山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*一年前* ユルドの妖精竜

119 ノクトと遠話

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 結局リュンクスは、ろくに自分の探しものができず、諦めて図書館を撤退した。ベリアの正体を知った今、本を借りるのは気が引ける。
 ふかぶかと嘆息する。
 
「先輩と話したいなー」
 
 塔の七階の自分の研究室に、ノクトと連絡するための巻貝を置いている。幽霊のセドリックが盗まれないよう見張ってくれていた。
 リュンクスは塔を登り始める。
 最近、セドリックはポルターガイストを操作して、お茶を入れられるようになった。
 リュンクスがいない時も、セドリックが食堂出張所を切り盛りしている。
 食堂出張所……研究室だと主張したい気がしないでもない。
 自分の研究室の扉を開くと、案の定お客様で賑わっている。
 
「セドリック、閉店しよう」
「先輩と話すんだね!」
 
 たむろっている同級生を追い出し、研究室の扉を閉め切った。
 セドリックは天井近くに浮遊しながら、リュンクスと先輩の会話を盗み聞きする気満々だ。恋愛ドラマを見るようで楽しいらしい。
 リュンクスはいそいそと、巻貝を手に取った。
 カノンのおかげで、こちらから連絡ができるようになった。先輩の都合が悪ければ繋がらないが、今までと違い、双方向だ。
 
「もしもし先輩、今大丈夫?」
『はろー! 僕は、ノクトと組んでるサーヴァントのレナールだよ! 君がノクトの可愛い後輩かな?!』

 突然、知らない男の声がした。
 しかもノクトのサーヴァントだという。

「誰……?」
『僕だよ僕~』
 
 知らんがな、とリュンクスは思った。
 
「先輩に代わって頂けますか?」
 
 巻貝の連絡で、ノクトと違う人物が出る可能性としては、一緒にいる魔術師の誰かが、勝手に荷物を漁り魔道具を使う事が考えられる。
 まずは冷静に。
 相手は年上と思われるので、敬語で頼んでみた。

『どうしよっかなー。ノクトの奴、隣で寝てるんだよね。ふふふ』
 
 レナールは情事を匂わせてきた。
 本当か嘘か分からない。
 そのふざけた態度に、リュンクスはカチンと来た。
 
「……先輩を出せ、つってんだろ」
『ほえ?』
 
 突然、地を這うような低い声を出したリュンクスに、相手はきょとんとする。
 
「まずはノクト先輩に真偽を確かめる。それで本当にやってたら、あんたに遠隔で呪いを送る」
『……えぇぇ、超怖い!』
 
 巻貝の向こうで、相手が慌てた風になった。
 
『ノクト! 君の後輩、可愛いというより怖いんだけど!』
『……私がちょっと離席している間に、何をやっているのかな。レナール』
 
 先輩の声がした。
 どうやら情事の話はまったくの嘘らしい。
 リュンクスは安心した。
 
「先輩、お疲れ様ー」
 
 打って変わって機嫌の良い声を出したリュンクスに、レナールが驚愕している。
 
『僕に対する態度と違い過ぎる……』
『ははは。リュンクスは気性が荒いからね』
 
 からからと笑う先輩の声が、巻貝から聞こえた。

『すまないね、リュンクス。このレナールは、一般人の女性と結婚した子持ちのお父さんなんだ。声は若く聞こえるかもしれないが、私よりもずっと年を取っている。間違っても夜の相手に、なんて食指は働かない』
『ノクト、ずっと、をやたら強調しなかったかい?! 僕の心は永遠の二十代だよ!』
 
 ノクトの懇切丁寧な説明で、リュンクスはようやく事態を理解した。
 
「なるほど。心が永遠の二十代だから、年甲斐もなく、俺と先輩の間にちょっかいを出したんですね」
『……的確な指摘過ぎて、心がえぐれる』
 
 しくしく泣くレナールを、ノクトは『酒の飲み過ぎだ。そろそろ帰る時間だよ。お子さんが待ってるんでしょう』と言って追い払った。
 酒場の喧騒と、夕暮れの街の雑踏の音が、かすかに聞こえてくる。
 ノクトは『少し待って』と言って移動を始めた。
 リュンクスは、巻貝を手に長椅子に寝転んで、先輩の移動する音をただ黙って聞く。
 やがて背景の音が静かになり、ノクトは立ち止まった。
 
『君から連絡してくるのは初めてだね。何か面白い事でもあったかい?』
「うーん」
 
 リュンクスは図書館での出来事について、話そうとした。
 しかし先輩のサーヴァントだというベリアとの悶着について、自分の口から説明するのはためらわれた。
 
「やっぱいいや。先輩の事を聞かせて。今はどんな仕事をしてるの?」
 
 長椅子に片膝を立てて座り直し、巻貝から流れる先輩の声に耳を傾ける。
 しばらく穏やかな会話が続いた。
 しかし、研究室の扉を叩く音で会話は中断される。
 
「誰か訪ねて来たみたいだ。研究室の扉に【閉店】の貼り紙しといたのに」
『ふむ……もしかすると』
 
 無視しようかと思ったが、その前に、扉は強引に開かれた。
 
「リュンクス」
 
 薄暗い研究室に足を踏み入れたのは、なんとカノンだった。
 
「げっ、カノン?!」
 
 自分のサーヴァントの部屋に入るのに、何の許可がいるだろう。実際カノンは、リュンクスの魔術をマスター権限で無効化できる。閉め切っても無駄なのだ。
 カノンは険しい表情で、先輩との密会がばれて慌てているリュンクスを睨んだ。
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