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生まれ変わったらまた出会ってよ

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「おぎゃぁ おぎゃぁ」と元気よく産声があがる。戦後の日本に響き渡る新たな命の誕生
焼け野原になった世界に新たな灯りに包まれるな暖かい時間だった。
8月20日に生まれたその子は俺の愛する人にもらった「寿人」という名前に似合うように誰からも祝福されて生まれてきた。
「生まれてきてくれてありがとう。」その声を聞いて俺は安堵で深い眠りについた。きっと、俺が彼にもらった最後の贈り物。



俺と湊が出会ったのは戦時中だった。俺は当時17歳でΩだったため召集令状が来なかった。そのため昼間は工場で働き夜は家に帰り家の近くの基地に住んでいる兵隊さんのためにご飯やお風呂などの介助を勤めていた。俺の実家が食堂を営んでいたことから兵隊さんが常日頃から近くにいた。そんなある日、工場作業が少し長引いてしまい、少し早足に帰路を歩いていると俺の家の隣の幼なじみの湊の家の前に赤紙をもった招集兵がいた。しばらくすると招集兵はふらふらと消え入るような足取りで湊の家をあとにした。湊の家の前に慌てていくと、玄関先で倒れ込むおばさん(湊のお母さん)と愕然とした様子で立っている湊がいた。俺は湊になんとか声をかけようとしたが上手く声が出なかった。湊は少し経つと、「風磨ぁ~。俺ついに赤紙きちゃった。」とへらりとした様子ででも、全然目は笑ってなくて俺はその様子を見てつい泣きそうになった。
それからしばらくして湊が俺の家に「風磨に話がある」と訪れた。湊の様子が普段より冷静でどこか頼りないように感じた。だから、俺たちの思い出の街の少し外れた橋に向かって川沿いを歩きながら話を聞くことにした。
しばらく歩いていると「俺は風磨のことが好きだ。」と急に湊が俺に伝えた。俺はいきなりのことにとても驚いたが「おっ俺も!」と応えることができた。その言葉を聞いて湊は少し動揺していた。「え。ほっ本当に?」「嘘言ってどうすんだよ!」と少しきつめに応えると、「良かったぁー!死ぬ前に想い伝えといて。これで悔いなくあの世に行けるわ(笑)」と縁起でもないことを何かそれ以上に伝えたい思いを誤魔化すかのようにヘラヘラと笑っていた。俺はその様子を見て少しムッとして、「死ぬとか言うなよ。俺はお前じゃなきゃだめなんだ。俺と番ってはくれないのか?」と言うと、「俺はこの先長くは生きれない。風磨には未来がある。生きてほしい。ずっとずっと。だから、俺が重りになってはいけないのだ。」とか本心ではない言葉を連連と述べている。俺はそんな様子を見て湊が本当にどこか遠くの地に行って二度と会えない気がした。「今夜だけでいい。俺をお前のモノにしてほしい。番ってほしい。」と強請る。


それから、橋の下で月夜照らされて俺たちは愛し合った。その日はきれいな満月で川に映し出される月はとてもきれいなのにどこか泣きそうにゆらゆらと揺れていた。息の上がる俺に合わせて湊の腰を動かすスピードが早まっていく。パンパンパンパンパン
「んっ!んっっっ~も、う、、、出して。み、な、とぉ~」と俺は湊の首に腕を絡めた。湊はとても苦しそうに律動を更に早めた。「ほんとに出していいんだな?子供が出来ちゃうかもしれないんだぞ!いいんだな?」と風磨に尋ねる。風磨は「うん!いい!湊の赤ちゃんほしい!出してぇ~」と叫んだ。ゴリゴリと湊は風磨の奥の奥に添わせ、風磨のお腹を湊のお腹を重ねて圧をかけ子宮を降ろす。ドピュ!ついに湊は風磨の奥に愛を注いだ。「噛んで!噛んで!湊!おねがいぃ~」という風磨の声は残響とともに最後まで番うことはなかった。その夜二人は最後の夜を過ごした。夜空は満天の星で終わりのない無限の宇宙の広がりや周りの草から虫の音が鳴る音など優しい優しい最後の時間を二人で過ごした。

それからしばらくして、湊が出兵する日が訪れた。風磨は湊を送るために朝から早起きをしておにぎりと手作りのお守り持って駅まで歩いていった。まだ列車が来るまで少し時間があったので湊は風磨と駅のホームで話をした。
「俺はきっと生きては帰ってこれない。風磨俺のことを忘れてどうか幸せに俺よりいい人と番ってほしい。」
「嫌だ。湊より愛せる人は俺にはいない。」「俺は風磨のことが好きだ。それ以上でもそれ以下でもない。だからこそ生きてほしい。俺からの最後の風磨へのお願いだ。」
その言葉を聞いてはっと風磨は自分も顔から涙がこぼれていることに気づいた。いやだなぁ。俺は最後は笑顔で湊のことを送り出したかったのに。「じゃぁさ?もし、お前との子供ができてたら名前がないと寂しいから名前を考えてくれね?それが俺からの湊への最後のお願いだから」
しばらくの沈黙の後湊はふわりと笑顔になり真っ直ぐに俺を見据える。あぁ。俺はこの目に惚れたんだ。「寿人」「え?」「寿人がいい。誰からも祝福されて沢山の人に愛される人になって欲しい」「寿人。「寿人」良い名だね! ありがとう。」


ぼーーーーー
低い汽笛がなる。列車に乗った湊は俺に「愛してる」とドアが締まるとともに伝えた。きっと声を聞こえないようにすることで記憶に少しでも残さないようにという配慮だったのだろう。最後まで湊は湊だった。俺は湊の乗った列車が見えなくなるまで見送る。夏色の夢を運ぶかのような一時だった。



それから直ぐに終戦が訪れた。湊は何年待っても帰ってこなかった。それでも俺は誰とも番わなかった。しかし、湊からもらった寿人(宝物)と湊や多くの人がつくりあげてくれた平和の時代を大切に守るために今日を生きて、明日を生きて、最期まで。そしてまた、命が巡り巡って生まれ変わったらまた出逢ってほしい。
その時は番ってほしいし、一緒に笑い合って一緒に歳を重ねたい
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