山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*一年前* ユルドの妖精竜

128 俺の傍にいろ

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「チー?」
「チルル、街の中では鞄に隠れてて」
 
 リュンクスは、荷物に隙間を開けて、竜の子を押し込んだ。
 コーカサス地方までは、馬と徒歩で向かう。
 以前の先輩との旅行を思い出し、リュンクスは懐かしい気持ちになった。
 あの時は足手まといのお荷物だったけど、今は違う。
 
「リュンクス、準備はまだか」
「もう終わった!」
 
 カノンの呼びかけに答え、部屋を出る。
 歩きながら、カノンは手を握ってきた。
 
「ちょ、カノン、人前だろ」
 
 リュンクスは手を離そうとする。
 しかしカノンは逆に強く指を絡ませてきた。
 
「これから行くのは、塔の外だ。塔の中では仕方ないと考えていたが、塔の外でまで他人の振りをするつもりはない」
「カノン……」
 
 以前、オルフェと敵対した騒動で、リュンクスとカノンは仲違いしている振りをした。その後、それは演技だったと友人達には説明したが、そのまま外では距離を置く生活が続いていた。
 リュンクスとカノンが部屋を繋げているのは秘密なので、それを隠すためである。
 部屋に帰ればいくらでも話ができるので、不便はない。カノンはシラユキを連れ歩くことが多く、リュンクスは仲の良かったオナー達が三年で卒業したので、いつも一人で行動をしている。
 カノンは黄金の眼差しでリュンクスを見据えた。
 
「ハスカルに応えてやるつもりじゃ、ないだろうな」
「まさか」
「なら、俺をこばむな」 
 
 そばにいろ、と正面から命じられ、リュンクスは胸が高鳴った。
 
「ずるい。カノンは格好良すぎる……」
 
 ハスカルとシラユキが待っている場所まで、そのまま手を引かれた。
 



 旅に出た初日は、馬を使って移動し、大きな街で宿を取った。
 塔の援助だけでは個室のある高級宿に泊まれない。カノンが実家の権力を持ち出せば話は別だが、高潔で公平性を重んじるカノンはそれを良しとしなかった。
 四人は、他の旅人も訪れる民宿に泊まった。

「塔の魔術師ですか? まだお若いですが」
 
 一般の人々には、ローブの色による魔術師の身分の違いを知らない。裾の長いローブを着て、杖を持っていれば魔術師という認識だ。
 子供と大人の境目のリュンクス達は、一人前の魔術師のようにも見える。
 宿の亭主は、宿泊手続きをしながら言った。
 
「実は、隣の家で幽霊が出たという噂でして。泊まるついでに見て頂けませんかね?」
 
 奇妙な事件が起これば、だいたい魔術師のもとに持ち込まれる。この世界の魔術師は、一種のなんでも屋だった。
 
「すまない。俺達は見習いで、仕事を受けられないんだ。塔には、依頼があったと伝えておく」
 
 カノンが苦笑しながら、代表して依頼を断る。
 まだ学生のリュンクス達は、勝手に仕事を受けないように言われていた。
 リュンクスは改めて自分達の格好を見下ろした。
 
「俺達は、魔術師なんだな……」
「何を今更な事を言ってるんだ、リュンクス」
 
 ハスカルに「変な奴」と笑われる。
 リュンクスは、父親と一緒に暮らしていた時の事を思い出していた。父親は杖を持っていないし、ローブを着ていなかったので、父子は一般人と混じって生活していた。
 だから一般人からの視点を、リュンクスは知っている。
 肌を隠す裾の長いローブを羽織り、杖を携帯した魔術師は、一般人からすると自分達と違う生き物だ。
 塔から離れると、魔術師の格好は目立つ。
 珍獣のように注目を浴びるのに、リュンクスは慣れていなかった。
 しかしカノンはいざ知らず、ハスカルもシラユキも代々魔術師の家の出身らしく、じろじろ見られるのに慣れている様子だ。
 自分もこれからは慣れていかなければいけないのかな、とリュンクスは少し戸惑っていた。

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