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ピクシス奪還編
01 目的地は竜の島
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空の上は大海原のようにどこまでも雲海が広がる。
雲の海の上で、カズオミは相棒の竜ゲルドと共にアサヒを待っていた。
カズオミ・クガは寝ぐせのひどい栗色の髪に眼鏡をした青年である。相棒のゲルドは緑色のがっしりした身体付きの竜で、背中の翼は虫の翅のような形をしている。見た目どおり素早くなくて、土属性の竜にしては防御力も低く戦闘向けではない竜だ。
彼は旋回する竜の背中で故郷の島を見つめた。
ここからは黒い鳥のように見える複数の竜たちが、ピクシスの上で飛び交っている。
その半数が敵の竜だと、カズオミにも分かった。
「いったい何が起こっているんだ?!」
アサヒはまだ戻ってこないのかと、カズオミは不安に思った。
「……カズオミ、あれを!」
彼の後ろに乗っている少女が声を上げる。
蜂蜜のような金色の髪と瞳が夜空に映える、凛とした雰囲気をまとう少女だ。
彼女の名はユエリ。もともと敵国の間諜だったがアサヒが助けて成り行きで一緒に行動している。
ユエリが指さした先には、こちらに向かってすごい勢いで飛んでくる青い竜の姿があった。
「お前ら、こんなところにいたのか」
空中を泳ぐ魚のように素早く、あっという間にこちらに近づいた青い竜。
竜騎士は青い長髪で片目を隠した青年。
一等級のハヤテ・クジョウだ。
「説明は後だ。逃げるぞ」
唐突に掛けられた言葉に混乱するカズオミだが、ハヤテの竜に同乗している友人の姿を見つけて仰天した。
「逃げる? あれ、アサヒ?!」
カズオミの友人であり、実は火の島ピクシスの重要人物でもあるアサヒは、肩から血を流していた。顔や腕に切り傷が走っており痛々しい恰好だ。
彼はカズオミと目が合うと「ちょっとヘマしたんだ」と苦笑いをしてみせた。
「カズオミ、ユエリ。それにハヤテ。状況の説明や反省は後でさせてくれ。ひとまず、俺たちはリーブラに向かいたい」
アサヒは竜の背中で立ち上がると、各々の顔を見渡した。
口調がはっきりしており心なしか静かな威厳がある。
カズオミは思わず黙って彼の顔を見た。ハヤテも少し気おされた様子だ。
「リーブラ、って、ここからだとアントリアの方が近いぞ」
「実はアントリアの水竜王と俺は相性が悪いんだ。火と水ってやつ。まあ、他にも色々理由はあるけど、先にリーブラに行く方が良い」
土の島リーブラと、水の島アントリア。
ピクシスからはアントリアが近いのだが、アサヒはリーブラに先に行くと言う。
「リーブラは遠いから、竜の島を経由する」
「竜の島、だって?! あそこは人間は近づけないところだろ?!」
「だからだよ。追手が来られない場所だ」
アサヒは不敵にニヤリと笑った。
「光竜王は追ってこないだろう。あいつは汗水たらして必死に追うとか考えもしないやつだ。今頃はピクシスが手に入ったと悦に入ってるだろうさ。油断している間に逆転の手を打とう。皆、俺に協力してくれ」
ピクシスが占領されたと聞いて仰天したカズオミだったが、アサヒには何か考えがあると聞いて平常心が戻ってくる。
「頼まなくても、命じてくれても良いんだよ、アサヒ。君は僕らの王様なんだから」
つい最近、竜王だと判明した友人に向かって、カズオミは了承の返事をする。
ハヤテとユエリも反対の気配はない。
「よし。へっぽこ王様でも目標を決めてくれるなら十分だ。竜の島へ行くぜ」
「こうなったら、とことん付き合うわ」
目的地は竜の島に定まった。
竜の島とは……。
文字通り、竜が住む島だ。鳥の巣だらけの小島を想像してもらえれば良い。その竜バージョンである。竜騎士の竜も、ここで生まれる。竜騎士の竜は飛べるようになるとパートナーの人間をたずねてくるが、それ以外の竜は野生の竜として、竜の島を拠点に生活している。
