ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
27 / 120
学院編

17 再戦要求

しおりを挟む
 アサヒは深呼吸すると、正体不明の女性を真っ直ぐに見た。

「その前に聞きたいことがあります」

 女性の斜め後ろに立つヒズミが眉を上げる。その姿をなるべく見ないようにしながら、アサヒは質問を口にした。

「なぜ王城で、なぜ俺なんですか。お貴族様の住む城に孤児の俺を入れて、あなたに何の得があるんです?」

 アサヒの問いかけに、女性はパチリと手にしたおうぎを鳴らした。

二等級ラーナに勝つほどの生徒なら、役に立つだろうと思ったまでです。何か不満でも?」

 上から押さえつけるように女性は言葉を重ねる。
 アサヒは苦笑した。

「間違いかもしれませんよ」
「どういうことです」
「ズルして勝ったのかもしれない。あるいは、あなたが聞いた勝負自体、嘘だったかもしれない。あなたは俺とハルトの勝負を見てないじゃないですか。以前、そっちのお貴族様は、自分の目で見てないものは分からないと仰ってましたよ」

 ヒズミを例にあげる。気を悪くするかなとアサヒは思ったが、壁際でたたずむ彼は何も言わなかった。

「お世辞は結構です。あなたは俺が二等級ラーナに勝ったから俺を雇いたい訳じゃない。もっと他に目的があるんだ。何が不満かと言えば、そう、本当の目的はふせて俺を良いように使おうとしているところが不満ですね」

 孤児出身の三等級テラが勝ったから学院から追放し、困ったその三等級に今度は別の貴族が手を差しのべる。
 出来すぎていて、貴族同士で連携して罠をはっているのではないかと思うほどだ。目の前に並んで立つ女性とヒズミは、それを表しているようである。

「……では、卒業資格はいらないと?」
「いいえ。馬鹿な三等級テラの俺でも、この先、竜騎士の資格が無いと苦労するのは分かります。不要とは言っていません、条件次第だと言ってるんです。もっと明確に取引の条件を教えて頂けませんか」

 アサヒは不敵に微笑む。
 相手は貴族だ。無礼だと斬られるかもしれないが、今のアサヒに失うものは何も無い。
 部屋に沈黙が降りた。
 ややあって女性が口を開く。

「誤解をさせてしまったようですね……説明を省き、騙すように話を進めて、あなたに不快感を抱かせたことは謝罪しましょう。アサヒ、私達があなたを必要としているのは」
「アマネ様、それは私の口から説明させてほしい」

 腕組みして壁際に立っていたヒズミが、途中で女性の言葉をさえぎる。彼は腕組みを解くと黄金の瞳でアサヒを見た。

「アサヒ、お前はピクシスの炎……」
「ここかあっ!!」

 彼は何か言いかけたが、突然、乱入した大声が台詞をかき消した。
 バタン! と扉が開いて、特徴的な逆巻きの眉をした赤毛の若者が現れる。

「ここにいたか三等級テラ! お前のせいで俺はこの数週間どれだけ悔しい思いを味わったか! 今度こそ真の強者が誰か思い知らせてやるっ、いざ尋常に勝負しろ!」
「……くるりん眉毛?」

 アサヒは振り返って呆気にとられた。
 そこにいたのは以前、決闘でアサヒに負けたハルト・レイゼンだった。

「ハルト、お前は誰の前で礼を失したか分かっているのか」
「あ、ヒズミ様! 見ていてください、今度こそ俺が勝ちます!」

 聞いちゃいねえ。
 明らかに不機嫌になっているヒズミに気付いていないのか、勢いのまま叫ぶハルト。さすがのヒズミも、真の馬鹿相手に返す言葉も見つからないのか微妙な表情になっている。
 反応に困っている貴族達を眺めて、アサヒは何だか楽しくなってきた。

「……分かった。再戦を受ける。お前が勝ったら、二等級ラーナは凄いって認めて大人しく学院を去ってやるよ」
「アサヒ?!」

 なぜかヒズミが焦った声を上げる。
 なんだ? 最初に学院から追い出したのはヒズミの方なのに。今の声だけ聞くと俺の味方みたいだけど……気のせいかな。
 一瞬、疑問を感じたアサヒだがすぐにそのことは忘れた。
 ハルト・レイゼンの燃えるような眼差しと対峙する。
 もはやただの観客になってしまった女性やヒズミは場外でポカンとしていた。

「ようし、その言葉を忘れるなよ、三等級テラ!」
「その代わり俺が勝ったら、お前が俺の部下、いや違った、友達になれよ!」

 ビシッと指差すと、ハルトは一瞬目を丸くしたが、すぐに了承する。

「ふんっ、お前が勝ったらな!」

 成り行きを黙って見ていた女性だが、扇を机の上に置くと立ち上がった。

「……良いではありませんか。庭で決闘なさい」
「アマネ様!?」

 女性がそう言い出すとは考えていなかったらしい。
 ヒズミが驚いた声を上げる。

「自分の目で見ないと分からない……そうでしょう?」

 含み笑いをする女性に、ヒズミが苦い顔をした。自分の言葉を逆手にとられてやりたい放題されている。
 彼は溜め息をつくと壁際を離れた。

「ハルト、アサヒ、お前達の決闘はこれが最後とする。勝負が終わった後に改めて話をしよう」
「はい!!」

 急いで寮に戻って剣を用意しながら、アサヒは俺は何をやっているのだろうかとおかしくなった。
 女性との話はうやむやのまま中断になっている。
 だがその交渉も、この決闘の結果次第で答えが変わるだろう。
 アサヒは白水晶ホワイトルチルの剣を手に学院の庭の近くにある修練場、決闘の舞台へ向かった。


しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...