山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*三年前* 運命の分岐点

32 魔術師の隠れ宿

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「皆で? 楽しそうだね」
「リュンクスもやりたいって!」
「言ってない!」
 
 ノクトと合流した後、ティファは早速「今夜、皆でやろうよ」と提案した。
 案の定、ノクトは面白そうに笑っている。
 
「そうか。リュンクスも乗り気なんだね。これは是非やらないと」
「……!」
 
 リュンクスが嫌がっているのは分かっているだろうに、ノクトはわざと抗議を無視する。
 
「私たちだけで、ゆっくりできる場所が必要だね。ブラウニーに、この辺に魔術師の隠れ宿がないか、聞いてみようか」
妖精ブラウニー? 魔術師の隠れ宿?」
 
 文句を言おうとしたリュンクスだが、途中で疑問が生じて思考が逸れた。ノクトを止めるのを忘れ、きょとんとした顔で反駁《はんばく》する。
 好奇心旺盛なのは、優秀な魔術師の証だ。
 ノクトは、密かに後輩を微笑ましく思いながら、手を伸ばして「よしよし」とリュンクスの頭を撫でた。
 親愛のこもった動作に、傍から見ていたティファは「ふーん。良い感じじゃん」とつぶやいた。




 魔術師の隠れ宿とは、各地を旅する魔術師たちが休憩用に作った拠点で、一般人は発見できないよう隠蔽された小屋のことだ。妖精ブラウニーに管理を頼んでいるので、いつでも清掃されて綺麗な状態になっている。
 
「歴史の授業で習ったかい? 私たち魔術師が、一般人からいわれなき弾劾を受けた、魔女狩りの時代があったことを」
「はい。百年以上前の話ですよね」
「そうだ。魔術師の隠れ宿は、魔女狩りの時代に多く作られたんだよ」
 
 真面目な先輩の口調で、ノクトはよどみなく説明する。
 リュンクス達は、森の中にある魔術師の隠れ宿を目指し、移動していた。
 ノクトは召喚魔術を使い、妖精を呼び出して目的地の場所を聞いた。その手際の鮮やかさと、素早くて間違いのない技術に、リュンクスは密かに舌を巻いた。多少倫理観があやしくても、さすが塔首席卒業の魔術師だけある。
 
妖精回帰リターンフェアリーが提唱されたのも、その頃さ。私たち魔術師は、妖精の子孫だ。セックスで魔力を高め妖精の性質を取り戻そうという話で、マスターサーヴァント理論もその一部さ」
「……」
「まあ、何が言いたいかというと、魔術師の隠れ宿は、私たちの目的にピッタリということだ」
 
 真面目な話だと思っていたのに、リュンクスが回避したい話題に戻ってきてしまった。
 
「緊急時に使うのが本来の使い方でしょ!」
「リュンクスは頭がかったいなあ」
 
 ティファが頬をツンツンしてくる。
 先頭に立って進んでいたノクトが振り向いた。
 
「着いたよ」
「!」 

 森に埋もれるように家が建っている。小屋というには大きい。蔦に覆われて全容が見えないが、二階建てのしっかりした家だった。
 家の扉は、緑の蔦に隙間なく覆われており、取っ手さえも緑に埋没して見えない状態だ。
 
「どうやって入るんですか……?」
「下がってて」
 
 ティファが前に立って「開けておくれ」と言うと、蔦がズズズと後退し、扉がひとりでに開いた。
 
「ティファ先輩、植物と会話できるんですか?」
 
 リュンクスはびっくりして聞く。
 
「リュンクスはできないの? 魔術師なら、妖精だけじゃなく、植物と会話できる子も多いけど」
 
 ティファに逆に聞き返され、リュンクスは困惑した。
 
「俺はできないです」
「素質はあると思うんだけどね。まだ開花してないだけかな。それに個人差もある。水と対話するのが得意な者もいれば、ティファのように植物専門の者もいる」
 
 ノクトが、戸惑っているリュンクスをやんわり家に押し込みながら言った。
 
「奥の中庭に泉があるよ! リュンクス、水浴びしよう!」
 
 先に家に入ったティファは、ハイテンションでリュンクスの腕を引っ張った。
 
「うわ!」
「はやくはやく」
 
 家の中は暗かった。
 おまけに日が沈む時間で、ちょうど陰り始めている。ノクトが壁に手を付いて呪文を唱えると、廊下や部屋の隅に設置された角灯が明るくなる。
 リュンクス達は家に入ったが、ロバートは一人、斧を担いで外に出た。
 
「見回りに行ってくる」
「行ってらっしゃいー」
 
 何をしに行くのだろうとリュンクスは不思議に思ったが、ティファが「さあさあ服を脱ぐ」と急かしたので、それどころではなくなった。
 
「脱がぬなら、脱がしてみせよう、ホトトギス!」
「いったい何の引用ですか! うわあっ」
 
 ティファが合図すると、蔦が一斉にリュンクスめがけて襲いかかってきた。
 服の下まで潜りこんでくる。
 
「止めて!」
「嫌がられると余計にいじめたくなるなあ」
 
 蔦に足を取られて引き倒され、全身を絡め取られる。
 背筋を伝う、蛇のような感触にリュンクスはぞわりとした。敏感な太ももの内側をなぶるように、蔦が這っていく。
 
「っ!」

 ノクトは旅用の厚手の上着を椅子の背に掛け、くつろいだ様子でリュンクス達を眺めている。

「絶景だね。ティファ、全部脱がさない方が面白いと思うよ」
「らじゃ!」
 
 ティファが元気のいい返事をした。
 友人同士、息の合ったやり取りだ。味方は一人もいない。リュンクスは木の床の上で、息を乱しながらはずかしめに耐えた。
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