アサヒはハヤテの青い竜の背で、自分の傷の手当をしていた。
適当に服を割いて止血用の包帯を作る。
見た目より傷はひどくない。
「いたた……あれ、ヤモリどこだ?」
自分の相棒はどこに行ったかな、とアサヒは首をかしげた。
小さな蜥蜴に似た姿をした相棒の竜は、体重が軽く普段はアサヒの背中や肩を行ったりきたりしていた。あんまりにも存在感が薄いので主人のアサヒもたまにヤモリを忘れかける。
探し始めるとズボンのポケットから小さな頭がのぞいた。
黒いつぶらな瞳がアサヒを見上げる。
「どこかに落としたかと思った」
手を伸ばすと腕を伝って定位置の肩にするする登ってくる。
「アサヒ……お前、竜の扱いがぞんざいじゃねえか」
様子を見ていたハヤテが呆れたように言う。
「良いんだよ、ヤモリなんだから」
「どういう理屈か分からねえ」
アサヒはぼやくハヤテを無視した。
実は相棒がヤモリの姿を気に入っていると知っているアサヒだ。あまり頻繁にしゃべらず、のんびり蜥蜴のふりを楽しむのが相棒のマイブームらしい。
ときどき踏みつぶしそうになるが、そこはそれ。
暗い夜の空をひたすらに飛ぶと、明るい月明りの下に竜の島が見えてくる。
空に浮かぶ複数の巨岩が一か所に集中している。
巨岩に空いた穴から竜が出入りしているのが遠目にうかがえる。
アサヒ達の接近に気づいた竜たちはこちらに向かってきた。
野生の竜は人間と馴れ合わない。
『サレ、ニンゲン、サレ……』
ひと際、体格が大きい竜が近づいてきて警告を発した。
人間の言葉をしゃべるのが苦手らしい。片言の発音だ。
「そう言わずに、ちょっと寄らせてくれ」
アサヒは青い竜の背中で立ち上がると、竜たちに向かって話しかけた。
竜たちは困惑したようにアサヒを見る。
「俺は炎竜王と言えば、分かってくれるかな?」
『ファーラム……! リュウオウ、ケイヤクシャ……!』
炎竜王の名前を聞いた竜たちは敵意を解く。
竜たちに先導されて、アサヒ達は竜の島に上陸した。
雲の海の上で、カズオミは相棒の竜ゲルドと共にアサヒを待っていた。
カズオミ・クガは寝ぐせのひどい栗色の髪に眼鏡をした青年である。相棒のゲルドは緑色のがっしりした身体付きの竜で、背中の翼は虫の翅のような形をしている。見た目どおり素早くなくて、土属性の竜にしては防御力も低く戦闘向けではない竜だ。
彼は旋回する竜の背中で故郷の島を見つめた。
ここからは黒い鳥のように見える複数の竜たちが、ピクシスの上で飛び交っている。
その半数が敵の竜だと、カズオミにも分かった。
「いったい何が起こっているんだ?!」
アサヒはまだ戻ってこないのかと、カズオミは不安に思った。
「……カズオミ、あれを!」
彼の後ろに乗っている少女が声を上げる。
蜂蜜のような金色の髪と瞳が夜空に映える、凛とした雰囲気をまとう少女だ。
彼女の名はユエリ。もともと敵国の間諜だったがアサヒが助けて成り行きで一緒に行動している。
ユエリが指さした先には、こちらに向かってすごい勢いで飛んでくる青い竜の姿があった。
「お前ら、こんなところにいたのか」
空中を泳ぐ魚のように素早く、あっという間にこちらに近づいた青い竜。
竜騎士は青い長髪で片目を隠した青年。
一等級のハヤテ・クジョウだ。
「説明は後だ。逃げるぞ」
唐突に掛けられた言葉に混乱するカズオミだが、ハヤテの竜に同乗している友人の姿を見つけて仰天した。
「逃げる? あれ、アサヒ?!」
カズオミの友人であり、実は火の島ピクシスの重要人物でもあるアサヒは、肩から血を流していた。顔や腕に切り傷が走っており痛々しい恰好だ。
彼はカズオミと目が合うと「ちょっとヘマしたんだ」と苦笑いをしてみせた。
「カズオミ、ユエリ。それにハヤテ。状況の説明や反省は後でさせてくれ。ひとまず、俺たちはリーブラに向かいたい」
