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学食デート
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「先輩、着きましたよ! 何にしますか?」
弾んだ声でトキがメニューを指差す。トキのノリと同じになるのが気恥ずかしかったが、俺も初めての学食で少しテンションが上がっていた。
「俺は……カレーかな」
「先輩っぽいですね」
「え、そう……?」
カレーっぽいというイメージを持たれていたのかと、複雑な気持ちになる。いや、カレー自体は素晴らしい食べ物なんだけど。
「俺はパスタにしようかな……」
「そっちこそ似合いすぎ」
思わず吹き出してしまう。
トキが上品に学食のスパゲッティを食べている様子がいとも簡単に思い浮かぶ。焼きそばパンが好きなところを見ると、トキは麺類が好きなんだろうなと思う。
と、ここまで考えて、トキとの距離が近くなっていたことに気がついた。物理的にも心情的にも。
俺は悟られない程度にまたトキと距離を空けた。忘れている内は大丈夫だが、思い出すとやっぱりまだ身体が緊張し始める。
それぞれで食券を買い、さっき購買にいたおばちゃんに手渡す。俺のことを覚えていてくれたのか大盛りにしてくれた。いつも、菓子パンでは物足りなさを感じていたので有り難かった。
先にスパゲッティを受け取っていたトキは困ったような顔で俺を見た。トキが何かを言う前にその理由を察する。
「席が……無い、な……」
いつも混雑している学食。加えて今日は購買が休みで流れてきた生徒で溢れ返っていた。
「え、立ち食いとか……?」
テーブルも無い状態では立ち食いすらままならない。それに俺だけだったらどこで食べても構わないが、トキをそれに付き合わせるのは、何というか、目立ってしまって落ち着かない。
「あれ? 千秋が学食にいるの珍しいーじゃん」
「ん? 祥太じゃん。いつも学食だっけ?」
「だって楽じゃん」
トレーにご飯を乗せて、行き場もなく立ち尽くしていた俺たちに、同じクラスの祥太が声をかけてきた。
祥太たちのグループはテーブルを丸々占領していて優雅にラーメンを啜っている。
「何? 椅子取りゲームに乗り遅れた?」
「まぁ、そんなとこ」
「学食座席数少ないからなぁ……今日やけに混んでるし。しょーがないな……」
言いながら祥太は身振り手振りで友達に席を詰めるように促してくれた。横並びになってしまうが、ギリギリ二人座れそうなスペースが空いた。
「ほら、狭いかもしれないけど座れよ」
「マジで? サンキュー」
意気揚々と座ろうとすると、俺が座る前にトキが座ってしまった。詰めてくれた祥太の友達も驚いた顔をしている。
そんなに疲れてたのか?と思ったが、そういえば腕を怪我しているのだからトレーを持つ手が限界だったのかもしれない。
俺はトキの隣に座ることになり、長椅子のへりからお尻が飛び出しそうになった。
「トキ……もう少しそっちに……」
言いかけて、急に実感する。
俺の左側が全部トキと接していて、今までにない近さに身体が固くなり始める。
「? どうしたんですか……?」
「あ、いや。別に……」
トキの意外な一面を見て親近感すら覚え始めたのに、軽い抵抗することすらできない。
ここまで来ると自分の意気地なさに情けなくなってくる。
なんでここまで過去に怯えなくてはならないのか。復讐してやると息巻いていた強気の自分はどこへ行ってしまったのか。
「もう少しそっち詰めろ。狭い」
意を決して声を出す。自分が思っていたよりすんなりと声が出た。
途端に視界が開ける。
きょとんとしたトキの顔がちゃんと見れた。
「すみません、気が利かなくて」
嬉しそうな顔でトキが言う。
「でもごめんなさい。こっちも結構ギリギリなんで。良かったら、俺の膝の上に座りますか?」
「は!? お前何言ってんの?」
「この際、座らせて貰えば? 案外座り心地良いかもよ」
「適当なこと言うな!」
「ごめんなさい。座り心地には自信がないです……でも安定感なら……」
「真面目に答えなくていい!」
翔も祥太も俺の友達は揃いも揃って適当なやつらばっかりだと思ったが、祥太が会話に入ってくれて更に緊張が解けてきた。
普通に……とまではいかないが、俺と祥太で繰り広げるくだらない会話を、たまにトキに振りながら時間が過ぎていった。
