113 / 266
*一年前* 研究課題
101 幽霊の部屋
しおりを挟む
夜だけ開く部屋?
嫌な予感がする。リュンクスは急に寒気がして身をすくめた。
「チー!」
『ああ、そろそろか。隠れた方がいいね』
竜の子が裾を引っ張り、リュンクスを物陰に誘導する。
先生はいないと言ったじゃないかという文句を飲み込み、とりあえず棚の後ろに隠れた。
「あははははぁ! 今夜も素敵な、解剖ターイム!」
ジャキンジャキンと鋏の音がする。
足が透けた男が、空中を浮かんで廊下を移動している。手に持った鋏をジャキンジャキンと動かしながら。男はくたびれた灰色のローブをまとっていた。
ローブはよく見ると赤黒い染みがこびりついている。目のいいリュンクスには、鋏に付いた赤錆も見えた。もしかして、血の染みだろうか……。
男は狂喜に満ちた表情で、高笑いをしながら廊下を進む。
その異様な光景にリュンクスは怖気が走った。
「何あれ?!」
『幽霊が出ると言っただろう。解剖が好き過ぎて、同級生に手を出したあげく変死した生徒の幽霊だ』
「怖っ。何その設定」
幽霊は、空き教室に向かっている。
しかし途中のリュンクスの隠れる棚の近く、空中でピタリと止まった。
「生き物の気配がするぞぉ。柔らかそうなサーヴァントの気配だぁ」
「!!」
「出ておいで~。綺麗に解剖してあげるぞ~」
ジャキンジャキン。
幽霊が近付いてくる。
居場所がバレているのに、留まっても意味がない。
リュンクスは立ち上がった。
『サーヴァントを解剖したいのか。道理で、マスターの私には襲い掛かって来なかった訳だ』
「納得してる場合じゃないだろ! 先輩の馬鹿、おたんこなす!」
わりと適当な先輩をののしりながら、リュンクスは駆け出した。
幽霊に効く魔術はあるのだろうか。
無い場合は、どこかに避難しないと。
リュンクスの焦りを察したように、竜の子が肩を離れ、先導するようにパタパタ飛び始める。
「チルル、安全な場所に心当たりがあるのか?!」
「チーチー! チー!」
竜の子の言っている事は分からない。
カノンがいれば何を話しているか、分かるのだが。
「待てぇぇぇぇ!」
鋏を持った幽霊がすぐそこまで迫っている。
リュンクスは竜の子と一緒に、たまたま前方に開いた扉の中へ駆け込んだ。
部屋に入った途端、扉は後ろでバタンと閉まる。
「……危ないところだったね」
息を切らしているリュンクスの前で、儚げな印象の少年が微笑む。少年は真っ白い長い髪を、灰色のローブの上で三編みにしていた。
絨毯を踏んでいるであろう少年の足が透けている。
幽霊だ。
「うわわわっ?!」
『リュンクス、その少年は味方だと思うよ』
ノクトの冷静な指摘で我に返る。
少年は、解剖しようと追ってくる幽霊からかくまってくれた。
少なくとも敵じゃない。
「ごめん、助けてくれたのに騒いで」
「いいよ。同じサーヴァント属性の魔術師じゃないか。まあ僕は幽霊だけど!」
少年は、自嘲するように言ってクスクス笑った。
竜の子が淡く光る巻き貝をよっこらせと持ち上げる。
先輩の説明の声が聞こえた。
『七階には、自殺したサーヴァントの生徒がいるという噂だったんだよ。リュンクス、そこが開かずの扉の向こうの部屋だ』
「ちょっと待て。先輩は俺に、幽霊の部屋を研究室にしろって?!」
『夏は涼しくて良いと思うよ』
ノクトの台詞はどこまで本気か分からない。
リュンクスは、ここは笑うところか、怒るべきところか、真剣に悩んだ。
「僕の部屋を研究室に? 誰が? 君が?」
幽霊の少年は、ノクトとリュンクスのやり取りを聞いて、突っ込んできた。
状況から察するに、この部屋の主は、幽霊の少年だ。
勝手にリュンクスが使うと宣言したら、気を悪くするだろう。
「や、違うよ。君の部屋を奪うつもりなんかなくて」
「良いよ! サーヴァント属性の魔術師が、研究するなんて珍しいじゃないか! わくわくするね! ぜひ僕の部屋を使って!」
「……へ?」
穏便におさめようとしたリュンクスを遮り、少年は「すっごーい」と拍手喝采だ。
『良かったじゃないか。研究室が決まって』
「先輩、ぜったい行き当たりばったりだろ!」
『……』
白々しく明後日を向く先輩の姿が目に見えるようだ。
半眼になっているリュンクスを見て、少年は首を傾げた。
「先輩って、君のマスター?」
「う、うん」
「ずいぶん仲良しなんだね」
遠慮の無い会話をしていたので、そう見えただろうか。
だが実態は少し違うと、リュンクスは思う。
「仲がいい訳じゃない。先輩は悪戯好きで、いっつも変な事を俺にさせて面白がってるんだ。今回も、開かずの扉だか何だか知らないけど、肝試しみたいな事を俺にさせて」
『リュンクス、夜中に塔に登るのは、世間一般では肝試しで間違いないよ』
「だから! 最初に言ってた事となんか違うだろ!」
怒鳴ってゼーハーと息を整えるリュンクス。
巻き貝の向こうで、ノクトはくすくす笑っているようだ。
