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Light in the Dark(闇の中の光)
第50話 一夜城
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(※西風視点)
百聞は一見にしかず。
攻略方法を見出すため、ウルは一夜城に可能な限り接近し、状況を確認することにした。
カレンドラ侯爵の城は、氷で出来た渓谷に建っている。
昔は氷ではなかったそうなのだが、北から寒気が押し寄せ、年中氷雪に閉ざされるようになってしまったらしい。
「すがすがしいほど、よく晴れてんなぁ」
ウルは、魔物が活発になる夜を避け、昼間にカレンドラ渓谷を訪問した。
空は青く澄み渡っており、真っ白な大地が目に眩しい。
渓谷には氷で出来た橋が架かっており、その先にそびえる白銀の城と合わせ、日光の下で七色の輝きを放っている。
城の周囲は、大小さまざまな建物がひしめきあい、立派な城下町を形成している。しかし、賑やかそうな見た目に反して、近づいても人はいなかった。
「噂じゃ、一夜にして、人が消えたらしいな」
魔物の大群に襲われ、逃げ出した人々が戻ってきてみると、カレンドラ侯爵と配下、城下町の人々が、一斉に姿を消していた。
今残っているのは、がらんと静まり返った無人の城である。
勇気を振り絞り、一夜城を探索した兵士は、玉座の間に生えた水晶と、その水晶の中に眠る絶世の美女を目撃したという。
「さ~て。俺の魔術を跳ね返した、とびっきりの可愛い子ちゃんの顔を見に行くか」
『……ここは既に敵の罠の中だ。注意しろ』
「分かってるって」
天馬《ペガサス》の姿をした精霊が警告する。
ウルは小うるさいペガサスの背から飛び降り、城の門をくぐった。
「誰だ?」
事前情報で、誰もいないという噂の城に人影を見つけ、ウルは立ち止まる。
柱の陰で、女性がうずくまって泣いている。
「要救助者か。驚かせんなよ」
ウルは歩み寄って、女性を見下ろした。
こちらに気付いた女性は顔を上げる。
率直に言って……かなり好みだった。
褐色の肌に、黄金の波打つ髪。宝石のような瑠璃の瞳。
ほどよく痩せているわりに、胸はたわわに膨らんでいる。露出多めな女性の踊り子衣装が、色気を増幅していた。ん? この寒い北国で、なんで南国テイストの服着てるんだ?
「ありがとうございますぅ!」
「わっ」
女性は突然立ち上がり、ウルに抱きついてきた。
「助かりましたっ!」
「まだ助けてねーけど」
「そ、そうですよね!」
慌てて体を離し、女性は恥ずかしそうにする。
敵の魔物だとしても可愛いじゃないか。
ウルは、とっくに相手が普通の人間ではないと見抜いていたが、好みの女性だったので芝居に乗ってやろうと思った。
「お嬢さん、俺が外に連れてってやるよ。だけど、その前に聞きたい。玉座に、綺麗な女性が寝てるって噂は、本当か?」
「本当です」
「案内してくれるか?」
「危険です! あなたが行くのは止めませんけど、先に私を逃がして欲しいですぅ」
止められると挑みたくなるのが、ウルという男だった。
行くなと止められ、それなら是非とも玉座の間に行こうと考える。
「大丈夫だよ、俺っちが守ってやるからな!」
「止めましたからねぇ」
女性は、うるうると泣きそうな瞳で言い、案内を始めた。
「お前名前は?」
「レオナですぅ」
「その服装、寒くないか?」
「めっちゃ寒いです……」
面白いな。敵の魔物だとしても、言葉を交わせるのは、面白い。
ウルは会話しながらも、風を使って周囲を探査し、敵がいないか確かめていた。前回、竜巻の魔術を無効化したことから、この場所は敵の結界内だと分かっている。結界なら、起点を壊せば良い。
謎の女性が眠る玉座の間が、結界の起点だろうと、ウルは考えていた。
「ここです」
その広間からは、白い蒸気のような冷気が漏れだしていた。
六角の氷柱が通路の壁から生えている。
氷柱は奥に進むにつれ、大きさを増していった。
広大な玉座の間は、氷柱だか水晶だかで占領されている。花弁のように広がる透明な結晶の真ん中の、ひときわ大きくて太った結晶の中で、赤毛の女性が体を丸めて眠っていた。
白い肌は貝殻のような光沢を放っており、赤い髪は先端が金色に輝いている。眼を閉じて眠っているが、顔立ちは相当の美人だ。
しかし、彼女は人間ではないようだ。
扇のように広がる赤い髪、頭部の左右に、羊の角を思わせる黒い巻き角が生えている。
「残念だな。眠り姫が要救助者なら口説いてんのによ」
姫が魔物なら、殺すしかあるまい。
それに、おそらくここが結界の起点だ。
「死にゆく君に、手向けの花束を贈ろう」
杖を地面に打ち付けると、碧色に輝く魔法陣が波紋のように広がった。
「今が盛りなら断ち切ってしまえ! 風鎌早駆!」
