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Time of Judgment(断罪の時)
第51話 火琥珀山の入口
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話の途中で人喰砂鮫に襲われたりしたが、殿下とライアードが剣でスパスパ切り捨ててくれた。ちなみに人喰砂鮫は、砂影魚とちがって料理しても美味しくないらしい。残念だ。
道中、サバーナで一番厄介な魔物、砂蜘蛛と遭遇することはなかった。砂の渦を作るこの魔物が人里近くに巣を張ると、砂海が拡大する。国境の守護結界は砂嵐を遠ざけ、砂蜘蛛の侵略を抑えているのだ。
砂上の旅は順調に進んだ。
約一名をのぞいて。
「ぐぇぇ……」
ライアードは船酔いする体質だったらしい。
船べりに行って、砂の上に昼ごはんをぶちまけている。
「大丈夫かー、ライアード」
「うるさい……」
哀れに思ったリトスは、操舵をダレンに代わってもらい、休憩と称してライアードに近寄って、こっそり癒しの魔術をかけてやった。
トラブルといえば、そのくらいしかなく、砂上船は予定どおり火琥珀山に到着した。ちなみにライアードは、リトスがかけた魔術がきいたのか、目的地に着くころには船酔いから回復していた。
「見張りがいますね」
リトスは、火琥珀山の手前の岩陰に船を寄せ、敵を観察する。
岩山の前には、アルシャウカト家が手配した兵士と思われる集団が配置されていた。
「敵の数は、ひい、ふう、みい……」
「十人足らずであれば、問題ない。船を寄せろ、リトス」
戦意をみなぎらせたカナン王子が命令する。
「ダレン、攪乱しろ」
「承知しました」
そういえば、殿下とライアードとダレンの三人で組んで、遺跡に挑まれてましたね。俺が手を出すと連携を乱しかねない。ここは、お手並み拝見といこうか。
リトスは、おとなしく王子様の命令を聞いて、船の操縦に集中した。
「今だ!」
ダレンが遠距離から弱い雷撃の魔術を撃ち込み、身体強化したカナン王子とライアードが殴り込みをかける。
速攻の襲撃に、敵の一団は体勢を整える余裕もなく、動揺で連携が崩れた。
これなら自分が出る幕はないなと、リトスは安心する。
敵の向こう側にある、岩山の洞窟、その真っ暗な穴に目を向けた。
すると、内部から人が出てくるのに気付く。
敵の増援か?
「……うぅ……あ」
しかし、なんだか、様子がおかしい。
「あれ、トマスさんか」
「当主に付いていったのに、なんで一人だけ戻ってきたんだ?」
知り合いなのか、敵の兵士は困惑した表情でささやき合う。
出口までフラフラ歩いてきた、その男は、外の光を浴びると絶叫した。
「ヴァァァァァァッ!!!!」
その声が野太くなり、人には出せない轟々とした響きを帯びる。
男の胸板がふくれあがり、手足が丸太のように太くなり、衣服がはち切れる。獣毛が全身をおおい、あっという間に二倍三倍の背丈になった。
頭に三角の耳が生え、黒い尾が臀部から伸びる。
もう人間ではなく、狼の怪物だ。
「ひっ?!」
「どうなってるんだ!!」
敵の兵士たちも予想外なのか、悲鳴を上げる。
跳躍して襲い掛かる狼の怪物に、真っ先に対応したのはライアードだ。
「殿下は下がってください!」
狼の怪物と、一対一で戦い始める。
ライアードは強かった。
人間より素早く動く怪物相手に、まったく引けを取らない速度で立ち回りする。時折、狼の牙や爪を剣で受け止めるが、押し返すほどの膂力だ。
全力の身体強化をしながら、狼の怪物の手足や目を的確に攻撃する。
このままだと、倒してしまう―――リトスは、まずいと思った。
船を降りて砂上を歩きながら、手元に鳥使いの長杖を召喚する。
戦いは佳境に入っていた。
「とどめだ!」
ライアードが、狼の怪物の頸椎を狙って攻撃しようとする。
「殺すな!」
リトスは叫んで、無詠唱で杖から烈風を放ち、その攻撃を逸らした。
「なっ?!」
邪魔をされたライアードが驚愕する。
一方、九死に一生を得た狼は、向かってくるリトスを見て、くみしやすい脆弱な人間だと感じたらしい。
リトスに向かって、跳躍して襲い掛かってくる。
「避けろ、リトス!」
カナン王子の焦った声。
しかし、リトスは動かない。
狼の怪物の爪は、リトスの前に展開された光の魔法陣にはじかれる。
