嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

文字の大きさ
123 / 209
Light in the Dark(闇の中の光)

第51話 物騒な約束

 リトスたちは宿場町に着くと、馬を返却して、街の人々から情報収集を始めた。目的は、北上するにあたり敵の魔物の分布を調査することと、グレイドリブン最大の懸念となっている一夜城について知ること。
 
「一夜城は、昼間は無人だが、夜になると消えていた人々が戻ってくるらしいですぜ」
「夜になると昼間が嘘みたいに、賑やかな城でした。そこでは、死んでしまった人ともう一度会える……噂ですよ」

 その噂を聞いたアッシュは頭を抱えていた。
 先般あらわれた敵のクラウンが「一夜城に来ていただければ、あなたの大事な人を復活させますよ」と怪しい誘いをかけてきたばかりである。

「しばらく一人にしてくれ」

 アッシュはそう言って、一人で散策に出てしまった。
 今のアッシュを一人にするのは危険だ。
 リトスは後を追うことにした。
 居場所は、精霊鳥であるクッカを使えば、すぐに分かる。
 アッシュは聖光教の協会の建物の、一般参拝席でたそがれていた。

「失礼しますね」

 リトスは許可をもらう前に隣に座る。
 アッシュは困った顔だ。

「一人にしてほしいと言ったが」
「お祈りの邪魔はしませんよ」

 言いながら、アッシュから視線を外して祭壇を見る。
 全国各地に存在する聖光教の教会には、たいがい光の精霊が降臨した伝承をかたる壁画がある。天から白い鳥が舞い降りてくる壁画だ。その白い鳥こそ、リトスが契約する光の高位精霊セマルグルなのだった。しかし、ここだけの話、リトスはまったく聖光教に興味はない。

「カリンさんを付けたのは、王家のかたがたでしょうか」
「……」
「女性なら誰でも良いって訳じゃないですもんね」

 女性の騎士をお付きに任命したのは国王だと思われる。
 気の弱いアッシュは、その有難迷惑を断れなかったのだろう。
 だからこうして、カリンと離れて休んでいるのだ。

「……君は、お姉さんに戻ってきてほしいかい?」

 のんびり待っていると、アッシュはやっと言葉を発した。
 しかし、その問いかけは難問だ。
 リトスは偽物で、聖女エリザの弟などではなく、何の関係もない赤の他人なのだから。

「さあ。分からないですよ、そんなこと」

 嘘でも親身な回答をすべきなのだろうか。
 だが、あえてリトスは正直に話すことにした。

「俺自身の想いはともかく……姉さんは、こんな世界に戻って来たいと思っているかな」

 戻ってきても、このままでは未来がない。
 そのことに気付いたのか、うつむいていたアッシュの肩が揺れた。
 彼は、ゆっくり顔を上げる。

「……エリザが戻ってきても、今の私では守り切れないだろう。そうだ、私は、あの娘とどんな未来を描きたかったのだろうな」

 聖光教の白い鳥は、善行を積んだ死者を天国に導くという。
 けして現世に死者を連れ戻したりしない。
 その壁画を見上げ、アッシュはしばらく何事か考えているようだった。



 夕方になり、アッシュはカリンと一緒に酒場へ行ってしまった。
 未成年のリトスは、留守番を言いつけられた。

「俺も酒を飲みたい~~!」
「今は我慢しろ。お前が酔ったら、不測の事態に対処できなくなる……一夜城のトリックは分かったのか?」

 昼間に買い出しに行っていたレイヴンが、戦利品の葡萄酒を一口分けてくれる。自分はラッパ飲みするなんてずるい。
 つまみのナッツをレイヴンから奪いながら、リトスは答えた。

「ああ。一夜城の周囲に張られてるのは、やっぱり結界じゃなくて、領域だったよ。領域の主の設定したルールが絶対になるやつ」
「厄介だな」
「角の生えてるお姫様が親玉で、強い子分が二匹。一匹は、道中襲ってきたクラウンってやつね」

 現在進行形で、召喚した精霊鳥たちには、状況を逐一報告させている。
 精霊鳥を召喚してからは膨大な量の情報に対処するため、起きている時も夢うつつな状態だったが、ようやく頭がはっきりしてきたところだった。

