山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*現在* 答え合わせ

217 守られてばかりじゃいられない

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 絶対にあきらめない。
 それを教えてくれたのは、先輩だ―――



 ◇◇◇



『シルヴィーの子……』
 
 蒼竜は戸惑いながら、空の上でホバリングしている。
 彼はリュンクスを無視して熾天使に攻撃を仕掛けたりはしなかった。一番大事なのは、背中にいる愛しい人間の子だと理解している。
 リュンクスは先輩が去った後しばらく呆然としていた。
 
「リュンクス!」
 
 べフレートの竜が雲を抜けて現れる。
 カノンは、蒼竜の背中に一人でいるリュンクスを見付け、眉を逆立てた。
 
「先輩は、リュンクスを放って行ったのか?! まさか、一人で天空城リーブラに?」
「そのまさかだよ」
「単独潜入は確かに効果的だが、実行は待てと、俺は言った!」
 
 カノンは怒りながら、蒼竜の背中に飛び降り、リュンクスを抱きしめてくる。
 
「知ってたんだ……」

 二人のマスターは、行動計画を共有していたらしい。
 おそらくリュンクスが寝ている間に話していたのだろう。

「俺は守られてばっかりじゃないか……」
「決めるのはマスターだ」
「……嫌だ」
「リュンクス?」
 
 知っていたら、ノクトを先回りして止められたかもしれないのに。リュンクスは悔しさを噛み締めた。
 二人が何故、リュンクスのいない時に話をしたのか。
 それは、リュンクスがサーヴァントで、主導権はマスターが握っているからだ。
 従っているのは楽だ。
 旅の計画も、天空城を巡る大きな策謀も、考える事をマスターに委ねてしまっていた。
 三人の関係だってそうだ。甘やかして、許してくれる二人のマスター。彼らはリュンクスに心地のいいようお膳立てをして、仲が良いように演出をしていた。
 自分では何一つ動かしていないのだから、この未来を変えられるはずも無い。塔に入った頃は、マスターとサーヴァントの関係について疑問を持っていたのに、いつの間にか当然のように命令待ちの状態になっていたのだ。
 
「俺は、先輩もカノンも欲しいと考えてる、愚かで強欲なサーヴァントだ。その罪を、先輩とカノンが肩代わりしてくれるのは違う。俺は、自分の選択の代償を払わないといけない」
「それは……」
「でないと、先輩を止めたい時に、止められないんだ」
 
 リュンクスは、ゆっくり力を込めてカノンを押し返した。
 
「カノン、先生に報告はした?」
「先輩が、首都を奪還した後で良いと言っていたが」
「なら、今、報告しよう」
 
 顔を上げたリュンクスの瞳に宿る、強い意志の力に、カノンは一瞬気圧された。
 
「……分かった」

 連絡に使う巻貝を、リュンクス達はセイエルの元に置いて来ていた。本来はノクトとの連絡に使うものだが、ノクトと合流すれば不要になるからだ。
 セイエルは多忙なので、すぐに繋がらないかもしれないとリュンクスは懸念したが、予想外なことに一度の試行で連絡が付いた。
 まずはカノンが、冷静な口調で理路整然と、これまでの旅について報告する。
 
『無事で何よりだ……そうか。ノクトは、また失踪したか』
 
 最後に先輩の所業を知らせると、セイエルは呆れたような声を出した。

『お前達、ノクトが何故、連絡を後回しにしたか、分かるか?』
 
 リュンクスはカノンと顔を見合わせる。
 先輩と合流したら、すぐ連絡をするように言われていたが、魔術が使えなかった事もあり、報告が遅れていた。
 ノクトが、首都奪還の後でもいいんじゃない、と暢気な事を言っていたせいもある。
 
「やたら面倒くさがってましたけど……」
『そうだろうな。実際のところ、魔術が使えぬなどという下らない理由ではない。ノクトが私に連絡しなかったのは、上司のガウリルより先に話してはまずかったからだ。この意味が分かるか?』
 
 先生の言葉は、謎かけのようだった。
 しかしカノンは腕組みして、何か心当たりがある様子である。
 
『危険な場所で隠密行動をしているから、連絡ができない。ガウリルには、そういう体裁を装いたかったのだ』
「つまり、ガウリルと話したくない。帝国の指示が、先輩のしたい事ではなかった、ということか」
「カノン……?」

 答えは出たらしい。
 カノンは巻貝に向かって言った。

「国の利益は、個人の利益と相反する事がある。セイエル先生、そういうことですね?」
『その通りだ。帝国の軍備増強のために、ガウリルは天空城を欲している』
 
 つまり、帝国は嵐の魔女のいない天空城を、横からかすめ取ろうとしていたのだ。ノクトは、先生やリュンクスのために命令を無視し、仕事をサボっていた。
 リュンクスは、先輩が二重三重の立場で動いていた事に気付き「ややこしすぎる!」と内心頭を抱えた。
 
 
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