愛しい人よ

璃々

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〇〇視点

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僕らが出会ったのは17年前のお盆だった。
普段は忙しい都会生活で塾やプール、剣道、柔道、乗馬など多方面の習い事で少しも気が休まることが無かった。僕は夏休みになると伊豆大島の祖父の家に行くことが唯一体も心も休まる機会だった。それなのに。。。1年前に祖父は亡くなった。今年はお墓参りも兼ねてこの地に来た。祖父の優しさにもう触れられないのが寂しくてお墓参り中に抜け出してしまった。墓地は広くてどこまでも続く緑の芝生をかけていると、大きな木を見つけた。木下に行くとふっと今までの疲れや幼いながらに抱える将来の不安にずっとずっと抱えていた心のもやもやが溢れ出した。どれくらいたっただろうか。涙が溢れ出て、もう涙が出なかった。日も傾き始め、薄っすらと薄暗くなる。僕はこのまま死ねたら大好きな祖父のもとへも行けて楽だろうと思ってたぼーっと夕陽を見ていた。「何してるの?」と後ろから可愛い少年の声が聞こえる。俺は振り向く。天使が迎えに来たのかと思った。「君、泣いてるの?」とプクッとしたほっぺたが愛らしい少年が心配そうに顔を歪める。自分のことじゃないのになんでこんなに苦しそうな顔をするんだろうと首を傾げる。僕は今まで同級生とはこんなふうに会話をしたことがなかった。みんな僕の家とつながりを持ちたくて見せかけの心配や仲良しごっこしかしたことがなかった。僕は嬉しかった。それから星が見えるまで話し合った。これまでの僕の嫌だったことや辛かったこと。祖父が亡くなって、誰にも助けを求められなくて寂しかったこと。今まで誰にも相談できなかったことを話すと、天使はぎゅっと抱きしめてくれた。僕はやっと心が休まった。「君の名前は?」と聞くと、天使はふわりと笑い、「坂田陸稲」と答える。僕は心の中で繰り返す。
さかた りく
さかた りく 
さかた りく  可愛い響きだ。とても彼に似合ってる。「君の名前は?」と天使が聞く。「亀井 建造だよ。よろしくね。陸稲くん」と自己紹介をする。「かっこいい名前だね」と陸稲くんは褒めてくれる。嘘偽りない言葉をかけてくれる。少し照れる。「大人になれば寂しさも忘れていけるかな?」と少し落ち着いてから陸稲に聞く。「別に忘れなくてもいいんじゃないかな。過去があるからこそ、今のけんぞーくんがいるんでしょ?」と笑顔で教えてくれる。俺はそれの言葉に励まされる。そうして見上げた夜空は本当にきれいだった。
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