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071 告白

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「やり直しの……」
「祝福……?」

 立ち上がり、ベッドに腰かけたままの二人に言うと、彼らは訝し気に俺を見る。
 当然だ。俺だってこんな突拍子もないこと言われたらそんな反応になる。

「あーえっと……時間を巻き戻す力……みたいなものかな」
「……?」

 身振りで時間を巻き戻すイメージを伝えてみるが、イマイチ伝わっていないのが二人の反応から容易に窺える。

「やり直しの力って言うと少し違う気もするんだけど、今から五秒前だろうが、十年前だろうが、好きな時間に遡ったり。逆に今の時点から言うと十五年くらい未来に行くことも出来る力……なんだけど――」
「――フンッ!」
「うがァッ!?」

 説明の途中で怒気のこもった声を聞いた。
 次の瞬間、視界が暗転し、浮遊感。最後に全身に衝撃と痛みが走る。腹から食べた物が逆流して来て、俺は寝転がったまま吐き戻す。
 辛うじて周りを見ると、俺は宿の壁を突き破り、二階から外の地面まで吹っ飛ばされていた。

「な、なにが……オエェ!」
「やり直してみなさいよ、リドゥ」

 上からソリスの冷たい声が響いた。
 ど、どういうことかわからない。だけど俺は朦朧とする意識のまま指を振る。
 光が溢れる。

「――フンッ!」

 俺は周囲を見回す。ソリスがベッドを蹴り、目にも止まらない速さでこちらへ飛び出してきている。
 固く握られた拳を掴もうと手を伸ばす。
 が、間に合わない。

「うぐえッ!」

 腹に拳が刺さったのを認識し、直後に吹き飛ぶ。
 壁を突き破り、落ち、吐き、フラフラと指を振る。
 光が溢れる。

「――フ」
「ッラァ!!」

 ソリスが立ち上がろうとする瞬間、俺はすかさずその肩を押さえる。な、なんとか押さえられた……と思ったのも束の間。
 彼女がキッと睨んだかと思うと、次の瞬間に足払いをされる。そして俺の上に馬乗りになり、顔面に二発拳が飛んできたのを確認して、俺の意識は途絶えた。




「アイスウォーター!」

 ビシャリ、と顔に冷水が浴びせられる。意識が回復し、目に飛び込んできたのは木の天井。宿の床の上で寝転がっていたことがわかる。
 首を横に向けるとルーンの杖から残光が見え、彼の魔法によるものだと即座に理解できた。

「お、俺は一体……?」
「アンタ、本当にやり直してるかもね。アタシの初撃を防いだのはよくやったわ」
「か、確認の為……?」
「当たり前でしょ」

 乱暴すぎる。
 見ると、ソリスは不満そうな表情で俺を睨みつけていた。その隣ではルーンが苦笑いを浮かべている。

「さっきの動きから察するに、三回目ってところかしらね、アンタ」
「……」

 よくわかったな。

「動きに迷いがなさすぎる。アタシの拳をアンタが防ぐことは出来ない状態だったのに、唐突にアタシを押さえに来た。多分一回は拳を受けようとしたけど受けきれなかったから、アタシの体を押さえたってとこかしらね」

 ソリスは依然として俺を睨みつけながら告げる。

「あ、合ってる。あの、ソリス……? 怒ってる……?」
「怒ってるわよ! 当たり前でしょ!!」
「ご、ごめんなさい!」

 彼女の瞳が烈火のごとく燃える。咄嗟に謝るとソリスは更に怒りを増した。

「理由もなく謝んな! いいからもう一回やり直しなさい!」
「え、ええ?」
「アタシたちに隠し事してたことを怒ってんのよ! 許してほしけりゃアタシを倒してみなさい!!」

 無理がある!! と叫ぼうとした瞬間、俺は胸倉を掴まれて外へ投げられた。
 いつの間にか剣で開けられていた穴から綺麗に飛び出すと、俺はまたも地面に叩きつけられる。
 肺の空気が全部押し出され、一時的に呼吸困難になる。
 彼女が怒る理由を明確には説明できないけど、なんとなくわかる気がする。隠し事をして、彼女たちを信頼していなかったと思われて怒っているのかもしれない。だったら俺はちゃんと話して許してもらわないといけない。
 死に体のまま震える指を振る。
 光が溢れる。

「――フ」

 ソリスがベッドを飛び出そうとしてくる。その瞬間にその肩を押さえる。
 足払いが飛んでくるので肩を押したまま前へ跳び、ベッドへ押し倒す形になる。
 彼女の綺麗な瞳が眼前に広がる。

「このッ!」

 直後に鼻に衝撃。
 頭突きだ、間違いない。
 フラフラと倒れ込む俺の腕を掴み、彼女と俺の体勢が入れ替わる。鼻血がだらだらと流れているのを自覚する。
 見上げると、彼女は少しだけ楽しそうに笑っていたが、その顔の横には右の手が固く握られていた。
 猟奇的な光景に思わず目を瞑ると、顔面に衝撃が訪れる。
 バキ、ボキ、と二発音が響いて俺は激痛に声を上げる。
 鼻が折られた。

「ソリスゥゥウウ!!」

 俺は痛みから来る興奮で怒りの声を上げると、彼女へ拳を振る。容易に躱され、俺の拳は空を切る。

「鼻が折れてるわよ。やり直しなさい」
「っ! 言われなくても!!」

 俺は反射的に答え、指を振る。
 光が溢れる。

「このッ!」

 ソリスを押し倒した状態から顔を逸らし、頭突きを避ける。
 腕を取られて体勢を変えられる前に自分から回転し、彼女の体が上に来た時点で向こうへ放り投げる。
 流石のソリスも咄嗟に投げられれば空中では体勢を変えることが出来ず、そのまま床に尻もちをついた。
 俺もすぐに姿勢を立て直し、彼女を見る。戦意がまだ失われていない。

「リドゥゥウウウ!!」
「さっきはよくもやってくれたな、ソリスゥウウウ!!」

 と、その後も交戦し。
 俺は127回やり直す結果となった。
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