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012 ソリスとルーン

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 仲間を二人集めなければならない。俺はランク1だから恐らくランク2以上には見下されてしまって話にならない。適正ランクが3なのだから、欲を言えば3以上の冒険者と組みたかったが……。

「えぇ……なんだその条件。怪しすぎる! 俺は大人しくゴミ拾いにすらぁ!」
「そうか……そうだよな」

 同ランクの男に声を掛けたが断られる。依頼書を見せるとみんなこうやって断ってしまう。これで六連敗目。そもそも俺にとって話しかけることにすらハードルがあるのだから、これでもかなり頑張った方だ。

「ソリスとルーンが帰ってきたぞ……!」

 誰かがヒソヒソと、しかし周囲にしっかり聞こえる声で言った。ギルドメンバー一同は入り口の扉を見る。
 周囲が自然に距離を取る二人組がいる。赤く燃えるような髪の美少女。18歳程度だろうか。腰に差した剣やその他装備が、歩く度にジャキジャキと音を鳴らしている。見るからに剣士と言った風貌で、その出で立ちもかなり堂々としている。
 その一方後ろを歩く、同年代と思われる白髪の美少年。夜に溶けそうなローブとは対照的に明るい髪は、白と言うより銀に近い髪色に見えた。少女とは対照的に、背丈ほどの杖を持ちビクビクと周りの様子を窺いながら歩いている。

「おかえりなさいませ、ソリス様」
「これ、依頼のやつね。キメラの翼50対! ちゃんとあるけど確認よろしくー!」

 二人は真っすぐ受付へ行く。ソリスと呼ばれた少女が袋を置くと、重い響きを周囲に伝える。その内の一枚を従業員が持ち上げると、その大きさにこちらも目を丸くして見てしまう。
 凡そ50センチほどの大きな翼。それもがっしりとした骨格に重そうな羽がついている。これを50対……?

「さーてルーン! 次の依頼行くわよー」

 ソリスが受付からこちらへやって来る。それを察したメンバーたちは蜘蛛の子を散らしたように、その場から離れていく。

「え……待ってよ。帰ったら一度休むって言ってたじゃないか!」
「連続で行けそうなんだもん。アンタだって魔力まだまだ平気でしょ?」
「魔力は平気だけど体力は限界だよ! 歩き疲れたよ!」
「大丈夫よ。あんた練術の使い手だし」
「使い手じゃないよ僕なんか! とにかく休もうよ!」

 ルーンと呼ばれた少年が首を振るが、ソリスは構わず依頼書を眺める。
 首にかかるプレートからランクが3と窺えた。ランク3に、何故ギルドメンバーはこんなにも露骨に避けるんだ……?

「しけてるわねぇー……これなんて報酬5万ゴールドしか出ないわよ。二人で分けても4万と1万じゃない」
「不公平にもほどがある! 僕が1万か!?」
「そりゃそうでしょ。ルーンの出番はいつもほとんどないし、戦ってるのはア・タ・シ・だ・け。あーあー、ルーンの手が欲しい程難易度高い依頼ないのかしらねー。平和すぎるのも考えもの……ってアンタ何見てんのよ」
「え」

 ソリスがこちらを見る。既に剣を抜いている。嘘だろ! いつ抜いた!? っていうか好戦的すぎる!!
 ギルドメンバーが離れていくのも理解できる! 拳での喧嘩ならともかく、目が合っただけで剣抜いてくる奴と争いたくないよな!

「いや、ごめ、俺今日からなもんだから君のことよく知らなくて――」
「ランク1の癖に依頼書なんか持って生意気ね。しかもこれ、適正ランク3じゃないの! 命知らずねー!」
「ソ、ソリスやめてあげてよ。彼びっくりして固まってるよ」

 ルーンの言葉で俺は我に返る。今、ソリスは剣の間合いの外にいた。しかし俺の言葉の途中で、俺の持つ依頼書を奪い取っていた。
 何が起きたか理解できない。もう一度言おう。気が付いたら間合いの外の女が、俺の手から依頼書を奪い取っていた。
 理解する前に頭が思考を止めていた。

「……なるほど、なんかややこしい条件書いてんのね。三人以上必要だから、ここでこうやって健気に人を集めようとしてたわけね。で、何人にも断られて惨敗中。えーん誰か僕とデートしてよーってところかしら?」
「あ、えーと」
「ルーン!」
「嫌だ!!!!」

 右手に剣、左手に依頼書を読みながらこちらを罵倒する美少女。妙に絵になるのが何とも言えない。
 ソリスがルーンの名前を呼ぶと、彼は要件よりも先に拒絶した。

「まだ何も言ってないわよ」
「わかるよ! 彼の依頼を手伝おうって言うんだろ! い・や・だ!」
「依頼も見ずになーに言ってんのよ。ほらこれは――」
「読まなくたってわかる! 危ない匂いがするんだろ! ソリスの目を見ればわかるんだよ!! ――ああ待って! 受付に行かないで!!」

 ルーンの言葉に目を向けてみると、なるほど確かに彼女の目が輝いている。こちらを睨んでいた時の光のない冷たい目とは大違いだ。
 ……ん? これほっといたら俺の同行者勝手に決められる?

「ソリス様とルーン様がこちらの依頼にご同行されるのですね。かしこまりました。ではこちらの腕輪を」
「ほい」
「嫌だって! 危ないんだもん! なんでそこの君もこんな依頼書持って立ってたんだ――イデデデデデ!」

 ソリスは既に俺と同じ腕輪を付けている。少年が俺に抗議しようとするが、少女にその手を引かれ……引きちぎられかけながら腕輪を付けられていた。
 ……うん。これ同行者決まっちゃったな……。どうしよう、やり直そうかな……。

「アンタ、名前と歳は」

 思案していた俺の視界いっぱいにソリスの顔面がある。年甲斐もなく一瞬ドキリと心臓が跳ねる。……いや今は15歳だから年相応か。
 彼女がぶっきらぼうに訊ねるので、俺はゆっくりと顔を引きながら答える。顔が近い、背が高い。俺は今165センチくらいだ。彼女は170はあるか。

「リドゥ……リドゥール・ディージュ。15歳だ」
「年下ね! アタシはソリス・パッシオ。んで白髪のコイツがルーン・ティミドゥス。二人とも17歳でアンタより年上よ。まあまあこのウルトラ最強ス―パーセクシーのソリスお姉さんが手伝ってやるから、大船に乗ったつもりでいなさい!」
「君は確かにスタイルは美しいよ。腰が細くて足もすらっとしてて。でも胸ないからセクシーではないよね――ぶげらぁ!!」

 ルーンが吹っ飛んだ。近付いて分かったが彼も相当背が高い。他人に対してオドオドしているように見えたが、ソリスに関してだけは態度が違って見える。昔からの仲間なのだろうか。
 裏拳で男を吹っ飛ばしたソリスは、その手を軽く払うと俺の方に突き出してきた。

「え?」

 次は俺をぶっ飛ばすのかな……。

「え? じゃないわよ握手よ握手。一時的にチーム組むんだから。あとアタシは意外と気が短いからほんとにぶっ飛ばすわよ」
「心を読んでる!?」
「顔に出てんのよ。早くなさい」

 ぎゅ、とソリスが俺の手を取って握手する。歳相当の柔らかさに、またもドキリとしてしまう。
 彼女はよろしく、と告げて微笑んだ。その姿に、俺は冒険者らしい態度を見た。格好良くて、美しくて、見惚れてしまう。

「よろしく……」
「ぼ、僕も握手しよう。あの、ソリスは本当に気が短いから気を付けて――ほぐぁ!」

 よろよろと手を重ねたルーンだったが、またもどこかに吹っ飛んだらしく俺の視界から消えた。
 天井から呻き声が聞こえたが、恐らくこのギルドは事故物件か何かなんだと思う。というか笑顔のままのソリスが怖くて俺は目を逸らすことすら出来なかった。


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