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食事は柔らかな消化の良いものばかり用意してもらっていた。それでも、食べると元気になり、疲れた身体の回復に役立った。そして、着替えを用意してもらい、着ていた服を洗濯してもらった。服が乾くまではこの村に滞在することになる。まあ、明日には出立できるだろう。
大商人シュブラースカを探すにあたって、今から海に行っても会えるとは限らない。どこを探せば良いのだろう。そんなことをカルと二人で話していたら、セシルさんが割って入った。
「今からだと……王都エレクサーラで大きな市場が開かれるのに間に合うんじゃないかしら? 大商人さんならきっとその市場で稼ぐつもりのはずよ」
王都エレクサーラとは、この村から三日ほど歩けばたどり着ける、ラルファリオの首都である。この国では基本的に首都とは呼ばず、王都と呼んでいる。国王が居住する城のある大きな街だという。私は行ったことがないが、景色が美しいと有名な街だ。
「そうか。エレクサーラの大収穫祭が近いのか。確かにそこならシュブラースカもいるかもしれない」
セシルさんの発言にカルが同意した。私もうなずく。セシルさんがいてくれて良かった。きっとカルと二人きりではこんな考えは浮かばなかったと思う。エレクサーラの大収穫祭とは、ラルファリオ国内外から集まった商人たちの市場が開かれる大きな祭りだ。私の父も何度かその市場に行って、珍しいものを買い付けてきたと言っていたのが、幼心に残っている。そういえば、その市場だったかもしれない。天馬琴はそこで入手したのではないだろうか。もう父はこの世にいないので真相は闇の中だが。
「よし、じゃあ、エレクサーラを目指そう。明日出発で良いかな?」
私が言うと、カルはうなずいたが、セシルさんは何か言いたげにしていた。
「セシルさん、何か?」
私が訊くと、セシルさんはおずおずと言った。
「明日旅立つ前に……ひとつだけお願いがあるのです」
遠慮がちにそう言うセシルさんに、いくらでもどんなことでも応えるつもりでいた。私もカルも、充分にセシルさんにお世話になった。たとえ難しいことだろうが応えたい気持ちはある。
「何でしょうか?」
「吟遊詩人のディンさんに歌を聴かせてほしいのです。その天馬琴で」
そういえば、吟遊詩人とは名乗ったが、セシルさんに歌を聴かせるようなことはしていなかった。そんなお願いならいくらでも聞こう。私の唯一の特技だ。披露しない選択肢はない。
「もちろん、お安い御用です。どんな歌がご希望ですか?」
「あ……では、民族歌謡を。どこの国の歌でも構わないので」
「了解です。では……」
と、私が天馬琴を持とうとすると、セシルさんが止めた。
「今ではなく、夜でお願いします。村の皆さんを呼ぶので」
嫌な予感がよぎる。もしかして、私が予想するより大々的なものになるのではないだろうか。
私は夜に備えて、リューシンに喉に効く薬湯はないかと訊きに行った。
* * * * *
大商人シュブラースカを探すにあたって、今から海に行っても会えるとは限らない。どこを探せば良いのだろう。そんなことをカルと二人で話していたら、セシルさんが割って入った。
「今からだと……王都エレクサーラで大きな市場が開かれるのに間に合うんじゃないかしら? 大商人さんならきっとその市場で稼ぐつもりのはずよ」
王都エレクサーラとは、この村から三日ほど歩けばたどり着ける、ラルファリオの首都である。この国では基本的に首都とは呼ばず、王都と呼んでいる。国王が居住する城のある大きな街だという。私は行ったことがないが、景色が美しいと有名な街だ。
「そうか。エレクサーラの大収穫祭が近いのか。確かにそこならシュブラースカもいるかもしれない」
セシルさんの発言にカルが同意した。私もうなずく。セシルさんがいてくれて良かった。きっとカルと二人きりではこんな考えは浮かばなかったと思う。エレクサーラの大収穫祭とは、ラルファリオ国内外から集まった商人たちの市場が開かれる大きな祭りだ。私の父も何度かその市場に行って、珍しいものを買い付けてきたと言っていたのが、幼心に残っている。そういえば、その市場だったかもしれない。天馬琴はそこで入手したのではないだろうか。もう父はこの世にいないので真相は闇の中だが。
「よし、じゃあ、エレクサーラを目指そう。明日出発で良いかな?」
私が言うと、カルはうなずいたが、セシルさんは何か言いたげにしていた。
「セシルさん、何か?」
私が訊くと、セシルさんはおずおずと言った。
「明日旅立つ前に……ひとつだけお願いがあるのです」
遠慮がちにそう言うセシルさんに、いくらでもどんなことでも応えるつもりでいた。私もカルも、充分にセシルさんにお世話になった。たとえ難しいことだろうが応えたい気持ちはある。
「何でしょうか?」
「吟遊詩人のディンさんに歌を聴かせてほしいのです。その天馬琴で」
そういえば、吟遊詩人とは名乗ったが、セシルさんに歌を聴かせるようなことはしていなかった。そんなお願いならいくらでも聞こう。私の唯一の特技だ。披露しない選択肢はない。
「もちろん、お安い御用です。どんな歌がご希望ですか?」
「あ……では、民族歌謡を。どこの国の歌でも構わないので」
「了解です。では……」
と、私が天馬琴を持とうとすると、セシルさんが止めた。
「今ではなく、夜でお願いします。村の皆さんを呼ぶので」
嫌な予感がよぎる。もしかして、私が予想するより大々的なものになるのではないだろうか。
私は夜に備えて、リューシンに喉に効く薬湯はないかと訊きに行った。
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