山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*三年前* 運命の分岐点

28 旅の同行者

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 ノクトの小旅行は、二週間から一ヶ月掛かるらしい。
 数日くらいだと考えていたリュンクスは驚いた。旅行の間、塔の授業を休むことになってしまう。
 
「特別に単位を付けてあげるから、行って来なさい」
「セイエル先生……いいんですか?」

 ノクトの誘いについて話したところ、意外なことにセイエルは積極的に塔の外に出ることを奨めた。
 
「ノクトからも聞いている。塔の外を見るのは、良い経験になるだろう」
 
 既に先輩のてこ入れもあったらしい。抜かりない先輩の手腕に、リュンクスは感心してしまった。
 こうしてリュンクスは荷物をまとめ、数日後、ノクトと共に旅行に出ることになった。
 
「本当に私と一緒に来て良かったのかな?」
 
 出発時に、ノクトは妖しい笑みを浮かべて言った。
 
「若者の一ヶ月は短いけど長い。カノン・ブリストが何か事件に巻き込まれて、君から他のサーヴァントに目移りするには、十分な時間だよ」
「不吉なフラグを建てないで下さい」
「ふふ。逆もありうる。君が私に傾倒するかもだ」
 
 ノクトは、そっぽを向いたリュンクスの顎に手を掛けて、翡翠の瞳をのぞきこんできた。
 
「カノンよりも私が良いと言わせてあげよう」

 小旅行はリュンクスとノクトの二人きりかと思いきや、同行者がいるらしい。
 
 ガッシャンガッシャン……
 
 塔の出入口の前で、ノクトと一緒に待っていたリュンクスは顔を引きつらせた。
 頭部から脚部まで隙間なく板金鎧を着こんだ、フルアーマーの人物が歩いてくる。魔術で鎧を歩かせているのかと錯覚するほど、人の肌が見えない。だがリュンクスは、魔術師独自の鋭い知覚で中に人が入っていると察知していた。
 
「やあロバート、そのなりでは街中で目立ってしまうよ。せめてヘルメットは取ったらどうだい?」
 
 ノクトが鎧に話し掛ける。
 鎧の中身はロバートと言うらしい。
 
「……」
 
 鎧の腕が動いてヘルメットを上に持ち上げた。
 現れたのは厳めしい面持ちの、戦士を思わせる無骨な男の顔である。
 
「リュンクス、彼はロバート。これでも私の世代では優秀なマスター属性の魔術師なんだよ」
「よ、よろしくお願いいたします……?」
 
 魔術師? リュンクスは頭の上に疑問符を浮かべながら、高い位置にある男の顔を見上げた。
 ロバートは、杖の代わりに柄の長いグレートアックスを持っていた。
 何と戦うつもりなのだろうか。
 リュンクスが巨大な斧に注目していることに気づいたのか、ノクトが説明を始めた。
 
「今回、私たちの課題はね、モリブデン王国の北にある帰らずの森の調査と解決だ」
「帰らずの森?」
「そう。私たちは原因が樹木精霊《ドリアード》にあると見ている。基本的に、私が爽やかな弁舌を駆使して精霊を説得するつもりだが、強行突破する必要がある時はロバートの斧が唸る訳さ」
「な、なるほど」
 
 斧なんて持っていったら、説得の前に警戒されて森に入れないのでは、と思ったリュンクスである。先輩の前なので口には出さなかった。
 
「ごっめーん! おっくれたー!」
 
 黄色を連想させる高い声と共に、白いワンピースの上から灰色のローブを羽織り、長い金髪に花を咲かせた青年が駆け込んできた。
 
「何を着ていくか迷っちゃってさー」
「ティファ、後輩の前だよ。軽はずみな言動は慎むように」
「えー、面倒くさー。誰この子、じっみー!」
 
 明るい先輩は、リュンクスの頬を人差し指でつんつんと突いた。
 
「これでメンバーは揃ったね。さあ、行こう」
 
 ノクトは上機嫌で言ったが、リュンクスは色々と不安で仕方ない。この先輩たちに付いていって本当に大丈夫だろうか……。
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