47 / 266
番外編(~ノクト卒業まで)
仔猫と相棒 ③
「おや、招かれざる客だ」
自分の部屋なので、ノクトは立ち上がり、扉を開いて応対する。
「君か、カノン・ブリスト。私の研究室に直接来るなんて、珍しいな」
「リュンクスは来ていますか?」
たっぷり数秒かけて、先輩がにんまり笑った気配がした。
「……来てないよ」
絶対に嘘だ。
何故わざとらしい溜めを入れたのだと、リュンクスは、心の中だけで突っ込んだ。廊下にいるカノンも、そう思っただろう。
「リュンクス。聞こえているか」
先輩は無視して、よく通る静かな低い声で言う。
「来週の授業について、シラユキから聞いた。俺は、君のマスターとして授業に出るつもりだ」
「?!」
「その前に、少し話をしよう。二人きりで」
リュンクスは胸を押さえた。
どんな話をするのだろうと想像し、にわかに緊張が高まる。
「独り言は、終わりかい?」
「はい。お騒がせしました」
自分の頭越しに会話されたことに、ノクトは怒らなかった。そういうところは、年長者らしい。
カノンは先輩に軽く頭を下げ、去っていったようだった。
扉を閉め、ノクトが戻ってくる。
リュンクスの隣に腰掛け、穏やかな声で聞いてきた。
「来週の授業って?」
「実は……」
巻き込んでおいて、話さないのは不義理だろうと、リュンクスは重い口を開いた。
新入生のサーヴァント向け授業について、ノクトに説明する。
昔、自分の時も同じ事があったのだろう。
先輩は、すんなり事の経緯を呑み込んだ。
「ピアレイか。初級の魔物じゃないか。サーヴァント属性の魔術師でも、胆力の強い上級魔術師は、初級の魔物に怖気づいたりしないよ」
「そうなの?」
「だいたい、この研究室には、私が研究のために集めた、呪われた魔導具やら、封印した魔獣やら、ピアレイなんか目じゃない危険なものが沢山置いてあるのに」
リュンクスは、棚に並んだガラスの瓶や、正体不明の木箱などを眺めた。特に何も感じない。
先輩が、ぽんぽんとリュンクスの頭を撫でる。
「まあ、私のそばにいて、動けなくなるほど危険を感じることなんて、無いだろうけどね」
「?」
サーヴァント属性の魔術師は、契約したマスター属性の魔術師の近くにいれば、魔物に惹かれることはない。さらに言えば、相棒となるマスター属性の魔術師のレベルが高いほど、危険は低くなる。
在校生で最強クラスのノクトであれば、大概の魔物を防ぐことができるのだ。
そのことを、リュンクスはまだ知らなかった。
ノクトは、マスター属性の魔術師がそばにいる事の恩恵について、詳しく説明する気はなかった。どうせ来週の授業で、先生が説明することだ。
なので、授業の内容にはそれ以上触れず、話題を変えた。
「それにしても、君は本当にカノンが好きなんだね」
「す、す、好きなんて」
「自分以外のサーヴァントと組んで欲しくないなんて、健気じゃないか」
にやにや笑うノクトに指摘され、リュンクスは赤面した。
「ただ、カノン・ブリストは、野心的な魔術師だからね。君だけにかかずらっていられないだろう」
「……」
ノクトの言葉に、他のサーヴァントを抱くと宣言したカノンを思い出す。多数のサーヴァントを従え、勢力拡大を目指すカノンにとって、リュンクスの執着は、邪魔なだけだ。
分かっていたのに、嫉妬をあからさまに見せてしまった。
今からでも、誤魔化せないだろうか。
「……先輩、来週の授業一緒に出てくれない?」
思わず口を突いてでたのは、さらなる失策だった。新入生の講義に先輩を付き合わせることを、同級生はどう思うだろう。また、先輩の立場からすれば、新入生の講義に顔を出すメリットも無い。
言葉にしてから、ちょっと考え無しだったな、と反省する。
だが、言ってしまったことは、取り消せない。
「君は、かわいいね。まだまだ未熟な、赤くなる前の林檎だ」
ノクトはおかしそうに笑うが、その笑みが途中で不穏なものに変わる。
「いっそ、この素敵な時間を永久凍結してしまいたいなぁ。君も、あの瓶の中に入ってみるかい? 大丈夫、痛くないよ。永遠に私の実験器具になるだけだから」
「?!」
「先生が君の失踪に気付かないよう、誤魔化してあげよう。私の計画は完璧だ。完全犯罪が成立すること、請け合いだよ」
怖い。淡々と話すノクトには、実際に危うい研究に手を染めていそうな雰囲気があった。まだ彼と付き合いの浅いリュンクスには、本気か冗談か分からない。
リュンクスは、ぴょんと立ち上がった。
「せ、先輩、用事を思い出したんで、今日はここまでで!」
「ゆっくりしていったら良いのに」
「お気遣いなく!」
そそくさと研究室を脱出する。
転ばないように気を付けて、と意外に優しい声が背中に掛けられたが、そのまま一目散に退却した。
自分の部屋なので、ノクトは立ち上がり、扉を開いて応対する。
「君か、カノン・ブリスト。私の研究室に直接来るなんて、珍しいな」
「リュンクスは来ていますか?」
たっぷり数秒かけて、先輩がにんまり笑った気配がした。
「……来てないよ」
絶対に嘘だ。
何故わざとらしい溜めを入れたのだと、リュンクスは、心の中だけで突っ込んだ。廊下にいるカノンも、そう思っただろう。
「リュンクス。聞こえているか」
先輩は無視して、よく通る静かな低い声で言う。
「来週の授業について、シラユキから聞いた。俺は、君のマスターとして授業に出るつもりだ」
「?!」
「その前に、少し話をしよう。二人きりで」
リュンクスは胸を押さえた。
どんな話をするのだろうと想像し、にわかに緊張が高まる。
「独り言は、終わりかい?」
