魔法?魔術?俺たちのおかげだな。

umemoto

文字の大きさ
7 / 9
第一章

なんでバカ深い湖の底に潜らにゃならんのだ!

しおりを挟む

「なんで俺が行かなくちゃならないんですか、半魚人のホスピに生かせればいいじゃないですか、俺は泳げないんですよ。」

 悲痛な訴えを上司のリョウヤクに申し立てても歯が立たない。

「今回ホスピは別のエリアから同時に作業を行ってもらう。お前たちは潜水服を着ていけ。」

 風の精霊アイオリンの発信水晶の交換時には単体なので行わなかったが、新規で精霊と契約を締結してエネルギーを発信水晶に込めるときには同じ種類の精霊と同時に契約の更新をしないといけない謎のルールがある。

「わかりました……。トキシカ。」

「はぁいぃ。」

 驚いて声の方を振り向くと潜水服を着たトキシカがいた。

「今着なくていいから!」

---

 そうこうしているうちに湖ロピに着いた。

 ドラくんを大樹の下に待機させて大きな湖の前にため息が出る。

「言ってるそばからリュムピのところに来ちゃったよ。」

「そういえば来いって言われてましたね。」

 いつもの二倍の質量があるリュックから潜水服を取り出して着替えていく。

「これって本当に魔術の力で水中を歩けるのかな、呼吸もできるのかな、不安しかない。」

「メディシ先輩は臆病なんですね。それに加えて同じタグの潜水服同士は半径10m以内の声を拾えるんです。まちがいありません。」

 そういってガラスドーム状のヘルメットをかぶったトキシカはジャンプをしながら腕を上下に動かし足をジタバタさせる行動を繰り返し機動性をみせつけてくる。

「はあ、他の作業員たちの迷惑になるし時間より早めに行くか。」

「当然です。」

 その言葉を聞き終わる前に恐る恐る湖に足を踏み入れた。

 草で覆われていた範囲から突然足場がなくなり底にむかって自分が落ちていくのが分かる。

 軽いパニックになりそうだったが袖にトキシカの手があるのをみて気丈にふるまうことを心に決めた。

 そうしているうちに目の前の景色がだんだんと濁った水色だったものが深い青になってきたときちょうど、湖の底から声が聞こえた。

「ああ!メディシじゃないか!本当に来たのかメディシ・山田・良助!」

 その声の主が水の精霊リュムピだと分かった。

「早くここにおいで!仕方がないな『トルネード!』」

 俺は「止めてくれ」という前に水の渦による急激な回転にめまいを起こして気を失った。

---

「メディシ先輩、大丈夫ですか。まさか死んでないですよね。」

「メディシ・山田・良助!お前の死に場所はここではないはずだ!」

 ふたりの甲高い声を聴いてようやく目が覚めた。

「うーん、今何時だ。トキシカ。」

「大丈夫です。まだ13時です。テストがある14時半まで時間があります。本番の15時までよ余裕がありますよ。」

 時計型通信器をみてみるとたしかにそうらしいが視界がまだふらついていて正確な時間が読めない。

「しばらく休んでいろメディシ・山田・良助。しかし実物は本当に老けているな!」

 精霊がよくする人間いじりを聞き流してこの後の手順を再確認する。14時半にテスト通信を行い、15時にほぼ同時で契約を更新する。そしてここは湖なので聖水を撒くタイミングは直前にしないと。

「メディシ先輩はただの人間ですからしょうがありませんね。」

 そうトキシカがいつも通りにたしなめると横から精霊リュムピが突っかかってきた。

「そういうお前は雑種だろう、匂いでわかる。人間とエルフの混血ごときが偉そうにするな!何様だ貴様は!」

 思いもしない横やりにトキシカは目を真ん丸として唇をかみしめ、いつも俺に言えるような対抗する言葉が出てこず、でてきても言える立場ではないので大きな瞳に涙が溜まっていくのがガラス越しに見えた。

