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相槌を打たなかったキミへ【7‐2】
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「ナナトぉ……もう少し顔どうにかなんない……?」
「無理! これがオレの精いっぱいのキメ顔です!」
レンズ越しに見るナナトの顔は、はっきり言って噴き出してしまいそうになるほど面白い顔をしていた。
ホストを辞めて芸人目指せばいいのに、と軽口を言うと潤んだ瞳で見つめられた。
何かの時に使えるかもしれないと、一応シャッターを切る。
「え、なんで今の顔撮ったんですか!?」
「ナナトはカッコいい感じより、こう情に訴えかける捨てられた子犬みたいなの目指した方がいいと思って」
「酷い! カッコいいホストがいい!」
「カッコいいって言われても……」
客からの注文と現実が乖離していることはよくある。
そこも含めて良い落とし所を探り、満足してもらうのも俺の仕事だが、今回は中々難しそうだと思った。
「ヒロムはどう思う……?」
当事者との話し合いでは埒が明かないと判断した俺は、救いを求めて苗加に話を振る。
「うーん……、ナナトがカッコいい方向で売って行きたいならそうするべきだとは思うけど……でも人には得手不得手があるし」
そうそう、そうやってナナトを説得してくれと頷いていると、徐に苗加はホリゾントの中に立っているナナトの傍に近付いた。
「ナナト、素材は悪くないから、多分見せ方が良くないと思うんだよね。ちょっとおれの撮られ方参考にしてみて」
言いながら、俺に視線を送る。
俺は頷いてカメラを構えた。
また、あのわくわくが蘇ってくる。言葉を介さなくても、意志の疎通が図れるこの空気が最高だった。
まるでナナトが小道具にでもなってしまったかのように、苗加はその場の空気を掌握する。
真横からキラキラ視線を送られ続けても表情一つ変えず、ただひたすら、レンズを、レンズの奥にいる俺を捕らえて離さない。
「っていう感じなんだけど」
「全然分かりません!」
まぁ、そうだろうな、と思いつつ、予想外の苗加との撮影にまた心臓が速くなるのを感じる。
「具体的にはどうしたらいいんですか? 言葉で説明してください!」
「え~? 言葉で説明した方が分からないと思ったから実演したんだけど」
「酷い! でもそんなヒロムさんもカッコいい!」
心酔した顔で苗加を見つめるナナトげんなりしてくる。そういうことは今じゃなく、二人だけの時にやって欲しい。
「そうだなー。ナナトは好きな人いる?」
「え?」
「は?」
俺とナナトの疑問が重なる。
「い、嫌だな~いくらヒロムさんでも、セ、セクハラですよ~」
慌ててごまかそうとするも、声が裏返っている。
「いや、変な話じゃなくてさ。レンズの向こうに好きな人が立ってるイメージで写真撮ってるんだよね、おれ」
「どういうことっすか?」
「好きな人には自分の一番良い姿見せたいでしょ? だからそういうつもりでカメラの前に立ってるんだよ」
「な、なるほど……!」
苗加の言葉に感銘を受けたように頷くナナトとは逆に、俺はズシンと重たいものを腹の上に落とされたような、そんな感覚がした。
俺が、夢中で撮っていたのは、苗加の好きな──江草さんを思い浮かべた顔だった。その事実にどうしようもなく落ち込む。
「じゃあオレもやってみます……!」
そう言ってカメラに視線を向けたナナトの顔は、見違えるほど堂々としたものになっていた。
「良い感じじゃない?」
苗加が俺に耳打ちする。
俺は小さく頷くと、その空気が壊れないように慎重に撮影を始めた。
ナナトのことだから、すぐに化けの皮が剥がれてしまうかと思ったが、予想外にその集中力は続き、最終的には全ての撮影をこなすことができた。
時計の針は就業の時間を指していたが、達成感と満足感でそれほど疲れは感じなかった。
「ナナトはやればできる子なんだよ」
少し、嬉しそうに苗加が笑う。本当に保護者みたいだと思ったが黙っていることにした。
「わぁ! オレじゃないみたい!」
撮った写真を見せると、良い反応が返ってくる。勿論写真を撮ることも好きだが、客のこんな顔を見る瞬間も好きだった。
「え、これが店に飾られるんですか!? オレ売れちゃいません!?」
「写真負けしないように頑張らないとね」
「うっ……」
痛いところをつかれたナナトは苦虫を噛み潰したような顔をして俺のことを見た。
「今日はありがとうございました」