「はい。お騒がせしました」
自分の頭越しに会話されたことに、ノクトは怒らなかった。そういうところは、年長者らしい。
カノンは先輩に軽く頭を下げ、去っていったようだった。
扉を閉め、ノクトが戻ってくる。
リュンクスの隣に腰掛け、穏やかな声で聞いてきた。
「来週の授業って?」
「実は……」
巻き込んでおいて、話さないのは不義理だろうと、リュンクスは重い口を開いた。
新入生のサーヴァント向け授業について、ノクトに説明する。
昔、自分の時も同じ事があったのだろう。
先輩は、すんなり事の経緯を呑み込んだ。
「ピアレイか。初級の魔物じゃないか。サーヴァント属性の魔術師でも、胆力の強い上級魔術師は、初級の魔物に怖気づいたりしないよ」
「そうなの?」
「だいたい、この研究室には、私が研究のために集めた、呪われた魔導具やら、封印した魔獣やら、ピアレイなんか目じゃない危険なものが沢山置いてあるのに」
リュンクスは、棚に並んだガラスの瓶や、正体不明の木箱などを眺めた。特に何も感じない。
先輩が、ぽんぽんとリュンクスの頭を撫でる。
「まあ、私のそばにいて、動けなくなるほど危険を感じることなんて、無いだろうけどね」
「?」
サーヴァント属性の魔術師は、契約したマスター属性の魔術師の近くにいれば、魔物に惹かれることはない。さらに言えば、相棒となるマスター属性の魔術師のレベルが高いほど、危険は低くなる。
在校生で最強クラスのノクトであれば、大概の魔物を防ぐことができるのだ。
そのことを、リュンクスはまだ知らなかった。
ノクトは、マスター属性の魔術師がそばにいる事の恩恵について、詳しく説明する気はなかった。どうせ来週の授業で、先生が説明することだ。
なので、授業の内容にはそれ以上触れず、話題を変えた。
「それにしても、君は本当にカノンが好きなんだね」
「す、す、好きなんて」
「自分以外のサーヴァントと組んで欲しくないなんて、健気じゃないか」
にやにや笑うノクトに指摘され、リュンクスは赤面した。
「ただ、カノン・ブリストは、野心的な魔術師だからね。君だけにかかずらっていられないだろう」
「……」
ノクトの言葉に、他のサーヴァントを抱くと宣言したカノンを思い出す。多数のサーヴァントを従え、勢力拡大を目指すカノンにとって、リュンクスの執着は、邪魔なだけだ。
分かっていたのに、嫉妬をあからさまに見せてしまった。
今からでも、誤魔化せないだろうか。
「……先輩、来週の授業一緒に出てくれない?」
思わず口を突いてでたのは、さらなる失策だった。新入生の講義に先輩を付き合わせることを、同級生はどう思うだろう。また、先輩の立場からすれば、新入生の講義に顔を出すメリットも無い。
言葉にしてから、ちょっと考え無しだったな、と反省する。
だが、言ってしまったことは、取り消せない。
「君は、かわいいね。まだまだ未熟な、赤くなる前の林檎だ」
ノクトはおかしそうに笑うが、その笑みが途中で不穏なものに変わる。
「いっそ、この素敵な時間を永久凍結してしまいたいなぁ。君も、あの瓶の中に入ってみるかい? 大丈夫、痛くないよ。永遠に私の実験器具になるだけだから」
「?!」
「先生が君の失踪に気付かないよう、誤魔化してあげよう。私の計画は完璧だ。完全犯罪が成立すること、請け合いだよ」
怖い。淡々と話すノクトには、実際に危うい研究に手を染めていそうな雰囲気があった。まだ彼と付き合いの浅いリュンクスには、本気か冗談か分からない。
リュンクスは、ぴょんと立ち上がった。
「せ、先輩、用事を思い出したんで、今日はここまでで!」
「ゆっくりしていったら良いのに」
「お気遣いなく!」
そそくさと研究室を脱出する。
転ばないように気を付けて、と意外に優しい声が背中に掛けられたが、そのまま一目散に退却した。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【BLーR18】箱入り王子(プリンス)は俺サマ情報屋(実は上級貴族)に心奪われる
奏音 美都
BL
<あらすじ>
エレンザードの正統な王位継承者である王子、ジュリアンは、城の情報屋であるリアムと秘密の恋人関係にあった。城内でしか逢瀬できないジュリアンは、最近顔を見せないリアムを寂しく思っていた。
そんなある日、幼馴染であり、執事のエリックからリアムが治安の悪いザード地区の居酒屋で働いているらしいと聞き、いても立ってもいられず、夜中城を抜け出してリアムに会いに行くが……
俺様意地悪ちょいS情報屋攻め×可愛い健気流され王子受け
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
神様のポイント稼ぎに利用された3~過保護な神々と溺愛家族に囲われています~
ゆめ
BL
異世界転生して数年。
僕は過保護すぎる旦那様たちと、もふもふ、そして子供たちに囲まれながら、のんびり神子ライフを満喫している。
子供たちがトラブルを持ち込んだり、邪神が気軽に増えたりと騒がしいこともあるけれど、
僕自身は家族に守られ、今日も平和に暮らしています。
女神様に利用されて始まった異世界生活は、
気づけば溺愛と家族愛に満ちた日常になっていました。
※のんびりした日常の裏で、世界はちゃんとシリアスです。
ただし主人公が登場すると、だいたい壊れます。
※読者様のアイデアを作中で使用する場合があります
※別サイトにも掲載中
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。