山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

文字の大きさ
120 / 266
*一年前* 研究課題

107 落ち込んでいる振り

しおりを挟む
(※リュンクス視点に戻る)
 
 周囲、主にカノンが心配しているのは気付いている。だがリュンクスは、あえてそのままにしていた。
 先輩と喧嘩した翌日、実は早々に立ち直っていたりする。
 立ち直っているのに何故ぼんやりしていたかというと。
 
「何をそんなに悩んでいるのさ」
 
 研究室でセドリックが声を掛けてきた。
 この幽霊の少年は、リュンクスとノクトの会話を聞いていたので、おおよその状況を察している。
 
「先輩、俺に飽きちゃったかも……」
 
 机に突っ伏して溜め息をつくリュンクス。
 幽霊の少年セドリックは、不気味な笑みを浮かべ、声をひそめて耳元でささやいた。
 
「飽きたなんて言わせなきゃいい。惚れ薬で、逆にマスターを支配しちゃえばいいのさ」
「は?」
 
 リュンクスは仰天して飛び起きた。
 その発想はなかった。
 
「マスターは、僕らサーヴァントを一方的に契約の魔術でしばる。なら僕らサーヴァントだって、マスターに魔術を掛けても良いはずさ!」
「うーん」

 リュンクスは腕組みした。
 四年生に上がり、魔術についての知識が増え、契約の魔術がどういうものか理解し始めていた。
 マスターがサーヴァントに掛ける契約の魔術は、魔獣を使い魔に下す魔術と本質的には同じものだ。魔術師同士なので一方的な効果にはならないのだけど。
 それでも倫理にのっとれば人に掛けていい術ではない。魔術は、魔道の術。人の世の繁栄のために、道徳を無視するその矛盾を、リュンクスは知りつつある。

「……確かに、セドリックの言い分も分からなくない」
「でしょ!」
 
 女性扱いされ、主に従うよう魔術を掛けられている。一方的に奴隷扱いされれば抵抗しただろうが、カノンやノクトとは気が合うし、二人とセックスしているおかげで同級生の誰よりも魔力が高い。
 メリットを享受している身なので、声高に被害者だと主張する気はないが……ちょっとくらい仕返ししても罰は当たらないだろう、と思う。
 セドリックは空中を浮遊しながら、壁際の棚を指さして言う。

「僕も生きていた頃は、薬の研究をしようとしていた。そこの棚の下から二段目の引き出しを開いて。作りかけていた惚れ薬のレシピがある」
 
 リュンクスは言われた通り、棚の引き出しを開き、黄ばんだノートを取り出した。
 癖のある文字で、薬の材料と製造方法が記されている。
 
「見たことない材料もあるな……比翼の鳥の尾羽根とか、どうやって手に入れるんだ?」
 
 先輩との喧嘩のことなど忘れ、リュンクスは薬のレシピに見入った。
 好奇心旺盛なのは優秀な魔術師の証と言うが、リュンクスも本人が自覚している以上に知的好奇心が旺盛だった。
 セドリックは、リュンクスの興味を引き立てるために言葉を重ねる。
 
「完璧な惚れ薬は、まだ誰も作ったことないんだ。これは薬の効果も強力で、持続時間も長い。完成させて、先輩を手に入れようよ!」
「完成できるかは分からないけど……あの余裕な先輩が俺の前で右往左往するところ、見てみたいなあ」
 
 リュンクスは、いつも追いかけている先輩に逆に追いかけられる妄想をして、うっとりした。
 いいかもしれない。
 毒薬じゃないから、失敗しても何も起きないし。
 
「材料集めと、薬を煎じる手順の練習をしないとな」
 
 指定された材料のいくつかは、もう手に入らないものだったため、代わりになる材料が無いか、リュンクスは必死に調べた。
 いつの間にか、先輩との喧嘩はどうでも良くなっていた。
 新しい薬を完成させたい。
 試行錯誤を繰り返すうちに、寝食を忘れ研究に集中するようになる。生産や研究が大好きな魔術師によるあるパターンだ。リュンクスも始めたばかりの研究が楽しくなり、このパターンにはまってしまった。
 惚れ薬の研究に夢中になっていたため、授業はぼんやりしてセイエルに見学を言い渡される。
 カノンが「大丈夫か」と聞いてくるのに生返事した。
 はためには先輩の件で憔悴しているように見えただろう。
 周囲の心配は残念ながら的外れだ。リュンクスは惚れ薬作成の邪魔をされるのが嫌なので、落ち込んでいる振りをしているだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

処理中です...