Re Do 〜やり直しの祝福を授かった俺は英雄を目指す人生を歩みたい。あわよくば勇者より先に魔王を倒したい〜

アキレサンタ

文字の大きさ
16 / 92

016 ソリス、死す

しおりを挟む

「ソリス! ルーン! 俺が引き付けるからその隙に攻め込んでくれ!」
「無茶だ!」
「アンタには無理よ!!」

 幾度目かのセリフ。俺は重い剣を構えてネメアの元へ走る。何度も経験した通り、爪が俺を襲う。体をひねって避けると、奴の巨大な瞳が俺を捉えて口元を歪ませる。俺は更に剣を爪へ向ける。

「うおおおおおおおおお!!」

 声を上げて俺は剣を立てる。
 爪を押し込んで避けようとするな! 剣が折れていく時の感触を思い出せ、あの方向では駄目だ! 刃を立てたまま、ソリスのアドバイス通り爪の根元へ向かって剣を押し込め!
 激しい力により押し込められそうになるが、なるほどこの方向なら俺も爪の間に体をひねり込める。爪と剣の力が拮抗して、俺の後方へ凶器の刃が流れていく。奴の爪が地面に突き刺さると、俺の体は無傷でその場に立っていた。

「まさか……!」

 ルーンが驚いて目を見開いている。俺がやられたときには毎回このタイミングで魔法を撃ってたはずだが、避けきるとこういう風に行動が変わるのか。その代わり、ソリスが俺を助ける動きをやめている。剣を振りかぶったまま、ネメアの後方から凄まじい勢いで飛んで来ている。流石ソリスだ。判断が早い。
 彼女はこの機を見逃さない。遅れてルーンの雷撃がネメアに到達するが、片方の手で薙ぎ払われる。しかしもう片方は地面に突き刺さったままだ。
 つまり、今ならソリスの攻撃が通る。

「よくやったわ! リドゥ!!」

 彼女は口の端を大きく引き上げて笑い、ネメアへ斬撃を繰り出す。首を落とそうと狙ったらしかったが、猫特有の身体能力でそれを避ける。いや、それすらも彼女は見越していたのだろうか。
 ネメアの耳が宙を舞う。

「やっと一撃!」

 俺は歓声のように叫んだ。
 ネメアは悲鳴にも雄たけびにも似た声を上げる。明らかにダメージが入ったのは初めてだ。俺はすかさず距離を空けて二人の邪魔をしないようにする。

「ソリス、このまま捕獲しよう!」
「そうね!」

 よし、捕獲だな! この調子なら確実に捕獲出来るはずだ! だってさっきはもう少しで首を落とせそうに……ん? 捕獲??
 俺は根本的なことを失念していた。

「捕獲ってどうやんの!?」
「傷の概念そのものであるネメアが傷を負ったら、自身の能力が自分にも及んでしまう。その時に初めてネメアは能力解除と回復動作に入るんだ。そこを狙って呪文を唱えればいい!」
「呪文だな。ってことはルーンが行くのか!」

 俺がそういうとルーンは首を横に振った。ってことはソリスだろうか、と彼女に目をやると彼女も首を振っている。二人が俺を指さしている。…………え?

「いいかいリドゥ、僕とソリスは警戒されていて近くにいると回復動作に入らない。だから僕らで攻撃を加え続けて、チャンスが来たら手を止める。ヤツの回復動作は精々十秒程度だ。そのタイミングでしか呪文は有効じゃない」
「え、でも俺魔法なんて使えない」
「大丈夫よリドゥ。耳元で命令するだけだから。口裂け女にポマードと叫べば逃げるのと同じ理論よ!」

 ……その例えはどうだろう。
 言い終えると、二人は各々攻撃を仕掛ける。二人が攻撃の手を休める十秒間を狙って、俺は飛び込まなければならないのか。

「よし……」

 タイミング勝負なら大丈夫だ。何度かやり直せば成功する。
 ネメアが森を駆け抜ける。ルーンが氷の槍を放ち、ソリスがその背に斬りかかる。猫はギリギリでそれらを避けていくが、足取りは遅い。傷の痛みが尾を引いているんだ。やがて立ち止まると、二人を迎え撃つように向き直った。
 猛攻が繰り広げられる。

「リドゥ、今だ!」
「行きなさい!!」

 俺が二人に追いつくと、攻撃の手が休まった。ネメアもそれを察して丸くなっていく。回復体制に入った!
 残り九秒。俺はまだネメアに到達しない。
 残り六秒。俺はその黒い体に触れる。
 残り五秒。とにかく毛を掴んでその巨体を上る。
 残り四秒。登れ、上れ、昇れ! とにかくヤツの耳元へ!
 残り三秒。俺は耳を引っ掴んだ。
 残り二秒。俺は叫ぶ――――

「――――なにを?」
「伝え忘れてたああああああああああああああ!!!!!」

 一秒、〇秒。ネメアは再び起き上がる。俺は掴まりきれず振り落とされた。耳が再生している。その大きな瞳は、より明確な殺意を持って俺を睨みつけている。
 ネメアが俺へ向けて牙を向ける。俺は見る。打開策を探せ、やり直しは間に合わない。今この瞬間を生き延びろ! 頭にかぶりつかれたら終わりだ。目を潰されても終わりだ。両腕を食べられるわけにはいかない。なら、足を犠牲に即死だけは免れるべきか……! あの痛みの地獄を俺は今から負うぞ! 負うからな!! やっちまうからな!!!
 黒い瞳孔が俺を映し、恐ろしく巨大な牙が俺に迫る。思わず目を瞑る。

「リドゥ!」

 ぐちゅり、と肉が裂ける音がした。だが、俺に訪れた感触は柔らかな抱擁。牙の鋭さも、擦り下ろすような舌でもない。柔らかで温かな感触。
 ゆっくりと目を開く。

「ソリス――――!!」

 ソリスがそこにいた。俺を庇うように抱きしめていた。腰から下は無くなってしまっている。その惨状に思考が硬直する。
 何故? 何が起きた? 何故ソリスがここにいる? 何がどうなって――俺は生き残って――????
 動悸が激しくなる。落ち着け。落ち着け。やり直せばいいんだ。今すぐやり直せば――どこから――どうやって――やり直してどう打開する――?

「ごめん、ね。リドゥ。アタシたちが忘れちゃってた」
「ハァ……ハァ……! ハァ、ハァ……!!」
「覚えなさい、リドゥ。呪文は――――」

 彼女の痛みは想像を絶する。食いちぎられた感触が今もなお襲い続けているはずだ。それなのに、彼女は俺を庇っている。俺のことを気にかけ続けている。
 手が震える。
 ネメアの追撃がやって来る。
 爪がソリスを貫く。
 俺の指が宙をなぞる。
 ソリスの血が俺の腹部を濡らす。
 爪が俺の腰を削る。激痛が襲い来る。襲い続けてくる。
 俺は絶叫した。

「ァ――――ッッッ!!!」

 声にならない叫びのまま、更に指が宙にゆれる。俺にしか見えていない、青い景色。その中の黒い猫の姿。触れる。
 光が溢れる。

「ネメア!! プローネ!!!!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。

リョウ
ファンタジー
 何者かになりたかった。  だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。  そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。  導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。  冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。  目指すのは、ただ生き延びることではない。  一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。  渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...