嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉

文字の大きさ
185 / 197
After the Rain(虹の架け橋)

第113話 罪の在処

しおりを挟む
 ランシェンを拘束した部屋から出ると、リトスは深呼吸した。
 扉は閉めたし、こちらの会話はランシェンに聞こえないだろう。

「……父が、魔物を使って、ファーランの転覆を企んでいたのですか。水蓮様の失踪も、セイエイ王子の失策も」

 自分の肉親がやったことなのかと、ユエリは打ちひしがれている。
 真面目なユエリらしい。だから連れてきたくなかったのだと、リトスは苦い気持ちを味わった。
 しかし、そこでレイヴンが静かだが力強い声を発する。

「気に病むな……と言っても無理だろう。だが、俺はあえて言う」
「……」
「リトスには、口が裂けても言えないことだ。父の負債を子が背負う必要はない。お前には、罪がない」
「!」

 レイヴンの言葉に、リトスは息を呑んだ。
 そうだ。俺には言えない。ユエリを慰めてやることはできない。
 父親がしでかしたことが、自分には全く関係ないだなんて、そんなこと、言えるはずもない。

「確かに、環境は人を左右するだろう。生まれた国の歴史、育った家の慣習、血筋にまつわる因果……それらは避けて通れないものだ。お前と言う人格を形成する一因でもあるそれを、無視することはできまい。しかし、それらはあくまでも過去。罪滅ぼしや清算といった、特定の行動を強制するものではない」

 レイヴンは、ユエリに語り掛けた後、ちらとリトスを見やった。
 その意図は明らかだ。これは、ユエリにだけ言っている訳ではない。

「過去は、過去でしかない。お前は自由だ。罪を引き受けるのも、引き受けないのも、自分で決めていいのだ」

 ユエリは黙って、レイヴンの言葉を噛み締めている。
 彼が落ち着くのを待って、リトスは今後のことを話そうと気分を切り替えた。

「……レイヴン。あのランシェンを、どうするつもりなんだ?」
「無論、あの世に送る。あの男は放置すれば、世界に害をもたらす」

 リトスの問いかけに、レイヴンはもう決めたと、あっさり回答する。
 こいつ、やっぱり闇の魔術師だよなと思う瞬間だ。

「ユエリ。さっき俺が言ったことだけど、ランシェンと二人きりで話すか? レイヴンもこう言っているし、たぶん、これが最後になると思うけど」

 決断は本人に任せる。
 ユエリは、リトスに聞かれて、ゆっくり頷いた。

「そうですね。最後に少しだけ……でも、大丈夫ですか。ご迷惑をお掛けしたり」
「気にするな」

 ランシェンはユエリの体を利用するつもりだろうが、それはできないことを、すぐに悟るだろう。魂を操る聖鳥の魔術師の二つ名にかけて、ユエリに手出しさせるつもりはなかった。
 心の準備ができたユエリは、ランシェンを拘束した部屋の中に戻っていく。
 リトスとレイヴンは、通路に残って、その背中を見届けた。

「……なあ。ランシェンの後始末、俺に任せてもらっていい?」

 二人だけになったので、リトスはざっくばらんにレイヴンに話しかける。

「構わないが、何故」
「あいつ、他者の体を乗っ取るつもりで魔術の研究してたんだろ。魂の解析をしてから始末したい」

 肉体と魂を分離して、魂を光水晶に閉じ込め、情報を全部洗いだしてから消滅させようと、リトスは考える。
 自分の魔術の実験にもなるし、ちょうどいい。
 しれっと非人道的なことを言うリトスに、レイヴンが呆れた顔をする。
 
「父親の罪滅ぼしに悩んでいるかと思えば、これだ。お前は本当に、光属性の魔術師か?」
「皆、光属性に夢見過ぎだって。それに俺は、そんな優しくない」
「……確かに、優しいだけでは、星瞳の魔術師にはなれないか」

 治癒魔術の発展のため、瀕死の人や死体を用いた実験が必要なように、綺麗事だけで魔術師はやっていられない。
 水蓮はどうなのだろうと、リトスはふとファーランにいる彼女を思い浮かべる。
 彼女は、すべての人が健康で長生きするよう祈って神水を作った。一見、自己評価の低くて優しい白兎だが、それだけで星瞳の魔術師になれるだろうか。好きな男のためだけに、過酷な魔術の世界に足を踏み入れ、頂点を極められるとは思えないのだけど。

 

(※水蓮視点)

 よく分からないけど、シンエイ復活して良かったね……じゃ、無~~~い!!!
 水蓮の魔術師、本名シンリンは、自分で自分に突っ込みを入れていた。
 
「何故なのか、調べないと」

 復活したシンエイは、なんだか冷たい性格になっていて、様子がおかしい。
 理由は、二つ考えられる。
 一つ目は、敵である魔神の影響だろう、ということ。
 それでは魔神は、どういった性質を持つ魔物なのだろうか。東湖地方の遺跡から目覚めたようだが、かの遺跡はいつ頃からそこにあり、どのような魔物が棲息していたのか。
 二つ目は、彼自身の特性、竜人という種族に関係あるのかもしれない、ということ。
 竜人という種族は希少ゆえ、謎に包まれている。竜玉がいったい何かも、詳細が分かっていない。
 シンリンは王城の地下にある書庫に降り、古文書を調べることにした。
 いったいどのくらい、書物に没頭していただろう。

「水蓮様! 水蓮様!!」

 名前を呼ばれ、我に返った。
 気付くと、目の前に焦った表情の雨月公女ユーティンが跪《ひざま》いている。

「どうしたの、ユーティン」
「陛下が、帝国に開戦宣言をしました。水蓮様は、ご存知なのですか?!」
「開戦……?」

 手元からポロリと、書物が落ちる。
 いったい、どうしちゃったの、シンエイ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

失礼ながら殿下……私の目の前に姿を現すな!!

星野日菜
ファンタジー
転生したら……え?  前世で読んだ少女漫画のなか? しかもヒロイン? ……あの王子変態すぎて嫌いだったんだけど……? 転生令嬢と国の第二王子のクエスチョンラブコメです。 本編完結済み

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

存在しないことにされていた管理ギフトの少女、王宮で真の家族に出会う 〜冷遇された日々は、王宮での溺愛で上書きします〜

小豆缶
恋愛
「願った結果を、ほんの少しだけ変えてしまう力」 私に与えられたギフトは、才能というにはあまりにも残酷な自分も人の運命も狂わせるギフトだった。 そのあまりの危うさと国からの管理を逃れるために、リリアーナは、生まれたことそのものが秘匿され、軟禁され、育てられる。 しかし、純粋な心が願うギフトは、ある出来事をきっかけに発動され、運命が動き出す。 二度とそのギフトを使わないと決めて生きてきたのよ だが、自分にせまる命の危機ーー 逃げていた力と再び向き合わなければならない状況は、ある日、突然訪れる。 残酷なギフトは、リリアーナを取り巻く人たちの、過去、未来に影響し、更には王宮の過去の闇も暴いていく。 私の愛する人がどうか幸せになりますように... そう、リリアーナが願ったギフトは、どう愛する人に届くのか? 孤独だったリリアーナのギフトが今、王宮で本当の幸せを見つけるために動き始める

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

処理中です...