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Light in the Dark(闇の中の光)
第51話 物騒な約束
リトスたちは宿場町に着くと、馬を返却して、街の人々から情報収集を始めた。目的は、北上するにあたり敵の魔物の分布を調査することと、グレイドリブン最大の懸念となっている一夜城について知ること。
「一夜城は、昼間は無人だが、夜になると消えていた人々が戻ってくるらしいですぜ」
「夜になると昼間が嘘みたいに、賑やかな城でした。そこでは、死んでしまった人ともう一度会える……噂ですよ」
その噂を聞いたアッシュは頭を抱えていた。
先般あらわれた敵のクラウンが「一夜城に来ていただければ、あなたの大事な人を復活させますよ」と怪しい誘いをかけてきたばかりである。
「しばらく一人にしてくれ」
アッシュはそう言って、一人で散策に出てしまった。
今のアッシュを一人にするのは危険だ。
リトスは後を追うことにした。
居場所は、精霊鳥であるクッカを使えば、すぐに分かる。
アッシュは聖光教の協会の建物の、一般参拝席でたそがれていた。
「失礼しますね」
リトスは許可をもらう前に隣に座る。
アッシュは困った顔だ。
「一人にしてほしいと言ったが」
「お祈りの邪魔はしませんよ」
言いながら、アッシュから視線を外して祭壇を見る。
全国各地に存在する聖光教の教会には、たいがい光の精霊が降臨した伝承をかたる壁画がある。天から白い鳥が舞い降りてくる壁画だ。その白い鳥こそ、リトスが契約する光の高位精霊セマルグルなのだった。しかし、ここだけの話、リトスはまったく聖光教に興味はない。
「カリンさんを付けたのは、王家のかたがたでしょうか」
「……」
「女性なら誰でも良いって訳じゃないですもんね」
女性の騎士をお付きに任命したのは国王だと思われる。
気の弱いアッシュは、その有難迷惑を断れなかったのだろう。
だからこうして、カリンと離れて休んでいるのだ。
「……君は、お姉さんに戻ってきてほしいかい?」
のんびり待っていると、アッシュはやっと言葉を発した。
しかし、その問いかけは難問だ。
リトスは偽物で、聖女エリザの弟などではなく、何の関係もない赤の他人なのだから。
「さあ。分からないですよ、そんなこと」
嘘でも親身な回答をすべきなのだろうか。
だが、あえてリトスは正直に話すことにした。
「俺自身の想いはともかく……姉さんは、こんな世界に戻って来たいと思っているかな」
戻ってきても、このままでは未来がない。
そのことに気付いたのか、うつむいていたアッシュの肩が揺れた。
彼は、ゆっくり顔を上げる。
「……エリザが戻ってきても、今の私では守り切れないだろう。そうだ、私は、あの娘とどんな未来を描きたかったのだろうな」
聖光教の白い鳥は、善行を積んだ死者を天国に導くという。
けして現世に死者を連れ戻したりしない。
その壁画を見上げ、アッシュはしばらく何事か考えているようだった。
夕方になり、アッシュはカリンと一緒に酒場へ行ってしまった。
未成年のリトスは、留守番を言いつけられた。
「俺も酒を飲みたい~~!」
「今は我慢しろ。お前が酔ったら、不測の事態に対処できなくなる……一夜城のトリックは分かったのか?」
昼間に買い出しに行っていたレイヴンが、戦利品の葡萄酒を一口分けてくれる。自分はラッパ飲みするなんてずるい。
つまみのナッツをレイヴンから奪いながら、リトスは答えた。
「ああ。一夜城の周囲に張られてるのは、やっぱり結界じゃなくて、領域だったよ。領域の主の設定したルールが絶対になるやつ」
「厄介だな」
「角の生えてるお姫様が親玉で、強い子分が二匹。一匹は、道中襲ってきたクラウンってやつね」
