一途な猫は夢に溺れる

ことわ子

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一途な猫は夢に溺れる

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 お師匠さんは大きくなったそこに自身の手と共に俺の手をあてがった。水に濡れた服越しだったが熱を持っているのが分かって顔が熱くなる。
 これからお師匠さんが何をしようとしているのか、経験がない俺には分からない。
 それでもこのむせ返るような空気に、期待と不安が混ざった感情を持たずにはいられない。
 お師匠さんはゆっくりと俺の指を押し当てた。形をなぞるように何回も何回も。繰り返していく内にお師匠さんが僅かに腰を揺らし始めた。
 俺はされるがままだった自身の手を急に自分の意思で動かした。

「んっ、」

 お師匠さんが甘い声を上げた。
 初めて聞く声に一瞬にして我を忘れる。
 どうしてももう一度その声が聞きたくなった俺は、お師匠さんのベルトに手をかけた。

「待って! そこまでしなくていいから!」

 慌てて起きあがろうとするお師匠さんの肩を片手でベッドに押し付ける。予想外の力だったのか、お師匠さんは呆気に取られたままベッドに縫い止められた。

「マオ――!」
 
 お師匠さんの制止を無視して、もう片方の腕で一気に下半身を露にする。そのままの勢いで収まりきらない熱を持つ部分に指を滑らせた。手にねばつく液体がつく感触がした。
 お師匠さんの表情を窺うと、両腕で覆い隠していて表情が分からなかった。
 困った。
 何度も言うが、経験の無い俺はこれが気持ちいい時の反応なのか、それともあまり良くない時の反応なのか判断できない。
 俺は僅かに知っている知識を総動員させるべく、おもむろに熱の付け根に顔を近づけた。
 途端にお師匠さんが大きな息を吐き出した。
 声にならない声が俺に気持ちいいと伝えてきたような気がした。

「ここですか」

 確証に変えるべく質問してみたが、お師匠さんはまた小さく声を発し、首を横に振った。お師匠さんは自分の弱点を隠そうとすることがある。
 この感じは、きっと『正解』だ。
 俺は舌で下から上へと舐め上げた。堪らないというようにお師匠さんの腰が浮く。手と同時に舌で刺激を与えると、段々とお師匠さんが声を出すようになってきた。それがなんだか嬉しくて、調子に乗って速度を速める。

「んんっ」

 お師匠さんの堪えた声がした後、俺の顔に温かい液体が飛んできた。口の端についたそれを舐めとるとなんだか甘い味がした。

「あー! そんなことしないで!」

 お師匠さんは俺が持ってきたタオルで俺の顔を拭き取ると、何故か泣きそうな顔で俺を見た。

「こんなこと、させちゃいけなかったんだ……」

 誰宛でもない後悔の吐露だったが、俺は思わず口を挟んだ。

「俺は嬉しかったです」
「……へ?」
「だってずっとお師匠さんのことが好きでしたから」

 お師匠さんは訳が分からないと言う顔で俺を見た。
 こんな時に言うことではないな、と思いつつも口をついて出た言葉は止まらない。

「それは家族って意味で……」
「違います。お師匠さんに婚約者がいると知った時、酷く落ち込みました。お師匠さんがフェリシー様と並んでいるのを見るのが苦痛でした。それに」

 俺は一旦言葉を切って、乱れたお師匠さんの金色の髪の毛に触れた。水分を伴った髪の毛は俺の指に絡み付いてくる。
 先ほどの余韻を感じられたようでなんだか嬉しかった。

「自分が使い魔じゃないとお師匠さんにばれたら一緒にいられないと思い、ずっと隠し続けてきました」

 お師匠さんは俺から顔を逸らさずに質問してきた。

「いつから……?」
「もうずっと昔から」

 お師匠さんは目を伏せた。
 お師匠さんが何を考えているのか分からなくて不安になってくる。

「俺からもいいですか?」

 お師匠さんは下を向いたままだったが構わず続けた。

「お師匠さんはなんで俺が使い魔だと嘘をつき続けたんですか?」

 俺の言葉にぴく、と身体を揺らしたお師匠さんは気まずそうに顔を背けた。

「本当のことを知ったら……マオが僕の傍から離れていってしまう気がして」
「俺が? お師匠さんの傍から?」

 思ってもみなかった答えに場違いな声が出てしまった。お師匠さんが離れて行ってしまうことはあっても、俺から離れるなんてあり得ない。
 俺はお師匠さんの腕を掴み引き寄せる。

「俺はずっとお師匠さんと一緒にいたいと思ってます」

 俺の気持ちを伝えたくてお師匠さんの頭を撫でると、短く息を吐き出した。

「いいのかな……僕はマオの親代わりなのに……」
「どうせ変わり者と名高い魔法使いとその使い魔なんです。今更他人からどう思われても構わないでしょう」

 俺の返事にお師匠さんは小さく笑ってくれた。
 それだけの事で、こんなにも嬉しい気持ちになる。
 俺はお師匠さんの唇にそっと触れた。怒られたら後で謝ろう、そう思っていると、お師匠さんは俺の首に腕を回し目を瞑った。
 お師匠さんの小さな舌が俺の唇に触れた。
 お師匠さんが受け入れてくれたことが嬉しくて、俺は溺れるくらいキスをし続けた。


第一話 fin
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