そういう目で見ています

如月 そら

文字の大きさ
2 / 6
そういう目で見ています

そういう目で見ています②

「失礼しますー。じゃあね、月蔵さん」
「はい、お疲れ様です」

 理想のスーツに思いを馳せていた私は、ハッと現実に引き戻された。

 契約の継続が成立して、ほくほくで帰っていく上司を見送って、業務の続きに取り掛かる。

 頼まれていた資料はできれば、今日中に仕上げてしまいたい。

「月蔵さん」
「……っはい!」

「それ、今日中じゃなくても今週中で構わないよ?」
「でも今日終われば、また明日から別のお手伝いができますから」

 彼は、ふ……と笑った。
 笑顔が素敵だ。

「ありがとう。でも、残業はダメ」
 そう言われて、私は時計を見る。
 気づくと残業の時間になっていた。

「……ですね。えっと、多分明日の午前中には終わりますから、何かあれば言ってくださいね」

「では……」

 隣の席に座っていた社長がこちらに向き直ったのだ。

 そうして隣なのになぜか席を立って、私の後ろに来て、背後からマウスを握っていた私の手にその手を添える。

 どきん、と心臓が大きく跳ねた。

 激しく自分の好みの人が、覆い被さらんばかりに自分の背後にいるのだ。

 それに斜め後ろにある顔が近いし、なんだかいい匂いだし……。

 マウスを動かして、彼は『シャットダウン』をクリックする。

「え?」
「今日は終わり」

「あの……」
「月蔵さん、契約、更新してくれてありがとう」

「いえ。こちらこそ」
「こういうのはいけないって、分かっているんだけど」

「こういうの……?」
 なんだろう?この人は何を言おうとしているの?
 急に胸がドキドキと音を立て始めた。

「月蔵さん、どうして、たまに俺のことじいっと見ているの?」

 ……っみ、見られていた!!

 いけないのは私の方です!!
 完全にそういう目で見ていましたから!
 今日も舐めるように、後ろ姿を見ていたかもしれません!

 不快に思われていたのかもしれない。

 というか、今やセクハラは男性から女性へだけのものではない。
 女性から男性へもありうるし、同性でも注意しなければいけないと言われているのに!

「あの……ご不快でしたら、失礼を。」
「いや?なぜか教えてほしい。」

 言えない!
 性的な目であなたを見てましたなんて、言えないからっ!!

「俯いてしまうのはなぜ?」

 答えたくないからです!!!

「あまり俺の前で、そんな風にうつむかないでほしいんだけど」

 どうしよう、きっと怒らせていたんだ。

 そんな風に思ったら、ますます詩乃は顔なんて上げることはできない。

「月蔵さん……」

 そんな風に呼ばないでください。
 ドキドキする……。

「俺ね……」

 彼の顔が後ろから、詩乃の耳元に近づく。
 耳元に息がかかって、どうしようもないくらいに詩乃の鼓動が激しくなった。

 低くて甘い声が、詩乃の耳をかすめる。

「うなじフェチなんだ……」
感想 1

あなたにおすすめの小説

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

涙のあとに咲く約束

小田恒子
恋愛
事務系の仕事に転職したばかりの松下理緒は、総務部の藤堂がシングルファーザーではないかという噂を耳にする。 噂を聞いた後、偶然藤堂と小さな男の子の姿を見かけ、男の子が落とした絵本をきっかけに親しくなる。 家族持ちの藤堂にどうしようもなく惹かれていく。 そんなある日、真一は事故で亡くなった兄夫婦の子で、藤堂が自分の子どもとして育てていると知ったた理緒は…… ベリーズカフェ公開日 2025/08/11 アルファポリス公開日 2025/11/28 表紙はぱくたそ様のフリー素材 ロゴは簡単表紙メーカー様を使用 *作品の無断転載はご遠慮申し上げます。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。 あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。 各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。 *☼*――――――――――*☼* 佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳  文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務  仕事人間で料理は苦手     × 各務 尊(かがみ たける) 30歳  実花子の上司で新人研修時代の指導担当  海外勤務から本社の最年少課長になったエリート *☼*――――――――――*☼* 『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。 ―――――――――― ※他サイトからの転載 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※無断転載禁止。

逢いたくて逢えない先に...

詩織
恋愛
逢いたくて逢えない。 遠距離恋愛は覚悟してたけど、やっぱり寂しい。 そこ先に待ってたものは…

「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました

唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」 不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。 どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。 私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。 「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。 身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。

ヒロインになれませんが。

橘しづき
恋愛
 安西朱里、二十七歳。    顔もスタイルもいいのに、なぜか本命には選ばれず変な男ばかり寄ってきてしまう。初対面の女性には嫌われることも多く、いつも気がつけば当て馬女役。損な役回りだと友人からも言われる始末。  そんな朱里は、異動で営業部に所属することに。そこで、タイプの違うイケメン二人を発見。さらには、真面目で控えめ、そして可愛らしいヒロイン像にぴったりの女の子も。    イケメンのうち一人の片思いを察した朱里は、その二人の恋を応援しようと必死に走り回るが……。    全然上手くいかなくて、何かがおかしい??