魔法?魔術?俺たちのおかげだな。

umemoto

文字の大きさ
3 / 9
第一章

なんで交渉しないといけなんだ!

しおりを挟む

「メディシ先輩、飛行竜が使えて良かったですね。」

 俺はその声には答えずに3つの魔導書の条文を読みながら焦っている。

「顔色が悪いですけど、飛行中に文字を読むと酔いますよ。」

 そうじゃない。酔っているのもあるが契約更新する精霊が夜と火と土なのはわかっていたが、土の精霊が草原地帯ボッタではいつも更新しているアイラではなくタゲサであることを見逃していた。俺はタゲサに嫌われている。

「そろそろマーカー地点ですよ。本当に何もない草原ですね。」

 俺はどうやってこの状況を切り抜けるか考えるのに精いっぱいでなにも答えられない。

「メディシ先輩、私のこと怒ってますか?本当にあの場面でウォータースプラッシュしたのはまずかったと思っています。」

「違う、そうじゃない。とりあえず業務に集中してくれ。」

「わかりました……。」

 トキシカの表情が暗くなったが、今はフォローしていられる場面ではない。

 ドラくんがゆっくりと通信水晶の近くに降り立つと俺とトキシカは重いリュックから荷物を取り出して準備を始めた。

「トキシカ、念のため事前に通信水晶の裏面に大きな欠けがないかみてくれないか。」

「どうしてですか?エネルギー水晶で欠けがあっても修復されるじゃないですか。」

「念のためだ、念のため。」

 そういいつつ時間稼ぎをしてどうやってこの仕事をこなすか考えるも焦りでうまく頭が回らない。

 「メディシ先輩、この通信水晶は大きな欠けなどはありません。ただ色が他のよりピンクっぽいですかね。」

 「そうか……。じゃぁ準備だ。」

 俺は諦めがつき、水晶に聖水をかけてエネルギー水晶に手をかざしながら呪文を唱えが。

「ブラウン・ラクバイ・ブリシト 夜の精霊ニュクサよ、我の言葉に答えたまえ。」

 唱えると通信水晶とエネルギー水晶が光を放ち始めた。

「その声は、代行のメディシ・山田・良助さん。」

「あ、はい。そうです。あのー……いつもの契約更新なんですけど。」

「はい、わかりました。いつもご苦労様です。」

「精霊ニュクサ、契約に基づきこのエリアW-41-D46の30km圏内での召喚術に対する呼びかけに応じてもらえますか。」

「はい。精霊ニュクサはこのエリアに魔法反呼の術をまじないます。」

「いつもスムーズにありがとうございます。」

「いえいえ、頑張ってくださいね。」

 会話が終わるとエネルギー水晶が少し光を失った。

 はぁ、と大きなため息が漏れる。

「次は火の精霊ヘパイストーです。」

「分かった。でもちょっと一息つかせて。」

 そう言って草原に大の字で寝転がり空を見上げる。空は水色とピンクが混ざった色をしていて月のようなものが3つもある。いまだに現実感がない。

「サボりは報告しますよ。」

「はいトキシカさん。わかりました。」

 気を取り直して二つ目の魔術所を開く。

「ブラウン・ラクバイ・ブリシト 火の精霊ヘパイストーよ、我の言葉に答えたまえ。」

 そういうとエネルギー水晶が発光するとともに熱を帯びてきた。

「ムハハハハ。その聞き覚えがある声は、契約者の代行稼業メディシ・山田・良助だな。」

「あ、はい。あのー」

「ムハハハハ。三か月ぶりだな。疲れた顔をしているじゃないか。」

「あ、はは、そうですかね。」

「ムハハハハ。飯はちゃんと食ってるのか?たらふく食ってグースカ寝る!それが健康というものよ!」

「あ、そうですね。そのー」

「ムハハハハ。世間話もできなくてどうする!社会人として人脈という者のありがたさを知るがいい。」

「すみません。」

「ムハハハハ。冗談だ。」

「精霊ヘパイストー、契約に基づきこのエリアW-41-D46の30km圏内での召喚術に対する呼びかけに応じてもらえますか。」

「ムハハハハ。断る!」

「えっ」

 トキシカは目をまんまるくしてこちらを見た。

「ムハハハハ。冗談だ。ワシ、精霊ヘパイストーはこのエリアに対して魔法反呼の術をまじなうぞ。」

