山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*二年前* 選択

69 調査開始

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 孫娘の危機を知らず、単純に喜んでいるナナ婆さんには一旦別れを告げ、リュンクスたちは作戦会議することにした。
 生贄の話をすると、クオンは難しい顔になった。
 
「いくら僕が竜に詳しくなくても、今回の件はおかしいと分かるよ。何が竜神様だ。僕が親なら、大事なリュンクスを知らない男に嫁にやるものか!」
「父さん、俺は男……」
 
 なぜか父親まで自分を娘扱いし始めたので、リュンクスはげんなりした。
 
「リュンクスはサナちゃんが気になるようなので、私はベフレート山の様子を見に行こうと思います。リュンクスをお借りしても?」
 
 ノクトは一応、保護者のクオンに伺いを立てた。
 
「うん。君はきっちりしているようだから、危ない場所には踏み込まないだろう。リュンクスを頼むよ。と、その前に、少しリュンクスと二人きりで話をさせてもらっていいかな」
「では先に行っています」 
 
 クオンの要請に、ノクトは父子を残して歩き出す。
 リュンクスは立ち止まる。
 十分に距離が離れたところで、クオンは話を切り出す。
 
「リュンクス。塔に残って勉強したいというのは、お前の意思なのか。父さんはそれだけ確認したかったんだ」
「父さん……」
 
 息子の肩に手を置き、クオンは真剣な顔で尋ねる。
 リュンクスは父親を見上げ、自分の中に答えを探した。
 
「……魔術の勉強をするのが楽しいんだ。先輩や、友達が見ている世界を俺も見てみたい」
「そうか」 
 
 クオンは、少し早いがこれも巣立ちなのかな、と寂しく思った。
 
「では行きなさい。ノクト君が待っている」
「うん!」
 
 駆け出す息子の姿を、目を細めて見送った。
 クオンは自分の分を弁えている。妻が活躍していた世界に、自分は力不足で入っていけない事を承知していた。クオンが守ることのできる世界はごく狭い範囲だけだ。しかし、その小さな世界、帰る場所を守ることこそが、自分の役割だと知っている。
 
「シルヴィー、どうかリュンクスを守ってやってくれ」




 サナの事件を調べる期限は、一週間以内。リュンクスは塔に戻らないといけないし、ノクトも仕事がある。
 
「歩いて行ったら時間が勿体ないからね。召喚獣を飛ばそう」
「先輩の召喚獣も、セイエル先生と同じでグリフィンなの?」
「それは見てのお楽しみだ」
 
 わくわくするリュンクスの前で、ノクトは地面に簡易な魔法陣を描き、呪文を唱えて召喚獣を呼び出した。
 驚いた事に、ノクトが呼び出したのは、頭の平べったい巨大な蛇だった。頭の周りに白い光の羽が生えており、うろこの一枚一枚が透き通った七色に輝いている。
 虹蛇エインガナという、非常に珍しい魔獣だ。
 
「彼女も竜の一種だから、本来マスター属性の私が単独で契約できないんだけどね。運良く、というか、彼女にとっては運悪く、怪我したところを私が手当した事があるのさ。それ以来、恩返しに乗せてくれる」
 
 リュンクスは、虹蛇の琥珀色の目玉をのぞきこむ。家にある皿のどれよりも大きい目玉だ。
 虹蛇も興味津々にリュンクスを見返す。
 
「はじめまして。俺も乗せてくれますか?」
『……』
 
 虹蛇の長い尾がゆっくり左右に振られた。
 
「気に入られたみたいだね。竜種との付き合い方を勉強した事があるのかい? 丁寧に挨拶していたけど」
 
 ノクトは少し意外に思った。
 召喚する時にはしゃいでいたから、挨拶なしに飛び付いて、プライドの高い虹蛇の機嫌を損ねるかもしれない、と懸念していたからだ。
 
「んー、何となく気難しいお婆ちゃんな感じがしたから」
 
 リュンクスの答えに「やっぱりこの子は侮れないところがある」とノクトは後輩の評価を改めた。
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