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After the Rain(虹の架け橋)
第113話 罪の在処
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ランシェンを拘束した部屋から出ると、リトスは深呼吸した。
扉は閉めたし、こちらの会話はランシェンに聞こえないだろう。
「……父が、魔物を使って、ファーランの転覆を企んでいたのですか。水蓮様の失踪も、セイエイ王子の失策も」
自分の肉親がやったことなのかと、ユエリは打ちひしがれている。
真面目なユエリらしい。だから連れてきたくなかったのだと、リトスは苦い気持ちを味わった。
しかし、そこでレイヴンが静かだが力強い声を発する。
「気に病むな……と言っても無理だろう。だが、俺はあえて言う」
「……」
「リトスには、口が裂けても言えないことだ。父の負債を子が背負う必要はない。お前には、罪がない」
「!」
レイヴンの言葉に、リトスは息を呑んだ。
そうだ。俺には言えない。ユエリを慰めてやることはできない。
父親がしでかしたことが、自分には全く関係ないだなんて、そんなこと、言えるはずもない。
「確かに、環境は人を左右するだろう。生まれた国の歴史、育った家の慣習、血筋にまつわる因果……それらは避けて通れないものだ。お前と言う人格を形成する一因でもあるそれを、無視することはできまい。しかし、それらはあくまでも過去。罪滅ぼしや清算といった、特定の行動を強制するものではない」
レイヴンは、ユエリに語り掛けた後、ちらとリトスを見やった。
その意図は明らかだ。これは、ユエリにだけ言っている訳ではない。
「過去は、過去でしかない。お前は自由だ。罪を引き受けるのも、引き受けないのも、自分で決めていいのだ」
ユエリは黙って、レイヴンの言葉を噛み締めている。
彼が落ち着くのを待って、リトスは今後のことを話そうと気分を切り替えた。
「……レイヴン。あのランシェンを、どうするつもりなんだ?」
「無論、あの世に送る。あの男は放置すれば、世界に害をもたらす」
リトスの問いかけに、レイヴンはもう決めたと、あっさり回答する。
こいつ、やっぱり闇の魔術師だよなと思う瞬間だ。
「ユエリ。さっき俺が言ったことだけど、ランシェンと二人きりで話すか? レイヴンもこう言っているし、たぶん、これが最後になると思うけど」
決断は本人に任せる。
ユエリは、リトスに聞かれて、ゆっくり頷いた。
「そうですね。最後に少しだけ……でも、大丈夫ですか。ご迷惑をお掛けしたり」
「気にするな」
ランシェンはユエリの体を利用するつもりだろうが、それはできないことを、すぐに悟るだろう。魂を操る聖鳥の魔術師の二つ名にかけて、ユエリに手出しさせるつもりはなかった。
心の準備ができたユエリは、ランシェンを拘束した部屋の中に戻っていく。
リトスとレイヴンは、通路に残って、その背中を見届けた。
「……なあ。ランシェンの後始末、俺に任せてもらっていい?」
二人だけになったので、リトスはざっくばらんにレイヴンに話しかける。
「構わないが、何故」
「あいつ、他者の体を乗っ取るつもりで魔術の研究してたんだろ。魂の解析をしてから始末したい」
肉体と魂を分離して、魂を光水晶に閉じ込め、情報を全部洗いだしてから消滅させようと、リトスは考える。
自分の魔術の実験にもなるし、ちょうどいい。
しれっと非人道的なことを言うリトスに、レイヴンが呆れた顔をする。
「父親の罪滅ぼしに悩んでいるかと思えば、これだ。お前は本当に、光属性の魔術師か?」
「皆、光属性に夢見過ぎだって。それに俺は、そんな優しくない」
「……確かに、優しいだけでは、星瞳の魔術師にはなれないか」
治癒魔術の発展のため、瀕死の人や死体を用いた実験が必要なように、綺麗事だけで魔術師はやっていられない。
水蓮はどうなのだろうと、リトスはふとファーランにいる彼女を思い浮かべる。
彼女は、すべての人が健康で長生きするよう祈って神水を作った。一見、自己評価の低くて優しい白兎だが、それだけで星瞳の魔術師になれるだろうか。好きな男のためだけに、過酷な魔術の世界に足を踏み入れ、頂点を極められるとは思えないのだけど。
(※水蓮視点)
よく分からないけど、シンエイ復活して良かったね……じゃ、無~~~い!!!
