全寮制男子高校に通う一生徒の日常

果月

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新学期

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─春のまだ少し寒さが残る麗らかな某日。

クリーム色のカーテンがふわふわと不規則に動くその姿を眺めながら、頼は愛着のあるベットの中で少しだけ身をすくませた。
そのまま顔の横にあるスマートフォンで時間を確認してまだ学校の準備をするには早いことに安堵する。
時刻は5時半頃。いつも八時に学校に着くようにしているから準備開始は6時半からにしている。二度寝もありかな、なんて自堕落な思考に堕ちそうになるけれど、それをすると後3時間は起きない己を知っているので早々にベットの中から離脱する。

あぁ、俺の天国さようなら。
おはよう世界…とかちょっとふざけてみる。

俺はシャワーは朝夜どっちも入りたい派なので取り敢えず、ぼやけきった脳みそを起こすためにもお風呂場へ直行する。

温かいお湯に打たれながら目の前の大きい鏡に映る自分の姿は、一般的な高校生男子としてはあまり筋肉がついてないような気がする。
これでもトレーニングはしているのにとシックスパックに憧れる男としては物足りなさを感じて短くため息をつく。一応線は入っている。
もともと筋肉がつきにくい体質であるし、身長も170cmくらいでぱっとしない。 

顔に張り付くダークブラウンの髪をかきあげ、鏡に両手をついて覗き込む先に映る瞳は稀に見る色彩。
祖母がヨーロッパの人だから俺も髪や目だけは色素薄め。

短く息をついてお風呂場から出て、ガシガシとタオルで水気を拭く。
一時期は髪を大事にしてみようという意識高い系みたいな考えだったけど、飽き性の自分にはこれで十分だと今ではご覧の通りの有様である。

洗面台の前で、耳が隠れるほどの髪に少し指を通して大方乾いたことを確認すれば備え付けのやけに高性能なドライヤーで一気に乾かす。
これが良い物のおかげか終わったあとは髪に艶が出ている。うん、十分でしょ。
現代の機械はすごいなとまるで世代が違うみたいに感心する自分には気づかずに、服を着替えてキッチンへと足は向かう。

基本的に食べることは好きだから、朝ごはんもガッツリ食べたい。食べることは生きること、食べることに幸せ見出だせなかったら割とヤバイって誰かが言ってた。あれ中学の国語の先生だったっけな。
今日は時間もあるし久々に和食にしよう。
俺は一応料理できる人間だからね!

いや、あんまり期待とかはしないでいただきたい。




    朝に魚って“和食”っていう感じがすると思わない?
あと、お米とお味噌汁もあったら完璧だよね。
俺、最近はワカメにはまってて…別に将来の毛根の心配をしてとかではなく。お味噌汁は豆腐とわかめ!あればお麩。
余談なんだけど、お麩ってなんだか本能出てくると思うんだよね。無性に先に食べたくなるっていうか浮き輪みたいにぷかぷか浮かれているのを見ると捕まえたくなるっていうか。…猫じゃん

ちょっと時間があるとすぐに調子に乗ってまったりしだすのが俺の悪いところだね、うん。

取り敢えず食べよ。…普通だな、わかってた。




そろそろ時間だと思って支度を終わらせてマイスイートルーム(?)から出ると見慣れたどこぞのホテルのような光景。
別に驚きはしないよ。同じようなの雰囲気の部屋で寛げるくらいだから。そもそも、もうここに来て一年になる。自身の順応能力の高さもあるんだろうけど。

俺と同じような時間設定で自室から出ようとする生徒は、まぁ他にも多くいたからその波に抗うことなく校舎の正面玄関までたどり着く。

いい忘れていたけれど、うちの学校は全寮制の男子校でね。言うなればおぼっちゃま学校というやつ。
だから、成績と家柄を鑑みてクラス編成もされるし、クラス替えというものは存在しないに等しい。
成績によっては多少入れ替わるけれど、よくあるらしい大きな用紙にクラス発表の結果が記されたものがここでは存在しない。

そうなると必然的に俺は前年のクラスよりも丁度一階上がった教室に直行することになる。
学年が上がるごとに上の階になっているからさ。
エスカレーターから見える下の階の様子をぼんやりと眺めていたら偶然にも上を向いたおそらく先輩であろう人と目があった…様な気がするから取り敢えず軽く会釈してみる。
その人は少し驚いたような顔をしていたけど、僕は次の階につきそうだったからそれとなく顔を前に戻した。こういう事ってたまにあるよね。でも軽く挨拶みたいなことしておけば大抵なんとかなる気がする。
まぁいっか。


2年A組。無事に教室についた。
廊下で見知った相手に挨拶したりして気分は上々。新学期特有の新鮮さがあるけど、どうせ中に入ったら同じメンバーだろうな。

「おはよー」
ドアをてきとうに開けて挨拶すると見知った顔ぶれが見えた。やっぱね。
「よっす」「おは~」等々、ゆるいな。人のこと言えんけど。
一応黒板に出されてるプロジェクターが映してる席を確認してみたけどそれも変わらず。
教卓の真ん前の席。
イヤなんだけど先生がぼそっと言ったコトとかちょっとした質問とかしやすいから過ごしやすくないわけではない。
こういうこと言うと真面目!って言われるけど違うんだよ。面倒くさがりだから面倒みてくれる先生の近くにいるんだって。
落書きとかできないの地味に辛いけど。

去年のクラスとあんま変わってなさげ(クラスの雰囲気に慣れすぎてもはやみんな空気)だし、担任の先生来るまでだらけてようと思ってたのに…ウルサイ奴が寄ってきたな。

「頼!おはよ!ねね、頼は聞いた?あの話!」
「おはよ。ってさっきも言った気がするわ。
あの話って?」

え、マジ⁉割と広まってる話なんだけどさ~と話し始めたこいつは智明ともあき
クラスのマスコットみたいな感じでコミュ力お化けだから、かなり面白い情報を持ってたりする。
その智明の話によると転校生がやって来るらしい。凄く珍しいな。と素直に返せば何故か自慢げに学園理事の親戚らしいぜ~と何やら恐ろしい情報まで吐いた。
え、いらない。その情報別にいらないぞ。嫌な予感しかしないんだか。
これがフラグってやつ…?
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