「だいぶ狡猾で、計画的な布陣だよ。おそらく、これは星瞳の魔術師を捕まえるための罠だ」
「なんだと?」
「常に旅をしていて、得意な魔術が分かりやすい、西風の魔術師もしくは、流星の魔術師……二人のどちらかが引っかかれば、儲けものだと考えてるだろうな」

 魔神は、魔物を産み育てるための膨大な魔力を欲している。
 星瞳の魔術師の魔力を取り込めば、一気に世界征服の準備がととのう。
 今リトスが魔力を奪うため魔界に殴り込みをかけようとしているように、魔神側も魔力を求めて人間界に殴り込みをかけている訳だ。

「舐められたものだな」

 自身が標的と知って、レイヴンは険しい表情だ。

「西風に警告を送るか?」
「もう遅い。あいつ一人で突っ込んでったよ」

 リトスは、止める間もなく強行した男の現在状況を把握している。
 馬鹿だよな、あいつ……それに魔神も。
 
「レイヴン、あんたは俺から離れるなよ。俺が守ってやるからさ」

 敵は、メレフの聖鳥の魔術師を計算に入れていない。
 だからこそ逆転の目はある。

「守ってやる、か」

 レイヴンは、リトスの言葉を聞いて含み笑いをした。
 その態度に少し腹が立つリトスだ。
 同じ星瞳の魔術師なのに、妙に保護者ぶりやがって。確かに、不意を突かれて子供の姿にされたけどさ~。

「なんだよ。なんか文句ある?」
「いや。異論はない」

 膨れていると、レイヴンは唐突に体を寄せ、腕を肩に回してきた。
 耳元でささやいてくる。

「守られてやるから、お前は自分を犠牲にするな―――お前を殺していいのは、俺だけだ」
「!」

 耳に吹き込まれた甘く低い声音に、リトスはぞっとする。
 今更だが、レイヴンは闇属性の魔術師だと実感した。
 物騒な台詞なのに、嬉しく思うなんて、きっと間違っている。
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

即席異世界転移して薬草師になった

黒密
ファンタジー
ある日、学校から帰ってきて机を見たら即席異世界転移と書かれたカップ麺みたいな容器が置いてある事に気がついた普通の高校生、華崎 秦(かざき しん) 秦は興味本位でその容器にお湯と中に入っていた粉を入れて三分待ち、封を開けたら異世界に転移した。 そして気がつくと異世界の大半を管理している存在、ユーリ・ストラスに秦は元の世界に帰れない事を知った。 色々考えた結果、秦は異世界で生きることを決めてユーリから六枚のカードからスキルを選んだ。 秦はその選んだスキル、薬草師で異世界を生きる事になる。

拾ってないのに、最上位が毎日“帰る”んですがーー飼い主じゃありません!ただの受付係です!

星乃和花
恋愛
王都ギルド受付係リナは、今日も平和に働く予定だった。 ……のに。 「お腹すいた」 そう言って現れたのは、最上位の英雄レオン。 強いのに生活力ゼロ、距離感ゼロ、甘え方だけは一流。 手当てすれば「危ない」と囲い込み、 看病すれば抱きしめて離さず、 ついには―― 「君が、俺の帰る場所」 拾ってない。飼ってない。 ただ世話を焼いただけなのに、英雄が毎日“帰ってくる”ようになりました。 無自覚世話焼き受付嬢 × 甘えた天然英雄の 距離感バグ甘々ラブコメ、開幕! ⭐︎火木土21:20更新ー本編8話+後日談9話⭐︎

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

娯遊戯空現
恋愛
ハイタッド公爵家の令嬢・セラフィン=ハイタッドは悪人だった……。 第二王子・アエルバートの婚約者の座を手に入れたセラフィンはゆくゆくは王妃となり国を牛耳るつもりでいた。しかし伯爵令嬢・ブレアナ=シュレイムの登場により、事態は一変する。 アエルバートがブレアナを気に入ってしまい、それに焦ったセラフィンが二人の仲を妨害した。 そんな折、セラフィンは自分が転生者であることとここが乙女ゲーム『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』の世界であることを思い出す。 自分の行く末が破滅であることに気付くもすで事態は動き出した後で、婚約破棄&処刑を言い渡される。 処刑時に逃げようとしたセラフィンは命は助かったものの毒に冒されてしまった。 そこに謎の美形男性が現れ、いきなり唇を奪われて……。