水蓮の魔術師、本名シンリンは、自分で自分に突っ込みを入れていた。
「何故なのか、調べないと」
復活したシンエイは、なんだか冷たい性格になっていて、様子がおかしい。
理由は、二つ考えられる。
一つ目は、敵である魔神の影響だろう、ということ。
それでは魔神は、どういった性質を持つ魔物なのだろうか。東湖地方の遺跡から目覚めたようだが、かの遺跡はいつ頃からそこにあり、どのような魔物が棲息していたのか。
二つ目は、彼自身の特性、竜人という種族に関係あるのかもしれない、ということ。
竜人という種族は希少ゆえ、謎に包まれている。竜玉がいったい何かも、詳細が分かっていない。
シンリンは王城の地下にある書庫に降り、古文書を調べることにした。
いったいどのくらい、書物に没頭していただろう。
「水蓮様! 水蓮様!!」
名前を呼ばれ、我に返った。
気付くと、目の前に焦った表情の雨月公女ユーティンが跪《ひざま》いている。
「どうしたの、ユーティン」
「陛下が、帝国に開戦宣言をしました。水蓮様は、ご存知なのですか?!」
「開戦……?」
手元からポロリと、書物が落ちる。
いったい、どうしちゃったの、シンエイ。
扉は閉めたし、こちらの会話はランシェンに聞こえないだろう。
「……父が、魔物を使って、ファーランの転覆を企んでいたのですか。水蓮様の失踪も、セイエイ王子の失策も」
自分の肉親がやったことなのかと、ユエリは打ちひしがれている。
真面目なユエリらしい。だから連れてきたくなかったのだと、リトスは苦い気持ちを味わった。
しかし、そこでレイヴンが静かだが力強い声を発する。
「気に病むな……と言っても無理だろう。だが、俺はあえて言う」
「……」
「リトスには、口が裂けても言えないことだ。父の負債を子が背負う必要はない。お前には、罪がない」
「!」
レイヴンの言葉に、リトスは息を呑んだ。
そうだ。俺には言えない。ユエリを慰めてやることはできない。
父親がしでかしたことが、自分には全く関係ないだなんて、そんなこと、言えるはずもない。
「確かに、環境は人を左右するだろう。生まれた国の歴史、育った家の慣習、血筋にまつわる因果……それらは避けて通れないものだ。お前と言う人格を形成する一因でもあるそれを、無視することはできまい。しかし、それらはあくまでも過去。罪滅ぼしや清算といった、特定の行動を強制するものではない」
レイヴンは、ユエリに語り掛けた後、ちらとリトスを見やった。
その意図は明らかだ。これは、ユエリにだけ言っている訳ではない。
「過去は、過去でしかない。お前は自由だ。罪を引き受けるのも、引き受けないのも、自分で決めていいのだ」
ユエリは黙って、レイヴンの言葉を噛み締めている。
彼が落ち着くのを待って、リトスは今後のことを話そうと気分を切り替えた。
「……レイヴン。あのランシェンを、どうするつもりなんだ?」
「無論、あの世に送る。あの男は放置すれば、世界に害をもたらす」
リトスの問いかけに、レイヴンはもう決めたと、あっさり回答する。
こいつ、やっぱり闇の魔術師だよなと思う瞬間だ。
「ユエリ。さっき俺が言ったことだけど、ランシェンと二人きりで話すか? レイヴンもこう言っているし、たぶん、これが最後になると思うけど」
決断は本人に任せる。
ユエリは、リトスに聞かれて、ゆっくり頷いた。
「そうですね。最後に少しだけ……でも、大丈夫ですか。ご迷惑をお掛けしたり」
「気にするな」
ランシェンはユエリの体を利用するつもりだろうが、それはできないことを、すぐに悟るだろう。魂を操る聖鳥の魔術師の二つ名にかけて、ユエリに手出しさせるつもりはなかった。
心の準備ができたユエリは、ランシェンを拘束した部屋の中に戻っていく。
リトスとレイヴンは、通路に残って、その背中を見届けた。
「……なあ。ランシェンの後始末、俺に任せてもらっていい?」
二人だけになったので、リトスはざっくばらんにレイヴンに話しかける。
「構わないが、何故」
「あいつ、他者の体を乗っ取るつもりで魔術の研究してたんだろ。魂の解析をしてから始末したい」
肉体と魂を分離して、魂を光水晶に閉じ込め、情報を全部洗いだしてから消滅させようと、リトスは考える。
自分の魔術の実験にもなるし、ちょうどいい。
しれっと非人道的なことを言うリトスに、レイヴンが呆れた顔をする。
「父親の罪滅ぼしに悩んでいるかと思えば、これだ。お前は本当に、光属性の魔術師か?」
「皆、光属性に夢見過ぎだって。それに俺は、そんな優しくない」
「……確かに、優しいだけでは、星瞳の魔術師にはなれないか」
治癒魔術の発展のため、瀕死の人や死体を用いた実験が必要なように、綺麗事だけで魔術師はやっていられない。
水蓮はどうなのだろうと、リトスはふとファーランにいる彼女を思い浮かべる。
彼女は、すべての人が健康で長生きするよう祈って神水を作った。一見、自己評価の低くて優しい白兎だが、それだけで星瞳の魔術師になれるだろうか。好きな男のためだけに、過酷な魔術の世界に足を踏み入れ、頂点を極められるとは思えないのだけど。
(※水蓮視点)
よく分からないけど、シンエイ復活して良かったね……じゃ、無~~~い!!!
水蓮の魔術師、本名シンリンは、自分で自分に突っ込みを入れていた。
「何故なのか、調べないと」
復活したシンエイは、なんだか冷たい性格になっていて、様子がおかしい。
理由は、二つ考えられる。
一つ目は、敵である魔神の影響だろう、ということ。
それでは魔神は、どういった性質を持つ魔物なのだろうか。東湖地方の遺跡から目覚めたようだが、かの遺跡はいつ頃からそこにあり、どのような魔物が棲息していたのか。
二つ目は、彼自身の特性、竜人という種族に関係あるのかもしれない、ということ。
竜人という種族は希少ゆえ、謎に包まれている。竜玉がいったい何かも、詳細が分かっていない。
シンリンは王城の地下にある書庫に降り、古文書を調べることにした。
いったいどのくらい、書物に没頭していただろう。
「水蓮様! 水蓮様!!」
名前を呼ばれ、我に返った。
気付くと、目の前に焦った表情の雨月公女ユーティンが跪《ひざま》いている。
「どうしたの、ユーティン」
「陛下が、帝国に開戦宣言をしました。水蓮様は、ご存知なのですか?!」
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いったい、どうしちゃったの、シンエイ。
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