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独占欲
独占欲③
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柾樹は美桜が作った朝食を食べてくれた上に、お土産を持ってきてくれたのである。
「ありがとうございます! 頂きます」
「もらい物だからな、美味しいかは分からないぞ」
分からないものに喜ぶことが分からない、と柾樹はひっそり眉を寄せていたが、それでも、美桜には嬉しいことなのだ。
紙袋を確認すると中に入っていたのはご贈答用のゼリーだ。抹茶プリンまであって美味しそうである。
紙袋を覗き込んだ美桜はにこにこしてしまった。
「甘いものが好きなのか?」
そう柾樹に聞かれて、美桜は笑顔を返す。
「はい。あまり甘すぎるのは苦手なんですけど、これはきっと美味しいですよ! フルーツのゼリーは間違いないし、抹茶プリンも美味しそうです!」
「そうか……覚えておく」
さらりとそう言われて、ふ……と笑われて美桜は胸がきゅううっとした。
端正で整った顔立ちの柾樹だ。いつもなら冷たいくらいにその表情を変えることはないけれど、ふっと笑ったその顔がとても綺麗で美桜は胸をつかまれたのだ。
──もっと笑ってくださったらいいのに……。
柾樹はジャケットを脱いでキッチンを覗いた。
「食事、作っているのか」
「はい。……あ、颯樹さんにも柾樹さんはお忙しいから必ずしも家でお食事されるとは限らないって聞いています」
「颯樹……? あいつまた来たのか?」
「ええ。今日の夕方にもいらっしゃいましたよ」
そう言って、美桜はにこりと笑う。
「よくして頂いています」
それは、柾樹に心配をかけたくなくて出た言葉だったのだが。
「よくして……?」
「はい」
柾樹の声が低くなったのに、美桜はびくっとする。
──どうして? なにかいけなかった?
兄弟なのだから、それでいいと美桜は思っていたのだ。
顔色を変えた柾樹はつかつかっと美桜のところにやってくる。
「どうやって颯樹に取り入った?」
柾樹が美桜の腕をぎゅっと掴んだ。
冷たくて昏い瞳が美桜を覗き込んでいる。
「そんなこと……してません」
誤解はされたくない。それだけは必死で美桜は伝える。
掴まれた腕の力が思いの外強くて少しだけ痛い。
取り入るなんて……そんなことは。
さっきまで笑っていたのに、どうしてそんな風に豹変してしまったのか美桜には分からなかった。
「でも、よくして頂いているんだよな? あいつは俺とは違って優しいだろう? けど気をつけろよ? ああ見えて女性関係は割と華やかだからな」
「そんなの……っ、関係ありません!」
美桜にしてみれば自分の婚約者は柾樹なのだから、颯樹がどんな女性関係であろうとも関係ない。
そう言いたかったのだが。
「確かに……。関係ないな」
眼鏡の奥の柾樹の瞳がさらにすうっと冷たくなった。
──颯樹の女性関係が華やかだろうが、柾樹には関係ない。だって美桜と柾樹は関係がないのだから。
そんな風に柾樹は美桜の言葉を受け取ってしまっていたのだ。
「けど残念だな。美桜の婚約者は俺なんだよ」
「承知しています」
どうして? 美味しいって言ってくれたのに、ありがとうっていってくれたのに、残念な訳がない。
柾樹は美桜にとってたった一人の大事な婚約者なのに。
「ありがとうございます! 頂きます」
「もらい物だからな、美味しいかは分からないぞ」
分からないものに喜ぶことが分からない、と柾樹はひっそり眉を寄せていたが、それでも、美桜には嬉しいことなのだ。
紙袋を確認すると中に入っていたのはご贈答用のゼリーだ。抹茶プリンまであって美味しそうである。
紙袋を覗き込んだ美桜はにこにこしてしまった。
「甘いものが好きなのか?」
そう柾樹に聞かれて、美桜は笑顔を返す。
「はい。あまり甘すぎるのは苦手なんですけど、これはきっと美味しいですよ! フルーツのゼリーは間違いないし、抹茶プリンも美味しそうです!」
「そうか……覚えておく」
さらりとそう言われて、ふ……と笑われて美桜は胸がきゅううっとした。
端正で整った顔立ちの柾樹だ。いつもなら冷たいくらいにその表情を変えることはないけれど、ふっと笑ったその顔がとても綺麗で美桜は胸をつかまれたのだ。
──もっと笑ってくださったらいいのに……。
柾樹はジャケットを脱いでキッチンを覗いた。
「食事、作っているのか」
「はい。……あ、颯樹さんにも柾樹さんはお忙しいから必ずしも家でお食事されるとは限らないって聞いています」
「颯樹……? あいつまた来たのか?」
「ええ。今日の夕方にもいらっしゃいましたよ」
そう言って、美桜はにこりと笑う。
「よくして頂いています」
それは、柾樹に心配をかけたくなくて出た言葉だったのだが。
「よくして……?」
「はい」
柾樹の声が低くなったのに、美桜はびくっとする。
──どうして? なにかいけなかった?
兄弟なのだから、それでいいと美桜は思っていたのだ。
顔色を変えた柾樹はつかつかっと美桜のところにやってくる。
「どうやって颯樹に取り入った?」
柾樹が美桜の腕をぎゅっと掴んだ。
冷たくて昏い瞳が美桜を覗き込んでいる。
「そんなこと……してません」
誤解はされたくない。それだけは必死で美桜は伝える。
掴まれた腕の力が思いの外強くて少しだけ痛い。
取り入るなんて……そんなことは。
さっきまで笑っていたのに、どうしてそんな風に豹変してしまったのか美桜には分からなかった。
「でも、よくして頂いているんだよな? あいつは俺とは違って優しいだろう? けど気をつけろよ? ああ見えて女性関係は割と華やかだからな」
「そんなの……っ、関係ありません!」
美桜にしてみれば自分の婚約者は柾樹なのだから、颯樹がどんな女性関係であろうとも関係ない。
そう言いたかったのだが。
「確かに……。関係ないな」
眼鏡の奥の柾樹の瞳がさらにすうっと冷たくなった。
──颯樹の女性関係が華やかだろうが、柾樹には関係ない。だって美桜と柾樹は関係がないのだから。
そんな風に柾樹は美桜の言葉を受け取ってしまっていたのだ。
「けど残念だな。美桜の婚約者は俺なんだよ」
「承知しています」
どうして? 美味しいって言ってくれたのに、ありがとうっていってくれたのに、残念な訳がない。
柾樹は美桜にとってたった一人の大事な婚約者なのに。
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