がった]や[美夜は〈ぬりかべ召喚〉を覚えた]の表示である。
要は〈属性操作〉とは自然の力をイメージ通りに操る力ということであり゙、一般的な攻撃や防御に使われている。
これが一定のレベル以上になるとその属性に則したイメージによる効果を付与出来るようになる。それが〈属性魔術〉である。
私の〈植物魔術〉で例えると、鋭く固い葉で切るというイメージから〈草薙ブレード〉や〈木の葉カッター〉。薬草というイメージから〈絆草膏〉といった効果を付与した葉を操っている。
他にも、熱による消毒、殺菌というイメージから、毒などのステータス異常を回復する炎魔術の〈浄化の炎〉、水は冷たいというイメージから水を凍らせて槍としてそれを水圧で飛ばす〈アイスランス〉等がある。
また、自分自身や他人が持つ属性にその属性のイメージを上乗せしていく属性強化魔術があり、風は速いというイメージを自身にかけて速度を上げる〈ウインドブースト〉や、地面や鉱物は硬いというイメージから、防御力を上げる〈アースプロテクト〉等があげられる。
だが、当然ながら自分に適していない属性の強化魔術をかけられてもほとんど効果がない。地と闇属性の私に風属性の〈ウインドブースト〉をかけてもほとんど効果は無いし、逆に地属性でイメージしやすい〈体力増強〉、〈防御力上昇〉、〈常時回復〉などの地属性強化は効果が高いのだ。
……これってほとんど半吸血鬼の特徴とかぶってるけどね。
これらは武具や道具にも応用可能で、モンスターから獲得した素材や核となる魔石、そして稀に出土する魔鉱石にはそれぞれ属性が付いており、それを原料としたマジックアイテムも存在する。
光の属性を持つ〈星白金〉に、死者や幽霊は光に弱いというイメージ付与して作られた悪霊退治の聖剣や、闇属性を持つ〈隕影鉄〉に、闇は恐ろしいというイメージを付与して作られた、傷付けた相手を恐慌状態にする魔剣などが代表例だろう。
だいぶ話が逸れてしまったが、つまりリッカちゃんは「風は透明である」というイメージを付与した空気の膜を自分の周囲に纏って身を隠しているのだ。
同時に、空気のレンズや風の伝声管をイメージ力で作成してライブ中継までやってのけているのだから恐ろしい。
リッカちゃんが今使っている仙術や妖術は属性魔術と同格であり、まだ私達のレベルでは属性魔術は扱えない筈なのだ。いくら〈仙霊薬射〉の効果でパワーアップしているとはいえ、術に込めるイメージ力までパワーアップする訳では無い。それなのに初めて使ったであろう術を同時に複数使いこなすとは、余程日頃妄そ……んっんーっ、空想好きな少女なのだろう。入院しているみたいだし仕方ないかな。
でも、もしかすると、ライブ配信も誤神木を倒す決定的瞬間を皆に見せたかっただけなのかもしれないし、スカートめくりもその時不幸にも起きてしまった事故なのではなかろうか?
だがまてしかし、と少し同情的になっていた考えを正す。
そこまでイメージ力に長けているのならば、〈大仙風の術〉も余波で私のスカートをめくる筈がないのではなかろうか?
それに、ライブ中継するなんて打ち合わせでは言ってないし、一連の行動はあまりに計画的であり、姿を消すところまで手際が良すぎる。
やはり、わざと私の恥ずかしいシーンを公表したという可能性が高い。
フッ、何を怒っているのだ?落ち着け私。と、気持ちを落ち着ける。
子供がしたお茶目ないたずらじゃないの。私は立派な大人の女、ここはちょっとした報復……じゃなくてお仕置きで済ませてやらなきゃ。
バキバキバキバキバキ……
そんなことをツラツラと考えてると、誤神木が左枝を支えにしてしぶとく起き上がろうとしているのが見えた。
だが、自身の幹の下敷きになっている左枝はその超重量を支えられずにどんどん折れていくばかりで、一向に身体を起こせない。
無理もない。その両足は前後に動かせるだけのものだし、左右に束ねられた両枝には、自身の超重量を支えられる力も強度もないのだから。
それは、ゼンマイ仕掛けの古い歩くだけのオモチャのロボットがひっくり返った姿を思い起こさせた。
同様に、地面から根っこを引き抜かれて倒れた倒木が、自力で起き上がれる筈がないのだ。
ズズウゥゥン
ほら、左枝が完全にへし折れて再び長大な幹が地面に打ち付けられた。ダメージも追加されて、残るは左枝よりも細い右枝のみ。
「どうあがいてもあんたの負けよ、もう諦めなさい。私はちょっと忙しいの。これからリッカちゃんにお仕置きしなきゃならないんだから」
言いながら私はゆっくり歩き出す。
「まずは猫耳ハムハムでしょ、喉をゴロゴロ、背中をサワサワ、シッポをサスサス、あ、そうそう尻尾の付け根をトントンも忘れちゃいけないわね。フフ、猫娘を思いっきり愛でるなんてチャンスそうそうないわ。どんな可愛い声をあげるのかしら?」
そんなことを余裕ぶって指折り数えながら言ってはいるが、実は内心は焦りまくってます。
だって、もうすでに〈デイ・ウオッカ〉の効力が切れてしまっているんですけど。
今の私はレベル8の低レベル半吸血鬼に過ぎないのだ。いや、吸血効果によるパワーアップも当然終わっており、日の光の下であらゆるステータスが低下しているからもっと弱いか。誤神木本体の攻撃が掠りでもしたら即座にゲームオーバーである。
それはリッカちゃんも同様で、〈仙霊薬射〉の効果が切れて透明化の術が切れており、その姿があらわになっている。
……本人気付いていないけど、もう丸見えだからね。
なぜ私を驚愕の表情で見つめながら自分の身体を両手で抱いてガタガタ震えてるのかをじっくりと優しく問い詰めてあげたいけど、こっちが時間稼ぎしているうちに早く逃げなさいよ。
と、いうか誰か早く誤神木にトドメを刺してくれないかな。何で全員呆然としてるのよ?