新しい景色が見え始めた俺は、少しだけトキと向き合ってみようと心に決め、このぎこちない時間を楽しんだ。
弾んだ声でトキがメニューを指差す。トキのノリと同じになるのが気恥ずかしかったが、俺も初めての学食で少しテンションが上がっていた。
「俺は……カレーかな」
「先輩っぽいですね」
「え、そう……?」
カレーっぽいというイメージを持たれていたのかと、複雑な気持ちになる。いや、カレー自体は素晴らしい食べ物なんだけど。
「俺はパスタにしようかな……」
「そっちこそ似合いすぎ」
思わず吹き出してしまう。
トキが上品に学食のスパゲッティを食べている様子がいとも簡単に思い浮かぶ。焼きそばパンが好きなところを見ると、トキは麺類が好きなんだろうなと思う。
と、ここまで考えて、トキとの距離が近くなっていたことに気がついた。物理的にも心情的にも。
俺は悟られない程度にまたトキと距離を空けた。忘れている内は大丈夫だが、思い出すとやっぱりまだ身体が緊張し始める。
それぞれで食券を買い、さっき購買にいたおばちゃんに手渡す。俺のことを覚えていてくれたのか大盛りにしてくれた。いつも、菓子パンでは物足りなさを感じていたので有り難かった。
先にスパゲッティを受け取っていたトキは困ったような顔で俺を見た。トキが何かを言う前にその理由を察する。
「席が……無い、な……」
いつも混雑している学食。加えて今日は購買が休みで流れてきた生徒で溢れ返っていた。
「え、立ち食いとか……?」
テーブルも無い状態では立ち食いすらままならない。それに俺だけだったらどこで食べても構わないが、トキをそれに付き合わせるのは、何というか、目立ってしまって落ち着かない。
「あれ? 千秋が学食にいるの珍しいーじゃん」
「ん? 祥太じゃん。いつも学食だっけ?」
「だって楽じゃん」
トレーにご飯を乗せて、行き場もなく立ち尽くしていた俺たちに、同じクラスの祥太が声をかけてきた。
祥太たちのグループはテーブルを丸々占領していて優雅にラーメンを啜っている。
「何? 椅子取りゲームに乗り遅れた?」
「まぁ、そんなとこ」
「学食座席数少ないからなぁ……今日やけに混んでるし。しょーがないな……」
言いながら祥太は身振り手振りで友達に席を詰めるように促してくれた。横並びになってしまうが、ギリギリ二人座れそうなスペースが空いた。
「ほら、狭いかもしれないけど座れよ」
「マジで? サンキュー」
意気揚々と座ろうとすると、俺が座る前にトキが座ってしまった。詰めてくれた祥太の友達も驚いた顔をしている。
そんなに疲れてたのか?と思ったが、そういえば腕を怪我しているのだからトレーを持つ手が限界だったのかもしれない。
俺はトキの隣に座ることになり、長椅子のへりからお尻が飛び出しそうになった。
「トキ……もう少しそっちに……」
言いかけて、急に実感する。
俺の左側が全部トキと接していて、今までにない近さに身体が固くなり始める。
「? どうしたんですか……?」
「あ、いや。別に……」
トキの意外な一面を見て親近感すら覚え始めたのに、軽い抵抗することすらできない。
ここまで来ると自分の意気地なさに情けなくなってくる。
なんでここまで過去に怯えなくてはならないのか。復讐してやると息巻いていた強気の自分はどこへ行ってしまったのか。
「もう少しそっち詰めろ。狭い」
意を決して声を出す。自分が思っていたよりすんなりと声が出た。
途端に視界が開ける。
きょとんとしたトキの顔がちゃんと見れた。
「すみません、気が利かなくて」
嬉しそうな顔でトキが言う。
「でもごめんなさい。こっちも結構ギリギリなんで。良かったら、俺の膝の上に座りますか?」
「は!? お前何言ってんの?」
「この際、座らせて貰えば? 案外座り心地良いかもよ」
「適当なこと言うな!」
「ごめんなさい。座り心地には自信がないです……でも安定感なら……」
「真面目に答えなくていい!」
翔も祥太も俺の友達は揃いも揃って適当なやつらばっかりだと思ったが、祥太が会話に入ってくれて更に緊張が解けてきた。
普通に……とまではいかないが、俺と祥太で繰り広げるくだらない会話を、たまにトキに振りながら時間が過ぎていった。
新しい景色が見え始めた俺は、少しだけトキと向き合ってみようと心に決め、このぎこちない時間を楽しんだ。
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