杖の旋回に合わせ、風の刃が形成される。
鉱石も一刀両断する真空の刃が解き放たれた。
百聞は一見にしかず。
攻略方法を見出すため、ウルは一夜城に可能な限り接近し、状況を確認することにした。
カレンドラ侯爵の城は、氷で出来た渓谷に建っている。
昔は氷ではなかったそうなのだが、北から寒気が押し寄せ、年中氷雪に閉ざされるようになってしまったらしい。
「すがすがしいほど、よく晴れてんなぁ」
ウルは、魔物が活発になる夜を避け、昼間にカレンドラ渓谷を訪問した。
空は青く澄み渡っており、真っ白な大地が目に眩しい。
渓谷には氷で出来た橋が架かっており、その先にそびえる白銀の城と合わせ、日光の下で七色の輝きを放っている。
城の周囲は、大小さまざまな建物がひしめきあい、立派な城下町を形成している。しかし、賑やかそうな見た目に反して、近づいても人はいなかった。
「噂じゃ、一夜にして、人が消えたらしいな」
魔物の大群に襲われ、逃げ出した人々が戻ってきてみると、カレンドラ侯爵と配下、城下町の人々が、一斉に姿を消していた。
今残っているのは、がらんと静まり返った無人の城である。
勇気を振り絞り、一夜城を探索した兵士は、玉座の間に生えた水晶と、その水晶の中に眠る絶世の美女を目撃したという。
「さ~て。俺の魔術を跳ね返した、とびっきりの可愛い子ちゃんの顔を見に行くか」
『……ここは既に敵の罠の中だ。注意しろ』
「分かってるって」
天馬《ペガサス》の姿をした精霊が警告する。
ウルは小うるさいペガサスの背から飛び降り、城の門をくぐった。
「誰だ?」
事前情報で、誰もいないという噂の城に人影を見つけ、ウルは立ち止まる。
柱の陰で、女性がうずくまって泣いている。
「要救助者か。驚かせんなよ」
ウルは歩み寄って、女性を見下ろした。
こちらに気付いた女性は顔を上げる。
率直に言って……かなり好みだった。
褐色の肌に、黄金の波打つ髪。宝石のような瑠璃の瞳。
ほどよく痩せているわりに、胸はたわわに膨らんでいる。露出多めな女性の踊り子衣装が、色気を増幅していた。ん? この寒い北国で、なんで南国テイストの服着てるんだ?
「ありがとうございますぅ!」
「わっ」
女性は突然立ち上がり、ウルに抱きついてきた。
「助かりましたっ!」
「まだ助けてねーけど」
「そ、そうですよね!」
慌てて体を離し、女性は恥ずかしそうにする。
敵の魔物だとしても可愛いじゃないか。
ウルは、とっくに相手が普通の人間ではないと見抜いていたが、好みの女性だったので芝居に乗ってやろうと思った。
「お嬢さん、俺が外に連れてってやるよ。だけど、その前に聞きたい。玉座に、綺麗な女性が寝てるって噂は、本当か?」
「本当です」
「案内してくれるか?」
「危険です! あなたが行くのは止めませんけど、先に私を逃がして欲しいですぅ」
止められると挑みたくなるのが、ウルという男だった。
行くなと止められ、それなら是非とも玉座の間に行こうと考える。
「大丈夫だよ、俺っちが守ってやるからな!」
「止めましたからねぇ」
女性は、うるうると泣きそうな瞳で言い、案内を始めた。
「お前名前は?」
「レオナですぅ」
「その服装、寒くないか?」
「めっちゃ寒いです……」
面白いな。敵の魔物だとしても、言葉を交わせるのは、面白い。
ウルは会話しながらも、風を使って周囲を探査し、敵がいないか確かめていた。前回、竜巻の魔術を無効化したことから、この場所は敵の結界内だと分かっている。結界なら、起点を壊せば良い。
謎の女性が眠る玉座の間が、結界の起点だろうと、ウルは考えていた。
「ここです」
その広間からは、白い蒸気のような冷気が漏れだしていた。
六角の氷柱が通路の壁から生えている。
氷柱は奥に進むにつれ、大きさを増していった。
広大な玉座の間は、氷柱だか水晶だかで占領されている。花弁のように広がる透明な結晶の真ん中の、ひときわ大きくて太った結晶の中で、赤毛の女性が体を丸めて眠っていた。
白い肌は貝殻のような光沢を放っており、赤い髪は先端が金色に輝いている。眼を閉じて眠っているが、顔立ちは相当の美人だ。
しかし、彼女は人間ではないようだ。
扇のように広がる赤い髪、頭部の左右に、羊の角を思わせる黒い巻き角が生えている。
「残念だな。眠り姫が要救助者なら口説いてんのによ」
姫が魔物なら、殺すしかあるまい。
それに、おそらくここが結界の起点だ。
「死にゆく君に、手向けの花束を贈ろう」
杖を地面に打ち付けると、碧色に輝く魔法陣が波紋のように広がった。
「今が盛りなら断ち切ってしまえ! 風鎌早駆!」
杖の旋回に合わせ、風の刃が形成される。
鉱石も一刀両断する真空の刃が解き放たれた。
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