そうだ、ジャガマルクさんやブラックゴブリン達が誤神木の頭頂部に張り付いてた筈、彼らが攻撃すれば……って、ああっ!地面に落っこちて伸びているじゃないの?気絶状態のアイコンが頭上でクルクル回っているから皆死んではいないみたいだけど、メンバーの中で上位の強さの筈なのに役に立たねえ。
と、彼らからすれば「いきなり、ひっくり返して無茶言うんじゃねえ」と文句を言われそうなことを考えていると、そんな彼等が倒れている向こう側、誤神木の頭部に当たる、まるで枝が何かを守るようにドーム状になっているその奥に赤く光るものが二つ見えた。
ギュンッ!
その瞬間、私は何かに思いっきり引っ張られる。
驚いて見ると、私と誤神木の左枝を繋いでいたグリンウイップが勝手に動いて、私を宙へ引き上げたのだ。
そのまま、左枝に巻き付いた部分を支点にして、さらに頭部に向けて投げるように飛ばしやがった!
それに反応して、誤神木の頭部から太い枝が蔓のようにしなやかに伸びて私を迎撃してくる……って、ちょっと待てこら!
あまりに急すぎる展開と飛ばされる勢いに私は口を開けることも出来ない。唸りをあげて襲い来るあまりに太い蔓の鞭が恐ろしくて、必死で歯をくいしばることしか出来ないのだ。
だが、こちらの蔓の鞭は主人である筈の私よりも冷静なようで、すんでのところでひょいひょいと攻撃を躱しながら、私を頭部の奥に向けて乱暴に運んでいく。
ずべしゃあああ!
蔓の鞭の壁を抜け、誤神木の幹の天辺部分に頭から滑り込む私。
これが野球なら、キャッチャーのタッチをギリギリで躱してホームベースにヘッドスライディングしたようなものだろうか。もちろんアウト=死というデスゲーム条件下ではあるが。
地面にこすりつけてはげしく痛む顔を上げた私の眼に飛び込んできたのは、残念ながらアウトを示す真っ赤なランプ……ではなく枝に実った真っ赤に輝く二つのリンゴだった。
それは、横倒しになった誤神木の頭頂から生えた一本の林檎の樹の左右の枝に一つづつ実っており、それが誤神木の光る眼のように見えていたのだった。
「これが、誤神木が守っていたもの?」
思わず声に出すが、これまでの誤神木の過剰な対応からしても間違いないだろう。このリンゴが弱点なのか、はたまた重要なキーアイテムなのかは今の時点では分からないが、どちらにしてもやることは一つ。
このリンゴをもぎ取るのみ。
そう決意した途端、四方八方の枝から蔓が槍衾となって襲いかかってくる。
だが例のリンゴの木だけは静かにたたずんでいる。
「あそこは安全地帯のようね」
即座に駆け出す。
だが、やはり低レベルな今の実力では蔓の攻撃を躱すことはおろか、防ぐことも耐えることも出来ないだろう。
あと、数メートル進めばゴールだというのに、蔓の槍に身体を貫かれ、悔しくもゲームオーバーにな……
ズババババッ!
らなかった。
突如、私の左手からイバラの鞭が伸びて、目にも止まらぬ速さで 蔓の槍を全て切り落とした。
そう、切り落としたのだ。私が知っているイバラの鞭のトゲはまだ小ちゃかったのに、今のイバラのトゲはまるで15才の不良のようにナイフみたいに尖っては触るもの皆傷つけるどころか、熟練の侠客のごとく見事に蔓の槍を伐採してのけたんですけど?
