追放された異世界勇者 ―地球に転移しインチキ霊能者になる―

かーる

文字の大きさ
48 / 54

第48話 伝承霊15

しおりを挟む
 大丈夫や、ちゃんと許可取ったし……
顎が外れんばかりに驚愕している九条の顔を見ながら俺は冷や汗を流していた。
流石にやりすぎだっただろうか。
でも、全部壊すの面倒だったし、これが一番確実だったんだ。
そうさ、これは正当性のある行為だったはずだ。
そうやって自己肯定をしているとようやく目の前の現実を九条は受け入れられたようだ。

「い、勇実さん、これは一体何が……?」
「――どうやら、この屋敷の根深い所まで区座里の置いた呪具が根付いていたようで、祓ったらそのまま……なんというか」
「消えた、と?」


 九条はゆっくりと立ち上がり周りを見渡す。
近くにあった森がよく見え、風が頬を撫でてくる。
とても屋内にいる光景とは思えない。
っていうか、もう屋内ではないか。


「……あ、ああ。いえ、正直驚いていますが、これで霊は?」
「ええ。それは安心して下さい。もうご子息は無事ですよ」
「それは本当ですか?」
「安心せい、勇実殿の言う通りだ」

 するとボロボロになった様子の大蓮寺が牧菜に肩を借りてこちらに歩いてきていた。
というか大丈夫だろうか、結構重傷じゃないか?
残念ながら俺は回復魔法が使えないからな……流石にチョコボールじゃポーションの代わりにもならんし。

「大蓮寺さん、身体は大丈夫ですか?」
「君のお陰だ。礼を言わせてくれ。まさかこんな短期間に二度も命を救われるとは思いもせんかったぞ」
「私からもお礼を言わせて下さい。勇実さんがいてくれたお陰で、何とか命を拾う事が出来ました」

 そういうと大蓮寺と牧菜はゆっくりと頭を下げてきた。

「しかし、この屋敷の様子はどうなっているんだ? 遠目からは凄まじい力と光の柱が立ち上っているのが見えたが……」
「あれは勇実さんが区座里が放った呪いを祓った際の光のようです」
「そうでしたか、九条殿も無事でよかった。……そうだ、区座里は!?」
「あちらを」

 九条の視線を辿り大蓮寺は区座里の死体を見る。
おびただしい血がひびだらけの廊下を赤く染めている。

「勇実殿、区座里の最後を聞いても?」
「分かりました。……まぁあまり気持ちのいい話じゃないですけどね」
「それでもだ」



 空が茜色に染まり始め、日が傾き始めていた。
先ほど大蓮寺に区座里の最後を説明した。
もっとも俺自身も分かっていない事が多いため、どこまでが大蓮寺の求めていた説明になったのかは分からない。
だが、俺の拙い説明を聞いて大蓮寺は何かを納得した様子だ。

「さて、九条殿。これからの事ですが、まずは警察を呼ぶべきでしょう」
「ええ、流石に建物が倒壊し、人死にが出ていますからね。幸い私には警察に伝手もあります。こちらかうまく説明しておきますよ。当然大蓮寺さん、勇実さんにご迷惑が掛かるような事には致しませんので安心して下さい」
「結構です。念のため皆さんにこれを渡ししておきます、生須あれを渡してくれ」
「はい、先生」

 すっかりと外面になっている牧菜が九条夫妻に何かを渡している。
白い封筒が3つ。中に何が入っているんだろうか。
とりあえず、チョコボール食べよう。腹減ったわ。

「大蓮寺先生、これは?」
「特製の護符です。念のためしばらくはそれを持っていて下さい。弱い霊であればそれが近くにあれば簡単に封印できます。3人分ありますのでとりあえず一ヶ月は持っていてくだされ」
「何から何までありがとうございます。そして勇実さん」

 ぬ、急に名前を呼ばれて少し驚いた。
どうやらチョコボールを食べている場合ではないようだ。
何やら牧菜の食い入るような視線も感じる。ふっ欲しいようだがやらんよ。
これは俺の非常食なのだからね。

「はい、なんでしょうか」
「貴方のお陰で息子は助かりました。本当にありがとうございます。謝礼は田嶋さんより指定の銀行口座を聞いていますのでそちらに振り込ませていただきます」
「はい、わかりました。ありがとうございます」

 ん? そういや今回の謝礼はいくらなんだろうか。
田嶋からは2本は堅いと言われている。という事は20万円にプラスして討伐数という感じなのかな。
八尺様の討伐は大蓮寺でいいとして、俺はあのリンフォンって奴か。
1体2万円として、22万は貰えるかな。いや、最後に結構な数の霊もいたし、もう少しプラスしてくれるかもな。
くくく、いいぞ。これならもう少し蔵書を増やしても問題ないようだ。

「太陽ッ! 大丈夫?」
「ッ! 気づいたか!?」


 どうやら少年が目を覚ましたようだ。
一度はあのリンフォンの地獄に飲まれたからな。確かに少し心配か。
どれ、恒例のハッタリ魔法でも使っておきますかね。
俺は九条夫妻と起きたばかりの少年の近くまで行き、両手を軽く叩く。
なんか発光しているだけという雰囲気魔法を発動させた。

「こ、これは!?」
「なんという温かい光……」
「――驚いたの」
「やはりあの黒い物は何かの秘薬……?」


 一部良く分からない声も聞こえたが無視しよう。

「これは勇実さんが?」
「はい、基本祓う事が専門ですが、弱い霊ならこれで祓う事も出来るので、一応使っておこうかと思いましてね」

 実際は何の効果もない。
何か光ってるだけの雰囲気がカッコいいだけの魔法だ。
まぁ演出って大切だしさ。

「おにいちゃん?」

 少しずつ目の焦点があって来たようだ。
タイミングがいい少年である。後でチョコボールを上げよう。

「よかった、太陽。もう大丈夫だからね」
「……ママぁ、こ、怖かったよぉッ!!!」

 そうして静かに泣き始める少年。
そうか、ずっと感情を表に出さない子だと思っていたが我慢していたんだな。
男の子だな、多分親御さんに気を使っていたのかもしれない。強い子だ。

「さて、勇実殿。牧菜にタクシーを2台呼ばせておる。それが到着次第、一度街に戻るとしよう。九条殿達は念のため一度病院に行った方がよいだろうからな」
「それは大蓮寺さんもでしょう?」
「はっはっは。この程度で済んだのは勇実殿のお陰だ。本当に感謝しておるよ。何かあればいつでも頼ってきてくれ。君は間違いなく命の恩人なのだからな」
「……はい」


 なんだろうな。最近は慣れてきたと思っていたけど、やはりこうしてお礼を言われるのはどうも照れる。
でも、こういう気分になれるなら、やはり人助けもいいものだ。
まさか、勇者をやめてからそういうのに気づくとは思いもしなかった。


「先生、後30分で到着する予定です」
「そういう事だ。さて、タクシーが来るまで儂も少し休ませてもらうかな」

 そうだな。タクシーが来るまでもう少し……



「――ん? タクシー?」



 背中に汗が流れるのを感じる。
心臓が跳ねるように鼓動し、呼吸が浅くなるのを感じる。
落ち着け、俺は成長したはずだ。
たかがタクシー、笑って乗りこなせるはずだ。
そうさ、ちょっと近くの自動販売機でコーラか紅茶でも買えば……


 周りを見る。
元々綺麗だった庭はまるで台風が来たかのように荒れ果てている。
屋敷は僅かな壁だけを残しそれ以外は何もない。
そう、本当に何もないのだ。
あるのは美しい木々であり、山の風景などだ。




 ふぅ、走って帰るか。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...