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ベーグルとは
ベーグルとは②
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そのまま仕事を続けるようなので、美桜もその場を離れてキッチンに向かう。
柾樹は昨日も帰りは遅かったし、朝も仕事をしてから出かけるのだ。忙しいことは間違いないのだろうから、邪魔はしたくない美桜だ。
「行ってくる」
柾樹キッチンにいる美桜に声をかける。
声を掛けられた美桜の方は驚いてしまった。
「あ……」
(お見送りしなくちゃ!)
慌てた美桜はキッチンの出口で軽くつまづいて、柾樹に抱きとめられてしまう。
広い胸は美桜が抱きついてしまってもびくともしなくて、その意外なほどの逞しさに美桜はどきんとしたのだ。
「大丈夫か?」
そっと肩を抱かれて顔を覗きこまれる。
「大丈夫です!」
どきんとした美桜は即答した。
(あ……ある意味大丈夫ではないですけども)
端正な柾樹の顔が近いから。
「すみません。あの、本当に普段はないんです! こんなこと」
言い訳とも言えないような言い訳を必死でした美桜は、柾樹が怒っていないか心配になって、そっと顔を上げた。
相変わらず柾樹に表情はないけれど、冷たくはない気がする。
昨日から柾樹の対応が違うような気がして、美桜は嬉しいけれどドキドキしてしまうのだ。
つまり、動揺しているのである。
「分かったから。慌てなくていい」
「はい」
そんな気持ちを隠して、美桜は今日は柾樹の後ろをついて玄関まで行く。
朝、出掛ける時は玄関でジャケットを羽織り、シューズクローゼットの全身鏡でスーツをチェックして出るのが、柾樹のルーティンのようだ。
スーツのボタンを留め綺麗に伸ばしてから、柾樹はカバンを手にする。
「行ってくる」
「はい。あ、柾樹さんこれを」
美桜は用意していた小さな紙袋を渡した。柾樹が小さく首を傾げる。
「ベーグルサンドです。小さくしてあるので、いつでもお口に入れられます。お時間のある時に食べてください」
要らないと言われることを実は覚悟していた。
けれど美桜のその覚悟に反して、柾樹の手は紙袋を受け取ってくれたのだ。
「あ……りがとう」
戸惑いがちな言葉と一緒に。
──受け取ってくれた。良かった……。
驚いているのか、表情がなくなってしまった柾樹に、美桜は笑いかけた。
「行ってらっしゃいませ」
「ん……」
柾樹の手が美桜の頬に触れる。
少しだけ、頬を撫でてふわりと笑った。
「行ってくる」
そう言って出かけた柾樹を、美桜はぼうっと玄関で立ったまま見送った。
柾樹が触れた頬が熱い。
──笑顔……笑ってくれた。素敵過ぎて……し、死んじゃうかと思った……。
しばらく美桜は玄関から動けなかった。
柾樹は誰よりも早く出社し、仕事を始める。
秘書からは、会社の規模からしたら社長の柾樹がそこまでやらなくても回っていくのだから定時に来てください。部下に示しがつかない。
と最近は叱られるようになった。
それでも、なんでも自分の目で確認をしないと収まりがつかないのは、性格なのだから仕方ないと思う。
確認をしながらも今日に限ってつい目がいってしまうのは、入口のキャビネの上に置いてあるモノだ。
今朝、美桜が渡してくれた紙袋である。
──ベーグル……って何だ?
パソコンの開いていた画面を閉じ、検索画面を開く。
『小麦粉の生地をひも状にのばし、両端を合わせて輪の形にして発酵させ、茹でた後にオーブンで焼いて作られる。
この製造法により、外側はカリッと焼き上げられ、内側は柔らかくてもっちりと詰まった歯触りになる。
乾燥を防げば品質は数日間保たれる。また、水分量が少ないので、冷凍保存なら家庭用の冷蔵庫でも1ヶ月程度は充分に保存できる。……云々』
パン……のようなものか。
柾樹は昨日も帰りは遅かったし、朝も仕事をしてから出かけるのだ。忙しいことは間違いないのだろうから、邪魔はしたくない美桜だ。
「行ってくる」
柾樹キッチンにいる美桜に声をかける。
声を掛けられた美桜の方は驚いてしまった。
「あ……」
(お見送りしなくちゃ!)
