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そういう目で見ています
そういう目で見ています②
「失礼しますー。じゃあね、月蔵さん」
「はい、お疲れ様です」
理想のスーツに思いを馳せていた私は、ハッと現実に引き戻された。
契約の継続が成立して、ほくほくで帰っていく上司を見送って、業務の続きに取り掛かる。
頼まれていた資料はできれば、今日中に仕上げてしまいたい。
「月蔵さん」
「……っはい!」
「それ、今日中じゃなくても今週中で構わないよ?」
「でも今日終われば、また明日から別のお手伝いができますから」
彼は、ふ……と笑った。
笑顔が素敵だ。
「ありがとう。でも、残業はダメ」
そう言われて、私は時計を見る。
気づくと残業の時間になっていた。
「……ですね。えっと、多分明日の午前中には終わりますから、何かあれば言ってくださいね」
「では……」
隣の席に座っていた社長がこちらに向き直ったのだ。
そうして隣なのになぜか席を立って、私の後ろに来て、背後からマウスを握っていた私の手にその手を添える。
どきん、と心臓が大きく跳ねた。
激しく自分の好みの人が、覆い被さらんばかりに自分の背後にいるのだ。
それに斜め後ろにある顔が近いし、なんだかいい匂いだし……。
マウスを動かして、彼は『シャットダウン』をクリックする。
「え?」
「今日は終わり」
「あの……」
「月蔵さん、契約、更新してくれてありがとう」
「いえ。こちらこそ」
「こういうのはいけないって、分かっているんだけど」
「こういうの……?」
なんだろう?この人は何を言おうとしているの?
急に胸がドキドキと音を立て始めた。
「月蔵さん、どうして、たまに俺のことじいっと見ているの?」
……っみ、見られていた!!
いけないのは私の方です!!
完全にそういう目で見ていましたから!
今日も舐めるように、後ろ姿を見ていたかもしれません!
不快に思われていたのかもしれない。
というか、今やセクハラは男性から女性へだけのものではない。
女性から男性へもありうるし、同性でも注意しなければいけないと言われているのに!
「あの……ご不快でしたら、失礼を。」
「いや?なぜか教えてほしい。」
言えない!
性的な目であなたを見てましたなんて、言えないからっ!!
「俯いてしまうのはなぜ?」
答えたくないからです!!!
「あまり俺の前で、そんな風にうつむかないでほしいんだけど」
どうしよう、きっと怒らせていたんだ。
そんな風に思ったら、ますます詩乃は顔なんて上げることはできない。
「月蔵さん……」
そんな風に呼ばないでください。
ドキドキする……。
「俺ね……」
彼の顔が後ろから、詩乃の耳元に近づく。
耳元に息がかかって、どうしようもないくらいに詩乃の鼓動が激しくなった。
低くて甘い声が、詩乃の耳をかすめる。
「うなじフェチなんだ……」
「はい、お疲れ様です」
理想のスーツに思いを馳せていた私は、ハッと現実に引き戻された。
契約の継続が成立して、ほくほくで帰っていく上司を見送って、業務の続きに取り掛かる。
頼まれていた資料はできれば、今日中に仕上げてしまいたい。
「月蔵さん」
「……っはい!」
「それ、今日中じゃなくても今週中で構わないよ?」
「でも今日終われば、また明日から別のお手伝いができますから」
彼は、ふ……と笑った。
笑顔が素敵だ。
「ありがとう。でも、残業はダメ」
そう言われて、私は時計を見る。
気づくと残業の時間になっていた。
「……ですね。えっと、多分明日の午前中には終わりますから、何かあれば言ってくださいね」
「では……」
隣の席に座っていた社長がこちらに向き直ったのだ。
そうして隣なのになぜか席を立って、私の後ろに来て、背後からマウスを握っていた私の手にその手を添える。
どきん、と心臓が大きく跳ねた。
激しく自分の好みの人が、覆い被さらんばかりに自分の背後にいるのだ。
それに斜め後ろにある顔が近いし、なんだかいい匂いだし……。
マウスを動かして、彼は『シャットダウン』をクリックする。
「え?」
「今日は終わり」
「あの……」
「月蔵さん、契約、更新してくれてありがとう」
「いえ。こちらこそ」
「こういうのはいけないって、分かっているんだけど」
「こういうの……?」
なんだろう?この人は何を言おうとしているの?
急に胸がドキドキと音を立て始めた。
「月蔵さん、どうして、たまに俺のことじいっと見ているの?」
……っみ、見られていた!!
いけないのは私の方です!!
完全にそういう目で見ていましたから!
今日も舐めるように、後ろ姿を見ていたかもしれません!
不快に思われていたのかもしれない。
というか、今やセクハラは男性から女性へだけのものではない。
女性から男性へもありうるし、同性でも注意しなければいけないと言われているのに!
「あの……ご不快でしたら、失礼を。」
「いや?なぜか教えてほしい。」
言えない!
性的な目であなたを見てましたなんて、言えないからっ!!
「俯いてしまうのはなぜ?」
答えたくないからです!!!
「あまり俺の前で、そんな風にうつむかないでほしいんだけど」
どうしよう、きっと怒らせていたんだ。
そんな風に思ったら、ますます詩乃は顔なんて上げることはできない。
「月蔵さん……」
そんな風に呼ばないでください。
ドキドキする……。
「俺ね……」
彼の顔が後ろから、詩乃の耳元に近づく。
耳元に息がかかって、どうしようもないくらいに詩乃の鼓動が激しくなった。
低くて甘い声が、詩乃の耳をかすめる。
「うなじフェチなんだ……」
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