山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

文字の大きさ
51 / 266
番外編(~ノクト卒業まで)

仔猫と狼 ①

しおりを挟む
 今日は放課後、先輩に呼ばれていたのに、リュンクスはどうしても同級生と遊びたかった。

 だから、先輩との約束をすっぽかした。

 魔術師の養育機関『研磨の塔』通称、略して塔に来てから、初めてリュンクスは同世代の少年達と遊ぶ喜びを知った。田舎育ちのリュンクスは、同じような魔術師の家の子供が周囲にいなかったので、友人に飢えていたのだ。
 友人のオナーは、塔の外にある森を探検しようと誘ってくれた。リュンクスは断れなかった。先輩の研究室に行って、魔術の勉強をするよりは、友人と森を駆け回る方がずっと魅力的に感じたからだ。
 子供の浅はかな思考で、先輩との約束を軽く考えていた。

「明日、謝りに行けばいっか」
 
 五年生の先輩、ノクト・クラブスは塔の有名人だ。
 冴え冴えとした青銀の髪と、白皙の美貌を持つ、中性寄りの容姿をした細身の青年。整った顔立ちが多い魔術師の中でも、一際目立つ繊細な顔立ちで、本人も自分の容姿を自覚した上で、少し着崩した洒落た服装をしている。
 魔術師の名誉である貴石級の資格を、在学中に取得した生徒として、ノクトは非常に注目を浴びていた。知識と技術を併せ持つ天才。教師を言い負かしただとか、高位の魔物を倒しただとか、武勇伝は下級生のリュンクスも耳にした事がある。
 そんな有名人の先輩が、なぜ自分に気を掛けるのか。
 
 リュンクスは、自分を平凡な生徒だと思っている。むしろ他の生徒に比べ、劣っている面さえあると考えている。
 地味な黒髪、森の色の瞳は特に珍しい色彩ではない。顔立ちも標準的。田舎から出てきたせいで、仕草や着こなしは垢抜けない印象を与える。おまけに、魔術師の卵なのに基本的な四元素の魔術、火を起こしたり水を出したり、そんな当たり前の魔術も使えない。
 父親が魔術について正規の教育を受けていなかったため、リュンクスはろくに魔術を教えてもらえなかった。そのせいで、同じ年の魔術師の子供達の中で、リュンクスは学習が追いついていない。
 その勉強を補うため、上級生のノクトの誘いに乗り、彼と契約を結んで魔術を教えてもらう事にしたのだ。
 
 ノクトがなぜ自分を選んだのか、それが気まぐれなのか、あるいは他に理由があるのか、リュンクスはよく分からない。
 だから彼との約束を破る事がどういうことか、この頃はあまり理解していなかった。
 
「先輩……?」
 
 扉を少しだけ開けて、部屋の中を伺う。
 不在なら帰ってしまおうと、性懲りもなく卑怯な事を考えていた。公明正大がモットーの友人カノンが聞けば、眉をしかめただろう。
 
「遅かったね」
 
 返事は頭上から降ってきた。
 まるでリュンクスの腹の内を読んだように、ノクトはリュンクスの背後に立ち、逃げ道をふさぐように見下ろしている。
 さらりと癖の無い青銀の髪が、リュンクスの耳元を撫でた。
 先輩のアイスブルーの瞳は澄んでいて、怒っているのか、面白がっているのか、分からない。
 
「入りなさい」
 
 有無を言わさず、研究室に引き入れられた。
 
「連絡もなしに、約束をすっぽかされたのは初めてだよ。それも、自分のサーヴァントにだ」
 
 ノクトは口の端に笑みを浮かべたが、それが喜んでいるのとは違うと、さすがのリュンクスにも分かる。
 
「ええと、ごめんなさい……?」
「しかも、反省の欠片もない」
 
 こわごわと謝罪を口にすると、ノクトはふっと鼻で笑った。
 
「分かっているのかな。私はマスターで、君はサーヴァント。本当なら、私には絶対服従なんだよ?」

 魔術師は、体質が少し一般人と異なっている。
 体内に魔力を溜める器官を持つのが、サーヴァント。妖精に命令できる能力と特殊な声や目を持つのがマスター。魔術師は、このどちらかの素質を持つとされる。
 リュンクスは、サーヴァントの素質を持っていた。
 サーヴァントは、マスターに従うもの、らしい。
 らしいというのは、塔に来たばかりのリュンクスが、まだ自分の体質について理解できていないからだ。最初の不意打ちでノクトに抱かれ、後日に何となく勢いでマスターサーヴァントの契約を結んだ。
 