明らかにおかしい。まるで私より植物魔術に長けた誰かが勝手に私の能力を操っているような。
その思惑を裏付けるように、右手から伸びていたグリンウイップがまたまた勝手に動いて、遥か後方から私を追い越し、前方手前側に実ったリンゴに向けて伸びていく。
そうはさせじと誤神木もリンゴの木の根本、自身の頭頂部から新たな枝を大量に生やして壁のように行く手を阻む。
グリンウイップはまるで蛇のように枝の間の細い隙間をスルスルとすり抜けていくが、どんどん生長する生け垣についに圧迫され、あと少しでリンゴに触れられる寸前で惜しくも止められてしまった。
頑張れ私のグリンウイップ。負けるな、もうちょっと……ああ、プルプル震えているけど、もう限界らしい。
そこで、驚くべきことが起こった。
グリンウイップの先端が大きく膨らんだかと思うと、あの有名ゲームの「超配管工兄弟」に登場する土管から生える花のように肉厚で極彩色の花弁となって……
バックン!
と擬音を付けたくなるほど豪快にリンゴを丸呑みしたのだ。
静寂が訪れた。……私も含めて抵抗していたはずの誤神木ですらあまりのことに時を止めてしまった。
まるで蛇が大きな獲物を丸呑みしたかのように、ウイップのなかをリンゴがこちらに向かって移動してくる。
その膨らみはまるで消化されていくみたいに次第に小さくなり、力の抜けた生け垣を超え、私の手元に届く頃にはすっかり消えてしまった。
ドクン……
私の身体の奥で何かが大きく鼓動する。
ドクン……ドクン……ドクン……
その何かは心臓のように鼓動を鳴らし続け、魔力を膨れ上がらせていく。
(ワレ、今ここに永い眠りから復活せり)
何かが私の頭の中で語りだした。シブい老人の声で威厳があるというか、妙に偉そうである。
(〈知恵の実〉とやらを吸収して必要最低限の知識は得た。もう一つの〈生命の実〉も吸収して、この苗床を破り捨て外界に根付いてくれるわ)
ちょっと待って?「この苗床」って、もしかしなくても私の事ですよね?
でも、これで確定したわ。さっきから植物魔術を使いまくってるのは、以前盗賊と戦った時に私の体内に入り込んだあの種子であるということが。
だって、根付くとかほざいてるし。
植物魔術使えてラッキーと最初は喜んでいたのに、経験値を搾取するは、許可なく暴走するは、挙げ句の果てに私の身体を突き破ろうとするとは、とんだ寄生植物である。
「ちょっとあんた!いい加減にしなさいよ!」
たまりかねて、体内に寄生しているであろう種子に怒鳴る私。
周囲から見れば、いきなり怒鳴り散らす危ない女に見えるだろうが、こっちは命の危機なのだ。知ったことじゃない。
(む?ワレに向かって怒鳴る身の程知らずは苗床の娘か?)
身の程知らずと来たもんだ。この種子、さっき意識を持ったばかりというのに、なんてこんなに偉そうなの?
「苗床なんて呼ぶのやめてくれます?私は美夜、美夜といいます。で、私の体内にいる貴方は何者なの?」
「矮小なる小娘が、偉大なるワレの正体を聞いて恐れおののくがいい。さすれば、運良く苗床に選ばれたことに感謝することだろう」
誰がするか、と心の中でツッコミを入れながら、次の言葉を待つ。
されど、しばらく待っても何も言わない。
「どうしたのよ?早く正体を言いなさいよ。さっさと恐れおののきたいんですけど」
「わ、わからん……」
あれだけ自信満々に言っておきながらのこの解答に、私は恐れおののいた。
「バカな!あの〈知恵の実〉は食した者に叡知を与えるものではないのか?何故ワレに関する知識がない?」
「叡知に記憶するまでもないちっぽけな存在だからじゃないですか~?プププー」
「ええい、まだ生長しておらんから分からぬのだ!そうに決まっておる。あの〈生命の実〉を吸収して一気に生長を……」
しまった、薮蛇だったか!パックンフラワーと化したグリンウイップが枝に実っている〈生命の実〉に向かって、まさに蛇のように口を開け襲いかかる。
だが、丸呑みする直前でピタリと動きを止めたのであった。
「ム、時間をかけすぎたか。あれではもう吸収できんではないか」
忌々しそうな呟きを耳にして、〈生命の実〉をよく視れば、その紅玉のような輝きは赤黒くまるで血のように変色していた。
それだけではない。誤神木全体の幹、枝、葉までもがみるみるうちに変色し枯れていっているではないか。
遂に長かった戦いも終了か?と期待した矢先に、私の中の種子の声が残念なお知らせを告げる。
「〈生命の実〉に己の意志、魔力、そして呪いを全て集約させおった。今のワレではあれを吸収しても呪いで弱らされ逆に乗っ取られてしまうな」
「それって、まさか……」
私が呟いた途端、〈生命の実〉がまるで心臓のように鼓動する。
鼓動を一つ打つたびにその実は膨らんでいく。それは縦長に伸びていき、ついには人並みの大きさにまでなるが、その重みに耐えかねたかのように、枝から実が落ちる。
そこで、私は思わず目を見張った。
〈生命の実〉の下半分がスカートのように広がり、その中から赤いハイヒールを履いた林檎の実のように真っ白な足が地面を軽やかに踏んだからだ。
そう、〈生命の実〉は女性へと姿を変えたのだ。
赤黒く変色した表皮は豪奢なドレスへと変わり、そこからはしなやかで真っ白な女性の腕が伸びている。
髪は鮮やかな緑色で腰まで伸び、顔立ちも整っている。
整ってはいるのだが、その白い顔には目も鼻も口もなかった。マネキン人形のように輪郭だけがあるのだ。それでもある種の美しさがそこには存在していた。
ここまで来てまさかの、ボスの進化形態登場である。
いや、ホントに序盤のエリアに登場していいボスキャラじゃないよ?
