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ことわ子

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オレが貰ってあげる【トナミ】

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「え……?」
「恋人同士なんだからいいでしょ?」

 慣れないのかゼンは答えるのを渋っている。

「オレはくっついて寝たい…………ダメ?」
「あーもう!」

 ゼンは唸った後、オレの方に向き直り、オレを抱きしめた。ゼンの大きな身体にすっぽりと収まる。

「腕枕! 腕枕もして欲しい!」
「はいはい」

 ヤケクソ気味でゼンは腕を差し出してくれた。すぐに擦り寄るように頭を寄せる。ゼンの匂いを近くに感じてドキドキし始めた。
 冷たいオレの身体が徐々に温かくなっていくのが分かる。
 幸せだな、となんの衒いもなくそう思った。
 この世にこんなに幸せな時間があるのかと思い、我ながらあまりにも感激し過ぎていて吹き出す。

「どうした?」
「なんでもない」

 そう答えた後で、素直に幸せ過ぎて面白くなったと言えば良かったと思った。そう言った時のゼンの反応が見てみたかった。
 ゼンの顔を見上げると眠たい顔でおでこにキスされた。
 そうか、ゼンは恋人にはこんなに甘い顔をするんだな、と思う反面、不意打ちで顔が赤くなってしまう。
 ゼンは色々あって疲れたのか、もう眠たそうにしている。オレは再びゼンに抱きつくと、小さな声で大好きだよ、と呟いた。
 ん、と微かな返事が返ってきた。
 オレは、嬉し過ぎて死ぬことってあるのかもしれないな、と最高に浮かれながら目を閉じた。

***

 目を開けると、ゼンの顔が穏やかに寝息をたてていた。
 寝ているゼンは本当に幼く見える。と、いっても普段が老けて見える分、年相応になるだけなのだが、それだけでも自分との距離が縮まったようで嬉しくなる。
 抱き着いてキスで起こしたい衝動を何とか抑えて、起こさないように静かに立ち上がる。
 オレは気付かれないようにゴミ箱を漁ると、リングケースを拾い上げた。蓋を開けるとそこにはちゃんと綺麗なままの指輪が収まっていた。

「トナミ」

 急に背後から名前を呼ばれ、思わず指輪を落としそうになる。振り返ると、ベッドの上で起き上がって複雑そうな顔でこちらを見ているゼンがいた。

「それ、」

 何か言われる前にどうにかしなければと思った。また捨てる、なんて言われてしまったら多分もう手立てが無くなる。

「これ、オレが貰ってあげる」
「え……?」

 自分でも何を言っているのか分からなかった。しかし、よくよく考えると良い考えなのではと思い始めた。

「ゼンの今の好きな人はオレなんだから、今この指輪を貰える権利はオレにあると思わない?」
「…………」

 無茶苦茶な理論で押し通そうとしたが、眉間に皺を寄せて難しい顔をしているゼンを見て、正直に話すしかないと思った。

「違う。偉そうなこと言った。オレがこの指輪が欲しい」
「でもそれは……」
「分かってるよ。でもゼンの大切な気持ちがこもったものだから、欲しい」

 ゼンはしばらく考えるような素振りをした後、大きくため息を吐いた。

「そこまで言うなら……いいけど」
「本当に? やったー!」

 どちらかと言うと、オレがゼンを押し切ったようになってしまったが、結果的にこの指輪を捨てないで済むことになった。
 オレは浮かれながら自分の薬指に指輪をはめようとした、が。

「あ、あれ……?」

 第二関節の手前で止まってしまった。普通の男よりは華奢な自覚があったため、全く気にしていなかったが、流石に女性用に作られた指輪は入らないらしい。

「嘘……」

 貰ってあげる、なんて言っておいて、このオチは恥ずかしい。オレが何とか指輪を入れようと四苦八苦していると、ゼンが吹き出した。

「だろうと思った」
「分かってたなら最初に言ってよ……」
「言っても止まらなさそうだったし」

 ゼンは笑いながら立ち上がった。そして机の上の引き出しから何かを取り出してきた。

「指輪貸して」

 オレが指輪を渡すと、ネックレスのチェーンに通して返そうとしてきた。

「あ、ちょっと待って!」

 オレはすかさず背伸びをして少し前屈みになった。

「ゼンに付けてもらいたい」
「え、あー、まぁ、いいか」

 以前なら、自分でつけろ馬鹿、と一蹴されていただろう。そうされなかったことに変わった関係性を感じて、柄にもなくときめいてしまう。
 ゼンは正面からオレの首の後ろに手を回し、ネックレスに通した指輪を付けてくれた。

「ありがとう!」

 オレはそのまま更に背伸びをして、ちょんと小さくキスした。
 オレとしてはただのお礼のつもりだったのに、ゼンは口を押さえて顔を赤くした。

「こういうの、あんまり慣れてないから……その……手加減してくれると助かる……」

 心臓を潰されるかと思った。
 可愛いと言われることには慣れているが、他人をこんなにも可愛いと思うのには慣れていない。
 手加減したくないという気持ちとゼンのお願いだから聞いてあげたいという気持ちがごちゃ混ぜになって、頭が痛くなってくる。

「善処はする……けど……オレも男だから……」
「いや、俺だって男だし、こういうの、嬉しいのは嬉しいんだけど……」

 大の大人の男二人がもじもじと、照れ合っている空間は側から見たら異常だろう。オレだって、そんな現場を目撃したら絶対に引いてしまう。しかし、当事者となると話は別だ。まるで、学生の時に戻ったかのように相手の顔がまともに見れなくなる。

「じゃあ……とりあえず手でも繋いでみる……?」

 とにかくこの甘酸っぱい空気をなんとかしたくて、ふざけ半分でそう言ってみた。
 何言ってんだ、と笑い流してもらうのを期待していると、ゼンが優しくオレの手を握った。ゴツゴツした大きな手から伸びる無骨な指はオレの細い指の間を難なく割って入ってくる。

「ゼンの手、あったかい」
「トナミが冷たすぎなんだよ」

 二人同時に吹き出すと、ゼンが少し力を強めた。オレも負けじと握り返す。

 その日、オレたちは気がすむまで手を繋ぎあって、学生でもしないような健全な一日を笑い合いながら過ごした。
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