鳥使いの長杖を怪物に向かってかかげ、リトスは高らかに高位精霊への勧請文を唱える。
「夜の帳を越えて羽ばたけ、雪光の鳳よ!」
薄暗い砂の海に、光の翼が顕現した。
道中、サバーナで一番厄介な魔物、砂蜘蛛と遭遇することはなかった。砂の渦を作るこの魔物が人里近くに巣を張ると、砂海が拡大する。国境の守護結界は砂嵐を遠ざけ、砂蜘蛛の侵略を抑えているのだ。
砂上の旅は順調に進んだ。
約一名をのぞいて。
「ぐぇぇ……」
ライアードは船酔いする体質だったらしい。
船べりに行って、砂の上に昼ごはんをぶちまけている。
「大丈夫かー、ライアード」
「うるさい……」
哀れに思ったリトスは、操舵をダレンに代わってもらい、休憩と称してライアードに近寄って、こっそり癒しの魔術をかけてやった。
トラブルといえば、そのくらいしかなく、砂上船は予定どおり火琥珀山に到着した。ちなみにライアードは、リトスがかけた魔術がきいたのか、目的地に着くころには船酔いから回復していた。
「見張りがいますね」
リトスは、火琥珀山の手前の岩陰に船を寄せ、敵を観察する。
岩山の前には、アルシャウカト家が手配した兵士と思われる集団が配置されていた。
「敵の数は、ひい、ふう、みい……」
「十人足らずであれば、問題ない。船を寄せろ、リトス」
戦意をみなぎらせたカナン王子が命令する。
「ダレン、攪乱しろ」
「承知しました」
そういえば、殿下とライアードとダレンの三人で組んで、遺跡に挑まれてましたね。俺が手を出すと連携を乱しかねない。ここは、お手並み拝見といこうか。
リトスは、おとなしく王子様の命令を聞いて、船の操縦に集中した。
「今だ!」
ダレンが遠距離から弱い雷撃の魔術を撃ち込み、身体強化したカナン王子とライアードが殴り込みをかける。
速攻の襲撃に、敵の一団は体勢を整える余裕もなく、動揺で連携が崩れた。
これなら自分が出る幕はないなと、リトスは安心する。
敵の向こう側にある、岩山の洞窟、その真っ暗な穴に目を向けた。
すると、内部から人が出てくるのに気付く。
敵の増援か?
「……うぅ……あ」
しかし、なんだか、様子がおかしい。
「あれ、トマスさんか」
「当主に付いていったのに、なんで一人だけ戻ってきたんだ?」
知り合いなのか、敵の兵士は困惑した表情でささやき合う。
出口までフラフラ歩いてきた、その男は、外の光を浴びると絶叫した。
「ヴァァァァァァッ!!!!」
その声が野太くなり、人には出せない轟々とした響きを帯びる。
男の胸板がふくれあがり、手足が丸太のように太くなり、衣服がはち切れる。獣毛が全身をおおい、あっという間に二倍三倍の背丈になった。
頭に三角の耳が生え、黒い尾が臀部から伸びる。
もう人間ではなく、狼の怪物だ。
「ひっ?!」
「どうなってるんだ!!」
敵の兵士たちも予想外なのか、悲鳴を上げる。
跳躍して襲い掛かる狼の怪物に、真っ先に対応したのはライアードだ。
「殿下は下がってください!」
狼の怪物と、一対一で戦い始める。
ライアードは強かった。
人間より素早く動く怪物相手に、まったく引けを取らない速度で立ち回りする。時折、狼の牙や爪を剣で受け止めるが、押し返すほどの膂力だ。
全力の身体強化をしながら、狼の怪物の手足や目を的確に攻撃する。
このままだと、倒してしまう―――リトスは、まずいと思った。
船を降りて砂上を歩きながら、手元に鳥使いの長杖を召喚する。
戦いは佳境に入っていた。
「とどめだ!」
ライアードが、狼の怪物の頸椎を狙って攻撃しようとする。
「殺すな!」
リトスは叫んで、無詠唱で杖から烈風を放ち、その攻撃を逸らした。
「なっ?!」
邪魔をされたライアードが驚愕する。
一方、九死に一生を得た狼は、向かってくるリトスを見て、くみしやすい脆弱な人間だと感じたらしい。
リトスに向かって、跳躍して襲い掛かってくる。
「避けろ、リトス!」
カナン王子の焦った声。
しかし、リトスは動かない。
狼の怪物の爪は、リトスの前に展開された光の魔法陣にはじかれる。
鳥使いの長杖を怪物に向かってかかげ、リトスは高らかに高位精霊への勧請文を唱える。
「夜の帳を越えて羽ばたけ、雪光の鳳よ!」
薄暗い砂の海に、光の翼が顕現した。
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