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047 魔炎に魅入られし者
しおりを挟む砂埃が晴れる。演習場に俺とブリー、向こうの方で対戦している二人の計四人の姿が明らかになる。
「リドゥ!!」
ソリスとルーンが俺を呼んでいる。異変に気付いたのはあの二人だけだ。観客たちはブリーのオーラを新種の闇魔法か何かだと思っているらしく、歓声と拍手が響く。
俺はブリーの体に思いきり刃を立てる。魔炎を纏った人間に手加減なんて出来ない。こいつ、昨日と全然雰囲気が違うと思ったら、どこかで魔炎に魅入られていたのか!
「二人は来ないでくれ! 失格になっても癪だ! こいつは俺だけでどうにかする!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! アスラの時であんなに大変だったのよ!」
そうだ。実際俺のせいでソリスは一度その命を落としている。
だけどあれはアスラだったからとも言える。女神の神託者だったアスラだからこそ、あれだけ手強かったのではないかと。
「大丈夫、任せてくれ――」
俺の呟きは恐らく二人には聞こえていない。だが彼らが席を立ち俺に加勢する様子もない。俺に任せる判断をしてくれたようだ。
俺は魔炎に覆われたその胴体を斬り付けようとするが、ピクリとも動かない。練術の乗ってない刃じゃこんなものだろうな。
「――練術」
刃が光り輝く。膨大な自然エネルギーと俺の気が循環を織りなす中に、その剣がなんとか交わった状態。
金剛剣。これなら!
「リ……ドゥール……リドゥールァアッ!!
「!?」
ブリーが大槌を、自身の体をも破壊せんばかり勢いで振る。背後から迫る凶器を避け、俺は上空へ跳ぶ。
その流れのままブリーの体に大槌が叩き付けられる。だが、奴の直前。魔炎に触れただけでその動きがピタリと止まる。
なるほど、魔炎の使い方が上手いな…。さっきの俺の剣もそうだが、魔法も練術も通っていない武器はそんな風になるのか。
「リドゥールァァア!!!」
ブリーは俺の落下地点に回る。俺たちがアスラに再三した行動だが、この攻撃は苛立たしい。
俺は空中制御に自信はないんだ。だからと言って黙って降り立つつもりもないが。
「練術――」
剣を右手に預け、左手に気を集中。以前アスラに押し当てたような光球が左手に出現する。
それを更に圧縮。落下地点にいるブリー目掛けて放出する。高めた気を放出する技術、練波と呼ばれるその技を。今は圧縮している為、光り輝く巨大な筋となる。
「――煌々練波!!」
左手から光線が飛ぶ。ブリーはそれを大槌で受け止めようとする。勢いに押されて奴の体がジリジリと後方に流れていく。
直に俺は落下するが、そのまま練波を放ち続ける。周囲から更に歓声が上がる。今度は新手の光魔法に見えているらしい。
ブリーの武器に魔炎が纏わりつく。練波は勢いを落とさず放出され続けるが、ブリーに明らかに余裕が出来ている。
「くそ……!」
「リドゥール……リドゥールァ!!!」
ブリーが武器で練波を受けたままこちらへ駆けてくる。俺は左手の攻撃を止め、再び金剛剣を作り出す。
黒い大槌と黄金の剣が混じる。雷が空を割るよりも大きく、耳をつんざくような音が響く。それほどお互いの力にエネルギーがあるということか。
一度鍔迫り合いから飛び離れて体勢を整える。
「金剛剣だけじゃ足りないか……!」
俺は辺りを見回す。魔法が必要だ。俺一人の力ではやはり魔炎は打ち払えない。
ルーンはダメだ。部外者の補助は失格となってしまう。なら対戦相手からどうにか受け取るしかないが、ブリーも魔法は使えない。
「……そうだ」
思い立った俺は走る。ブリーが追って来て武器を振る。俺はそれを受け流しながらどんどん退いていく。
いいぞ、悪くない。
「うわぁ!? お前ら邪魔すんな!」
「……なるほど、これは面白いなぁ」
別トーナメントの二人の元へ乱入する。魔法が飛び交っているのは向こうの方からでも見えていた。
二人がそれぞれ俺たちへのリアクションをする。明らかに劣勢に見える魔術師の格好をした男がこちらに詰め寄る。
「お前らが乱入したせいで俺が負けちまうだろうが! こんなもん無効試合だ!」