「少し躾ける必要がありそうだね……」
 
 ノクトは目を細め、部屋の壁際にある寝台に、リュンクスを押し倒した。
 
「先輩、魔術を教えてくれるってっ」
 
 リュンクスは寝台に尻もちを付いて、ノクトを見上げる。
 
「気が変わった。今日の授業は、マスターとサーヴァントの関係について」
 
 ノクトが歌うように呪文を唱えると、何もない空中から銀の鎖が現れ、逃げようとしたリュンクスを縛《いまし》める。
 彼は膝をついて、リュンクスのローブを脱がせ始めた。
 しゅるりと紐が寝台の脇に垂れる。
 
「サーヴァントは、体内に魔力を溜める器官を持つ。魔物にとって、サーヴァント属性の魔術師は、芳しい魔力の果実のようなものだ。竜種や妖精も、その魔力に惹かれ、サーヴァントに求愛する」
 
 リュンクスは、にわかに体温が上がって唾を飲み込む。
 これから始まる淫猥な遊戯に、餌を待つ犬のように体が期待しているのを感じた。
 
「だがサーヴァントは感受性が高く、求愛されれば例え相手が悪魔でも簡単に堕ちてしまう。影響されやすいサーヴァントを御するため、私達マスター属性の魔術師がペアを組むんだよ」
 
 ノクトは、露わになったリュンクスの肌を、冷たい指でなぞった。
 
「私の魔力が欲しいかい?」
 
 彼は妖しく笑む。
 澄んだ風のような魔力が、リュンクスを誘うように撫でた。
 
「大人しくサーヴァントの性を受け入れ、私に従いなさい。私の元に来れば、快楽と魔力を与えてあげる。友達と遊ぶより、もっと気持ちいい遊びをしよう」
 
 甘美な誘惑に、リュンクスは抗せない。
 ノクトとセックスしたのは数回にも満たない。
 男性として女性と経験する前に、リュンクスは彼に女性のように抱かれてしまった。たちの良くないことに、これが大層気持ち良かった。
 本来、抱く側だというプライドを知る前だった。蕾のまま手折られた花のように、リュンクスはノクトに摘まれてしまった。
 そして、塔という閉鎖的な、魔術師だけが住む学び舎の特殊な慣習に、骨の髄まで染められつつある。
 
「先輩、やだっ、これ解いて!」
「駄目だよ」
 
 銀の鎖で、思うように体を動かせない。
 ほどいて欲しいと懇願したが、ノクトは涼しい顔で却下した。
 ただでさえ、まともなセックスではないのに、鎖で縛られた変則的な性交を強いられている。いかにリュンクスが世間知らずでも、これはちょっとおかしいと気付いている。
 鎖は生き物ように這いずり、脇の下や太もものきわ、乳首などのリュンクスの弱い所を刺激した。時折、局所をかすってくる。
 丹念に快楽を練り上げられ、次第にもどかしくなってくる。
 やがて鎖の先端が、後穴をノックした。
 
「えっ、ひゃ」
 
 まさか、そこに潜りこんで来るとは思わなかった。
 リュンクスは咄嗟に抵抗するが、拘束された四肢は思うように動かない。
 銀の鎖が排泄口に侵入する。
 冷たい感触が体の中に走った。
 しかし、鎖を伝わってきたノクトの魔力が、リュンクスの体に熱を灯す。
 
「あぁっ、はぁ、ん!」
 
 熱に浮かされたように、リュンクスは喘ぎ声を上げた。
 ノクトが嗤う気配がする。
 彼は、自分もローブを脱ぎ捨てる。寝台の上のリュンクスをひっくり返し、腰を引き寄せる。舌なめずりする狼のように、形のよい尻を視姦した。
 野山で育ち、薬師の父親の仕事を手伝っていたリュンクスの体は、無駄な贅肉が付いていない。いっそ美しいほどに、野生の獣じみた体のラインをしていた。
 ノクトは、鎖で後ろをほぐされ、もどかしさに腰をくねらせるリュンクスの姿を心ゆくまで鑑賞する。
 
「可愛いよ、リュンクス……」
 
 頃合いを見て、自分の雄を花奥に押し入れる。
 
「……ぅ!」
「さて。君の良いところはどこだろうね」
 
 まだ数回だから、勝手が分からないとノクトはひとりごちる。
 リュンクスは体内の異物感に耐えた。
 
「……俺が悪かったから、もう許してくれよっ」
「許す訳がないだろう」
 
 これでも怒ってるんだ、とノクトは言う。
 
「お仕置きだよ。奥まで拓いてあげよう。自分がサーヴァントだということを思い知らせてあげるよ」
 
 ノクトは、リュンクスが感じるポイントを探りあて、突き上げる。次々と頭が真っ白になる快感が襲ってくる。
 家族にも誰にも侵されたことのない場所を明け渡し、恥ずかしい体勢を強いられる。言葉よりも雄弁に、彼の支配下にある自分を実感させられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...