「あ、はは、ありがとうございました。」

「ムハハハハ。たまには顔を見せに来い。」

「俺人間なんで火山になんていったら溶けちゃいますよ。」

「ムハハハハ。そうだな。たまには仕事以外でも顔を出せということだ。」

「善処します。」

 そういうとエネルギー水晶がまた一段光を失った。

「次の精霊は」

「分かってる。」

 深く深呼吸をして、もしこの仕事が失敗して始末書になったり最悪クビになったらどうやってトキシカに仕事を引き継ごうかと頭で巡らせた後、土の魔術書を開いた。

「ブラウン・ラクバイ・ブリシト 土の精霊タゲサよ、我の言葉に答えたまえ。」

 反応がない。いわゆる、無視である。

 トキシカが不思議そうにエネルギー水晶を覗き込んだ。

「メディシ先輩、トラブルですか?」

 そういったとたんに水晶から少年が顔をのぞかせた。

「うわっ!」

 驚いたトキシカが尻もちをつく。

「わーキモイおっさんじゃなくてかわいい子もいるんじゃん。」

 そう水晶の中でニヤニヤしているのが土の精霊タゲサであり、見ての通り俺のことを毛嫌いしている。

「君なら契約代行としてみとめてもいいよ!君名前なんて言うの?」

「トキシカ・キャンディ・バニラです。」

「トキシカちゃんかー。いくつ?初めて会うよね。」

 おそるおそる水晶を覗き込むトキシカを自分の背後にやり、人差し指で「静かに」と合図をした。

「すみません。精霊タゲサ。業務上のやり取りは代行の俺と話してもらえませんか。契約書にもそう書いてありますよね。」

「あー……契約。そうだね。はぁ、だいたいさぁ俺らが契約の条件にしている"信仰"も最近薄くない?割に合わないと思うんだよね。俺ら精霊ってさぁ崇められてと当然なのにわざわざ契約してやってるのにさ。」

「すみません。契約に関する内容に関して意見がありましたら上司を通してもらわないと。」

「チっ、はいはい。わかりました。」

「それでは精霊タゲサ契約に基づきこのエリアW-41-D46の30km圏内での召喚術に対する呼びかけに応じてもらえますか。」

「はいはい。精霊タゲサはこのエリアに魔法反呼の術をまじなうよ。」

「ありがとうございました。」

そういうとエネルギー水晶の光が完全に失われた。

「精霊タゲサには初めて会いました。」

「そうか、でももう会うことはないよ。」

「どうしてですか?」

「あまりにも態度が悪すぎるから君に引き継ぎしたときに問題を起こしかねないから上司と取引契約について見直してもらうよ。」

「メディシ先輩、そんな度胸あるんですか?」

「トキシカ、流石に後輩にまで危害が及ぶ恐れがある取引先を黙ってやり過ごすわけにはいかないだろ。」

 トキシカは意外といった顔を見せたのでおでこをこつんと手の甲で叩いた。

「今のはパワハラです。」

「はいはい。」

 そういって荷物を片付け報告書に描く文言を考えながらそよ風にあたっていた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。 あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。 過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。 ――使えないスキルしか出ないガチャ。 誰も欲しがらない。 単体では意味不明。 説明文を読んだだけで溜め息が出る。 だが、條は集める。 強くなりたいからじゃない。 ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。 逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。 これは―― 「役に立たなかった人生」を否定しない物語。 ゴミスキル万歳。 俺は今日も、何もしない。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...