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Power of Salvation(救世の力)
第58話 聖剣奉納
北盾教会は、高い石壁に囲まれ、鉄格子の扉は固く閉じられている。
「私は王命により、聖剣奉納に来た! 開けてくれ!」
アッシュは聖剣をかかげ、扉の向こう側に向けて叫ぶ。
背後には、魔物の群れが迫っている。
北盾教会の人々が彼を信じて門を開けないと、ここで詰みだ。
少しして、扉の内側で言い争う声がし、重い門が開かれた。
「アッシュ殿下、どうぞ中へ!」
どうやら、蒼炎の騎士の顔を知る神官がいたらしい。
アッシュはトナカイを急かし、全速力で北盾教会の敷地に突っ込んだ。
トナカイが通過した直後すぐさま、門扉が音を立てて閉ざされる。
追ってきた魔物は、北盾教会を守る強力な結界にぶつかって悲鳴を上げた。
リトスは無事の到着に安堵する。
いざとなれば自分の出番と思っていたが、その必要はなさそうだ。まったく冷や冷やさせられる。
「遠方から、よくぞいらっしゃいました」
立派な法衣を着た神官長と思われる壮年の男が、アッシュに挨拶する。
「そちらは……」
そして、一人だけ子供のリトスを見て、不思議そうにする。
リトスは、アッシュが紹介する前に、口を出した。
「リトスです」
途端に、神官長が目を見開いた。
「あなたが……!」
実は、事前に故郷メレフの聖光教会経由で、ここに訪れる旨の手紙を出してもらっていた。子供の姿で訪れることも含め、説明してある。
すんなり訪問の話が進んだのは、北盾教会から聖地メレフに嘆願書が届いていたせいもある。
「?」
「アッシュ殿下は旅の途中で出会ったので、俺のことは知らないのですよ」
神官長とリトスのやり取りを聞き、アッシュは不思議そうにしている。
リトスは軽く補足説明をし、神官長に口裏を合わせて欲しいと合図を送った。
「さようでしたか。それは奇縁なこと。きっと、これも神のお導きでしょう」
神官長はおっとりと言い、建物に入るよう、全員に促した。
「殿下におかれましては、大変お疲れとは存じますが、すぐに聖剣奉納の儀をさせて頂きたく。闇がすぐそこまで迫っています。もはや一刻の猶予もありません」
「もちろんだ。私は、そのために来た」
旅の泥も落とさず、戦地の格好のまま、アッシュは教会の奥に案内された。
細長い通路を通って、花のレリーフが刻まれた扉の前に辿りつく。
神官たちが祈りを唱えてから、扉を開けた。
「っつ」
リトスは扉の向こう側の光景に絶句する。
綺麗に掃除された聖堂の壁に並ぶのは、無数の剣。錆びて朽ち果てているが、それらに込められた想い、捧げられた命が、剣に魂を与えている。
「奉納を」
神官長に言われ、アッシュはゆっくり聖剣を手に、前に踏み出した。
無数の剣で装飾された祭壇の中央、ぽっかり空いた台座に、持ってきた剣を設置する。
途端に、祭壇は光を発した。
―――光なき地に光を
神よ、どうか救いたまえ
この命で大切な人を守れるのなら
誰かが犠牲にならないといけないのなら―――
救いを求める声、嘆きに満ちた残響が、リトスの心に飛び込んでくる。
この祭壇に捧げられた、十数人の聖女、そして、そこに至るまでにも大勢の人々が、贄として犠牲になった。
祭壇に染み付いた魂の欠片が、まるで合唱のように、果たされない願いについて訴えかけてくる。
慣れてはいるけど、今回は結構つらい……
「聞こえるのですね」
額を抑えてよろめいたリトスを見て、神官長が悲しそうな顔をする。
「この地は、あまりにも多くの血を流し過ぎました。もう、終わりにしたいのです」
北盾教会から、聖地メレフに送られた嘆願。
それは聖鳥の魔術師の力で、北の最果てを守る結界を犠牲が出ない形へ再構築できないか、という依頼だった。
リトスが聖鳥の魔術師として名乗りをあげてから、メレフ宛に同様の願いが次々と寄せられている。
人間界で唯一の、光の魔術師。
聖鳥セマルグルと契約した、希望の導き手。
四方を魔界で侵されつつある、この世界において、救世の光となる者。
……やめてくれ。俺は、そんなんじゃない。
ただ妹を救いたかった、酷い父親に復讐したいという、個人的な事情で力を求め、偶然適性が光だっただけだ。
世界を救うなんて柄じゃない。
他人の期待は重い。そんなものに囚われず、ただ自由に翼を広げて飛びたかった。
『一人で背負うな』
まるで見透かしたようなレイヴンの言葉を、ふと思い出した。同時に、肩の荷がふっと軽くなった気がする。
感情と思考を切り離せ。
これは仕事だろう。
「……お前たちの窮状は理解した」
リトスは顔を上げ、聖剣を収めた祭壇を見据える。
「少し時間が欲しい」
「はい、希望があるのなら待ちます。もう百年以上お待ちしたのです。今さら数年程度」
「そんな時間は掛けないさ。せいぜい数日だ」
