ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
21 / 120
学院編

11 学院の外に出るだけの簡単なお仕事

しおりを挟む
 実体の無い炎で構成された槍は、アサヒが構えた剣をすり抜けた。防御が出来ない。このままでは攻撃を食らってしまう。
 アサヒは咄嗟に金色の炎を呼び出して相殺する。
 相殺すると同時に炎の槍の攻撃範囲から全力で遠ざかった。

「逃げ足だけは速い奴だ」

 ハルトの手の中の炎の槍が復活する。
 きりが無い。
 アサヒは冷や汗をかいた。
 今日、使える金色の炎はあと一回。

「そろそろ観念したらどうだ」

 余裕の笑みを浮かべるハルトの前で、アサヒはじりじりと足踏みをする。

「アサヒ……」

 観戦しているカズオミは息を呑んだ。
 最初の武術の授業の時も感じたが、アサヒは戦いのセンスがある。無詠唱の炎の魔術を難なく使いこなし、ガラクタの山から拾った剣を見事に活かした。同じ三等級だと思えないくらいだ。
 もう充分だよ。
 カズオミは汗のにじむ拳を握りしめた。
 三等級にしては頑張った。ここで負けても馬鹿にはされないだろう。なのに君はなぜ、まだ闘志を消さないんだ。

 同じ疑問をハルトも抱いていたらしい。
 なおも間合いをはかって武器を構えるアサヒに言う。

「……なぜだ、なぜ諦めない? 階級の差は絶対だ。そこまでして粘って、何の得がある。怪我をしないうちに降参したらどうだ」
「うるさい」

 アサヒは相手の言葉を切って捨てた。
 まだ負けていない。
 普段は平穏を愛するアサヒだが、戦闘中だからか少しテンションが上がり気味だった。

「得か損かがそんな大事か? なんで諦めないかって……そんなの、負けたらつまらねえだろ!」

 宣言と同時に走り始める。
 片手で剣を持ったまま、もう片方の手で上着を脱ぎ、それをハルトに向かって投げつける。上着は制服ではなく私服だ。決闘で汚れるといけないので、制服は着てこなかった。
 ハルトは投げつけられた上着に反応し、手中の炎の槍で上着を払いのける。その間に懐に飛び込んだアサヒは、金色の炎を喚び出して3つに分裂させ、内2つをハルトの顔と手元を狙ってぶつけた。
 しかし金色の炎は、ハルトを囲む炎の模様に触れるとはじけ散る。

「無駄だ!」

 上着が灰になって散り散りになり、ハルトは炎の槍を上段から振り下ろす。至近距離でアサヒは避ける場所がない。
 勝った、とハルトは思った。

「……うぉっ?!」

 突然、足元からお尻に向かって衝撃が走り、ハルトは声を上げる。みっともない格好でつんのめった彼の炎の槍は逸れた。

 分裂した金色の炎の最後の1つは、防御の手薄な足元に回り込んでいたのだ。

 アサヒは下からすくい上げるように斬撃を放つ。
 白水晶の剣は、ハルトの周囲に展開されている炎の防御の魔術とぶつかって火花を散らす。アサヒが力を込めると、剣から金色の炎が立ち上った。

 ジュッ。

 魔術が燃え尽きる音が鳴る。
 ハルトの炎の魔術が砕け散った。
 体当たりを受けて尻餅をついた彼の目の前に、アサヒは剣を突きつける。

「……勝負あり」

 折り畳み椅子に座って観戦していたヒズミが立ち上がる。

「勝者は三等級テラのアサヒだ」

 嘘だろう。
 審判の声と共に、場外の観客達は一斉にざわめいた。
 アサヒは敗北に衝撃を受けて立ち上がれないハルトから剣をひいて、鞘にしまう。金色の炎を使いきったので白水晶の剣は元の半透明に戻っていた。
 カズオミの方に向かおうと顔をそちらに向ける。アサヒが勝ったというのに、カズオミは青ざめた顔をしていた。
 普通は勝ったら喜ぶところだろう。

「見事だ、アサヒ。君には学院の授業は必要ないようだな……」
「え?」

 ヒズミが声を掛けてくるが、その声は親しげな口調に反して冷ややかだった。彼は近くにいた教師に話しかける。

「先生、彼に運搬の仕事を手伝ってもらうのはいかがでしょう」
「そうだな……」

 話の雲行きが何やら不穏だ。
 アサヒは観客の中にいるカズオミを引っ張って隅の方に移動した。
 顔色が悪いカズオミに聞く。

「おい、カズオミ、あいつら何言ってるんだ?」

 カズオミは声をひそめて答える。

三等級テラの生徒の一部は学院の外で、竜を使って王都に物資を運ぶ仕事を手伝ってるんだよ。卒業と言えば聞こえが良いけど、実質は追放なんだ……!」
「なんだって」

 アサヒは目を丸くした。

「やりぃ、学院の外で仕事! 授業めんどくさいと思ってたからちょうどいいや。竜騎士として戦わなくてもいいし」
「あのねアサヒ……追放だよ? 僕の話聞いてた?」

 喜ぶアサヒに、カズオミは頬をひきつらせた。
 竜で運搬の仕事って平和でいいじゃないか。アサヒが考えたのはそのくらいだった。





 勝負の結果に呆然としていたハルトは、ヒズミの冷ややかな視線に気付いて顔をこわばらせた。

「ヒ、ヒズミ様! 違うんです! これは何かの間違いで……もう一度再戦の機会をください!」
「……」
「見苦しいぞ、ハルト・レイゼン。ヒズミ様は敗者の言葉を聞かれない!」

 ヒズミの取り巻きが、追いすがろうとしたハルトを止める。
 交差した槍に阻まれたハルトは泣き叫んだ。

「どうかお慈悲を……!」

 苦鳴に背を向けてヒズミは無言で歩き出す。
 取り巻きから離れたところで、ヒズミの肩に乗る深紅の竜が話しかけてきた。

『……良いのですか。学院の外にあのお方を出すなど』

 深紅の竜の声は落ち着いた女性のものだった。
 竜のまろやかな肢体も女性的な雰囲気をかもしだしている。
 ヒズミは彼女を撫でながら答えた。

「今の王都は彼にとって危険過ぎる。ユエリのような刺客も潜んでいるからな……」

 白水晶の剣を手に、真っ直ぐな眼差しでハルトにぶつかっていった彼の姿を思い出してヒズミは微笑んだ。

「……大きくなったな、アサヒ」


しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...