山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*二年前* 選択

60 岐路

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(※カノン視点)
 
 リュンクスがセイエルと面談していた頃。
 カノンは、リュンクスの部屋で帰りを待っていた。
 塔に残るには担当教師の推薦が必要だ。リュンクスは大丈夫という確信はあったが、もし万が一、何かの事情でセイエルが駄目だと言ったら二人は離ればなれになる。
 不安なカノンは、リュンクスが帰ってきたら一番に結果が聞きたかった。
 
「……」
 
 その時、リュンクスの机の上に転がっている巻貝が淡く光った。
 ノクトからの連絡だ。
 カノンはどうするか迷ったが、貝殻を手に取った。
 
「……リュンクスは不在です」
『そうか。だがちょうどいい。君に用があったんだ』
 
 ノクトの快活な声が貝殻ごしに聞こえてくる。
 リュンクスを手に入れる上で邪魔なこの先輩を、カノンは嫌っていなかった。目の敵にされたならともかく、向こうはカノンに気を使ってくれている。その心遣いを「大人ぶりやがって」と苛立つほどカノンは子供ではない。
 ましてや、同じセイエル教室の先輩後輩の関係だ。
 カノンにとって、ノクトは兄弟子にあたる。リュンクスの件は別にして、仲良くしておかなければいけない相手だった。
 ノクトは後輩の複雑そうな様子を無視して、いつも通り飄々と言った。

『まとまった休みができてね。リュンクスを借りるよ』
「ちょっと待って下さい。リュンクスは三年目の進路選択の時期だから、順調に行けばセイエル先生と実家に戻ります」
 
 この時期、教師たちは大忙しで、あちこち飛び回って生徒の親に挨拶して回る。
 毎年、担当するほとんどの生徒が塔に残るセイエルは、多忙でげっそりしているようだ。
 
『だから、いいんじゃないか』
「は?」
『セイエル先生が行きの引率、塔に戻る引率を私が引き受ける事にした。私は塔に寄ってから、帝国に戻る』
 
 いつの間にかセイエルと話が付いているらしい。
 手回しの良いことだ。
 カノンは舌打ちしたくなった。
 
『予告はしたよ。じゃあね』
「寄り道するつもりじゃ…おい!」
 
 ノクトは機嫌良さそうだ。
 ろくにこちらの話を聞かずに通話を切った。
 休み過ぎて仕事を首になってしまえば良いのに、とカノンは真剣に思った。




(※リュンクス視点に戻る)
 
 セイエルと実家に帰る手はずを打ち合わせ、リュンクスは教室を出た。
 寮に帰るため、階段を降りていると、踊り場でオナーとぶつかりそうになった。
 
「わっ、ごめん!」
「リュンクス! 探してたんだよ。どうだった? やっぱり塔に残るの?!」
 
 オナーは飛びつくようにして、尋ねてきた。
 
「うん。俺は塔に残るよ」
「やっぱりリュンクスは凄いな。成績上位で教師の推薦が無いと、塔に残れないのに……僕は塔を出るよ」
 
 最後の言葉に、リュンクスは目を見開いた。
 入学した当初から、オナーとは仲良くしてきた。マスターやサーヴァントという特殊な関係抜きに、本当に純粋な友達だったのだ。
 
「そっか……寂しくなるな」
 
 リュンクスは胸の痛みを堪えた。
 一方、オナーも悲しそうな表情を一瞬見せたが、すぐに彼らしく爽やかな笑顔に戻った。
 
「ねえ、三年生の皆を集めて、卒業パーティーをしようよ。リュンクス、手伝ってくれる?」
「もちろん!」
 
 塔に残る生徒、塔を出る生徒。
 共に勉強できる時間はあまり残されていない。
 最後に皆で別れを惜しもうと、リュンクス達は有志を集めてパーティーを企画することにした。
 
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