1 / 2
新学期
しおりを挟む─春のまだ少し寒さが残る麗らかな某日。
クリーム色のカーテンがふわふわと不規則に動くその姿を眺めながら、頼は愛着のあるベットの中で少しだけ身をすくませた。
そのまま顔の横にあるスマートフォンで時間を確認してまだ学校の準備をするには早いことに安堵する。
時刻は5時半頃。いつも八時に学校に着くようにしているから準備開始は6時半からにしている。二度寝もありかな、なんて自堕落な思考に堕ちそうになるけれど、それをすると後3時間は起きない己を知っているので早々にベットの中から離脱する。
あぁ、俺の天国さようなら。
おはよう世界…とかちょっとふざけてみる。
俺はシャワーは朝夜どっちも入りたい派なので取り敢えず、ぼやけきった脳みそを起こすためにもお風呂場へ直行する。
温かいお湯に打たれながら目の前の大きい鏡に映る自分の姿は、一般的な高校生男子としてはあまり筋肉がついてないような気がする。
これでもトレーニングはしているのにとシックスパックに憧れる男としては物足りなさを感じて短くため息をつく。一応線は入っている。
もともと筋肉がつきにくい体質であるし、身長も170cmくらいでぱっとしない。
顔に張り付くダークブラウンの髪をかきあげ、鏡に両手をついて覗き込む先に映る瞳は稀に見る色彩。
祖母がヨーロッパの人だから俺も髪や目だけは色素薄め。
短く息をついてお風呂場から出て、ガシガシとタオルで水気を拭く。
一時期は髪を大事にしてみようという意識高い系みたいな考えだったけど、飽き性の自分にはこれで十分だと今ではご覧の通りの有様である。
洗面台の前で、耳が隠れるほどの髪に少し指を通して大方乾いたことを確認すれば備え付けのやけに高性能なドライヤーで一気に乾かす。
これが良い物のおかげか終わったあとは髪に艶が出ている。うん、十分でしょ。
現代の機械はすごいなとまるで世代が違うみたいに感心する自分には気づかずに、服を着替えてキッチンへと足は向かう。
基本的に食べることは好きだから、朝ごはんもガッツリ食べたい。食べることは生きること、食べることに幸せ見出だせなかったら割とヤバイって誰かが言ってた。あれ中学の国語の先生だったっけな。
今日は時間もあるし久々に和食にしよう。
俺は一応料理できる人間だからね!
いや、あんまり期待とかはしないでいただきたい。
朝に魚って“和食”っていう感じがすると思わない?
あと、お米とお味噌汁もあったら完璧だよね。
俺、最近はワカメにはまってて…別に将来の毛根の心配をしてとかではなく。お味噌汁は豆腐とわかめ!あればお麩。
余談なんだけど、お麩ってなんだか本能出てくると思うんだよね。無性に先に食べたくなるっていうか浮き輪みたいにぷかぷか浮かれているのを見ると捕まえたくなるっていうか。…猫じゃん
ちょっと時間があるとすぐに調子に乗ってまったりしだすのが俺の悪いところだね、うん。
取り敢えず食べよ。…普通だな、わかってた。
そろそろ時間だと思って支度を終わらせてマイスイートルーム(?)から出ると見慣れたどこぞのホテルのような光景。
別に驚きはしないよ。同じようなの雰囲気の部屋で寛げるくらいだから。そもそも、もうここに来て一年になる。自身の順応能力の高さもあるんだろうけど。
俺と同じような時間設定で自室から出ようとする生徒は、まぁ他にも多くいたからその波に抗うことなく校舎の正面玄関までたどり着く。
いい忘れていたけれど、うちの学校は全寮制の男子校でね。言うなればおぼっちゃま学校というやつ。
だから、成績と家柄を鑑みてクラス編成もされるし、クラス替えというものは存在しないに等しい。
成績によっては多少入れ替わるけれど、よくあるらしい大きな用紙にクラス発表の結果が記されたものがここでは存在しない。
そうなると必然的に俺は前年のクラスよりも丁度一階上がった教室に直行することになる。
学年が上がるごとに上の階になっているからさ。
エスカレーターから見える下の階の様子をぼんやりと眺めていたら偶然にも上を向いたおそらく先輩であろう人と目があった…様な気がするから取り敢えず軽く会釈してみる。
その人は少し驚いたような顔をしていたけど、僕は次の階につきそうだったからそれとなく顔を前に戻した。こういう事ってたまにあるよね。でも軽く挨拶みたいなことしておけば大抵なんとかなる気がする。
まぁいっか。
2年A組。無事に教室についた。
廊下で見知った相手に挨拶したりして気分は上々。新学期特有の新鮮さがあるけど、どうせ中に入ったら同じメンバーだろうな。
「おはよー」
ドアをてきとうに開けて挨拶すると見知った顔ぶれが見えた。やっぱね。
「よっす」「おは~」等々、ゆるいな。人のこと言えんけど。
一応黒板に出されてるプロジェクターが映してる席を確認してみたけどそれも変わらず。
教卓の真ん前の席。
イヤなんだけど先生がぼそっと言ったコトとかちょっとした質問とかしやすいから過ごしやすくないわけではない。
こういうこと言うと真面目!って言われるけど違うんだよ。面倒くさがりだから面倒みてくれる先生の近くにいるんだって。
落書きとかできないの地味に辛いけど。
去年のクラスとあんま変わってなさげ(クラスの雰囲気に慣れすぎてもはやみんな空気)だし、担任の先生来るまでだらけてようと思ってたのに…ウルサイ奴が寄ってきたな。
「頼!おはよ!ねね、頼は聞いた?あの話!」
「おはよ。ってさっきも言った気がするわ。
あの話って?」
え、マジ⁉割と広まってる話なんだけどさ~と話し始めたこいつは智明。
クラスのマスコットみたいな感じでコミュ力お化けだから、かなり面白い情報を持ってたりする。
その智明の話によると転校生がやって来るらしい。凄く珍しいな。と素直に返せば何故か自慢げに学園理事の親戚らしいぜ~と何やら恐ろしい情報まで吐いた。
え、いらない。その情報別にいらないぞ。嫌な予感しかしないんだか。
これがフラグってやつ…?
0
あなたにおすすめの小説
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる