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惨めな気持ち
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俺は従業員用の出入口から頭だけを外に出し、コソコソと辺りを見回した。別に何かを警戒してるわけでは無い。ただ何となく心の準備がしたかったのだ。
「……いないか」
流石のアキも従業員用の出入口で出待ちする程世間知らずではないらしい。いや、今までのアキが世間知らずかと言われれば一概にそういう訳でもない。俺とアキが恋人という関係なら全て納得できる行動ばかりだ。しかし、俺にはそこの部分の記憶が無いのだから首を傾げてしまうのは仕方ない、と思っている。
「もう帰ったかもしれないしな~」
若干の期待混じりにそう呟く。別にアキが嫌いなわけじゃない。アキが突然バイト先に現れたのもなんとなく気恥ずかしさはあるものの嫌じゃなかった。しかし、接客とは言え女の子と楽しくおしゃべりしてしまったこと、一瞬でも期待してしまったこと、それをアキに見られていたことの三重苦でなんとなく今日は顔を合わすのが気まずかった。
「念のため店の表にまわってから帰るか……」
俺はレンガ調の壁伝いに店の表に出ると周囲を見回した。夏の暑さのせいかテラス席には人が疎らで、その中にアキの姿は無かった。
この暑さだもん、流石に帰ったよな、と自分を納得させ踵を返そうとした時、視界の端に見慣れたヒョロ長い人影を見つけた。アキだ、と瞬時に理解した。
よくよく目を凝らすとアキはまだ店内に居た。先程会った時とは違う席に座っていたので分からなかったようだ。
「なんであいつ移動してるんだ?」
俺を待つだけなのに、わざわざ席を変える必要があるんだろうか?
疑問に思いながらも俺は店のドアに手を掛けた。
「おーい、アキー。終わった、ぞ……」
店内に入るなりアキに向かって声をかける。と、ここでアキと同じ席に誰かが座っていることに気がついた。アキだけが俺の視界に入っていて、同席者は鉢植えが並んでいる木の陰に隠れていて誰だか分からない。
俺の声にアキが振り向く。つられたように同席していた人物たちも動きを見せた。
「あ、れ……?」
俺の目に写ったのはこちらを無言で見つめるアキと楽しそうに笑っている俺がテーブルにぶつかった女の子2人組だ。
「え、…………知り合い……?」
「今日知り合った」
アキがそう言うと女の子達は嬉しそうに頷いた。きゃっきゃとはしゃいで先程話しかけてきた女の子とはまるで別人のようだ。そして俺に構わず話を続けようとする。
「アキくん、アキくん、今度ご飯行こ! 私美味しいお店知ってるよ!」
「アキくん! 私も一緒にいいかな……?」
「うん、いいよ」
「やったぁ~」
アキも俺の事を気にも留めず女の子たちと会話し続ける。
あまりの衝撃に頭の中が真っ白になった。
アキが女子にチヤホヤされて、名前を呼ばれて、楽しそうに笑ってる……。
あまりにも俺の知ってる現実とかけ離れ過ぎていて、思考が止まる。俺が知ってるアキは無愛想で無頓着で、そして。
俺の恋人じゃなかったのかよ……。
なんだか惨めな気持ちになってくる。目の前の男は恋人の目の前で平然と女の子と約束を取り付け楽しそうに笑っている。それを一歩離れた場所で立ち尽くしながら目で追う。なんでこんな目にあわないといけないんだと自問するが自分自身でさえ答えを返してくれない。
どこからか湧いてきていた悲しみが徐々に苛立ちへと変わった。記憶のない俺の中に無理矢理入ってきたのはそっちなのに。
「…………アキ、行くぞ」
俺はアキの顔も見ないで腕を掴むと乱暴に立たせた。思っていた通り、アキの腕は軽く、簡単にテーブルから引き離す事が出来た。
「あ、アキくん! これ私たちの連絡先!」
女の子が慌ててメモ帳を取り出しボールペンを走らせた。アキは振り返ると、ありがとうと笑い、それを受け取った。その笑顔が男の俺から見てもカッコよくて、俺の苛立ちは増した。
***
「リュージ? リュージってば」
俺はアキとは目も合わさず大股で歩みを進めていた。店を出てから数十分、家に帰る気にもなれず、かと言って行く当てもなくフラフラと近所の川沿いの道を彷徨っていた。川の水に太陽の光が反射して眩しくて目を細める。それでも俺は前へ前へひたすら進んでいた。
アキは最初こそ並んで歩いていたものの、徐々に疲れてきたのか遅れ気味になり、遂には俺の少し後を追うような形にしてなっていた。見た目通り体力は無いらしい。背後から暑さのせいかそれとも体力が限界なのかアキの荒い息遣いが聞こえてくる。聞こえないフリをして歩く速度を落とさないようにしていたが、俺も夏の日差しに少し頭がぼーっとし始めていた。
「ねぇ、ちょっと待って……」
待ってと言うが待つ気になんてなるわけない。そもそも最初に俺の存在を無視したのはアキの方だ。俺だけアキを気にかけてやる義理は無い。最早意地になっているのは自分自身で分かっていたが、ここで折れるのは負けた気がする。
「リュージ…………もしかして怒ってる?」
図星を指されて思わず立ち止まる。いや、図星かどうかも正直なところ分かっていない。自分が怒っているのか、悲しんでいるのか、呆れているのか、自分の事なのに分からないでいる。
アキは立ち止まった俺にようやく追い付くと俺の右手を握った。不意打ちの行動に思わず跳ね除けるように手を振り払う。力強く振り払われた衝撃でアキは少しよろめいた。振り払った手がやけに痛い。
「……いないか」
流石のアキも従業員用の出入口で出待ちする程世間知らずではないらしい。いや、今までのアキが世間知らずかと言われれば一概にそういう訳でもない。俺とアキが恋人という関係なら全て納得できる行動ばかりだ。しかし、俺にはそこの部分の記憶が無いのだから首を傾げてしまうのは仕方ない、と思っている。
「もう帰ったかもしれないしな~」
若干の期待混じりにそう呟く。別にアキが嫌いなわけじゃない。アキが突然バイト先に現れたのもなんとなく気恥ずかしさはあるものの嫌じゃなかった。しかし、接客とは言え女の子と楽しくおしゃべりしてしまったこと、一瞬でも期待してしまったこと、それをアキに見られていたことの三重苦でなんとなく今日は顔を合わすのが気まずかった。
「念のため店の表にまわってから帰るか……」
俺はレンガ調の壁伝いに店の表に出ると周囲を見回した。夏の暑さのせいかテラス席には人が疎らで、その中にアキの姿は無かった。
この暑さだもん、流石に帰ったよな、と自分を納得させ踵を返そうとした時、視界の端に見慣れたヒョロ長い人影を見つけた。アキだ、と瞬時に理解した。
よくよく目を凝らすとアキはまだ店内に居た。先程会った時とは違う席に座っていたので分からなかったようだ。
「なんであいつ移動してるんだ?」
俺を待つだけなのに、わざわざ席を変える必要があるんだろうか?
疑問に思いながらも俺は店のドアに手を掛けた。
「おーい、アキー。終わった、ぞ……」
店内に入るなりアキに向かって声をかける。と、ここでアキと同じ席に誰かが座っていることに気がついた。アキだけが俺の視界に入っていて、同席者は鉢植えが並んでいる木の陰に隠れていて誰だか分からない。
俺の声にアキが振り向く。つられたように同席していた人物たちも動きを見せた。
「あ、れ……?」
俺の目に写ったのはこちらを無言で見つめるアキと楽しそうに笑っている俺がテーブルにぶつかった女の子2人組だ。
「え、…………知り合い……?」
「今日知り合った」
アキがそう言うと女の子達は嬉しそうに頷いた。きゃっきゃとはしゃいで先程話しかけてきた女の子とはまるで別人のようだ。そして俺に構わず話を続けようとする。
「アキくん、アキくん、今度ご飯行こ! 私美味しいお店知ってるよ!」
「アキくん! 私も一緒にいいかな……?」
「うん、いいよ」
「やったぁ~」
アキも俺の事を気にも留めず女の子たちと会話し続ける。
あまりの衝撃に頭の中が真っ白になった。
アキが女子にチヤホヤされて、名前を呼ばれて、楽しそうに笑ってる……。
あまりにも俺の知ってる現実とかけ離れ過ぎていて、思考が止まる。俺が知ってるアキは無愛想で無頓着で、そして。
俺の恋人じゃなかったのかよ……。
なんだか惨めな気持ちになってくる。目の前の男は恋人の目の前で平然と女の子と約束を取り付け楽しそうに笑っている。それを一歩離れた場所で立ち尽くしながら目で追う。なんでこんな目にあわないといけないんだと自問するが自分自身でさえ答えを返してくれない。
どこからか湧いてきていた悲しみが徐々に苛立ちへと変わった。記憶のない俺の中に無理矢理入ってきたのはそっちなのに。
「…………アキ、行くぞ」
俺はアキの顔も見ないで腕を掴むと乱暴に立たせた。思っていた通り、アキの腕は軽く、簡単にテーブルから引き離す事が出来た。
「あ、アキくん! これ私たちの連絡先!」
女の子が慌ててメモ帳を取り出しボールペンを走らせた。アキは振り返ると、ありがとうと笑い、それを受け取った。その笑顔が男の俺から見てもカッコよくて、俺の苛立ちは増した。
***
「リュージ? リュージってば」
俺はアキとは目も合わさず大股で歩みを進めていた。店を出てから数十分、家に帰る気にもなれず、かと言って行く当てもなくフラフラと近所の川沿いの道を彷徨っていた。川の水に太陽の光が反射して眩しくて目を細める。それでも俺は前へ前へひたすら進んでいた。
アキは最初こそ並んで歩いていたものの、徐々に疲れてきたのか遅れ気味になり、遂には俺の少し後を追うような形にしてなっていた。見た目通り体力は無いらしい。背後から暑さのせいかそれとも体力が限界なのかアキの荒い息遣いが聞こえてくる。聞こえないフリをして歩く速度を落とさないようにしていたが、俺も夏の日差しに少し頭がぼーっとし始めていた。
「ねぇ、ちょっと待って……」
待ってと言うが待つ気になんてなるわけない。そもそも最初に俺の存在を無視したのはアキの方だ。俺だけアキを気にかけてやる義理は無い。最早意地になっているのは自分自身で分かっていたが、ここで折れるのは負けた気がする。
「リュージ…………もしかして怒ってる?」
図星を指されて思わず立ち止まる。いや、図星かどうかも正直なところ分かっていない。自分が怒っているのか、悲しんでいるのか、呆れているのか、自分の事なのに分からないでいる。
アキは立ち止まった俺にようやく追い付くと俺の右手を握った。不意打ちの行動に思わず跳ね除けるように手を振り払う。力強く振り払われた衝撃でアキは少しよろめいた。振り払った手がやけに痛い。
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