なるほど、負けかけていたからこれに乗じてやり直そうとしてるわけだな。悪くない手だと思うが、生憎俺はブリーの攻撃を捌くので手一杯だ。
そうするともう一人の対戦相手の青年が手を上げて審判に訊ねる。
「すみまっせーん。こういう場合、他の組み合わせ相手を倒しても問題ないんすかー」
問われた審判と俺たちを追ってきたもう一人の審判が話し合っている。
早くしてくれ、ブリーの手を防ぐのもあまり長くは持たない。訊ねた青年が彼らの元へ行き、頷いている。
「なるほど、この中から二人が勝てばそれでいい、と……」
青年はニヤリと微笑み、俺たちを一周眺める。……吟味しているのか。誰を倒して誰を残すか。
それが出来るほど、彼は自身の力を確信しているようだった。
「ねーそこのボクー。キミ、わざとこっちに来たんだろー? もしかしてオレの力借りに来た?」
青年はブリーから逃げ回るフリをする俺を指さして訊ねる。
鋭い。
彼は今の一瞬で全てを察したんだ。俺が一人の力ではブリーを倒せないこと、どさくさに紛れて魔法でどうにかしようとしていること。それを踏まえて、俺の反応で何かを決めようとしている。
俺はなんとか頷くと、彼は満足そうにうんうん唸る。
「オレはアヅイェ・トイラクシ。アヅって呼んでくれて構わないゼ」
「俺は、リドゥール! リドゥだ!」
ブリーの攻撃が激化する。魔炎の攻撃を金剛剣で受けると、再び耳を割る音が響く。アヅの対戦相手だった男は既に戦意を喪失してしまったらしく、耳を押さえて蹲っている。
アヅは平気そうだ。むしろ心地よさげに耳を傾けて鼻歌まで歌っている。
「リドゥ。リドゥねー。そっちの魔炎まみれの男より、キミの方が面白そうだからキミを倒すのも悪くないかな」
「!?」
俺は目を見開く。
魔炎を知っている。俺と戦いたがっている。二つの衝撃で俺の脳は一瞬フリーズしかける。
いや、困る! 俺はブリーで手一杯なんだ! 今攻撃されたら……!!
「いや、いいのか」
俺は少し考えてから呟く。
そう、元々そのつもりで来たんだ。俺に魔法を当ててくれれば万々歳なんだ。
「アヅ! わかった! 俺に攻撃してくれ!」
「おや、オレの攻撃はキミの希望通りなのか。いいゼ、魔法をくれてやるよ」
「で、出来ればライトニングとか! フレアは勘弁してくれ!」
アヅがニヤリと笑う。彼の持つ短い杖の先が光る。
色は……赤じゃねえか!!
「フレア!!!」
「うぉ……ッ!!」
ルーン並みの強烈な火炎魔法が俺を襲う。
俺はブリーから離れて跳び退くと、追って来るその魔法を剣で受ける。
金剛剣状態なら、なんとか……出来なくもない、はず……!
「ぐぁああああ!!」
もう少しで完全に受けきれるというところで火炎が勢いを増し、俺の体が炎に包まれる。一瞬後、防火のマントによりそれが散らされる。
俺は画面を取り出し、画像に触れる。練術が足りない。彼はルーンのように手加減してくれない。やり直しだ。
光が溢れる。
「フレア!!!」
「おおおおおお!」
気を更に高めることで、俺の身体能力、魔力の感知能力を向上させる。俺の体が光に包まれ始めると、剣にフレアの魔法が触れる。
激しく暴れるその力に、練術を使用して抑え込む。
「はー。その力ってそんな風にも使えるんだねー」
アヅが呑気に言っている。
俺はというとブリーの攻撃を避けながら、暴れる燃え盛る剣を制御しようと手一杯だ。ブリーが邪魔だ、攻撃を避けると制御に集中できない。
爆炎が暴れまわる剣に振られながら、ブリーの攻撃からも逃げるのはかなりきつい。その様子を見た青年が楽しそうに笑う。
「いやー面白いものを見せてもらったよ、リドゥ。お礼に少し手伝ってやろう。アイシクルプリズン!!」
アヅが魔法を唱える。ブリーの周囲を氷が覆う。アイシクルプリズン、正しく氷の牢だ。
次の瞬間にはブリーが魔炎を纏わせた大槌でそれを砕く。だが、十分だ。
この一瞬を、俺は待っていた。爆炎に気を集中させ、全力で制御を行う。
「炎装、金剛剣!」
俺の剣が赤く光を放ち、炎が迸る。
アスラを倒した時の剣が完成した。
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