山猫に首輪は付けられない

空色蜻蛉

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*現在* 天空の城

186 火に包まれた街

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 リュンクス達は、夕陽に照らされた島の西側ではなく、影になっている東側に着陸した。
 東には森があるので、隠れながら移動できるだろうという目算もあった。
 去っていく青い鳥を、リュンクスは手を振って見送った。
 カノンに向き直る。
 
「人里に行くか、人里を避けるか。どうする、カノン」
「情報を収集したい。人里に近付いて様子を見よう」
「じゃあ、ちょっと高いところに登って、近い街を探すか」
 
 山歩きは、リュンクスの方が得意だ。
 枝を取って蜘蛛の巣を払いながら、歩きやすい道を探した。
 
「そういえば……魔術を使えない理由について、俺は精霊が動かないから影響範囲を広げられないんだと思う。カノンは?」
「俺も同意見だ。精霊がいなくなった訳ではない。この森にも、空にも、精霊は存在している。ただ……何かに苦しんでいて動けないようだな」
 
 魔術は、魔術師の魔力を媒介に、精霊に助力を乞う技術だ。
 精霊にも様々な種類があり、意志のあるもの無いもの、形を持つもの持たないもの、力の強いものと弱いものがいる。大半は自然の意志が形になった存在で、マスター属性とサーヴァント属性の魔術師以外には姿が見えない。
 リュンクスにも精霊が見えているが、魔眼を持つマスター属性の魔術師は、もっと詳細に精霊の姿が見えるようだ。
 カノンは空を見上げた後、先に進むリュンクスに視線を戻した。
 
「リュンクス、危険は感じてないんだな?」
「うん。進んでも大丈夫だ」
 
 視覚に頼り過ぎるマスター属性の魔術師に対して、サーヴァント属性の魔術師は目に見えない危険を察知する能力に優れている。
 勘で行動するサーヴァント、理屈で行動するマスター、と言われる所以《ゆえん》だ。
 二人は林を掻き分け、見晴らしのいい高台を目指して進んだ。
 やがて小高い丘の上に到達する。
 
「あそこに街が……えっ、火事が起きてる?」
 
 夕闇に沈む街は、ところどころ炎と煙が上がっている。
 街の上には、翼人の集団が旋回していた。
 
「もしかして、翼人が火を放ってるのか?!」
「……助けに行くぞ」
「うわっ」
 
 カノンは、リュンクスの腕を取り、崖から身を踊らせる。
 例の霊気を使った魔術なのだろう。まともに飛び降りたら怪我をする高さを、カノンはリュンクスを横抱きにして優雅に着地した。
 
「カノンは、危険を避ける性格だと思ってたけど!」
「安全な場所があるならな。判断材料が足りない時は、前進あるのみだ」
 
 見上げた横顔は、戦意に燃えていた。
 剣士なんだな、とリュンクスは感嘆しながらカノンを見つめる。
 荷物から、ピョコンと竜の子が頭を出す。
 抑えるのが面倒になってきて、リュンクスは竜の子を荷物から出した。竜の子は定位置の肩に登り、振り落とされないように尻尾を腕に巻き付けてくる。
 カノンに続き、リュンクスは火事になっている街に向かい、走り出した。




 天空城は、空の上だけあって気温が地上よりも低い。
 リュンクス達はあらかじめ厚着をしていたのだが、それでも冷気が感じらられるほど、寒い風が吹いていた。
 だからだろうか。
 街が近付くにつれ、火事の熱気が強く感じられた。
 
「先輩に教わった、雨を降らせる魔術が使えれば……!」
 
 火事を止められるのに、とリュンクスは唇を引き結ぶ。
 それを聞いたカノンが振り返り、リュンクスの肩に止まった竜の子をひょいと掴んだ。
 
「火を止めるだけなら、水が唯一の正解という訳ではない。他にも方法がある……チルル、馳走だぞ。火を食え!」
 
 カノンは、無造作に竜の子を前方に放り投げた。
 
「ちょっ、投げるなよ!」
 
 リュンクスはぎょっとした。
 しかし竜の子は器用に空中で体勢を立て直し、街の上空へと飛翔する。
 火事の熱気が引き寄せられるように、竜の子に集まった。
 街を覆う火の手が、みるみる間に収まっていく。
 
「こんな裏の手があったのか……」
「後は、翼人どもを追い払うだけだが」
 
 カノンは街の中に入ったところで、足を止める。
 短剣の柄に手を乗せた。
 
「カノン?」
「……」
 
 リュンクスは、戸惑って立ち止まる。
 カノンが臨戦体勢に入った理由はすぐに分かった。
 近くの建物の残骸から、わらわらと黒い人影が現れ、リュンクス達を取り囲んだ。
 彼らは、人の姿をしているが、人ではなかった。
 全身を覆う獣毛。頭部には三角の耳、腰からはふさふさの尻尾が生えている。木製の盾と金属製の剣で武装しており、牙を向いてこちらを睨んでいた。
 
「ワーウルフ!」
 
 地上では森の奥でしか見かけない、狼人という種族だ。
 
「なんだ? 吸血鬼か? それにしては匂いが少し違うような」
 
 狼人はリュンクス達を取囲みながら、輪を狭めてくる。
 すぐに剣で切りかかってくる気配はないが、こちらを警戒しているようだ。

 
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