あ、一応お礼は言えるんだ、と思ってしまったのは内緒で、俺は気にするなという意味を込めてナナトの肩を軽く叩いた。最初はどうなる事かと思ったが、存外良い仕事が出来て、気分がいい。
「俺も世話になったし、お互い様ってことで」
「あ、そう言えばそうでしたねー!」
ケロッとした表情で手の平を返すナナトに苦笑するが、以前ほどの不快感は無い。むしろ、ナナトはこういう人間だと分かったせいか、何だか可愛く思えてきた。
「じゃあ、オレはそろそろお暇します!」
「あー、出来あがったデータはお店の方に送っておくから少し待ってて」
「分かりましたー! 楽しみにしてます!」
そう言いながら、忙しなく一人でスタジオから出て行こうとするナナトを呼び止める。
「おい、先輩置いて行くな!」
まだ俺の隣に立っていた苗加の顔を見て、ナナトは不思議そうな顔をした。
「ヒロムさんには道案内だけ頼んだんで、この後は自由行動ですよー! 今日は定休日だし、二人でご飯でも行ったらどっすかー?」
「え……そうなの?」
「はい! あ、じゃあオレ時間無いんで!」
まるで用済みとでも言うかのように取り残された苗加が不憫に思えてくる。
慣れてはいると思うがあんまりだ。
「ってナナトは言ってたけど……どうする、飯でも行く?」
「心広くんがいいなら……」
「俺は別に。あーでもこの辺、あんまり良い店無いんだよな……」
「おれはどこでもいいけど」
なんとなく、普段良い物を食べていそうな苗加を適当なところに案内できないな、と思い始める。
とは言っても、チェーンの居酒屋しかこの辺のレパートリーが無い俺は必至で候補を探す。
新宿まで出ればそこそこ店ある気がするが、もし苗加に任せて敷居が高い店に連れて行かれてしまったら、今月はモヤシで生活する羽目になるかもしれない。
…………あ。
自分の家の冷蔵庫に眠る和牛の高いらしい肉の存在をふと思い出す。
この前来た、昔からのお得意さんが差し入れに持ってきてくれたものだったが、なんとなく食べる機会を逃していた。
宅飲みもアリかと一瞬血迷い、すぐに正気を取り戻す。
俺は今、苗加に対して微妙な気持ちを抱いている。そんな状況で、自分の家に連れ込んだりしたら、自分の意志では制御できずに間違いが起こってしまうかもしれない。
「…………ごめん、チェーンの居酒屋でもいい?」
「チェーンの居酒屋、おれ好きだよ!」
「………………良かった」
確実に気を遣わせたな、と思ったが、他に手も無く、俺たちは駅前にある大衆向けの安さが売りの居酒屋に行くことにした。
「ナナトぉ……もう少し顔どうにかなんない……?」
「無理! これがオレの精いっぱいのキメ顔です!」
レンズ越しに見るナナトの顔は、はっきり言って噴き出してしまいそうになるほど面白い顔をしていた。
ホストを辞めて芸人目指せばいいのに、と軽口を言うと潤んだ瞳で見つめられた。
何かの時に使えるかもしれないと、一応シャッターを切る。
「え、なんで今の顔撮ったんですか!?」
「ナナトはカッコいい感じより、こう情に訴えかける捨てられた子犬みたいなの目指した方がいいと思って」
「酷い! カッコいいホストがいい!」
「カッコいいって言われても……」
客からの注文と現実が乖離していることはよくある。
そこも含めて良い落とし所を探り、満足してもらうのも俺の仕事だが、今回は中々難しそうだと思った。
「ヒロムはどう思う……?」
当事者との話し合いでは埒が明かないと判断した俺は、救いを求めて苗加に話を振る。
「うーん……、ナナトがカッコいい方向で売って行きたいならそうするべきだとは思うけど……でも人には得手不得手があるし」
そうそう、そうやってナナトを説得してくれと頷いていると、徐に苗加はホリゾントの中に立っているナナトの傍に近付いた。
「ナナト、素材は悪くないから、多分見せ方が良くないと思うんだよね。ちょっとおれの撮られ方参考にしてみて」
言いながら、俺に視線を送る。
俺は頷いてカメラを構えた。
また、あのわくわくが蘇ってくる。言葉を介さなくても、意志の疎通が図れるこの空気が最高だった。
まるでナナトが小道具にでもなってしまったかのように、苗加はその場の空気を掌握する。
真横からキラキラ視線を送られ続けても表情一つ変えず、ただひたすら、レンズを、レンズの奥にいる俺を捕らえて離さない。
「っていう感じなんだけど」
「全然分かりません!」
まぁ、そうだろうな、と思いつつ、予想外の苗加との撮影にまた心臓が速くなるのを感じる。
「具体的にはどうしたらいいんですか? 言葉で説明してください!」
「え~? 言葉で説明した方が分からないと思ったから実演したんだけど」