アサヒは竜の背中で立ち上がると、各々の顔を見渡した。
口調がはっきりしており心なしか静かな威厳がある。
カズオミは思わず黙って彼の顔を見た。ハヤテも少し気おされた様子だ。
「リーブラ、って、ここからだとアントリアの方が近いぞ」
「実はアントリアの水竜王と俺は相性が悪いんだ。火と水ってやつ。まあ、他にも色々理由はあるけど、先にリーブラに行く方が良い」
土の島リーブラと、水の島アントリア。
ピクシスからはアントリアが近いのだが、アサヒはリーブラに先に行くと言う。
「リーブラは遠いから、竜の島を経由する」
「竜の島、だって?! あそこは人間は近づけないところだろ?!」
「だからだよ。追手が来られない場所だ」
アサヒは不敵にニヤリと笑った。
「光竜王は追ってこないだろう。あいつは汗水たらして必死に追うとか考えもしないやつだ。今頃はピクシスが手に入ったと悦に入ってるだろうさ。油断している間に逆転の手を打とう。皆、俺に協力してくれ」
ピクシスが占領されたと聞いて仰天したカズオミだったが、アサヒには何か考えがあると聞いて平常心が戻ってくる。
「頼まなくても、命じてくれても良いんだよ、アサヒ。君は僕らの王様なんだから」
つい最近、竜王だと判明した友人に向かって、カズオミは了承の返事をする。
ハヤテとユエリも反対の気配はない。
「よし。へっぽこ王様でも目標を決めてくれるなら十分だ。竜の島へ行くぜ」
「こうなったら、とことん付き合うわ」
目的地は竜の島に定まった。
竜の島とは……。
文字通り、竜が住む島だ。鳥の巣だらけの小島を想像してもらえれば良い。その竜バージョンである。竜騎士の竜も、ここで生まれる。竜騎士の竜は飛べるようになるとパートナーの人間をたずねてくるが、それ以外の竜は野生の竜として、竜の島を拠点に生活している。
アサヒはハヤテの青い竜の背で、自分の傷の手当をしていた。
適当に服を割いて止血用の包帯を作る。
見た目より傷はひどくない。
「いたた……あれ、ヤモリどこだ?」
自分の相棒はどこに行ったかな、とアサヒは首をかしげた。
小さな蜥蜴に似た姿をした相棒の竜は、体重が軽く普段はアサヒの背中や肩を行ったりきたりしていた。あんまりにも存在感が薄いので主人のアサヒもたまにヤモリを忘れかける。
探し始めるとズボンのポケットから小さな頭がのぞいた。
黒いつぶらな瞳がアサヒを見上げる。
「どこかに落としたかと思った」
手を伸ばすと腕を伝って定位置の肩にするする登ってくる。
「アサヒ……お前、竜の扱いがぞんざいじゃねえか」
様子を見ていたハヤテが呆れたように言う。
「良いんだよ、ヤモリなんだから」
「どういう理屈か分からねえ」
アサヒはぼやくハヤテを無視した。
実は相棒がヤモリの姿を気に入っていると知っているアサヒだ。あまり頻繁にしゃべらず、のんびり蜥蜴のふりを楽しむのが相棒のマイブームらしい。
ときどき踏みつぶしそうになるが、そこはそれ。
暗い夜の空をひたすらに飛ぶと、明るい月明りの下に竜の島が見えてくる。
空に浮かぶ複数の巨岩が一か所に集中している。
巨岩に空いた穴から竜が出入りしているのが遠目にうかがえる。
アサヒ達の接近に気づいた竜たちはこちらに向かってきた。
野生の竜は人間と馴れ合わない。
『サレ、ニンゲン、サレ……』
ひと際、体格が大きい竜が近づいてきて警告を発した。
人間の言葉をしゃべるのが苦手らしい。片言の発音だ。
「そう言わずに、ちょっと寄らせてくれ」
アサヒは青い竜の背中で立ち上がると、竜たちに向かって話しかけた。
竜たちは困惑したようにアサヒを見る。
「俺は炎竜王と言えば、分かってくれるかな?」
『ファーラム……! リュウオウ、ケイヤクシャ……!』
炎竜王の名前を聞いた竜たちは敵意を解く。
竜たちに先導されて、アサヒ達は竜の島に上陸した。
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