嫌な予感がする。リュンクスは急に寒気がして身をすくめた。
「チー!」
『ああ、そろそろか。隠れた方がいいね』
竜の子が裾を引っ張り、リュンクスを物陰に誘導する。
先生はいないと言ったじゃないかという文句を飲み込み、とりあえず棚の後ろに隠れた。
「あははははぁ! 今夜も素敵な、解剖ターイム!」
ジャキンジャキンと鋏の音がする。
足が透けた男が、空中を浮かんで廊下を移動している。手に持った鋏をジャキンジャキンと動かしながら。男はくたびれた灰色のローブをまとっていた。
ローブはよく見ると赤黒い染みがこびりついている。目のいいリュンクスには、鋏に付いた赤錆も見えた。もしかして、血の染みだろうか……。
男は狂喜に満ちた表情で、高笑いをしながら廊下を進む。
その異様な光景にリュンクスは怖気が走った。
「何あれ?!」
『幽霊が出ると言っただろう。解剖が好き過ぎて、同級生に手を出したあげく変死した生徒の幽霊だ』
「怖っ。何その設定」
幽霊は、空き教室に向かっている。
しかし途中のリュンクスの隠れる棚の近く、空中でピタリと止まった。
「生き物の気配がするぞぉ。柔らかそうなサーヴァントの気配だぁ」
「!!」
「出ておいで~。綺麗に解剖してあげるぞ~」
ジャキンジャキン。
幽霊が近付いてくる。
居場所がバレているのに、留まっても意味がない。
リュンクスは立ち上がった。
『サーヴァントを解剖したいのか。道理で、マスターの私には襲い掛かって来なかった訳だ』
「納得してる場合じゃないだろ! 先輩の馬鹿、おたんこなす!」
わりと適当な先輩をののしりながら、リュンクスは駆け出した。
幽霊に効く魔術はあるのだろうか。
無い場合は、どこかに避難しないと。
リュンクスの焦りを察したように、竜の子が肩を離れ、先導するようにパタパタ飛び始める。
「チルル、安全な場所に心当たりがあるのか?!」
「チーチー! チー!」
竜の子の言っている事は分からない。
カノンがいれば何を話しているか、分かるのだが。
「待てぇぇぇぇ!」
鋏を持った幽霊がすぐそこまで迫っている。
リュンクスは竜の子と一緒に、たまたま前方に開いた扉の中へ駆け込んだ。
部屋に入った途端、扉は後ろでバタンと閉まる。
「……危ないところだったね」
息を切らしているリュンクスの前で、儚げな印象の少年が微笑む。少年は真っ白い長い髪を、灰色のローブの上で三編みにしていた。
絨毯を踏んでいるであろう少年の足が透けている。
幽霊だ。
「うわわわっ?!」
『リュンクス、その少年は味方だと思うよ』
ノクトの冷静な指摘で我に返る。
少年は、解剖しようと追ってくる幽霊からかくまってくれた。
少なくとも敵じゃない。
「ごめん、助けてくれたのに騒いで」
「いいよ。同じサーヴァント属性の魔術師じゃないか。まあ僕は幽霊だけど!」
少年は、自嘲するように言ってクスクス笑った。
竜の子が淡く光る巻き貝をよっこらせと持ち上げる。
先輩の説明の声が聞こえた。
『七階には、自殺したサーヴァントの生徒がいるという噂だったんだよ。リュンクス、そこが開かずの扉の向こうの部屋だ』
「ちょっと待て。先輩は俺に、幽霊の部屋を研究室にしろって?!」
『夏は涼しくて良いと思うよ』
ノクトの台詞はどこまで本気か分からない。
リュンクスは、ここは笑うところか、怒るべきところか、真剣に悩んだ。
「僕の部屋を研究室に? 誰が? 君が?」
幽霊の少年は、ノクトとリュンクスのやり取りを聞いて、突っ込んできた。
状況から察するに、この部屋の主は、幽霊の少年だ。
勝手にリュンクスが使うと宣言したら、気を悪くするだろう。
「や、違うよ。君の部屋を奪うつもりなんかなくて」
「良いよ! サーヴァント属性の魔術師が、研究するなんて珍しいじゃないか! わくわくするね! ぜひ僕の部屋を使って!」
「……へ?」
穏便におさめようとしたリュンクスを遮り、少年は「すっごーい」と拍手喝采だ。
『良かったじゃないか。研究室が決まって』
「先輩、ぜったい行き当たりばったりだろ!」
『……』
白々しく明後日を向く先輩の姿が目に見えるようだ。
半眼になっているリュンクスを見て、少年は首を傾げた。
「先輩って、君のマスター?」
「う、うん」
「ずいぶん仲良しなんだね」
遠慮の無い会話をしていたので、そう見えただろうか。
だが実態は少し違うと、リュンクスは思う。
「仲がいい訳じゃない。先輩は悪戯好きで、いっつも変な事を俺にさせて面白がってるんだ。今回も、開かずの扉だか何だか知らないけど、肝試しみたいな事を俺にさせて」
『リュンクス、夜中に塔に登るのは、世間一般では肝試しで間違いないよ』
「だから! 最初に言ってた事となんか違うだろ!」
怒鳴ってゼーハーと息を整えるリュンクス。
巻き貝の向こうで、ノクトはくすくす笑っているようだ。
29
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる