この思いは伝わらない

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高校3年学園祭

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「午前中はこんな感じでした!あとはお願いしまーす」
「はーいお疲れ様!」
「おつかれ~」

 午前担当のリーダーが午後担当達に引き継ぎを行っているのを端の方で聞き、最後に軽く頭だけを下げた。
 腹減った~早く飯食おうぜという仕事終わりなのに元気な集団に混ざり人ごみを搔き分けることなく教室を抜け出す。しかし、抜け出した先の廊下もどこを見ても人間に人間に、人間。いくら何でもいすぎだろとうんざりして、人ごみを搔き分けて進む陽気な集団にただ乗りして廊下を進んだ。
 人がいないところを目指そうにも、多くのクラスは自分たちの教室で店をしてるし、外で飲食をしているクラスの教室では部活動での出し物が展示されていたりとそうそう人のいない場所なんて見当たらず、結局は体育館に行きついてしまった。
 あれ以降に久しぶりに会った旺史は俺の思いなんて露ほども知らずしっきー!といつものように近づいてきて、俺たち体育館での出し物だからさ見に来てよなんて言ってのけた。無理だ。ふざけんな。壇上で堂々と楽器を演奏するお前を俺は絶対に見たくない。
 そう思っていた。
 そう思っているのに、午前の部が終わり多くの人が体育館から出ていくのに一人逆らって体育館の中に入る。綺麗に整列されている椅子たちの中から真ん中の列の一番端に腰かけた。
 背もたれに体重をあずけ、煌々と照っている天井の蛍光灯をぼんやり眺め時間をつぶす。午後の部開始まであと30分程度。3年1組は午後の部の3番目だから合計1時間以上は待つことになる。
 待って、見て、聞いて。どうするんだ。
 何も見たくなくなってそっと目をつぶった。
 どうせまた旺史の音を聞いて俺は絶望するんだろうな。まるで自傷行為のようだ、と堪えることなくあざけわらった。
 俺は。いったい、俺は俺をどうしたいんだと怒りすら覚えた。
 午後の部、開始時間に近づけば近づくだけ人間が集まってきてあっという間に座席は埋まった。
 他には興味がないからと下を向いて目をつぶる。1番目の舞台が開始され、終わって。2番目の舞台が開始され、終わって。気づけば3年1組のやつらが舞台上の準備を開始しようとしていた。
 見たい。見たくない。ずっと相反する心がお互いを傷つけあって悲鳴を上げている。
 はぁとでかめの溜息をついてから、壇上に目を向けた。入れ替わりのために2番目の2年生だったかと、3年生が止まることなく往来し楽器や使用済みのパネルたちを運んでいる。そんな人ごみの中でも旺史はすぐに見つけられた。率先して重そうな荷物を片付けて運んで、困っていそうな人がいれば2年生も3年生も、知り合い、知り合いじゃないも関係なく駆け寄っていき手伝う。天然たらしはにくいねと口をゆがませた。

「それでは午後の部プログラムナンバー3番。3年1組の演目を開始いたします」

 そう放送が流れて1組の奴らが意気揚々と壇上に上がってくる。
 後列に複数人が列を成し、真ん中に楽器をもった奴らが集まって、前列にも複数人が列を成す。

 旺史は、何も持たずに前列の中央付近に立っていた。

 え、と疑問を声に出す前にギターのソロから演目が開始される。
 旺史はでかい体を器用に操って綺麗に踊って見せた。乱れる髪を気にせず隣のやつと笑いあって体を翻す。大きな衝撃音の後に静がくる。それでも旺史の目は爛々と輝いていて動で爆発した。顔にかかった邪魔な髪を乱暴にかき上げて最後までにこやかに踊り切って魅せた。
 音楽が鳴り終わりいいぞー!という誰かのヤジが飛び拍手が沸き起こる。旺史は深く頭を下げた後笑ってみんなに手を振り舞台から姿を消した。
 あぁ、好きだな。
 俺にはその一言しか出てこなかった。
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