現在進行形で、召喚した精霊鳥たちには、状況を逐一報告させている。
精霊鳥を召喚してからは膨大な量の情報に対処するため、起きている時も夢うつつな状態だったが、ようやく頭がはっきりしてきたところだった。
「だいぶ狡猾で、計画的な布陣だよ。おそらく、これは星瞳の魔術師を捕まえるための罠だ」
「なんだと?」
「常に旅をしていて、得意な魔術が分かりやすい、西風の魔術師もしくは、流星の魔術師……二人のどちらかが引っかかれば、儲けものだと考えてるだろうな」
魔神は、魔物を産み育てるための膨大な魔力を欲している。
星瞳の魔術師の魔力を取り込めば、一気に世界征服の準備がととのう。
今リトスが魔力を奪うため魔界に殴り込みをかけようとしているように、魔神側も魔力を求めて人間界に殴り込みをかけている訳だ。
「舐められたものだな」
自身が標的と知って、レイヴンは険しい表情だ。
「西風に警告を送るか?」
「もう遅い。あいつ一人で突っ込んでったよ」
リトスは、止める間もなく強行した男の現在状況を把握している。
馬鹿だよな、あいつ……それに魔神も。
「レイヴン、あんたは俺から離れるなよ。俺が守ってやるからさ」
敵は、メレフの聖鳥の魔術師を計算に入れていない。
だからこそ逆転の目はある。
「守ってやる、か」
レイヴンは、リトスの言葉を聞いて含み笑いをした。
その態度に少し腹が立つリトスだ。
同じ星瞳の魔術師なのに、妙に保護者ぶりやがって。確かに、不意を突かれて子供の姿にされたけどさ~。
「なんだよ。なんか文句ある?」
「いや。異論はない」
膨れていると、レイヴンは唐突に体を寄せ、腕を肩に回してきた。
耳元でささやいてくる。
「守られてやるから、お前は自分を犠牲にするな―――お前を殺していいのは、俺だけだ」
「!」
耳に吹き込まれた甘く低い声音に、リトスはぞっとする。
今更だが、レイヴンは闇属性の魔術師だと実感した。
物騒な台詞なのに、嬉しく思うなんて、きっと間違っている。
「一夜城は、昼間は無人だが、夜になると消えていた人々が戻ってくるらしいですぜ」
「夜になると昼間が嘘みたいに、賑やかな城でした。そこでは、死んでしまった人ともう一度会える……噂ですよ」
その噂を聞いたアッシュは頭を抱えていた。
先般あらわれた敵のクラウンが「一夜城に来ていただければ、あなたの大事な人を復活させますよ」と怪しい誘いをかけてきたばかりである。
「しばらく一人にしてくれ」
アッシュはそう言って、一人で散策に出てしまった。
今のアッシュを一人にするのは危険だ。
リトスは後を追うことにした。
居場所は、精霊鳥であるクッカを使えば、すぐに分かる。
アッシュは聖光教の協会の建物の、一般参拝席でたそがれていた。
「失礼しますね」
リトスは許可をもらう前に隣に座る。
アッシュは困った顔だ。
「一人にしてほしいと言ったが」
「お祈りの邪魔はしませんよ」
言いながら、アッシュから視線を外して祭壇を見る。
全国各地に存在する聖光教の教会には、たいがい光の精霊が降臨した伝承をかたる壁画がある。天から白い鳥が舞い降りてくる壁画だ。その白い鳥こそ、リトスが契約する光の高位精霊セマルグルなのだった。しかし、ここだけの話、リトスはまったく聖光教に興味はない。
「カリンさんを付けたのは、王家のかたがたでしょうか」
「……」
「女性なら誰でも良いって訳じゃないですもんね」
女性の騎士をお付きに任命したのは国王だと思われる。
気の弱いアッシュは、その有難迷惑を断れなかったのだろう。
だからこうして、カリンと離れて休んでいるのだ。
「……君は、お姉さんに戻ってきてほしいかい?」
