泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子

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泣き虫な俺と泣かせたいお前【7】

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 連日の度重なる号泣からの二日酔いで俺の体力は底をつきそうになっていた。
 それに加え、凛乃介との向き合い方に頭を悩ませ、眠れない日々が続いていたせいか、講義に向かっている最中だというのに、目眩がし始めた。

 嘘だろ……

 一限に必修があるこの大学のカリキュラムに文句を言いたい衝動を抑えて、ふらふらと歩みを進める。一歩一歩進むにつれてどんどん具合が悪くなってくる。
 いくら必修とはいえ、今日くらいは休めばよかった。
 眉間に皺を寄せながら、もたつく足をなんとか動かし、中央広場の隅に置いてある、なるべく人通りが少ない場所のベンチ目掛けて進む。

 限界だ。今日は休もう。

 本当は今すぐとんぼ返りしたかったが、体調がそれを許してくれなさそうだった。
 俺は木陰になっているベンチに力なく座り込むと項垂れた。
 幸い、一限で比較的に早い時間だったためか、周囲に人は殆どおらず、人の目を気にせず休むことができた。
 俺は目を瞑りこめかみを抑えて、ゆっくり息を吐いた。視界の狭まりを感じ、心臓がドクドクと脈打つのを感じる。
 しばらくこうしていれば治るだろうと思っていると、横から女の子に名前を呼ばれた。
 様子を伺うような小さな声でゆっくりと。

「直生くん……?」
「え!?」

 自分の名前を呼ぶような女の子に心当たりが無かった俺は飛び跳ねるように顔を上げた。

「びっくりしたぁ……!」
「あ、崎坂、さん……」

 そう言えば、ついこの前、俺の唯一と言っていい女の子の知り合いが出来たことを思い出した。

「ぷっ、なんで苗字ー? この前は名前で呼んでくれてたのに」
「え、あ、あ、そうだっけ?」
「そうだよ! 友達なんだから名前で呼んでよ!」
「わ、分かった」

 凛はニコニコと明るい雰囲気で俺の隣に腰掛けてきた。
 俺と話すことなんてなんとでも無いという風に屈託なく喋る。
 一方俺は、緊張でどもりまくり恥ずかしさが増した。
 飲み会の時はある程度の心構えがあったが、いきなりだと慣れるまで時間がかかる。
 こんな時も凛乃介ならそつなくこなすのだろう。そう思うとモヤモヤした気持ちになる。

「凛はなんでここに……?」
「なんでって、そりゃ講義受けるためだよー! ここは大学ですよ?」
「だよね……」
「一限必修は人の心が無いよね」

 あはは、と笑いながら凛は同意を求めてきた。
 全く同じ境遇に、ついテンションが上がってしまう。

「分かる。最早嫌がらせだよね」
「もしかして、直生くんも一限必修? 仲間じゃん!」

 最初は緊張したものの、凛のノリの良い会話に気持ちが解れてくる。
 すると、ふと、飲み会での醜態を思い出した。

 そう言えば、お礼言えてなかった……

 あの日、隣に座っていた凛が酔った俺に水を飲ませて介抱してくれたはずだ。そのお礼も言わずに泥酔し、結局そのままになっていた。
 悪いとは思っていたが、連絡の取りようが無かった。

「あのさ、」

 お礼を言おうと、口を開きかけた瞬間、凛がおもむろに俺の額に手を当ててきた。

「え、」
「あ! ごめん!」

 急に感じた体温に焦った俺は、背を逸らせて避けてしまった。その急激な動きに、凛は申し訳なさそうに大きく両手を上げて見せた。

「急に触ったらびっくりするよねごめん!」
「あ、いや」
「なんか、直生くん、顔色悪いかも? って思って」
「え……」
「もしかして、飲み会の時からずっと具合悪かったのかもって思って……」

 言われて思い出す。
 凛が隣にいる緊張で気が紛れていたが、そう言えば俺は具合が悪くてここに座っていたのだ。と、思い出すとともに、具合もどんどん悪くなってきているような気がしてくる。

「直生くん……? 大丈夫……?」

 黙り込んでしまった俺に、凛が声をかけてくる。そう言えば、飲み会の時も全く同じような心配をさせてしまった。
 これ以上心配かけるわけにはいかないと思えば思うけど、頭に靄がかかったようにふらついてくる。

「ねぇ、本当に大丈夫──」

 凛の声が頭に響くが、答えることが出来ない。なんとか口は開けられるのだが、声が出ない。
 息をするのがやっとで、座っているのすら困難になり、崩れ落ちるように凛に寄りかかった。
 凛が何かを言っているが、もう分からない。
 段々遠くなっていく凛の声を聞きながら、俺は意識を手放した。
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