慌てた美桜はキッチンの出口で軽くつまづいて、柾樹に抱きとめられてしまう。
広い胸は美桜が抱きついてしまってもびくともしなくて、その意外なほどの逞しさに美桜はどきんとしたのだ。
「大丈夫か?」
そっと肩を抱かれて顔を覗きこまれる。
「大丈夫です!」
どきんとした美桜は即答した。
(あ……ある意味大丈夫ではないですけども)
端正な柾樹の顔が近いから。
「すみません。あの、本当に普段はないんです! こんなこと」
言い訳とも言えないような言い訳を必死でした美桜は、柾樹が怒っていないか心配になって、そっと顔を上げた。
相変わらず柾樹に表情はないけれど、冷たくはない気がする。
昨日から柾樹の対応が違うような気がして、美桜は嬉しいけれどドキドキしてしまうのだ。
つまり、動揺しているのである。
「分かったから。慌てなくていい」
「はい」
そんな気持ちを隠して、美桜は今日は柾樹の後ろをついて玄関まで行く。
朝、出掛ける時は玄関でジャケットを羽織り、シューズクローゼットの全身鏡でスーツをチェックして出るのが、柾樹のルーティンのようだ。
スーツのボタンを留め綺麗に伸ばしてから、柾樹はカバンを手にする。
「行ってくる」
「はい。あ、柾樹さんこれを」
美桜は用意していた小さな紙袋を渡した。柾樹が小さく首を傾げる。
「ベーグルサンドです。小さくしてあるので、いつでもお口に入れられます。お時間のある時に食べてください」
要らないと言われることを実は覚悟していた。
けれど美桜のその覚悟に反して、柾樹の手は紙袋を受け取ってくれたのだ。
「あ……りがとう」
戸惑いがちな言葉と一緒に。
──受け取ってくれた。良かった……。
驚いているのか、表情がなくなってしまった柾樹に、美桜は笑いかけた。
「行ってらっしゃいませ」
「ん……」
柾樹の手が美桜の頬に触れる。
少しだけ、頬を撫でてふわりと笑った。
「行ってくる」
そう言って出かけた柾樹を、美桜はぼうっと玄関で立ったまま見送った。
柾樹が触れた頬が熱い。
──笑顔……笑ってくれた。素敵過ぎて……し、死んじゃうかと思った……。
しばらく美桜は玄関から動けなかった。
柾樹は誰よりも早く出社し、仕事を始める。
秘書からは、会社の規模からしたら社長の柾樹がそこまでやらなくても回っていくのだから定時に来てください。部下に示しがつかない。
と最近は叱られるようになった。
それでも、なんでも自分の目で確認をしないと収まりがつかないのは、性格なのだから仕方ないと思う。
確認をしながらも今日に限ってつい目がいってしまうのは、入口のキャビネの上に置いてあるモノだ。
今朝、美桜が渡してくれた紙袋である。
──ベーグル……って何だ?
パソコンの開いていた画面を閉じ、検索画面を開く。
『小麦粉の生地をひも状にのばし、両端を合わせて輪の形にして発酵させ、茹でた後にオーブンで焼いて作られる。
この製造法により、外側はカリッと焼き上げられ、内側は柔らかくてもっちりと詰まった歯触りになる。
乾燥を防げば品質は数日間保たれる。また、水分量が少ないので、冷凍保存なら家庭用の冷蔵庫でも1ヶ月程度は充分に保存できる。……云々』
パン……のようなものか。
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