Re Do 〜やり直しの祝福を授かった俺は英雄を目指す人生を歩みたい。あわよくば勇者より先に魔王を倒したい〜

アキレサンタ

文字の大きさ
60 / 92

059 変異体、魔炎へ

しおりを挟む

 と、余裕のない様子を見せるが、実は演技。男は魔炎に耐える俺に驚きながらも、更に魔炎を放った。

「ぐ……ぅう……」

 勢いを増す魔炎。しかし練術によって強化された俺はまだまだ耐えられる。
 数秒の拮抗の後、俺がジリジリと押し返し始める。

「な、何者ですか貴方は! 魔炎に抵抗できる人間なんてッ!」
「う……ぐう……! な、なんとか押し返せそうだぜ……!」

 俺の様子に男が焦ったようにペンダントを握った、そこから放出される紫の光。飛び出てくる魔炎の量から推測するに、恐らく今彼が溜め込んでいる魔炎を全て放ったと思われる。

「この時を待っていたんだよなあ!」

 練術を更に強化。魔炎を受け止める両手が輝きだす。
 以前アスラの体から魔炎を追い出すときに、俺は確かに見ていた。練術による気は魔炎を弾き飛ばすことが出来る。そして、更にその気を圧縮して、密度を高めた高エネルギーのものにすれば、少しずつだが消滅させられることを。

「練術ッ!!」

 両手だけでなく俺の体も輝き始める。魔炎が更に勢いを増して俺を襲うが、手の中の光に触れた部分が、少しずつ消滅している。
 後はこれを全て消しきるまで練術を使って耐え抜くのみだ。

「よう、死霊術師。俺は、耐久戦には自信があるぞ! このままなら俺が勝ちそうだ!!」
「な、んだと……!」

 あえて挑発する。男が焦ったように辺りを見回す。
 そして見つける、瀕死の変異体マージベア。
 男がそれに駆け寄り手を触れる。声が聞こえないが、なにかを詠唱している。すると紫の光が再び満ち、マージベアの肉体が光の粒子へと変化していく。
 光の粒子はペンダントに集まると、禍々しい黒い炎へと変化していく。……そうか、あれが魔炎の作り方か。
 死霊術師が目を見開いて笑う。俺がギリギリで耐えているところへの、トドメの一手を手にしたのだ。
 そして数瞬の後、魔炎が俺へと放たれる。

「へ、変異体の全てを魔炎に変えてやった! これでもうここで魔炎を作ることが出来なくなりましたが、貴方だけでも焼き殺すことが出来るッ! へ、へへ……ざまあ見なさいぃ!!」
「うぐぅッ!」

 魔炎が俺の体を襲う。気で体を纏っている為体は焼かれていない。
 だがそれも時間の問題だ。少しずつ練術の力が食い破られているのが感じられる。このままでは死んでしまうかもしれない。

「へ、へへ……! へへへへへへははははははッ!」
「笑ってられるのも今の内だッ!!」
「!?」

 男が目を剥く。当然だ。
 魔炎を纏ったものは恐らく即死か、アスラやブリーのようにその身に魔炎を宿し、負の感情の暴走を招くのだろう。しかし俺はそれを体に纏ったまま死霊術師の方へ走り出す。
 男は腰を抜かして倒れると、俺は思いきり体当たりを繰り出し、その体にのしかかる。

「ぐあああああああああ!!」
「さあ、どうするよ! 自分も焼かれてしまうぞ!」
「ぐ、ううううううううううう!!」

 男の肌が見る見る内に、ドス黒く変色していく。魔炎で焼かれるというのも、かなりグロテスクで目を逸らしそうたくなる光景だ。
 奴は堪らずペンダントを握る。そして俺には理解できない言葉を叫んだ。
 ……ここまでが俺の計画だ。魔炎が無事、ペンダントの中へと収束していく。

「はぁ……はぁ……はぁ……!」

 男と俺が同じように呼吸を荒くする。次いで男が何かを言おうとする瞬間、俺の拳が奴の頬にめり込んだ。
 そしてネックレスを引きちぎって奪い取る。

「こ、これで俺の勝ちだ……!」

 俺は立ち上がり、男の様子を見守る。
 白目を剥き、ビクビクと痙攣しているが、なにかを言おうと口をパクパクと動かしている。

「ま、魔の導きは……! 貴方、を……必ず……!」
「……」
「許さ……な、い……」

 そして、男が完全に倒れた。
 魔の導き。死霊術師。人々に魔炎を広め、魔王復活を目論む集団。
 今ここでこの男たちの口を封じれば、当分俺の身は安全だと思った。
 だが……。

「魔石、パピリティス……今回はこれだけを回収しに来たから」

 俺に人は殺せない。
 戦っている時は、それこそ殺す気で戦うが、こちらが一方的に殺せる状況で俺はその選択肢を選べなかった。
 変異体マージベアの体は完全に消失していた。その代わり、大きな魔石がその場所に転がっていた。
 俺はそれだけを抱えて、洞窟を飛び出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生者のTSスローライフ

未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。 転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。 強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。 ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。 改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。 しかも、性別までも変わってしまっていた。 かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。 追放先はなんと、魔王が治めていた土地。 どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...