「はは、新人様ですよ。精霊リュムピ、俺の後輩なんです。お手やわらかにお願いしますよ。」

「メディシ!そんなことを言っているから小娘になめられるのだ!」

「でも実際、俺はただの人間で魔術の才能もないからトキシカには頭が上がらないんです。新人であろうとどんな立場の人間であろうとちゃんと能力がある人間には敬意を示さないと。ですから精霊リュムピ、俺の後輩は能力がある人間なんです。」

 そういうと精霊リュムピはしばらく考えるポーズをしてこう言った。

「言い過ぎた。謝ろう、トキシカ。だかしかし、先輩に対する敬意が足りないぞ。そこは改めるんだな。」

「はい。すみませんでした。」

 トキシカは涙声で頭を下げた。

「では気を取り直して計画の事前打ち合わせをしましょう。」

「体は大丈夫なのかメディシ。」

「今のですっかり吹っ飛びました。」

 そう軽口を言うとますますトキシカは頭を下げた。

「トキシカ、まず精霊リュムピにお願いしたことを再確認してくれ。」

「はい。精霊リュムピには14時半に発信水晶を通して実際にエネルギー通信を演習として行てもらいます。そして15時に発信水晶を通して私が詠唱する呪文に応じて発信水晶のエネルギーの更新をしてもらいます。」

「この内容で事前に連絡した内容はあってるよね、精霊リュムピ。」

「ああ、間違いない。」

「じゃあ演習の呪文と本番用の呪文を詠唱してみて。詠唱速度を精霊リュムピに確認してもらいたい。」

「ああ、分かった。トキシカ、詠唱してみろ。」

「はい・ブラウン・ラクバイ・ブリシト……」

 たまに精霊の中では混血のことを雑種と呼び忌み嫌う者もいるらしいとは聞いていたが、実際に遭遇すると相手の意識の訂正するわけにもいかないから"実力を認めさせる"くらいしか解決策がないんだよな。

 そうこうしているうちに14時半が近づき他作業員と交信を試みた。

「えーと、こちらメディシ、通信入ってますか。」

「聞こえてるよー」「入ってる」「大丈夫」そう他の作業員の声が全員分聞こえた。

「じゃあ14時半になったら始めよう。5,4,3,2,1」

「ブラウン・ラクバイ・ブリシト 水の精霊リュムピよ、我の言葉に答えたまえ。」

---

 そして本番の詠唱が滞りなく終わった時、腕を大きく上げて雄たけびを上げた。

「終わったー!」

「よくやったなメディシ!これで新たな水の精霊キュアリも魔術使い達の加護をすることになったのだな!」

「そうだね。」

「そしてトキシカ!」

 急に呼びかけられてトキシカはまた目を真ん丸として潜水服を握りしめた。

「トキシカ、お前もよくやった。特に聖水を流すタイミングと詠唱速度の安定感はよかったぞ。」

 そう思いがけないことばをうけてトキシカは俺が今まで見たことのないような笑顔でこういった。

「ありがとうございます!メディシ先輩に褒められるよりうれしいです!」

 精霊リュムピもまた、俺が今まで見たことがないような笑顔で笑っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

俺だけ“使えないスキル”を大量に入手できる世界

小林一咲
ファンタジー
戦う気なし。出世欲なし。 あるのは「まぁいっか」とゴミスキルだけ。 過労死した社畜ゲーマー・晴日 條(はるひ しょう)は、異世界でとんでもないユニークスキルを授かる。 ――使えないスキルしか出ないガチャ。 誰も欲しがらない。 単体では意味不明。 説明文を読んだだけで溜め息が出る。 だが、條は集める。 強くなりたいからじゃない。 ゴミを眺めるのが、ちょっと楽しいから。 逃げ回るうちに勘違いされ、過剰に評価され、なぜか世界は救われていく。 これは―― 「役に立たなかった人生」を否定しない物語。 ゴミスキル万歳。 俺は今日も、何もしない。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...