「よくもやってくれた……」
表情が動かない人形みたいなボスの口から女性の声が発せられた。
「あの御方に捧げるはずの〈知恵の実〉を食したばかりか〈生命の実〉まで奪おうとするとは、もはやこうして〈生命の実〉に宿るしか守る手段はなかった」
憎々しげに言いながら、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
なんかマズイ!というかすっごく怖い。顔に表情は全く浮かべてないのに、怒りと殺意のオーラが全身から溢れてますよ。
「かくなる上は、〈知恵の実〉を吸収したお主を妾がさらに吸収し、この身ごとあの方に捧げるまでよ」
指先から真紅の爪が鋭く伸びる。その爪先はぬらりと濡れていた。
いや、吸収って私これから何されるんですか?植物形態の女性型モンスターに吸収されるって、卑猥な触手プレイしか思い浮かばないのは、私の心が汚れているからなのでしょうか?
「迂闊に触るなよ。苗……美夜よ」
私の中の種子も緊張した声を出す。
「奴は全身、毒と呪いの塊よ。捕まれば三秒でありとあらゆる毒と呪いをかけられて死ぬぞ」
「どうしろっていうのよ!」
無理ゲーにも程があるわ!
「戦闘経験はお主の方が上だ。ワレの力を特別に貸してやるから何とかしろ。相談しながら戦える相手ではない」
そう言うと同時に、現在使えるスキルや植物魔術の知識が頭の中に流れ込んでくる。かなり強力なスキルもあるが、私に扱いきれるだろうか?
「術の発動や魔力調整はやってやるから、お主は戦いに集中しておれ。術名を唱えれば即座に行使してやる」
なかなか嬉しいことを言ってくれる。レベルの高い使ったこともない術のイメージ構成に気を取られずに自動で繰り出せるのは、かなりのアドバンテージだ。
「それじゃよろしくね。パートナーさん。……って貴方、名前は」
結局、私の身体の中で偉そうにしている種子の正体は分からないままだった。
「ずいぶん長いこと種子の状態だったようでな。何も分からぬ。呼び名などどうでも良い、好きに呼ぶがいい」
フム、本性が植物なので呼び名にこだわりはないようだ。
「なら、シド爺。偉そうなしゃべり方をする種子(シード)だから縮めてシド爺ね」
「勝手にしろ。あやつを倒さねばワレもお主も終わりよ。一蓮托生の間柄となってしまったからのう」
そんな大袈裟な。もし負けても私達プレイヤーは〈呪いの復活人形〉で復活できるんだから、もう少し気楽に……
[緊急システムメッセージです]
突如、視界が赤く点滅し、文章が空中に映り込んだ。
[個体名〈シド爺〉の覚醒によりシステムエラーが発生しました]
ん?システムエラー?
[これにより、シークレットネームドボス〈生命林誤の毒神樹王〉が出現しました]
んん?シド爺に捕食されそうになったから、隠しボスが出てきたって事かな?
あと、林檎の檎が誤神木の誤になってますよ?
[〈生命林誤の毒神樹王〉にプレイヤー名〈美夜〉が戦闘敗れた場合、システム上〈美夜〉のアバターが消滅してしまい、復活はできません]
んんんんんん?ア、アバター消滅ぅぅぅ?ちょっと、何よそれ?
突然の事態の急変にパニクる私に向かって、〈生命林誤の毒神樹王〉が怒りを露わに近づいてくるのだった。
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