現地調査は完了。あとは式を組み上げるだけ。
魔界に行って、修行がてら魔力を回復しながら、グレイドリブンに構築する結界について考えようと思った。
「私は王命により、聖剣奉納に来た! 開けてくれ!」
アッシュは聖剣をかかげ、扉の向こう側に向けて叫ぶ。
背後には、魔物の群れが迫っている。
北盾教会の人々が彼を信じて門を開けないと、ここで詰みだ。
少しして、扉の内側で言い争う声がし、重い門が開かれた。
「アッシュ殿下、どうぞ中へ!」
どうやら、蒼炎の騎士の顔を知る神官がいたらしい。
アッシュはトナカイを急かし、全速力で北盾教会の敷地に突っ込んだ。
トナカイが通過した直後すぐさま、門扉が音を立てて閉ざされる。
追ってきた魔物は、北盾教会を守る強力な結界にぶつかって悲鳴を上げた。
リトスは無事の到着に安堵する。
いざとなれば自分の出番と思っていたが、その必要はなさそうだ。まったく冷や冷やさせられる。
「遠方から、よくぞいらっしゃいました」
立派な法衣を着た神官長と思われる壮年の男が、アッシュに挨拶する。
「そちらは……」
そして、一人だけ子供のリトスを見て、不思議そうにする。
リトスは、アッシュが紹介する前に、口を出した。
「リトスです」
途端に、神官長が目を見開いた。
「あなたが……!」
実は、事前に故郷メレフの聖光教会経由で、ここに訪れる旨の手紙を出してもらっていた。子供の姿で訪れることも含め、説明してある。
すんなり訪問の話が進んだのは、北盾教会から聖地メレフに嘆願書が届いていたせいもある。
「?」
「アッシュ殿下は旅の途中で出会ったので、俺のことは知らないのですよ」
神官長とリトスのやり取りを聞き、アッシュは不思議そうにしている。
リトスは軽く補足説明をし、神官長に口裏を合わせて欲しいと合図を送った。
「さようでしたか。それは奇縁なこと。きっと、これも神のお導きでしょう」
神官長はおっとりと言い、建物に入るよう、全員に促した。
「殿下におかれましては、大変お疲れとは存じますが、すぐに聖剣奉納の儀をさせて頂きたく。闇がすぐそこまで迫っています。もはや一刻の猶予もありません」
「もちろんだ。私は、そのために来た」
旅の泥も落とさず、戦地の格好のまま、アッシュは教会の奥に案内された。
細長い通路を通って、花のレリーフが刻まれた扉の前に辿りつく。
神官たちが祈りを唱えてから、扉を開けた。
「っつ」
リトスは扉の向こう側の光景に絶句する。
綺麗に掃除された聖堂の壁に並ぶのは、無数の剣。錆びて朽ち果てているが、それらに込められた想い、捧げられた命が、剣に魂を与えている。
「奉納を」
神官長に言われ、アッシュはゆっくり聖剣を手に、前に踏み出した。
無数の剣で装飾された祭壇の中央、ぽっかり空いた台座に、持ってきた剣を設置する。
途端に、祭壇は光を発した。
―――光なき地に光を
神よ、どうか救いたまえ
この命で大切な人を守れるのなら
誰かが犠牲にならないといけないのなら―――
救いを求める声、嘆きに満ちた残響が、リトスの心に飛び込んでくる。
この祭壇に捧げられた、十数人の聖女、そして、そこに至るまでにも大勢の人々が、贄として犠牲になった。
祭壇に染み付いた魂の欠片が、まるで合唱のように、果たされない願いについて訴えかけてくる。
慣れてはいるけど、今回は結構つらい……
「聞こえるのですね」
額を抑えてよろめいたリトスを見て、神官長が悲しそうな顔をする。
「この地は、あまりにも多くの血を流し過ぎました。もう、終わりにしたいのです」
北盾教会から、聖地メレフに送られた嘆願。
それは聖鳥の魔術師の力で、北の最果てを守る結界を犠牲が出ない形へ再構築できないか、という依頼だった。
リトスが聖鳥の魔術師として名乗りをあげてから、メレフ宛に同様の願いが次々と寄せられている。
人間界で唯一の、光の魔術師。
聖鳥セマルグルと契約した、希望の導き手。
四方を魔界で侵されつつある、この世界において、救世の光となる者。
……やめてくれ。俺は、そんなんじゃない。
ただ妹を救いたかった、酷い父親に復讐したいという、個人的な事情で力を求め、偶然適性が光だっただけだ。
世界を救うなんて柄じゃない。
他人の期待は重い。そんなものに囚われず、ただ自由に翼を広げて飛びたかった。
『一人で背負うな』
まるで見透かしたようなレイヴンの言葉を、ふと思い出した。同時に、肩の荷がふっと軽くなった気がする。
感情と思考を切り離せ。
これは仕事だろう。
「……お前たちの窮状は理解した」
リトスは顔を上げ、聖剣を収めた祭壇を見据える。
「少し時間が欲しい」
「はい、希望があるのなら待ちます。もう百年以上お待ちしたのです。今さら数年程度」
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