のんびり待っていると、アッシュはやっと言葉を発した。
しかし、その問いかけは難問だ。
リトスは偽物で、聖女エリザの弟などではなく、何の関係もない赤の他人なのだから。
「さあ。分からないですよ、そんなこと」
嘘でも親身な回答をすべきなのだろうか。
だが、あえてリトスは正直に話すことにした。
「俺自身の想いはともかく……姉さんは、こんな世界に戻って来たいと思っているかな」
戻ってきても、このままでは未来がない。
そのことに気付いたのか、うつむいていたアッシュの肩が揺れた。
彼は、ゆっくり顔を上げる。
「……エリザが戻ってきても、今の私では守り切れないだろう。そうだ、私は、あの娘とどんな未来を描きたかったのだろうな」
聖光教の白い鳥は、善行を積んだ死者を天国に導くという。
けして現世に死者を連れ戻したりしない。
その壁画を見上げ、アッシュはしばらく何事か考えているようだった。
夕方になり、アッシュはカリンと一緒に酒場へ行ってしまった。
未成年のリトスは、留守番を言いつけられた。
「俺も酒を飲みたい~~!」
「今は我慢しろ。お前が酔ったら、不測の事態に対処できなくなる……一夜城のトリックは分かったのか?」
昼間に買い出しに行っていたレイヴンが、戦利品の葡萄酒を一口分けてくれる。自分はラッパ飲みするなんてずるい。
つまみのナッツをレイヴンから奪いながら、リトスは答えた。
「ああ。一夜城の周囲に張られてるのは、やっぱり結界じゃなくて、領域だったよ。領域の主の設定したルールが絶対になるやつ」
「厄介だな」
「角の生えてるお姫様が親玉で、強い子分が二匹。一匹は、道中襲ってきたクラウンってやつね」
現在進行形で、召喚した精霊鳥たちには、状況を逐一報告させている。
精霊鳥を召喚してからは膨大な量の情報に対処するため、起きている時も夢うつつな状態だったが、ようやく頭がはっきりしてきたところだった。
「だいぶ狡猾で、計画的な布陣だよ。おそらく、これは星瞳の魔術師を捕まえるための罠だ」
「なんだと?」
「常に旅をしていて、得意な魔術が分かりやすい、西風の魔術師もしくは、流星の魔術師……二人のどちらかが引っかかれば、儲けものだと考えてるだろうな」
魔神は、魔物を産み育てるための膨大な魔力を欲している。
星瞳の魔術師の魔力を取り込めば、一気に世界征服の準備がととのう。
今リトスが魔力を奪うため魔界に殴り込みをかけようとしているように、魔神側も魔力を求めて人間界に殴り込みをかけている訳だ。
「舐められたものだな」
自身が標的と知って、レイヴンは険しい表情だ。
「西風に警告を送るか?」
「もう遅い。あいつ一人で突っ込んでったよ」
リトスは、止める間もなく強行した男の現在状況を把握している。
馬鹿だよな、あいつ……それに魔神も。
「レイヴン、あんたは俺から離れるなよ。俺が守ってやるからさ」
敵は、メレフの聖鳥の魔術師を計算に入れていない。
だからこそ逆転の目はある。
「守ってやる、か」
レイヴンは、リトスの言葉を聞いて含み笑いをした。
その態度に少し腹が立つリトスだ。
同じ星瞳の魔術師なのに、妙に保護者ぶりやがって。確かに、不意を突かれて子供の姿にされたけどさ~。
「なんだよ。なんか文句ある?」
「いや。異論はない」
膨れていると、レイヴンは唐突に体を寄せ、腕を肩に回してきた。
耳元でささやいてくる。
「守られてやるから、お前は自分を犠牲にするな―――お前を殺していいのは、俺だけだ」
「!」
耳に吹き込まれた甘く低い声音に、リトスはぞっとする。
今更だが、レイヴンは闇属性の魔術師だと実感した。
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