「酷い! でもそんなヒロムさんもカッコいい!」
心酔した顔で苗加を見つめるナナトげんなりしてくる。そういうことは今じゃなく、二人だけの時にやって欲しい。
「そうだなー。ナナトは好きな人いる?」
「え?」
「は?」
俺とナナトの疑問が重なる。
「い、嫌だな~いくらヒロムさんでも、セ、セクハラですよ~」
慌ててごまかそうとするも、声が裏返っている。
「いや、変な話じゃなくてさ。レンズの向こうに好きな人が立ってるイメージで写真撮ってるんだよね、おれ」
「どういうことっすか?」
「好きな人には自分の一番良い姿見せたいでしょ? だからそういうつもりでカメラの前に立ってるんだよ」
「な、なるほど……!」
苗加の言葉に感銘を受けたように頷くナナトとは逆に、俺はズシンと重たいものを腹の上に落とされたような、そんな感覚がした。
俺が、夢中で撮っていたのは、苗加の好きな──江草さんを思い浮かべた顔だった。その事実にどうしようもなく落ち込む。
「じゃあオレもやってみます……!」
そう言ってカメラに視線を向けたナナトの顔は、見違えるほど堂々としたものになっていた。
「良い感じじゃない?」
苗加が俺に耳打ちする。
俺は小さく頷くと、その空気が壊れないように慎重に撮影を始めた。
ナナトのことだから、すぐに化けの皮が剥がれてしまうかと思ったが、予想外にその集中力は続き、最終的には全ての撮影をこなすことができた。
時計の針は就業の時間を指していたが、達成感と満足感でそれほど疲れは感じなかった。
「ナナトはやればできる子なんだよ」
少し、嬉しそうに苗加が笑う。本当に保護者みたいだと思ったが黙っていることにした。
「わぁ! オレじゃないみたい!」
撮った写真を見せると、良い反応が返ってくる。勿論写真を撮ることも好きだが、客のこんな顔を見る瞬間も好きだった。
「え、これが店に飾られるんですか!? オレ売れちゃいません!?」
「写真負けしないように頑張らないとね」
「うっ……」
痛いところをつかれたナナトは苦虫を噛み潰したような顔をして俺のことを見た。
「今日はありがとうございました」
あ、一応お礼は言えるんだ、と思ってしまったのは内緒で、俺は気にするなという意味を込めてナナトの肩を軽く叩いた。最初はどうなる事かと思ったが、存外良い仕事が出来て、気分がいい。
「俺も世話になったし、お互い様ってことで」
「あ、そう言えばそうでしたねー!」
ケロッとした表情で手の平を返すナナトに苦笑するが、以前ほどの不快感は無い。むしろ、ナナトはこういう人間だと分かったせいか、何だか可愛く思えてきた。
「じゃあ、オレはそろそろお暇します!」
「あー、出来あがったデータはお店の方に送っておくから少し待ってて」
「分かりましたー! 楽しみにしてます!」
そう言いながら、忙しなく一人でスタジオから出て行こうとするナナトを呼び止める。
「おい、先輩置いて行くな!」
まだ俺の隣に立っていた苗加の顔を見て、ナナトは不思議そうな顔をした。
「ヒロムさんには道案内だけ頼んだんで、この後は自由行動ですよー! 今日は定休日だし、二人でご飯でも行ったらどっすかー?」
「え……そうなの?」
「はい! あ、じゃあオレ時間無いんで!」
まるで用済みとでも言うかのように取り残された苗加が不憫に思えてくる。
慣れてはいると思うがあんまりだ。
「ってナナトは言ってたけど……どうする、飯でも行く?」
「心広くんがいいなら……」
「俺は別に。あーでもこの辺、あんまり良い店無いんだよな……」
「おれはどこでもいいけど」
なんとなく、普段良い物を食べていそうな苗加を適当なところに案内できないな、と思い始める。
とは言っても、チェーンの居酒屋しかこの辺のレパートリーが無い俺は必至で候補を探す。
新宿まで出ればそこそこ店ある気がするが、もし苗加に任せて敷居が高い店に連れて行かれてしまったら、今月はモヤシで生活する羽目になるかもしれない。
…………あ。
自分の家の冷蔵庫に眠る和牛の高いらしい肉の存在をふと思い出す。
この前来た、昔からのお得意さんが差し入れに持ってきてくれたものだったが、なんとなく食べる機会を逃していた。
宅飲みもアリかと一瞬血迷い、すぐに正気を取り戻す。
俺は今、苗加に対して微妙な気持ちを抱いている。そんな状況で、自分の家に連れ込んだりしたら、自分の意志では制御できずに間違いが起こってしまうかもしれない。
「…………ごめん、チェーンの居酒屋でもいい?」
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