山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*三年前* 運命の分岐点

40 嫌いになれない

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 腐臭を放つ魔石は地下に封じられた。
 かくして、森に生気が戻ってきた。
 立ち枯れ状態になった森だが、ティファが自身の魔術を使い、成長を促進する。数年で枯れる前の状態に戻せるそうだ。
 災いの源が消えたので、戻ってきた妖精たちは喜び、感謝の宴を開いてくれた。
 と言っても、フェアリーは肉を好まないので、リュンクス達の前に並べられたのは果物ばかりだ。火もセルフサービスである。
 
「結局、全部ノクトの計算通りって訳?」
「全てではないよ」
 
 ようやく一息ついたところで、ティファが説明を求めた。
 ノクトは焚火に枝を放り込みながら、答える。
 
「旅の前に、帰らずの森付近の地勢や歴史を調査したけれど、大規模な戦争があっただとか、魔物が封印されているだとか、そういった記録は無かった。となれば純粋な自然事象ということになる。一番可能性が高いのは植物関連だからティファを選んだが、二番目として大地に関する問題も考えていた」
「だからリュンクスかぁ」
 
 ティファの視線に、リュンクスは居心地悪さを感じた。
 魔石を地下に埋める大魔術の際、ノクトに魔力を使われたので消耗して疲れていた。今は指一本動かしたくない。
 それでも自分に関する事なので、気になって話に参加する。
 
「俺の元素は、地なんですか?」
 
 もはや確定のようだが、一応聞いてみた。
 ノクトはうっすら笑みを浮かべる。
 
「いいや。君を好いている元素は、地とさ」

 よく分からないと眉を寄せるリュンクスに気付き、ノクトは講義を始めた。
 
「世界は四大元素、地水火風で構成されている。水と風、地と火は混じり合って強力になる元素だ。逆に、水と火、地と風は反発する元素」
 
 ノクトは枝を手に取り、地面に十字を書いた。
 対角線上に、水と火、地と風という文字を刻む。
 
「反発する元素に好かれるのは、非常に珍しいんだよ。おそらくリュンクスは、そのせいで自覚が遅れたのだと思う。地に好かれても風に好かれても打ち消しあって、リュンクス自身が手を伸ばさない限り、向こうから寄って来なかったんだ」
 
 地の意志が声を掛けようとしても、リュンクスからは風の気配がするので遠慮してしまう。風の方も地の気配を感じて遠慮する。結局、どちらからもアクションが無い訳だ。
 
「それって損じゃないですか」
「私は得だけどね。私自身は、水と風が得意だから、リュンクスの風とは相乗の関係にある。苦手な地の元素も、リュンクスを通してアクセスできるから死角が無くなる」
 
 君はお買い得だね、とノクトは朗らかに笑った。
 リュンクスは複雑な気持ちだ。

「嫌われる元素のないリュンクスは、上手くいけば、全ての元素と仲良くできる可能性がある。オールラウンダーの資質があるという事だ」
 
 不服そうなリュンクスを見て、ノクトは補足する。
 
「これからは今まで以上に注意深く耳を澄ませ、自分から世界に呼びかけなさい。石だけではなく、植物や風や水、ありとあらゆる元素が君に応えてくれるだろう」
「……」
 
 リュンクスは拳を握りしめた。
 不意に、実地で貴重な修行をさせてもらったことを理解する。ノクトは手とり足とり、自分の時間を割いて魔術について教えてくれたのだ。
 嫌いだと言ったのに……これじゃ、嫌いになれない。
 
 


 妖精の宴で食事を取った後、リュンクス達は森で野宿をすることになった。ティファとロバートは一つの毛布にくるまって、仲良く一緒に寝ている。
 リュンクスは木の根元に座りこみ、星空を見上げながら、首の後ろに手を回す。
 うなじにノクトが口付けした事を思い出すと、体が熱くなった。
 
「眠れない……先輩、こんな時に限っていないなんて」
 
 いつも敏感にリュンクスの気分を察して、ちょっかいを掛けてくるノクトが不在だ。
 用を足しに行くと席を外し、長いこと戻らない。
 ティファからは「先に寝た方がいい」と言われていた。
 
「どこに行ったんだろ」
 
 夜空に目をこらすと、真っ白な蜻蛉とんぼの姿をした風の精霊が飛んでいくのが見えた。
 
「おーい!」
 
 今まで、遠くにいる彼らに無関心だった。
 だが「呼びかければ応えてくれる」とノクトは言っていた。
 立ち上がって手を振ると、風の精霊のうち数匹が、旋回して降りてくる。
 
「本当に応えてくれるんだ……」
『……』
「ねえ、先輩はどこかな?」
 
 風の精霊はリュンクスの指をつつくと、頭上を一周してから、先を案内するように飛び始めた。
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